本当にごめんなさい!
午前9時58分
とある公園のベンチに一人の男が座っている
力も光も希望も感じられない瞳を虚空に向けながら手に持っている缶コーヒー(ミルク)を飲み干すこの男は、先ほど爆弾おにぎりに予想外の出費を強いられ絶賛凹み中の空間接続その人である
食事を終わらせた空間接続はすることもなく、公園の片隅でぼんやりと過ごしていた
周囲には彼の瞳をエサと勘違いしたカラスたちが大量にうろついている
「あぁ……なんだかすごく裏切られた気分だ……」
正直たった200円程度の出費だったのだが、とある理由により常時金欠な彼にとってたかが200円でも手痛い出費だった
腐りきった瞳をさらに発酵させさせながら既に空になった缶コーヒー(ミルク)の容器を握りしめる空間接続
不思議なことに握りしめたられた空きカンは、何の音も発さずに拳の中に収まった
いや収まったのではない
その手の中あった空きカンは彼の手に飲み込まれた
「さてと………仕事するか」
空間接続はため息を吐きながら先ほど空きカンを飲み込んだ自身の拳に視線を落とす
いつの間にかその拳は真っ黒に染まってり、フワフワとした不定形な霧の様なものになっていた
その変化は徐々に身体全体に広がってゆき、ついに全身が黒い霧となる
ベンチの上でふわふわと所在なさげにうごめく霧の塊がたどたどしく、くぐもった声を発する
『たし……か…座標は…xx…x852……6K…だった…な』
空間接続がそう呟いた瞬間漂っていた霧に変化が訪れる
ふわふわと浮かんでいた黒い霧は中心に向かって渦を巻き出し、徐々に回転の速度を上げていった
その光景に驚いたカラスたちが一斉に飛び立ち、その場から離れる
カラスたちが飛び立った後、そこには目の腐った青年も、黒い霧も無くなっていた
「い、いまのって…ゆ、幽霊ぇぇぇぇ!?」
この日、学園都市にまたひとつ都市伝説が生まれた…
グルグルと渦巻く自分の身体をくぐり抜け、空間接続は目的地に到着する
どうやらそれなりに距離があったせいで少しタイムラグが出てしまい、2分ほど約束の時刻から遅れてしまった
自身の能力のムラっ気の強さに辟易としながらも空間接続は周囲の様子を探るため意識を集中する
……なにやら警戒されている様だ……三人の男がこちらに向って武器を構えている…
あぁもう毎度毎度どいつもこいつも同じ様な反応しやがって…
とりあえずこちらから呼びかけてみるか
えーと口と舌を実体化させて…と
『………そんなに…警戒しないでくれないか?』
とりあえず警戒を解いてくれないかダメ元で頼んでみる
案の定彼らの警戒心は強いままだ
と言うか顔も見せないやつを信用して警戒を解くやつなんて暗部はおろか一般社会にもいるわけないよなぁ…順番を間違えたなこりゃ
『…少し……待ってくれ…今顔をみせる…』
とりあえず会話をするために身体を実体化させていく
『遅れてきた割に随分派手な登場の仕方じゃないか空間接続』
sound only と表示されたモニターから野太い男の声がする
責めているかの様なセリフだが声が笑っている
どうやら三人の男が未知を警戒する様を見て楽しんでいる様だ
暗部の上司というのは基本的に性根がクソなのだろうか?
黒い霧がだんだん人の形になっていく、足が完全に人のそれになり、次に胴体、肩、腕、手の順に人の身体が完成していく
『紹介しよう…彼が今回の君たちの協力者…』
「………どーも…空間接続です……」
最後に頭部にあった靄が晴れ、そこには一人の青年が立っていた
サークルの三人は驚いた様子でその青年を凝視していた
べつに服装に問題があったわけではない
黒のスラックスに黒のシャツ、染められていない日本人特有の黒い髪の毛
黒ずくめではあるが特別奇抜な服装ではない
身長だって平均より少し高い程度で特別デカイわけでもチビなわけでもない
ではなにが彼らの視線を集めているのか
その目だ
彼らは目を凝視している
平均よりも整っている顔、十分イケメンの部類に入るであろう顔の造形がより腐った瞳を際立たせている
目を合わせているだけで、いや合わせてなくても見てるだけで腐敗臭が漂ってきそうなほど
それほどに腐りきった目をしていた
「………あの?」
空間接続はこの場の空気に耐えられず言葉を発した
いつものこととはいえ三人の男に瞳を凝視されるのは精神的にくるものがある
「ッ!あぁすまん…つい…な…」
「えぇ…大丈夫です…慣れてますから…」
三人の中でも最も冷静な眼鏡の男が代表して謝る
『サークル』の中に明確にリーダーと呼べる人間はいないが、冷静な彼が基本的にチームのまとめ役を押し付けられている
混乱が落ち着いたところを見計らいモニターの男が話し始める
『改めて紹介しよう。彼が今回君たちに協力するレベル2の転移系能力者、空間接続だ』
「よろしくどうぞ」
その発言で三人は自分達がなにを話していたか思い出す
そうだ、このクソ上司はレベルの低い転移系能力者を使い、俺たちを転移させようとしているんだった
それを思い出したサークルの面々は再度怒りを湧き上がらせる
またもや小柄な男が怒鳴りだしそうになったとき、モニターの男はまず落ち着いて話を聞く様に諌めた
『落ち着きたまえよ……今見た通り彼は自分自身を転移させてきた。これはレベル4……最低でもレベル3クラスの実力を持っている確かな証拠だ。なにを不安に思う?』
そう言われてサークルの面々は言葉を詰まらせる
転移というのは客観的に認識できる他者を飛ばすより自分自身を飛ばす方が難易度は高い
そういう意味ではたしかに、いつの間にか部屋の隅に移動してなにをするでもなく虚空を見つづけている死んだ目をした青年はそれなりの実力者なのだろう
しかし、だ
「……やつの転移は今まで見たことがない…身体が霧状になる能力だって聞いたことがない…」
「加えて言えばそれだけの能力を持っていながらレベル2に格付けされている理由も説明されてないな」
「そうだ!レベル4クラスの実力があるならレベル4でいいじゃねぇかよ!なんか致命的な部分があるからレベル2ってされてるに決まってらぁ!そんな奴に転移されて身体を真っ二つにされんのは俺たちゃごめんだぜ!!」
口々に彼らは意見を述べる
どれもこれも正論で確認しなければならないことだ
それらの意見にはモニターの男が答える前に当の本人が答えた
「転移に関してはレベル4クラスの実力を持っている…だが自分が転移するときには身体が霧状になってしまう欠陥がある……俺がレベル2に格付けされている理由はこれだ…」
彼としてはさっさとしてほしい気持ちでいっぱいなのだ
さっさと成功させてさっさと帰りたい
そんな思いを込めてサークルの面々を睨む
サークルの面々はまるで魚をさばいてるときに偶然さばかれている魚と目が合ってしまったときの様な気味の悪さをおぼえた
それでもまだ文句を言いたそうな面々にモニターの男は言う
『まぁそういうことだ…あぁそうだ言い忘れていたが拒否権はない…彼の上司にそれなりの金を払ってしまったからな…お前たちの意見など知らん。やれ』
ハッハッハと笑う上司の声にサークルの面々は青筋を立てる
(((こんっっっのクソ上司がっ!!)))
どこの暗部も基本上司はクソらしい
こうして多少納得のいかない所を残しながらも一応話はまとまった
作戦開始は午後10時
いや〜話をしてまとめるのって難しい
それがよく実感できる回でした…
戦闘を期待してくださった方
本当にごめんなさい!