『ソーダ………メロンエナジーアームズ!!』
電子音が鳴り響くと、果実の鎧が海未の身体を包んだ。
右手には弓型の武器、ソニックアローが握られている。
海未は自らの姿を一瞥したが、すぐに視線を目の前の怪物に移しかえる。
今の目的は1つ。この生物を倒すこと。ならば。
「やぁァァッ!!」
敵の集団に、ソニックアローに付けられた刃先を以て斬り掛かる。
これまで真剣を本気で振りかざすなどという経験は無かったが、今は太刀筋など気にしない。インベスの硬い皮膚を無我夢中で切り裂いてゆく。
「これで……どうだッ!」
相手の気が緩んだのを見計らい、海未は渾身の力でインベスの一体を斬りつけた。
まずは一体、と少し安堵したが、その直後には受身の姿勢をとっていた。倒したインベスが倒れ込むと同時に、爆発したのだ。その衝撃で海未はガラスを破って、玄関先まで吹き飛ばされた。
「生物の癖に爆発するなんて……どんな体の構造をしてるんですか…」
そう言って少しよろめきながら立ち上がると、残った3体のインベスも校舎の外に出てきた。
「……ちょっと頭にきましたよ」
海未はソニックアローを地面に置き、苛立ちを込つつドライバーのコンプレッサーを絞った。
『メロンエナジースカッシュ!!』
すると彼女の右足にエネルギーが行き渡り、光を帯び始める。そしてインベスに向かって走り出し、
「はぁぁァッ!!」
右足で強く地を踏みしめ、左足でエネルギーを纏った回し蹴りを放った。
「ギャッ…キシャァァ…ァァ」
海未が距離をとった直後、3体のインベスは同時に炸裂していった。
「ひと仕事は終わりましたね。ですが……」
彼女は校門の先に視線をやる。まだあそこで、親友が戦っているはずだ。
「今行きますよ……ことり。」
駆け出そうとするが、聞き覚えのある声に呼び止められる。振り向くと、校舎から白衣の男が駆け寄ってきた。
「……戦極さん!?」
「おっ、園田君ここに居たか。探したよ。」
「こんな所で何をしてるんですか!?危ないですよ!」
「こんな所でってのは、それこそ私のセリフだよ。なんでこんな所でチマチマと戦ってるんだい?」
「それはその……初陣なんだから仕方ないでしょう…」
海未は少し俯きながら言葉を濁した。凌馬もやれやれと言わんばかりにため息をつく。
「…まぁそれもそうか。じゃあ君の質問に答えよう。私がここに来たのはゲネシスドライバーの被験者である君の容態を、確認するためなんだよ。」
「容態?特に変わった所はありませんけど……」
「そうかい。なら今日の仕事は終わりだな………とも思ったけど」
「??」
凌馬は白衣の懐から黒いドライバーを取り出し、腰に装着した。
「ちょっと不安だから、今回は私が特別にサポートしてあげよう。……変身!」
『レモン!』
凌馬がロックシードを解錠すると、彼の頭上に黄色の果実が現れる。すかさず彼も錠前をドライバーに取り付け、刀を模したカッティングブレードを下ろす。
『カモン! レモンアームズ! インクレディブル・リョーマ!!』
海未は凌馬の変身を唖然としながら見つめていた。
「このレモンロックシード、実は私の専用品なんだ。この姿、結構レア物なんだよ?」
「……大分痛々しい名乗り音声ですね……」
「何か言ったかな?」
「いえ、何も。それより早く行かないと、ことりが…」
「仕方ないね。じゃあ行こうか。」
「えぇ……!」
そして2人は校門の外へ駆け出した。
「やっぱり1人で来るのは無理があったかなぁ。」
ことりは建物の影に隠れて、少しでも疲れを癒そうとしていた。先程から葡萄を模した銃、ブドウ龍砲で攻撃はしているものの、まだ一体も倒せていない。
最初の戦闘なのだから、当然のことではある。
「海未ちゃんに大口叩いたのに……みっともないな。」
だが彼女はまた、疲れの取れない足で立ち上がる。
「でも、守らなくちゃ。皆も。音ノ木も。廃校前に壊されたんじゃあ、堪らないよ。」
そうして、ことりは再びブドウ龍砲を構えなおし、建物の影から出てきた。未だにインベスの数は下級とはいえ数十体。参戦している一般人も少し見られるが、とても減っている様には見えない。
「えいっ!やぁっ!」
エネルギー弾を次々に放つが、硬い皮膚にはなかなか歯が立たない。その上、攻撃に気づいたインベスが彼女に向かって来てしまった。
「これはちょっとヤバいかも……」
思わずことりは後ずさりする。
