チームRWBY(ルビー)がベルナの村で実地試験を行うようです 作:はぐれファウナス
――ワイスが、目の前でやられた。
どうしよう、体が動かない。ナルガクルガの刃翼が、私を攻撃すべく迫って来ている。
ダメ、今からだとガードも間に合わ……
ヒュン、ヒュン、その時、私の髪の毛をかすめて通過した弾丸が、ナルガクルガに命中した。
敵は忌々しげな悲鳴をあげると、直ぐ様跳びずさり、闇の中へと姿を消した。
「ルビー! 退がって!」
ヤンお姉ちゃん? あっ、わた、私……
「早く!」
う、うん。
「ヤツは、あの木の影で様子を伺っているわ」
ブレイクが、言った。
――わたしは、木の影でこちらを伺う、暗中のナルガクルガの姿をはっきりと捉えていた。
わたし、ブレイク・ベラドンナはファウナスだ。半獣のわたしは、目が暗くても利く。ファウナスは夜でも、昼間と同じ様に見ることができるのだ。
ヤンは、やはり見えていない。構えから自信が伺えない。
「……ルビー、ワイスはあっちの木の根本に倒れてるわ。多分、気を失ってる」
「ホントに? ブレイク」
ルビーはいま、正常な判断が出来そうにない。
戦いは、判断能力を失った者からやられていくのが常だ。なら、今はルビーを慌てさせない方がいい。
「ええ。私達がナルガクルガを引き付けるから、ルビーはワイスを守っていて」
「でも……」
「ルビー、ブレイクの言う通りだよ。下手をしたらワイスが助からなくなるかも。おまえが責任持たなきゃ」
「……分かったよ」
「ワイスは、あっちだから」
私が指差した方へと、ルビーは駆け出した。ナルガクルガは、継続して様子見をしている様で、一安心。
「ヤン、ありがとう」
「何が?」
「ルビーを誘導してくれて」
「ああ。あの子はね、急なトラブルとかに弱いし、一回緊張しちゃうとなかなか立ち直れない所があるからね。そこがカワイイ時もあるけど、今はマズイし」
そうね。わたし達より年下だし、極めて多感な年頃だろう。
「ヤン、この方向目掛けて撃てる?」
「任せなさーい、じゃあ、いくよ!」
カチリ、と薬莢を排出。その音を聞いてか、ナルガクルガは体をぐぐっ、と縮めている。いつでも動ける様にだろう。
ヤンのグローブ、エンバー・セリカが弾丸を射出する。音のする寸前、ナルガクルガは木影を飛び出している。危機察知能力は高そうだ。
わたしも、ガムボール・シュラウドを連射しながら接近。敵はまるで黒い光のようだった。
ひらりひらりと、弾丸の雨をかいくぐり、尻尾をぶるん、と振って……いけない!
「ヤン、避けて!」
ヤンは答えもせずに、その場を飛び退く。さすがね。わたしも咄嗟に飛び上がり、それをかわした。
眼下を通過していったのは、尖った礫(つぶて)の様なものだった。木の幹に深々と突き刺さるそれは、人間が受ければひとたまりもないだろう。
ナルガクルガは、尻尾のトゲを飛ばしたみたいね。厄介な……。
点在する岩を蹴り、ガムボール・シュラウドをリボンに結んで投げる!
