ったく人に銃口を向けるんじゃないよ。本当に怖いんだから…
まぁ打たれても死なないけどな!
心の中で赤さんのモノマネをしながらいつも通りの腐った目をすでに息絶えた警備兵達に向ける。
俺がしたことは別に難しいことじゃない。彼らが放った弾丸を彼らの背後に転移させただけだ。
これが俺の能力。
俺の身体が変化して生まれる黒い霧。それに包まれたものを別の場所に出現させることができる。
ちなみこの黒い霧は11次元と直接つながっている。
……とある科学者はこの黒い霧を三次元に溢れ出した11次元そのものと言っていたが……本当かどうかもわからない。
だって誰も研究してくれないんだもの………
俺の能力がわかりにくいのならば、人間どこでもドアだとでも思ってくれ。実際俺の任務ではどこでもドアのような役割が主だしな。
まぁ要するに俺は入り口を俺の目の前に、出口をあいつらの背後に作ってやったのだ。そこを弾丸が通っただけ。
間違っても弾丸一つ一つを丁寧に転移させたわけじゃない。そんなことができるのならば間違いなくそいつはレベル5クラスの…
空気を引き裂くような爆音が下の階から聞こえてくる
……あぁ…間違いなく《
大柄な男こと衝撃流動さん。
彼の能力はその名のとうり、自身に加わったダメージを全て地面に受け流すことができるというものだ。
この能力を発動している時の衝撃流動さんは熱や裂傷すら地面に受け流すことができるため、無敵と表現してもいいほどの防御力を手に入れる。
しかし非常に難しい演算を必要とするため、能力が発動できるのは40秒間だけらしい。
非常に防御に優れたこの能力をなんとか攻撃に活かせないか。試行錯誤を繰り返し、出した結論が
彼は一体どこでなにを間違えたのだろうか。
サークルの面々の中で唯一能力名を教えてくれた人のことを思い出しながらそんなことを考える。他の二人は得意なこと、できることまでは教えてくれたが能力について具体的なことはなに一つ教えてくれなかった。
まぁ昨日の友は今日の敵というのを地でいくのが暗部クオリティ。いずれ敵になるかもしれない奴に必要以上の情報を与えないのは当然のことであり、裏の世界では常識的なことだ。
衝撃流動さんが能力について説明してくれたのも、自身の攻撃に協力者を巻き込まないためだ。
ちなみに小柄さんは拘束や暗殺が、眼鏡さんは多対一による制圧戦が得意らしい。
そんなことを思い出しつつつ、俺は視線をモニターに向ける。
数多くの画面が様々な映像を映し出していたが、一つだけ砂嵐を映し出す画面があった。先ほど衝撃流動さんがぶっ放したフロアだ。
その左の画面に目を移すと、そこには慌ただしく移動している四人の人間の姿が映し出されていた。そのうち三人は白衣を身につけた研究者風の男達で、一人の警備兵に先導されながら屋上に向かって階段を駆け上がっている。
どうやら作戦は順調のようだ。俺は一人口角を吊り上げ、目を細めた。
『第四部隊!モニタールームの制圧はどうなった!報告しろ!』
絶命した兵士の胸元に装着されているトランシーバーから厳つい声が発せられ、俺はその音の発生源に目を向けた。その口調からしておそらく彼らの隊長だろう。
ゆっくりと死体に歩み寄り、トランシーバーを手に取る
「あーこちら第四部隊……異常無し…」
『ッ!……どうやら第四部隊は全滅のようだな…』
ばれんのはやくね?