「ここは逃げ………られないよね。今退いて皆が危なくなったら… そんなの絶対嫌だもん。」
周りを見渡すと、既に彼女の四方にインベスがいた。
それでも彼女は震える手で龍砲を構えなおす。
しかし、
『メロンエナジー!』
聞き慣れない電子音と共に、ことりの四方に居たインベスに光の矢が次々と放たれ、残らずに爆散した。
矢の放たれた方向を見上げると、校舎へ向かう階段の途中に、白地に緑の鎧を纏った戦士、その傍に青地に黄色の鎧を纏った戦士が居た。
「海未ちゃん……?」
それも多分緑の、弓を持った方がそう。
見たこともない姿だけど、直感でわかる。
あれは海未ちゃんだ、って。
「来れた……いや、来てくれたんだね…。」
ことりは階段にいる緑の戦士に駆け寄った。
「海未ちゃん!!」
そして確認することも無くその戦士に抱きついた。
「ちょっ、ことり!? どうしました?」
「危なかった……怖かった…」
学校の為、仲間の為と押さえつけていた感情が、ことりの胸から溢れ出した。
「よく頑張りました。……ってさっきと立場が逆になってますね」
「えへへ……」
つい一時間の前の事を思い出して、2人は苦笑した。
それと同時に、お互いに自分の心が落ち着いていくのを感じた。
「感動ムードの所で申し訳ないがお二人さん、階段の下を見てくれよ」
言われるままに視線を下げると2人ははっとした。もう自分たちの寸前までインベスが迫っている。その上その内数体が進化して、上級のセイリュウ型に変化していた。
けれども、すぐに落ち着きを取り戻す。
彼女たちの気持ちは同じ。
仲間と一緒なら怖くない。
きっと皆も、学校だって、守れるはず。
「ことり、それと戦極さん」
「何?」 「何かな?」
「……さっさと終わらせましょう」
海未の言葉に2人は首肯して、各々ベルトのカッティングブレードを勢い良く斬り下ろす。海未も負けじとコンプレッサーを二度力強く押し込んだ。
『ブドウスカッシュ!!』
『レモンスカッシュ!!』
『メロンエナジースパーキング!!』
威勢の良い電子音と共に、3人の武器にエネルギーが充填されてゆく。
「やぁッ!!」
先手を切って、ことりの龍砲の銃口から、ドラゴンのオーラに変化したエネルギー弾が近づいていたインベスに食らいついていく。
「行くぞ園田君!」
「ハァッ!!」
目の前の敵が倒れたのを見計らって、2人は階段の下に残ったインベスに向かって走り出し、敵の群集に斬り掛かった。
「らァァァッ!!」
「キシャャァァァァァ!」
1体倒しただけでは終われない。次々に斬り掛かってゆく。そして最後の1体、
「「セイヤァァァッ!!」」
「キシュュュァァァ!」
ソニックアローとレイピアの二重の斬撃を受け、それは奇声を発してドロドロと溶けて地面に崩れ落ちていった。
「……終わった、かな?」
「ああ、恐らくは」
周りを確認してから、3人は一斉に武装を解除していつもの姿に戻った。ところどころ建物に穴が空いたりしているが、人的被害は無いようだ。
「……」
「海未ちゃん?」
「………やっと終わりましたぁぁ〜〜」
「 おっと。危ない危ない。」
緊張から解き放たれ、海未は膝から倒れかけた。が、凌馬がとっさに彼女の肩を支える。
「ふふっ、大分疲れたよね。あんなに緊張しながら身体を使うのって、ライブをやってもなかなか無いよ。」
「身体はともかく……緊張はライブとどっこいどっこいですよ。初ライブに関してはむしろそっちの方が緊張したかも……」
「でも海未ちゃん、最初はミニスカを嫌がってただけだったんじゃない?」
「そりゃそうですよ!!あんなハレンチな………今はもう慣れたから大丈夫ですけど」
「ふふふっ、冗談だよ♪」
「自分の命が危ない時よりミニスカートの方が緊張するとは……やはり面白いね園田君。でも緊張していた割には、上手く踊ってた気がするがね?」
「ありがとうござい……え?戦極さん、私達の活動知ってましたっけ?」
「ああ。初ライブの動画も見たし、屋外でやってるライブも見たことあるよ。通りかかったら見る、程度だけどね。南君も良い声してたよ。」
「あ、ありがとうございます!」
意外な相手からの応援に驚くが、自分たちの活動を褒めて貰えるのはやはり嬉しいものだ。2人は自然と顔を綻ばせる。
先程まで命を懸けた戦いを繰り広げていたというのに、この時既に、彼女達の表情は普通の女子高生のものに戻っていた。
