「おい、お前アレ見えてるか?」
「アレ……だよな?あの裂け目?」
「お前らも見えるのか?チャックみてぇだな。アレ。」
「社会の窓が開いてるぜ。だらしねぇなぁ。」
ここはヨーロッパのとある田舎町。少年達はふざけて笑い合いながら、空間に開いた得体の知れない裂け目を見ていた。
「ほかの奴らも呼んでこよう。こんな珍しいもの、今の内に見ておかなきゃ損だろ」
「よし、じゃあ俺が電話かけてみるから」
そう言って彼らの内一人がケータイに手をかけた瞬間、何か細いものが、立ちどころに彼らの身体を取り巻き、締め付けた。
「「「「!??」」」」
声にならない悲鳴が上がった後、やがて裂け目のあった空間はいつもの風景へ戻っていった。
「こりゃあ酷いですね……」
少年行方不明の通報から4日後、ようやくその内の1人の遺体が発見された。遺体に目立った傷はないが、全身に縄で縛られた様な跡があり、至るところの骨がありえない形に曲がっていた。
「一体何の恨みがあったんですかねぇ。」
「ああ、全くどんな神経をしていればこんな殺り方ができるんだか。想像もつかん」
警官の1人は遺体を見ながら憤りを募らせていた。そして息を整え、
「これの犯人は絶対に、何としても見つけるぞ雄太。わかってるな?」
警官は言うが、返事が無い。
「………オイどうした、何かあったの――――」
言いかけて、彼は目の前の光景に唖然とした。さっきまで動いていた仲間の警官が、血を流してぐったりとしていたのだ。いや、その時彼の目に、それはさほど見えていなかった。図鑑にも載っていない、未知の生物がそこにいたからだ。
「うわあああああああ?!?」
彼は叫びながら手元の拳銃の引き金を引く。だが何発撃っても、効いている様子が無い。銃が弾切れになった頃には既に、未確認生物は彼に近づき、首元に飛びかかっていた。
少年達の行方不明事件から一週間も経つ頃には、町の人々はほぼ全てこの一連の事件に関する話を耳にしていた。しかし彼らは皆、事件自体に対してだけではなく、事件を耳にした時の一種の既視感に対しても驚き、恐怖を感じていた。それは、テレビやラジオの全国区のニュースでも、同じような内容を放送していたからだ。
少年達に関する事件と同じ時期に、世界中で同様の失踪、死亡事件が起きていた。死亡状態、現場に残っていた謎の蔦や果実など、全ての状況証拠が一致していた。無論、人々を殺したのも全てあの未確認生物で一致している。各地で犠牲になった人数は、一週間で5万人であると報道された。それらを受け、各国首脳は非常事態宣言を出し、国連では世界会議を招集することを決定した。
「我が国のインベスによる犠牲者は元の人口の25%以上に上ってしまいました。このままでは年内に30%まで……」
「ウチは73万人近く。それと樹化による家屋の被害額も相当でな、会社だったらとっくに倒産してるだろうよ。」
「そんなのはもうどこに行っても同じだろう!全く……これからどうすればいいんでしょうか……」
ようやく世界会議が開かれたのは事件が起き始めてから一年弱が経ってからであった。その間も同様の事件は続き、インベスと名付けられた未確認生物による死者は実に一年前の同じ時期の28%にまで上った。
「大体、会議を開くのが遅過ぎるんですよ!!こんなことでは対策も何も無いでしょう、皆さん一体何してたんですか!?」
「こっちにだって内政があるんだよ!!皆、警察とか俺らのところに押しかけて来るしよ……あぁもう嫌だ…」
「まぁ空輸とか海輸が生きてるだけ、まだマシなんじゃないでしょうか。」
「ギリギリですがな。我々先進国の人々も思ったより今まで通りの生活を営めているようだ。だが一番の問題は…」
「如何にしてインベスを討つか、だな。」
「あぁ、そうだな……」
それが本来の目的とわかっていながら、国の代表者達はため息をついた。
それまで、各国の軍隊によるインベス討伐は幾度となく行われてきた。しかし、標準装備の小銃はおろか、世界大戦で使われるような武器を持ち出しても、想定していた程のダメージは与えられなかった。人類には、インベスに立ち向かう術がなかったのだ。
「でもどうすれば!?尽くせる手は尽くしたはずですよ!?!」
「いや、まだ核だけは試していない。」
「じゃあそれを………人々なら、他の場所に移せばいい!」
「やめた方がいい。今までの戦果からして、与えるダメージより受ける被害の方が大きくなるはずだ……」
「でもッ……じゃあどうするってんですか!?」
「核か……今はそれしかないみたいだな。もう時間も無い、今ここで多数決をとるということで、異論はあるか?」
「反対ですッ!私は反た………」
数名の首脳達が反対しようとして、止めた。突然、部屋の大扉が音を立てて開き、スーツ姿の役員が押し入ってきたからだ。
「何事だ!?まさかここにもインベスが?」
「いえッ……ですがこのようなFAXが送られてきて…」
FAXを受け取った1人の首脳が皆に聞こえるようにそれを読み上げていく。だが、その声と目は次第に怪訝になってゆき、そして読み終えると同時に怒りを爆発させた。
「なんでこんな時に限ってここに子供のイタズラの産物を持ってくるんだよ!!
