もっとあっさり終わらすつもりだったんだけど
おかしなー
午後10時
陽が落ち、人々が各々の家に帰り各々の時間をゆるりと過ごしているとき
とあるビルで数人の人影が慌ただしく動いていた…
「急げ!最悪、データ453から842は破棄して構わん!研究の核となる部分を持って行ければあとはどうとでもなる!」
「主任!データ001から450までの研究資料はどうすれば!」
「置いて行け!核となるデータさえあれば大丈夫だとさっき言っただろうが!」
「ダミーデータの配置!完了しました!」
「よし!警備部隊!外の状況はどうなっている!」
『こちら警備部隊、異常なし』
大人たちの怒号が夜のビルに響き渡る
主任と呼ばれた男性はクーラーのきいた部屋だというのにビッショリと汗をかいていた
「クソッ!幸い暗部の連中はまだ来てない様だが……時間の問題だ!おい貴様ら!もっと早く動け!」
愚痴を零しながらもパソコンをいじる手を一切止めないのは流石研究者というところか
彼の名は鮫島
この研究所の主任を任されている男だ
彼の研究所は『能力の応用による永久機関の開発』という壮大かつ無謀なプロジェクトを任されていた
主任に任命された頃は人類の未来を支えるであろう研究を任されたことを誇りに思い、その研究に情熱を燃やしていた
事実、プロジェクト開始時はそれなりの結果を残していた
提唱した様々な理論の中には学会をうならせる様な研究成果もあったりした
順調だった
人生の中でも最も輝いていた時間だった
『あいつ』に会うまでは………
『あいつ』は俺の研究成果を見て笑った
そして言い放った
まだこんなことをしているのか?…と
俺は問い詰めた
そんなことをのたまう位ならばとっくに永久機関の理論は考えついているんだろうな…と
当然解けるわけのない問いだ
この研究では俺の研究所が最先端を行っている!
いったい俺が何年の時をこの研究に費やしてると思ってる!
それを聞いた『あいつ』はおもむろにティッシュを5枚取り出してそこにボールペンで何か書き始めた
何かを書き終えた『あいつ』はそれを俺に投げ渡してきた
なんの真似かと思いそのティッシュに目を落とし……固まった
それは俺が必死に探し求めてきた理論だった
非の打ち所がない、完璧な理論だった
なまじ研究していた分その完璧さがわかってしまった
呆然とする俺の手から『あいつ』はティッシュをつまみ上げ
そのティッシュで鼻をかみ、ゴミ箱に投げ捨てた
「っっっっ!クソが!」
あそこからだ
あそこから俺の人生は転げ落ちて行ったんだ!
全部!全部あいつが悪いんだ!
あいつのせいで今俺は夜逃げみたいな真似までしてるんだ!
やり直してやる…!
この研究成果を外部の組織に売払っちまえばまとまった金が手に入る!
その金で新しい研究をして!
成り上がって『あいつ』を!
『奴ら』を!
『木原』を見返してやるんだ!!
10階建てビル8階
暗い通路を徘徊する二人の男の姿があった
一人は年若い男、もう一人は妙齢の男だった
二人とも手には銃を持ち防弾ベストを着ている
キョロキョロと辺りを警戒しつつ若い男がもう一人の男性に話しかける
「今夜暗部の襲撃があるって話でしたけど……音沙汰ないですね…」
「気を抜くな!奴らはどこまででも追ってくる……少しどころか一瞬の油断が命取りになるぞ!」
「す、すいません!」
若い男の甘い考えに妙齢の男性は 頭を抱えたくなる
彼らは警備隊、それも雇われの人間
いわゆる傭兵稼業の人間だった
学園都市の研究者が外部の人間と取引をするとき、必ず暗部が動く
暗部の構成員は年若い人間が多いがその全てが殺しのエキスパート
それらから雇い主を守るのが我々傭兵の仕事だ
まぁほぼ捨て駒の様な扱いだが……
しかし我々の部隊の隊長はすでに三人の研究者の脱走を手伝い、その全てを成功させている腕ききだ
団員の誰もがきっと今回も成功するだろうと考えてるし、皆隊長を心から信頼している
だからと言って油断していいわけではない
「もっと周囲に気を配るのだ。怠慢こそ自身の最大の敵だと知れ」
年若い彼に厳しく当たるのはそれなりに歳をとった私の役目だろう
そんなことを密かに考えつつ彼の方を振り返る
そこにあったのは白目をむき、立ったまま絶命している年若い相棒の死体だった
「っっっっ!」
男は素早く胸元のトランシーバーに手を伸ばす
何が起こったかはわからない!
だが何かが起こった!
この事態を一刻も早く他の団員に……隊長に知らせなくては!