「いやぁ〜〜大変ご迷惑をおかけしましたぁ〜〜」
「全く……心配しましたよ穂乃果。大した怪我じゃなくて安心しましたけど。」
インベスが音ノ木を襲ってから2日。壊れた建物などはそのままだが、とりあえず事件は収束ということになった。
今ことりと海未は、戦いで負傷して病院に搬送された穂乃果の元を訪れている。
「そうだよ!アレだけ無茶な戦いをしておきながら捻挫でたった全治一週間!うん、私すごい!」
「無茶な戦いをしに行ったのが一番いけないよ、穂乃果ちゃん。」
「うっ……今日のことりちゃんいつもより辛辣なんですけど…」
「私、心配だったんだから……」
ベッドの傍で穂乃果を見つめる眼が、みるみる潤んでいく。
「そうか……ごめんねことりちゃん。無茶しちゃって…」
「反省しているなら、今回は良しとしましょう。第一ことり、無茶に戦いに行ったという点では私達も同じでしょう?」
「……うふっ、確かにそうだよね。じゃあ私も今日は許してあげる♪」
「ありがとう2人とも……!私、絶対すぐ復帰して練習再開するから!!」
「あっ、みんなこっち、こっちニャ!」
穂乃果がいつもの明るく弾んだ声で強く宣言すると、病室の入口から特徴的な声が聞こえてきた。
「おぉ、凛ちゃん……ってみんな!来てくれたの?」
「見ての通り…お見舞いに来たのよ。」
「練習を早めに切り上げて行こうって話になってなぁ。でも、穂乃果ちゃん無事みたいで、良かったよ。」
「あっこれ、皆でお金出し合って買ってきたので……どうぞ食べて下さい」
「わぁ……花陽ちゃん、みんな、本当にありがとうっ……」
穂乃果はまた、花陽からフルーツが山の様に積まれたバスケットを受け取る。
「ふっ……ニコが悩みに悩んだ末に選び抜いた究極の品よ……入院中しっかり味わって食べなさい!!」
「ニコちゃん、最初からそれしか目に入ってなかったわよね……。短期間の入院だって言っても変えようとしないし……」
「うるっさいわね!病気を治すにはたくさん食べてたくさん寝るのが一番良いのよ!」
「ん〜、今回は病気というより怪我やで、にこっち。」
「同じよ!!」
「まぁまぁ落ち着いて、ニコちゃん。私はこの位の量の方が丁度いいよ、ありがとう!」
「ほ、ほら見なさいアンタ達。ニコはここまでちゃんと計算して……」
「とにかく、早く治すのよ穂乃果?来週には合宿があるんだからね。」
「「「あっ……」」」
絵里の言葉に、拍子の抜けた声が3つ重なった。
「ちょっと、まさか二年生みんな合宿のこと忘れてたって訳?」
「いやその……あんなことがあった後だもんね……」
「あははははは……」
「そうです、そのまぁ、今回は……ハイ。」
「全く……飛んだ先輩方ね。大丈夫かしら。」
「でも今日思い出せただけ良かったんじゃないかな?」
「花陽ちゃん、ナイスフォロー」
渦中の3人は花陽に向かって親指を立てた。
「花陽ちゃんの言う通りやね。合宿は来週の月曜日、10時半に東京駅に集合。もう忘れたら、あかんよ?」
「「「了解しましたー……」」」
「あっ、皆、もう7時近くになるけど大丈夫かニャ?」
「すっかり暗くなっちゃった…そろそろ帰った方がいいかもね。」
「じゃあみんなで帰りましょう?……1人は帰れませんが。」
「あっ海未ちゃん酷い!私も帰りたい〜〜!」
「穂乃果ちゃん、また明日も来るから、安心して、ね?」
「ことりちゃん……! わかった。じゃあね皆!バイバ〜〜イ!」
バイバイ、と他の8人も手を振り返し、病室を後にした。そして夕闇に染まる中、それぞれが帰路についていった。
「もしもし……はい、園田です。……ああ、あの件ですか。」
その晩、海未は突然の着信に応答していた。
「もう決めました。……でももう少し待って下さい。せめて、来週まで。…ハイ、お願いします。」
「今回のでわかりました。行かなきゃならないのは。」
ため息をついて、彼女は再び床についた。
遅くなって失礼しました。ちょっと色々ありまして。
さて、とうとう変身しました海未ちゃん、戦極凌馬、そして前回のことりちゃん、穂乃果ちゃん。この先どうなるのでしょうか。
それと、アニメ見た方は気づいたかも知れませんが、この話はアニメ内時系列的には一期の9話と10話の間の辺に当たります。どうでもいいか。
最後に、投稿こそ飛び飛びになりますが(なりましたが)物語を完結させるまで執筆は止めませんので、どうぞ温かく見守ってやって下さい。