CHICKEN STORY ~がっこうぐらし!~ 作:ゆう@
今、ちょっとした、
いや、超重大な事件が発生している。
僕の今後の精神衛生(もしかしたら生命にも)に関わる事件が『学園生活部』の部室の一角で発生しているのだ。
くるみに連れ回され…ではなく、エスコートされながらの校舎見学が終わった後、何事もなく食事を終え、シャワーを浴び(着替えが無かったので、仕方なく同じ制服を着ている)、ここに戻ってきてシャンプーのあのいい匂いが漂う2人の少女と話し合いをしている訳なのだが。
「一緒でいいんじゃねぇの?」
「ダメよ。優斗くんは男の子よ?」
くるみと悠里はさっきからこんな話を延々と続けている。
そう。その事件とは、「寝場所が無い」だ。
え?そんなの事件でもなんでも無いって?
…もし一緒に寝ることになったらまず自分のメンタルが持たないし、彼女らも、彼らと人間の境を彷徨っていた人間と一緒に寝るのも嫌だろう。
それでひとり別のところで寝る、例えば教室で寝ることになってみろ。幽霊が出たり(幽霊のなり損ねなら外に徘徊してるけど)、ポルターガイストでも起きそうな、未だにヤバい雰囲気が漂う教室でひとり寝るなんて、臆病者の僕にはできやしない。きっと一睡も出来ずに昼間に倒れるのがオチだ。
「優斗、お前はどうなんだ」
「え、えーっと・・・」
くそ…僕に振るなよ・・・。
2人が見つめてくる。僕は、目を逸らしながら「どこでも」と言っておいた。
「どこでもって言われてもな…」
また振り出しに戻った。2人に若干の苛立ちの色が見て取れる。大体こういう時に遠慮して自分の意見を言わない人ほど迷惑なんだよな。それがまさに今の自分だ。
一緒に寝るのはお互いにとって害があるからこれはまず却下。ひとりで寝るにしても、教室は前述の理由により却下、廊下…も窓が割れて雨ざらしなので却下。というか窓が修理してあるのって寝室と学園生活部(ここ)しか無いような…。
うーん…ここなら寝室は隣だから、何かあったら助けを呼べるし、血痕などの不快なものも無い。近くに飲み物や食べ物があり、もしもの時籠城出来る物資は整っている。
ここしかない・・・か。
「じゃ、じゃあ僕はここで寝るよ」
「大丈夫かぁ?」
くるみが馬鹿にしたような口調で聞いてきた。多分安全面での心配ではなく、孤独の方の心配だろう。無論全然大丈夫ではないが、消去法で考えてもうこの選択肢しかない。
「ああ」
「そっか…。じゃあ、もう寝るか」
「そうね。優斗くん、布団もってくるわ」
悠里が廊下へと消えていった。とりあえず一安心だ。
「ちぇっ。折角気利かせてやったのによ」
ありがた迷惑だ。
「僕みたいな怪しい人と一緒に寝てもいいのか?」
女子に自分から話しかけたことに驚く間もなく、くるみが謎の行動をし始めた。
「怪しい、ねぇ…」
くるみが席を立ち、距離を詰めてくる。謎の展開に足が竦んで逃げられない。
「え、恵飛須沢さん…?」
「何か私達に隠していることねえか?」
くるみが、いわゆる『悪魔の笑顔』で僕ににじり寄ってくる。
その距離、既に30cm。
「か、隠していること?」
何かあっただろうか。学校案内の途中に突風が吹いて、パンツが見えた(本人はお気づきで無い様子だった)ことか?…いや、気づいてたならその場で言い咎めるだろうし…。なら、もしかして…。
くるみが僕の胸元、左胸の胸ポケットの部分を指差した。
「そこに入ってるものは何だよ?」
「…」
僕が隠し持っていたもの、それは、ニューナンブM60という拳銃だ。ニューナンブM60は、日本の警察官が使用する拳銃として知られており、38口径で、全長198mmと小さめの割に威力はかなりあるらしい。
もちろん、僕の銃にはちゃんと実弾が入っている。撃鉄を起こして引き金を引けば、射程距離50m、時速約878kmの弾が飛ぶ。それが目の前にいるか弱い(?)女の子に当たりもすれば、たちまち大怪我を負うだろう。
そんな物騒なものを隠し持っているとばれてしまったら、最悪ここを追い出されかねない。だから、必死に隠し通してきたつもりだったのだが…。最初に話した時に、銃のことを追求されなかった時点でバレてないと確信したのがそもそもの間違いだったのかもしれない。
くるみがため息を吐き、胸ポケットの『それ』を出すように促してきたので、僕は観念して銃を机の上に置いた。
「もうすぐりーさんが帰ってくる。話は後だ」
「う、うん…」
くるみが僕の銃を手に取り、スカートのポケットにしまいこんだ。重さでスカートがずり落ちないかも心配だが、それよりも暴発しないかが1番心配だ。生憎僕の銃はすぐに使えるようにトリガーのストッパーとかはしていない。もし、ポケットの中で暴発などしようものなら…、結果は言うまでも無い。
悠里と由紀と佐倉先生が布団を運びながら部屋へ戻ってきた。今更、手伝うべきだったかな、と思いつつ、僕は寝る支度を始めた。
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・・・布団に入って2時間が経過した。話は後だ、とか言っていたくせに一向に来ない。いっその事もう寝てしまおうか。でも、もし寝てしまったら例のシャベルで叩き起こされそうでおちおち寝ていられない。
夜は嫌いだ。死んだらどうなるんだろうとか、明日もしかしたら死ぬんじゃないかとか、考えてもどうしようもないことを考えてしまう。
孤独、記憶、足の傷、この騒動、これらの相乗効果により、さらに思考がネガティブになって行く。
僕の事件が起きた頃の記憶は何処へ消えたのか?