しかし彼の手がトランシーバーに届くことはなかった
何かが手首に絡みついているのだ
手首だけじゃない、首にも絡みついておりそのせいで声が出せない
混乱している間に何かは足にまで絡みつき完全に身動きが取れなくなってしまった
困惑する彼の前方からコツコツと足音が響く
そちらに目を向けると小柄な男がスタンロッドを持って近づいてくるのがわかった
「お勤めごくろーさん」
そう言って男は首に巻きついてる何かにスタンロッドをあてがう
首に巻きついているなにか
その正体は水だった
小柄な男が操る水が首に巻きついていたのだ
これから起こることを想像した警備兵の男の顔は真っ青に染まり、体を振って水の拘束を解こうとした
しかし解けない
5歳児でも知ってる
水は掴めないのだ
小柄な男はスタンロッドのスイッチを入れた
改造されたスタンロッドの電流は優に百万ボルトを超える
その電流すべてが拘束された男の首に流れた
10階建てビル3階
監視カメラの死角となる通路
そこに五人の人間が床に倒れていた
彼らの体に外傷は何一つ無かった
しかし彼らの心臓はもう動いていない
なにが起きたかわからず
自分たちがどうなるのかもわからないまま死んでいった
「………ふぅ」
困惑した表情を見せる死体を一瞥し
眼鏡の男は《このビルのモニタールーム》からの指示に従い足音を立てずに走り出した
10階建てビル2階
今日このビルに派遣された傭兵部隊の隊長ベネットは言葉にできない不快感を感じていた
あまりにも静かすぎる
すでに暗部と我々の攻防が始まっていてもおかしくない時間帯のハズだ
だというのに…静かすぎる
静かなのに…戦場独特の緊張感を感じる……
まさかもうすでに敵は侵入したのか?
いったいどうやって……
気になりだしたら少しの不安要素も残したくはない
彼はトランシーバーに手をかけた
「……モニタールーム応答願う」
反応は
無い
「ッッ!モニタールーム!応答しろ!返事をしろ!」
返答なし
ベネットはトランシーバーに怒鳴りつける
「全部隊に告ぐ!すでに敵の攻撃は始まっている!」
「繰り返す!すでに敵の攻撃は始まっている!
第二部隊は外の警備を中止!第一部隊と合流して一階からしらみつぶしに敵を探せ!
第四部隊は六階にいる依頼主の護衛!下に降りてくるのはもう危険だ!屋上からヘリで逃がせ!
第三部隊!5階のモニタールームに迎え!確実にそこに敵がいる!そこから別のやつに指示を出してるに違いない!
なんとしてでも敵から依頼主を守りきれ!」
『『『了解!』』』
10階建てビル一階
第一部隊に第二部隊が合流し、いざ敵を見つけようと階段に足を向けた時それは現れた
真っ黒なガスマスクをつけた大柄な男
それが警備隊の前に仁王立ちしていた
男は左手のに何かのスイッチのようなものを持っている
警備隊の一人が銃を突きつけ警告する
「貴様!その手に持っているものをゆっくり床に置け!そして手を挙げたまま跪け!」
その警告を聞くと男はおもむろに服を脱ぐ
その姿を見て警備隊の面々は絶句する
たくましい裸体に無数の爆薬を巻きつけていたのだ
なんなんだこいつは!?気の狂った自殺志願者か!?
そんな思考をする警備隊の面々を見ながら男は歩いてくる
一歩一歩確実に近づいてくる
銃を撃つことはできない
そんなことをすればあの爆薬の量だ
我々も粉微塵になるだろう
押さえつけられる距離まで歩んできたら皆で押さえつける
それくらいしか方法は無かった
しかし男は急に走り出し警備隊の面々に突進する
男が
左手のスイッチを押した
瞬間
大気が裂ける音がビルに響いた
10階建てビル5階
ベネットの指示を受け第四部隊はモニタールームに向かっていた
そこにいるであろう敵の司令塔を潰すために
だがそこにあったのは少々予想外の光景だった
「あぁ……どうも……」
モニタールームの中央に一人の青年が立っていた
それだけだ
仲間の死体があるわけでもない
争った形跡もない
ただ青年がそこにいる
強いておかしな点をあげれば青年の目に異様なまで力がないことくらいだろうか
しかしここにいる以上彼は間違いなく敵だ
なんらかの手段で味方を何処かにやった敵だ
なんのためらいもなく警備隊の面々は銃を構える
「……やめてくれないか…?怖いじゃないか……」
そう言って男が無造作に手を振るうと彼の前に黒い霧のようなものが現れる
これは目くらましのつもりだろうか?
関係ない、この距離ならば撃てば当たる
そう思った警備隊は引き金を引き
自分達が撃った弾丸に撃ち抜かれた
くどくどしい文章で申し訳有りません
今回は被害者…警備兵視点で書いてみました
やっぱり書くのは大変ですね