「でッでも……もしかしたらということもあるかと思って……」
「もっと現実を見なさい馬鹿者ッ!!こんなものに構っている暇はないんですよ!」
「全く……こんなものは捨てて核の多数決をしましょう。それでは……」
その時、ある首脳が立ち上がった。そして続けて言う。
「その案件、私に任せてもらえませんか?」
「何を?……そうか日本の首相も遂に気が狂ったか。まぁいい、勝手にしろ。こっちはこっちで進めさせてもらうからね。」
日本の首相は軽く会釈をして大会議室を出た。
「あいつなら、きっと何かしでかしてくれるはず……」
独り言を呟いて彼は日本へ発った。
戦極凌馬は助手の声で研究机の上で目覚めた。前日まで2日連続で徹夜していた疲れが、まだ目や肩に残っているのを感じる。
「湊君まだ暗いじゃないかぁ……あと5分あと5分…」
「ここは地下なんですから、暗くて当然ですよ先生。約束の3時まであと3分しかないです。早く迎えの準備を。」
湊は呼びかけたが、返答が無い。また寝たか。そう思って目の前の天才の脳天に手刀を落とそうとした途端、軽快なインターホンが鳴った。
「お待ちしておりました。どうぞ中へ。」
少し早いと思いつつ、彼女は生真面目に応答する。
「先生、来ちゃいましたよ!早く起きて!」
だがどんなに怒鳴っても起きる気配は無い。そして遂に来客が中に入ってきてしまった。
「すみません、忙しい中お呼びしておきながら。先生実はもうニ徹していまして……」
「いえ、構いませんよ。あいつは昔よく徹夜で本を読んだりしてましたしね。」
そう答えた来客は少し前に日本に帰国したばかりの日本の首相だった。
「それより、直ぐに本題に入りたいんだが……まずコレは本当の話なんですか?」
そう言って首相はスーツのポケットから一枚のFAXを取り出した。
「『世界を変えられる、私の最高傑作が完成した。これは冗談じゃない。信じてくれるなら、私の研究室に来てくれ。誰でもいい、信じてくれ。』……先生から首脳達への文書でしたか。それに関してはまあ、概ね事実です。確かに先生は素晴らしい一品を創り上げました。」
「そうですか……じゃあ、その素晴らしい一品を見せてもらえませんか?」
「はい、これがその……」
「そう、それが私の作品、戦極ドライバーと、ロックシードだ!!
「……!? 先生いつの間に起きたんですか?」
「ついさっきな。それよりどうだコレは?黒くてカッコイイだろ?」
首相は閉口した。戦極ドライバーとやらは刀を模したパーツやよくわからないくぼみが付いており、ロックシードなるものには蜜柑のデザインが施されていた。どちらも素人目にはどのように使えば良いのか見当もつかないような代物であった。
「……凌馬、これはどうやって使うんだ?」
「デザインへの言及はナシかい?つれないなぁ。まあいい、要はそいつを付ければインベスと戦える、勝てるって話だよ。」
「コレで……?そんな風にはとても見えないんだが…」
「なら私がやってみせよう。湊君、ちょっとそれ貸して。」
そう言うと彼は慣れた手つきでバックルに錠前をはめ込み、刀の様な部品を下ろしてみせた。するとどうだろう、彼の頭にオレンジを模した球体が降りてきて、球体は彼の身体に武装を展開し始めたのだ。展開後の風貌は一言で言えば鎧武者。この一連の出来事に、首相は狼狽した。その間に、戦極は誇らしげに説明をする。
「この戦極ドライバーはインベスのいる森に生えている果実を利用した物だ。インベスの力を以てインベスを倒すってことだよ。最初に取りに行った時は死ぬかと思ったよ。ハハッ」
「首相、大丈夫ですか?」
「いえ、すみません湊さん。……それで凌馬、実用性はあるんだろうね?」
「君は大分疑り深いなぁ。昨日もインベスを2体潰してきたんだから、実用性は申し分ないよ。」
「じゃあこれを付ければ少なくとも戦えるわけか……自衛隊に普及させたら、今より格段に戦力が増えるッ……国民を守れるッ……!!」
「あぁ、この話をしてから、技術者を募って量産を始めるつもりだ……」
「ありがとう!ありがとう凌馬!!俺、今度テレビに出たらこの事を伝えておくよ!それじゃっ!」
そう残して彼は急いで研究室を出ていった。
「あぁ行っちゃった……まだ説明全部終わってないのに。」
「いいんじゃないですか?ドライバーにはこれといった副作用も無いみたいですし。」
「……そうだな。心配してる暇があったら量産を始めたほうがマシか。じゃあ湊君、研究所リストと筆記用具取って。」
「はい、先生!」
その日の夜、日本の首相は自分の妻に起こった出来事を嬉々として話した。
「戦極ドライバーってやつがさ、人類を救ってくれそうなんだ!すげぇだろ?」
妻が胡散臭そうに話を聞き流す一方で、彼は本気で勝利を確信していた。
俺達は必ずインベスを倒せる、必ず人類は勝てる、と。