CHICKEN STORY ~がっこうぐらし!~   作:ゆう@

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だんだんと迷走していきます。


– で あ い –

それは、最悪の目覚めだった。

 

両手両足が縄で縛られている。それに、ソファーの上で寝かされていたため、首が寝違えてしまっている。頭痛もひどい。

 

「うぅ…」

 

奴に噛まれた足がひどく痛む。そういえば、僕は何で生きているんだろう。まあ、助かったんだから良しとしておこう。

 

僕は、周りの様子を確認するために、腹筋の力を利用して体を起こした。

 

ソファーの前には4つのベッドが置かれており、窓からはオレンジ色の太陽の光が差し込んでいた。ここに着いたのが夕方過ぎだったから、丸一日寝ていたのだろう。

 

自力で縄を解き、床の上に立った。噛まれた足が痛んだが、不思議なことに、さっきよりは痛みが引いていた。

 

そして、フラフラとした足取りで、部屋の扉へと向かった。ここの生存者を探さないと…。

 

痛む足を必死に動かし、扉を開けて廊下に出た。窓は全て割れており、所々に血がにじんでいるところがあった。彼らとの戦闘があったのだろう。上を見上げると、資料室と書いてある札の上

に、「寝室」と書いてある紙が貼ってあった。

 

足を進めると、今度は「学園生活部」(と書いてある紙が貼ってある部屋)を発見した。

 

「話し声…!」

 

内容までは分からないが、とにかく人がいるのはわかった。僕は、恐る恐る扉を開け、中の様子を伺った。机を挟んで向かい合わせに2人の女の子がパイプ椅子に座っていた。ツインテールの子と………、えーっと…、胸…じゃなくて、髪の毛が長い子。ツインテールの方も長いのだが。

 

恐らく、このツインテールの子が僕を助けてくれた人だろう。

 

不意に、ツインテールの少女がこちらに視線を向けた。どうやら気づいたようだ。喫驚した様子でシャベルを構え、こちらに向かってくる。

 

「……」

 

シャベルの先端をこちらに向け、舐め回すように…というより、車の中で報道陣にアヘ顔ダブルピースをしている人を見つめるような、痛い人を見る目で僕を見つめている。

 

僕は黙って両手を挙げた。折角助かったのに、ここで殺されるわけにはいかない。

 

しばらくの沈黙の後、ツインテールはシャベルを下ろし、「良くなったみたいだな」と微笑みかけた。ぎこちない笑顔に、まだうっすら残る警戒心が見て取れる。

 

僕は、どうしていいかわからずコミュ障特有の口をパクパクさせる動作を繰り返していると、スコップの少女に、部屋に入れと促された。正直、女の子2人と同じ部屋に入るのは抵抗があったが、断ることで起こり得る事態に鑑みれば、部屋に入るしか選択肢は無い。

 

中に入り、2人を向いにしてパイプ椅子に腰を下ろした。緊張する。

 

ロングの女の子が口を開いた。

 

「自己紹介がまだだったわね。私は3年の若狭悠里。そしてこっちが…」

 

「同じく3年の恵飛須沢胡桃だ。よろしくな。」

 

えびすざわ…。珍しい名前だ、と思ったが、もちろん口にはしない。

 

「僕は、3年の西木戸優斗です」

 

当たり障りの無い普通の自己紹介。同い年でも女の子には敬語。それが学校生活で生き残る鉄則だ。

 

「それで、少し聞きたいことがあるんだけど…」

 

悠里の顔つきが変わった。もちろん、悪い方向に。

 

悠里は、2人の背後に置いてある、棚の上の白い箱を持ってきて僕に差し出した。

 

「これは…、どこで手に入れたのかしら」

 

縦横15、高さ5くらいの体積の白い箱には、感染者用ワクチンと書かれた紙が乱雑に貼り付けてあった。中を開けてみると、説明書のようなものと一緒に、1本の注射器が入っていた。使用後である。