「あーすまん…結構あっさり倒した……」
『………クソが!』
乱暴に通話が切れる。どうやら隊長さんはご立腹らしい。
「……そろそろ動くか。」
身体を黒い霧に変化させ、転移を開始する。
目的地は一階にいる衝撃流動のところだ。
そこには惨状が広がっていた。
壁は砕け、柱は吹き飛び、辺りには赤黒い何かが飛び散っていた。
そんな光景を作り出したガスマスクの男、衝撃流動はたくましい上半身を露出したままなにをするでもなく佇んでいた。その体は爆発を受けたにも関わらず全くの無傷であった。しかしその代償に彼の足元の地面は不自然なまでに大きくえぐれている。
「………随分と派手にやるじゃないか。」
いつの間にか彼の背後に表れていた空間接続は辺りを見回してそんなことをつぶやいた。
確かに派手だが好き好んでこんな攻撃をしてるんじゃない。そんな思いを込めて彼を睨む。相変わらず彼の目は腐っており、一体なにがあったらそんな目になるのかと聞きたくなるが任務とは全く関係が無いためその疑問は思考の片隅に追いやった。
彼は顔を顰めつつ左手を挙げ、衝撃流動に話しかけてくる。掲げた腕は真っ黒に染まっていた。
「はやく転移してくれ……爆発の影響でここは酸素が薄い……正直気持ちが悪い。」
そう言って彼は腕を振り下ろし、人ひとり分くらいの大きさの霧を展開する。ガスマスクを装備していない彼にとってここの空気は酷く不愉快に感じるらしい。
すでに空間接続の実力を知っている衝撃流動は彼の言葉に一つ頷き、なんの躊躇いもなく霧に入っていった。
ベネットは下の階から聞こえてきた爆発の原因を探るため、部下を引き連れて階段を駆け下りていた。
一階に到着した瞬間目に飛び込んできた惨状に顔をしかめつつ部下たちに注意を促す。
「気を引き締めろ!上の階に上る階段は今俺たちが降りてきたここだけ!エレベーターはすでに停止させてある!つまり必ずこのフロアに、この光景を作った敵が潜んでいるはずだ!」
信頼している隊長の言葉に部下たちは警戒を強める。
頼もしい部下の姿を視界に入れながらベネットは今すべき行動を考える。
今判明している敵は二人。モニタールームの男とこの惨状を作り出した奴の二名だ。
我々の監視になに一つ引っかからずに一階から五階まで行くことは不可能と断言してもいい。つまりモニタールームにいる敵は《侵入者》ではなく《裏切り者》またはスパイの可能性が高い。
依頼主の不手際に舌打ちをしそうになるが、今はこの現状をどうするかを考えるのが先だ。
裏切り者、またはスパイである以上敵は少人数、ひとりの可能性もある。だが、第四部隊をその少人数で片付ける以上モニタールームの敵はかなりの手練れのはずだ。
幸いと言っていいのかは微妙な所だがモニタールームに陣取っている以上奴は司令塔のような存在のはず。そこを動くことはまずないだろう。もちろんたった二人で建物を襲撃をするようなバカな組織はない。この後能力者の増援が来ることが容易に予想できる。
未だ姿を見せないもう一人の襲撃犯が不気味に感じるが探してる暇はない。
つまり今俺たちがやるべきことは一つ。
「これから来るであろう敵の増援をここで全力で食い止める!依頼主がヘリに乗って逃げるまでの時間を稼ぐぞ!」
「「「了解!」」」
隊長の命令を聞き、彼らは決死の覚悟を決め警戒を強める。
すでに敵などいない方向に向かって。
「今は味方が敵を食い止めています!いつまでもつかわかりません!急いでください!」
「わかって…いる!十分……ハッ…ハッ…急いでるだろうが!」
一人の警備兵に先導され、鮫島は息を切らしながら階段を駆け上る。その後ろには白衣を着た彼の部下二人がデータ化しきれなかった資料を抱きかかえながら続いている。彼らの額には汗がびっしょりと噴き出ており、日頃の運動不足が見て取れる。
急かしてくる警備員に悪態を吐きながら鮫島は必死に自分の足を動かしていた。
あまりにも突然の出来事だった。6階研究室で資料のデータ化を急いでいた彼らの元にひとりの警備兵が駆けつけ、その悲報を知らせた。