木に刺さった感触。リボンが縮む、体が引き戻される。ナルガクルガの刃翼が空を切る。
弾丸を数発放って着地。でもナルガクルガも木を蹴って方向を変える。こちらへと追撃。
刃翼が、体を切り裂く。でも残念、それは残像。わたしは踏み込み、刃を振るう。黒毛をばっさりと切り取る。
だが鞭の様にしなった尻尾が、側面からを打った。後ずさるわたしに、ナルガクルガはトドメと言わんばかりに大きく尻尾を振り上げた。
遠心力で伸びきった尻尾の長さは数倍にもなり、せまる。
「おらぁぁ!」
ヤンの声!? 彼女はどうやらわたしの戦闘で、敵の位置をつかんでいた様ね。
ヤンのエンバー・セリカの一撃が、ナルガクルガの脇腹を穿つ! 必殺の一撃は僅かに軌道を変えて、わたしをかすめていった。
「はぁっ!」
限界まで伸びきった尻尾を、一太刀の元に切断してみせると、よろめくナルガクルガに続け斬撃を浴びせた。
しかし敵もただではやられない。体を器用にひねって体当たりを繰り出すと、肉薄していたわたしとヤンを撥ね飛ばした。
着地したわたし。ナルガクルガは既に独特の姿勢を……片足を引いて体を引き絞っていた。
恐らくは、腕の刃翼に全ての力を注いで来るだろう。わたしは一度目を閉じ、視界を絶つと、精神集中した。
このガムボール・シュラウドの様な小太刀で致命傷を与えるには、一点を深く切り裂くしかない。その為には鋭い一撃を、正確に叩き込む必要がある。
なら、私の知る限りあの技を使うしかない。あれはホワイトファング時代、パートナーだったアダムが使っていた技。
雷の様に、刹那にて放たれた刃はあらゆる物を無へと還す。
そっと伸ばした右手は、ガムボール・シュラウドの柄を、ふわりと握る。大気がしんと張りつめ、わたしのオーラが流入してゆく。
更に大気が密度を増し、音でさえが届かなくなった直後、ナルガクルガの黒きオーラが動いた。
漆黒の光となって暗中を音もなく書けるその様は、密林の暗殺者の二つ名そのもの。影をも置き去りにしたオーラが遂に肉薄。
わたしの腕は、まだ動かない。十二分にオーラを引き付けて――
剣の形をもったオーラが、渾身の一撃が先に繰り出された。瞬間、わたしは目を見開いた。
迫る刃翼。するり、とわたしはかわし、更にナルガクルガの懐へと潜り込んだ。
オーラを解放。
抜き放たれたガムボール・シュラウドの刀身を包む琥珀色が、黒毛を、肉を切り裂き走り、通り抜けた漆黒のオーラは真っ二つに分かれた。
悲鳴さえなく絶命し地面に墜ちた最期は、二つ名にふさわしいものだった。
キン、と鞘に刃をしまったわたしに、ヤンが駆け寄って来る。
「今の……何? ちょ~凄かったんだけど」
「強いていうなら、必殺技かしらね」
「へ~……って、そんな場合じゃない、ワイスとルビーは大丈夫かな!? えと、どっちだったっけ」
「あっちよ。早く行きましょう」
――「ねぇ、ワイス、ワイス! 大丈夫、ねぇ?」
私は倒れたワイスに駆け寄ると、肩をゆっくり揺すってみた。
あわわ、どうしよう、反応が返ってこないよ。もしかして打ち所が悪くて、死――
「嫌だよワイス! お願い目を開けて、ダメダメ戻って来てー!!」
「うるさいですわ!」
あ、ワイスが目を開けた! よかった~と、ついつい嬉しハグ!
「ちょっと、離しなさいルビー! こんなことをしている場合ではなくてよ!」
「わわわ、そうだったね。じゃあ、早く二人を助けに行かないと」
「痛た……ちょっとお待ちなさい」
「あ、手を貸すよ」
「不要ですわ! わたくしはいいから早く戻りなさい!」
「そうはいかないよ……その、私のせいでこうなったんだし」
「気にしないでルビー。いちいちそんな事を気にしていては、強くなれませんわよ」
そう言われてもなぁ、気にするよ。ああ、ワイス……血が出てるし。
「ルビー、ワイスー、大丈夫?」
「お姉ちゃん!? 終わったの?」
「うん、バッチリ! ナルガクルガは討伐したよ~……ブレイクが。なんだかサムライのイアイみたいな必殺技でぶしゃーって決めてくれたよ」
「そうね」
「そっか、終わったんだ……」
「では、早く引き上げますわよ。ここは虫がブンブンうるさくて堪りませんわ」
「だね。早く帰ってシャワーでも浴びようよ」
皆の足取りは軽かった。私を除いて。密林の夜がふけてゆく。だけど、まだまだ狩人の仕事は終わっていなかったんだ。
無情にも飛行船に戻った私達を待っていたのは、次の緊急依頼だった……