 

「これは…誰のですか?」

 

この僕の発言に、悠里はさすがに驚きを隠しきれないといった表情で僕を見て、くるみと小声で何かを話し始めた。何か失言があっただろうか。

 

「こ、この箱はあなたのリュックサックに入っていたものよ。その中の注射器であなたを治したの。」

 

「え…?」

 

いや待て、こんな箱全く見覚えが無いし、第一リュックサックなんて持っていただろうか。それに、何故か噛まれる前の記憶が曖昧で、よく思い出せない。例のゾンビウイルスの後遺症だろうか。

 

「それが…、よく思い出せないんです。昨日以前の記憶が曖昧で」

 

ぼんやりとは思い出せる。親の顔、小学校、中学校の名前…。しかし、友達の名前や、先生の名前は全く覚えていない。抜け落ちたというより、記憶に霧がかかった感じだ。

 

くるみと悠里はまた顔を見合わせ、ひそひそと話を始めた。あまり良い気はしないが、まあ仕方ないだろう。

 

「なら…また思い出したら教えてね。」

 

「はい…」

 

今現在目を泳がせている僕は、実際かなり怪しいだろう。普通の人間なら、「何か隠しているな」と思うはずだ。それでも追及しなかったのは、初対面であったことや、このパンデミックの状況下で、何か重大な秘密を隠し持っているかもしれない僕に逃げられる可能性があったからだろう。

 

だが、僕が目を泳がせている理由は全然違う。とにかく目とやりどころが無いのだ。まず、僕は女子と目を合わせてまともに話すことができない。それで、うっかり目を落とすと豊満な胸が視界に現れるわけで。横を向けば、くるみがじっとこちらをみつめているし、人と話しているのに別の所を向くわけにもいかないし…。

 

このような葛藤があった末、目が泳ぐ結果になったわけだ。決して人を揺るがすようなヤバイ秘密を持っているわけでは無い。

 

「ま、まあそういう暗い話は後にしてさ…。とにかく、歓迎するぜ。優斗」

 

「よろしくお願いします…」

 

「同い年なんだからタメで話せって。それと、さっきはごめんな?」

 

タメ…だと…。い、いや、落ち着け。男に接するように、適当にあしらって…そうだ、この子は男だ。うん。喋り方も男っぽいし。

 

「いや…。気にしてないよ。当然のことだと思うし」

 

自己暗示の力ってすげー!女の子と普通に話せるとは…。

 

くるみは男。決定。問題はツインテールの男がいるのかっていう話だが、その辺は脳内変換でいこう。ああ、もう男にしか見えない。

 

「実は、まだ2人いるんだが…。」

 

ゑ?

 

男がいるのだろうか。もしそうであれば、少しは救われる。だが、両方女の子だったら軽く死ねる。

 

「男……?」

 

緊張。

 

「いや、女だ。」

 

顔が青ざめていくのが自分でもわかる。4対1はマジで洒落にならない。

 

恐らく、僕はここで暮らしていくことになるのだろうが、そこに男が僕しかいないのは、少々問題がある。いや、少々どころではない。大問題だ。

 

4対1をクラス40人で換算すると、女子32人に男子8人。高校生ということを考慮すると、一つ屋根の下で共に暮らすのは、それはもう精神衛生上よろしくない。

 

「大丈夫?」

 

心配そうな顔をした悠里が声をかけてきた。

 

「大丈夫です・・・」

 

無論、大丈夫ではない。

 

「それで、その2人だけど…」

 

 

ガラッ、と突然扉が開いた。扉の方に目を向けると、2人の女性の姿があった。この人達か…。

 

小さい方は、くるみと悠里と同じ制服姿で、猫耳が付いた変な帽子を被っており、羽根のついたピンクのバッグまで背負っている。なんとまあ…、浮きそうなファッションだ。

 

大きい方は、薄紫のワンピースに十字架のネックレス。手には教科書を持っている。古典…だろうか。残念ながら、僕は古典に関しては許容範囲外だ。

 

