ムササビくん成長日記   作:ショウラン

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後編、はじまるよー。








6. ムササビのワガママ

ナザリック地下大墳墓、第六階層に存在する闘技場に与えられた名前は『円形劇場(アンフイテアトルム)』。

かつて行われた1500人の大侵略時以外の侵入者の全てをここで葬った所。侵入者を役者に起き、それをゴーレムが観賞する。貴賓席にアインズ・ウール・ゴウンのメンバーが着き、嘲笑う事から名付けられた場所は、未だかつてないほど盛り上がっていた。

 

アインズの言葉と共に、開始の笛が鳴る。

と同時に、無詠唱化された魔法を詠唱する。

 

時間停止(タイム・ストップ)

 

観賞しており時間停止対策を持っている守護者達は、アインズが何をしようとしているかを理解して、ニコニコと微笑む。アインズは、その笑顔に答えるように、腕を広げた。

 

「〈上位硬化(グレーター・ハードニング)〉〈上位全能力強化(グレーター・フルポテンシャル)〉〈自由(フリーダム)

上位幸運(グレーター・ラック)〉〈死者の炎 (アンデッド・フレイム)〉〈力の聖域(フォース・サンクチュアリ)

魔法詠唱者の祝福(ブレスオブマジックキャスター)〉〈鎧強化 (リーンフォース・アーマー)

上位筋力増大(グレーター・ストレングス)〉〈上位俊敏力増大 (グレーター・デクスタリティ)〉」

 

計十個の補助魔法を唱えたと同時に、止められた時間が起動する。

 

齢八日のムササビに、目映い神秘の光が灯る。

 

様々な音色を奏でながら、ムササビの身体能力が上昇していく。それは、補助魔法の強さによりレベル1のムササビがレベル12程のステータスになる程の強化だ。

 

生後八日目にしては有り得ないほど強くなったムササビは、余りの強さに二足歩行を可能とした。そのぷにぷにの足を器用に使い、大地に立った。

 

「おぉぉぉぉ!!」

 

アインズは、思わず叫ぶ。自分の子供が、補助魔法の効果とは言え立ち上がったことに喜びを感じない父親など居ない。何処から持ち出したのか、カメラでその勇姿を必死に撮る。

 

観客達も盛り上がるなか、疑問を孕んだ言葉がアインズに投げ掛けられた。

 

「な、なにをしたんですか?」

 

それは困惑したザリュースの声だ。

ザリュースは信じることが出来なかった。筋肉の構造上、絶対に立ち上がることは出来ないと確信していた目の前の赤子が凛々しく立ち上がったのだ。困惑するな、という方がおかしいだろう。

 

第一、ハイハイ選手権では無くなるじゃないか

 

そう思う心を奥のほうでしまうザリュースに、アインズはさも当然のように告げる。

 

「時を止めて、補助魔法を掛けただけだが?」

 

「時...を...」

 

驚愕の声を漏らすのはクルシュだ。

ただでさえ彼女は先程から(ムササビ様が負けたら腹いせで殺されかねないし、圧敗すればザリュースの機嫌が悪化してそれを察されて殺されかねないし...うぅ、どうしたらいいのよもう!)と、胃が凭れる程苦しんでいた。

そこに追い討ちの〈時間停止(タイム・ストップ)〉だ。クルシュは半分ほど思考を放棄しそうになる。

 

 

対するザリュースは、割りと冷静に状況を判断する。

天変地異を起こす存在が時ぐらい止めたって大して驚かない。それ程には彼の感覚は狂っていた。

(どうする?リューシュにクルシュの補助魔法を足してもアレには勝てない...。クソ!兄者が此処に居れば知恵と魔法を借りれたものを!やはり俺は未熟にも程がある!)