「し、侵入者が4階にまで昇ってきています!急いで屋上まで行き、ヘリを使って脱出してください!」
血の気が引くというのはこのことだろうか。あまりに突然の襲撃に鮫島手に持っていた書類を落とす。
我々がいるのは6階。もはや目と鼻の先に敵がいることとなるではないか。
急ぎ警備隊長に連絡を取ろうとした時、下の階層からビルが揺れるほどの爆音が響く。その音を聞いて鮫島は、自分が今、生命の危機に立たされていることを認識した。
「そもそもなっ……んで!こんなに…接近されるまで!ハッ……ハッ…気付けなかったんだ!」
鮫島は若い頃のようにうまく動かすことのできない自身の身体に苛立ちながら、警備隊の職務怠慢を問い詰める。彼の部下二人も責めるような目つきで警備兵を睨んでいた。
「今はそんなことを話している場合じゃないでしょう!一刻も早く屋上に……ッ!?」
階段の踊り場に差し掛かった時、警備兵が喉を押さえて膝から崩れ落ちた。
「な、なんだ!どうし……なっ!?」
倒れたままピクリとも動かない彼に声をかけた瞬間。
左右の彼の部下二人も喉を押さえて床に倒れた。
倒れた拍子に彼らが抱えていた資料が床に散らばる。
二人の部下の表情は驚愕と苦痛に染まりっており、すでにその息はなかった。
「う、うわぁぁぁぁ!?」
鮫島はその二人の表情を見るやいなや怯えきった様子で階段を駆け上がっていった。
鮫島がいなくなった後、その場には静寂だけが残された。
そして割とすぐにその静寂は破られる。
「ふぅ……」
倒れてピクリともしなかった警備兵が気だるげに立ち上がったのだ。
彼はサイズの合ってない防弾チョッキを脱ぎ捨てる。
そしてポケットから《眼鏡》を取り出し、それを装着する。
クリアになった彼の視界の端で黒い霧が渦巻いていた。
「ゼェ……ゼェ…はぁ……」
鮫島はもう限界だった。普段使わない筋肉を無理に使用し続けた結果、彼の足はすでに棒のようになっていた。しかし、それだけの思いをした甲斐あって鮫島は屋上にたどり着くことができた。
すでにエンジンを起動して離陸する準備が整ってるヘリを見つけると、転がり込むように機体に乗り込んだ。
席に座るやいなや、彼はパイロットに対して怒鳴りつけるように命令した
「はやく離陸させろ!敵がすぐそこまで迫ってきてる!」
「目的地はどこでしょうか?」
敵がすぐそこまできていると言っているのに、パイロットの男は呑気にもそんなことを聞いてくる。鮫島は顔を真っ赤にしながら運転席に向かって声を張る。
「目的地だと!?そんなもの座標tkg0141Nに決まっているだろうが!お前は作戦説明の時居眠りでもしていたのか!?いいからはやく離陸させろ!敵が来てると言っているだろうが!」
それを装着聞くとようやくパイロットはヘリを離陸させる。一度地上を離れた機体はグングン高度を上げていく。
そこまで来てようやく鮫島は一息ついた。一時はどうなることかと思っていたが、人生案外なんとかなるものだ。最後までついてきてくれた二人の部下を亡くしたことに心を痛めながらも、鮫島は疲れ切った身体をリラックスさせる。
『なるほど……tkg0141N……そこに潜んでいたか……いや、情報提供感謝するよ。鮫島くん。』
ヘリの内部に男の声が響く。
それと同時に鮫島の身体に何かが巻きつき、拘束する。
突然の事態になんの反応もできなかった鮫島は、いとも簡単に体の自由を奪われた。
「な、なんだこれは!?おい!パイロット!俺の身体に何かが巻きついている!なんとかしてくれ!」
混乱したか彼は操縦席に座る《小柄》なパイロットに声をかける。
それに答えたのはパイロットではなくラジオから流れてくる男の声だった。
『何か喚いているところすまないが、彼は私の部下だ。助けを求めるならば藁にでも縋ってみた方がまだ確立はあるぞ?』
「とまぁそんなわけで、いろいろお疲れさん。後は黙って死ぬのを待ってろ。」
呆然としている鮫島をよそに、小柄な男はラジオの男と追加報酬の話をし始めた。
警備部隊がポンコツすぎるかもしれません