「あら…、良くなったのね。私は佐倉慈。この学校の国語教師よ。」

 

2つの意味で、でかい方が口を開いた。

 

「よろしくお願いします、佐倉先生」

 

何やら顔を赤くしているが、追及しないでおこう。

 

「私は、3年の丈槍由紀だよ」

 

左手を挙げながら今度は小さい方が口を開いた。元気だなぁ。見習いものだ。

 

「僕は3年の西木戸優斗です。」

 

ガチテンプレ型の自己紹介が済んだところで、くるみが話にはいってきた。

 

「よし!自己紹介も済んだところで…。私が校舎を案内してやるよ。」

 

「は、はあ…」

 

ということは、まさか…、ふたりきり?まあ、くるみならなんとかなるか…(?)

 

「待ってよくるみちゃん!それは私がやるよ!」

 

と、例の猫耳帽子。お前はダメだ。僕の精神が持たない。

 

「だ〜め〜だ。由紀はこれから補修だろ?」

 

「うっ・・・」

 

・・・補修?

 

「よし、優斗、行くぞ。」

 

僕の疑念の色を感じ取ったのか、くるみが急かしてくる。

 

「う、うん…」

 

コミュ障の特徴、一言会話。

 

 

女子と2人きり。

 

普通の男なら誰しもが憧れるどあろうシチュエーションだが、僕の場合はそれは苦痛に変わる。

 

「じゃあ、行こうか」

 

くるみにエスコートされ、校舎内を廻る。本来なら、これは逆の立場でないといけないのだろうが、緊張と脚の痛みを必死に隠して平然を装っている僕に、これ以上の負担を求めるのは死ねと言っているようなものだ。

 

「ここが音楽室で、ここが職員室で…」

 

それにしても、見事な荒らされ様である。血の跡はもちろん、窓は全て割れており、黒板は所々にヒビが入っている。

 

こんな異様な光景を見ていると、自分はちゃんと生きているのか不安になってくる。

 

「それで…、少し話があるんだが、いいか?」

 

唐突にこちらを振り向き、深刻そうな顔をしたくるみがこちらを見上げている。僕の方が身長は高いから、必然的に見下ろす形になる。

 

「う、うん」

 

「ここにいる間は、由紀に合わせてやってくれないか。」

 

「……」

 

合わせる…?どういうことだ?

 

僕の困惑の心情を読み取ったのか、くるみが説明を始めた。

 

「由紀は…、由紀の中では、この事件は起こっていないんだ。あいつは、今でも授業を受け、クラスメイトと話し、普通の学校生活を送っている。」

 

「え…?」

 

理解できない。普通の学校生活?クラスメイトなんてもういないはずなのに…。

 

「事件が起きてから、少しおかしくなってしまってな。」

 

それはつまり、

 

「幻覚…?」

 

「そうなのかもな。詳しくはわからない。でも、今はあいつに合わせてやって欲しいんだ。」

 

なるほど、難しいことはよくわからないが、とにかく合わせればいいんだな。

 

まあ、ここで拒否が出来るほど肝は据わっていないのだが。

 

「わかった」

 

「すまないな。よろしく頼む。」

 

くるみが笑顔を見せた。こうしてみると普通に可愛い…、じゃなくて。いかん、くるみは男だ、くるみは男だ…。

 

「では、改めて、優斗、これからよろしくな。」

 

くるみが手を差し出す。一瞬戸惑ったが、先ほどの自己暗示の効果で、なんとか握手を交わした。もちろん、女の子と握手をしたのは初めてだ。

 

 

 

 

その後、僕とくるみはみんなの元へと戻った。

 

 

これからの生活で、精神的な苦労を強いられることになるのは、言うまでもない。

 

 




自己暗示ってすごいですよね。


何か人前で喋る時は、人類カボチャ説を提唱するのがオススメです。
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