適材適所、という言葉を蜥蜴人(リザードマン)の誰よりも理解し、大事にしているザリュースも、さすがに歯噛みしてしまう。こんな時に補助魔法を使えない自分を恥じてしまう。

 

ザリュースの役割は、剣で敵を裂き、知恵で味方を導いて、勇気で空気を震わせる。英雄と呼ばれる戦士のソレだ。後ろで補助魔法を使いサポートに回るのは、その戦士に守られるからこそ成り立つのであって、それを求めるのはザリュースらしくもない。本人だってそれに気付いてはいるものの、煮え切らない感情を抑えられない。

 

どうすれば我が子を勝たせることが出来るのか...。

そんなザリュースに助け船を出したのは、同じ戦士の蜥蜴人(リザードマン)のゼンベルだ。

 

「ちょっと待ってください!これは反則じゃないんですか!」

 

しかし、その意見は一蹴される。

 

「反則?アルベドは妨害(・ ・)は駄目と言ったんだ。補助魔法を禁止した覚えはないな?」

 

「そ、それはワガ―――」

「ああ、言い忘れていたな」

 

ゼンベルが言い掛けた言葉を、アインズは更に大きな声で遮る。

絶対者は、理不尽を振りかざした。

 

 

 

「私はな...非常にワガママなんだよ」

 

 

 

ニヤリ、と笑うアインズの頭の中に声が響く。

 

補助魔法で強化され、二本足で立ったものの、直立して微動だにしていないムササビの〈伝言(メッセージ)〉だ。

 

『おと、さま...このこが、かわ、そぅ...。たかりゃ、いかに...ぃよ』

 

ムササビは、確固たる意思でアインズに伝える。それは、不公平さを嫌うスポーツマンシップの現れだ。

 

ちなみに、属性が中立であることと、コキュートスに武人の心(フェアプレー)を教えられたからであるが、それを知るのは満足げに頷くコキュートスだけだ。

 

アインズは、焦って〈伝言(メッセージ)〉を返す。

 

『ムササビ、何故だ?勝てるのだぞ?勝ちたいだろう?』

 

優しく語りかけるように伝えるアインズは、イヤイヤするように首を振るムササビを見た。

 

 

『それ、ぼくのじゃ...ない、ら』

 

 

アインズは、それだけで理解する。

息子は、自分の力で平等に戦って勝ちたいのだ。

種族も歳も違うのに、それでも貪欲に勝ちたい。

そう望む息子を、どうして止められるだろうか。

 

「...分かったよ。ザリュース、私はムササビの補助魔法を消し去ろう」

 

「何かよく分かりませんが、ありがとうございます」

 

「気にするな。私よりも、他人のためにワガママな王子さまが居ただけさ」

 

そしてアインズは、ムササビのバフ効果を打ち消す魔法を使う。その瞬間、再び四つん這いになるムササビ。そして、それを待っていたと言わんばかりに笑うリューシュ。

ニコニコと笑うムササビとリューシュは、再び横並びに四つん這いになる。そして。

 

 

 

「行けぇー!ムササビー!」

「勝てるぞ!リューシュ!」

 

 

 

二人の父親(親バカ)による声援を受けて、二人の赤子が地面を強く膝で蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ムササビ成長日記』

8日目の今日は、ザリュースの所の子供とハイハイレースをした。さすがはムササビだ。スポーツマンシップを重んじた上で勝つとは。しかし、辛勝だった。リューシュ君は、もしかすれば良い蜥蜴人(リザードマン)になるかもしれない。いつか、ムササビのライバルとして立ちはだかってくれることを、楽しみにしておこう。

 

そして、我が息子の成長(ワガママ)に至福を感じたところで、今日は筆を置こうと思う。

 

 

 

いつか、私を越えてくれよ。ムササビ。




リューシュくんの制作過程

ザリュース→リューを取ります
クルシュ→シュを取ります


完成です




追記
シリアスな笑いを目指しました。だってこれ端から見たら赤ちゃんが立って佇んでまたハイハイ始めただけなのですよ。

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