外の世界はあるのか?
僕が持っていたという薬はちゃんと効いているのか?
記憶喪失が薬の副作用だとすると…。いや、脳への影響はゾンビウイルス(仮)のせいと考える方が自然か。だとすると、やはりあのワクチンでは完治はしていないということに…。
ここまで考えた辺りで、くるみがガラッと大きな音を立てて入ってきた。勿論心底驚いた訳だが、思考の負の連鎖に陥る前に止めてくれたということで今回は感謝しておくことにした。
「遅かったな…」
「すまんすまん、皆んな寝たかどうか分からなくてな」
悪びれた様子もなく、けらけらと笑いながら答えた。抜け出してきたのか…。
右手にはお決まりのシャベル。そのシャベルを机の傍らに立てかけ、僕の布団に腰を下ろした。胡座で。
「…」
「なんだよ、じろじろ見つめて」
「…いや」
動作がいかんせん男っぽい。まあ、そのお陰でこうして普通に話せている訳だけど。
「…お前が持ってた拳銃の話だけど」
「あ、ああ」
くるみはポケットから出した拳銃を布団の上に置いた。
「…何でこんなモノ持ってたんだ?」
まあ当然の質問だろう。僕は警官から奪ったであろう銃を見つめ、そのときの自分の心情を想像して答えた。
「身を護るため…かな。たぶん」
多分というのはまさしく覚えていないから何だけれども…。
「身を護る…って、5発しか無い弾でか?音も大きいと思うし、あいつらにはあまり効果ないと思うぞ」
「彼らからじゃない」
「え」
「人から身を護るためだ」
法律で銃などの殺傷武器の携行を禁止している理由、それは、犯罪を抑制するため、並びに警察が犯罪者から国民を護り、国民に武器の携帯は必要ないからだと僕は考えている。国民自らが武器を携行するまでもない安全な社会。それを実現するためには警察という抑止力が必要不可欠だ。それが機能していない今、最も恐るべき存在は同じ人間。
『彼ら』は銃や刃物を扱えないが、人間はそれらを扱える。知能があり、パニックに陥った人は仲間さえも傷つける。
当時の僕は、そのことがわかっていて、銃を奪ったんだと思う。現に弾は1発も使われていない。
こんな内容の話をくるみにした。きちんと説明しておかないと誤解されそうだったし。
「そうか…」
くるみは理解した様子だ。物分りが良くて助かる。
「じゃあ、その銃は返してもらえるかな…」
「いや、これは私が預かる」
「えぇ!?」
どういうことだ…。まだ僕は疑われているのか?
「私はもう優斗のことは疑ってないけどさ」
くるみが寝室の方を指差した。
「りーさんたちはまだ疑ってるぜ」
「うっ…」
確かに、いきなり来て、何故かワクチンを持っていて、しかも記憶があるのかないのかわからない状態で、完治しているかもわからない人を1日も経たず信じろというほうがどうかしている。
それに加えて銃を所持しているとなると、僕の信用は無きに等しくなる。
「安心しろって」
「………?」
「私が守ってやる」
思わず息を飲んだ。まさかこんな台詞を吐くとは。
言った本人は顔を赤らめて俯いている。言わなきゃいいのにとか思いつつも、くるみの予期せぬ計らいに感謝しつつ、肯定することにした。
「…わかった。それは預けておくよ」
「あ、ああ」
変な空気になりつつも、暴発しないようにストッパーをしてからくるみに渡した。
もう1時をまわる。くるみを部屋に押し返し、再度布団に篭った。
疲労感が体を包み込み、自然に睡魔がやってきた。
今度は嫌なことを考えずに眠れそうだ。
警官の銃についてググった知識をおっぴろげてるだけなので、銃には全く詳しくないのでその辺は勘弁願います…。
それでググって思いましたが、警官の銃って超ダサい。(ニューナンブM60好きな人ゴメンなさい)