チームRWBY(ルビー)がベルナの村で実地試験を行うようです 作:はぐれファウナス
「おめぇさん、いつから聞いてたんだ?」
加工屋の主が、私にそう言った。
「さぁ、何となく……最初の頃からかな?」
私はそう答えた。お姉ちゃん達が、私の武器を治そうとしてくれていること、その為に火竜を倒しに行ったこと。全部聞こえてた。
「武器の無い私を、連れていってくれる訳ないもんね……」
「当たり前だ。狩りは遊びじゃねぇ、命と命のやり取りだ。半端者を連れて行ける訳はねぇだろ」
半端者……そうだよね。私なんかには丁度いい言葉だ。
「…………」
「…………」
赤熱した鉄の塊が、釜の中から取り出され、数人の職人さん達がカンカン、とハンマーで叩いている。
薄く平らに伸ばされてゆく塊が、次第に本来の黒色に戻る頃、職人らはハンマーを置き、もう次の行程に取りかかっている。
そんな職人芸を、ぼおっ、と視界の端に捉えながら、私はただ座り込んでるだけだった。塞ぎ込んでるだけだった。
体から熱が漏れだして、どこか別の場所で燃え盛っているのか、この身は冷え冷えとしたままだ。
机の上で、声一つあげないバラバラの相棒からは、睨み付けられてるみたいで、視線を逸らした。
「――例えばだ、お嬢ちゃん」
加工屋の主は、さっきのとは違う、出来上がったプレート……多分、剣の刃だろう、を私に見るよう促した。
それはそれは見事な、非の打ち所の無い刃だと思った。湾曲した刃の部分の造形は特に見事だと。でも、主はこう言った。
「こいつは出来損ないだ。どうしてか分かるか?」
「えっ? ど、どうして?」
見た感じ、傷も見当たらないし……じゃあ、一体何が悪いの?
「こいつはよ、若い衆に叩かせたんだ」
と、彼はげんこつを握り、刃に振り下ろす素振りをした。あれ? でもさっきのも、叩いて形を整えてたじゃない。
「芯が定まってねぇとよ、形が歪む。だから、こいつぁ歪んでる。こいつはとても、ハンターに渡せる代物じゃねぇ」
私には到底そう見えないけど……
「ハンターの嬢ちゃん、お前さん、この鎌は自分で作ったって言ってたよな? そんときゃ、何考えてた?」
「えっ、何って……」
クレセント・ローズを作ったあの日。私はただ、希望に満ちていたと思う。何故なら、これから私の、私だけの相棒が出来上がるのだから。
また一歩、近付ける様な気がした。小さい頃に絵本で読んで、聞いた、ヒーロー達に。弱きを助ける英雄達に。
私だけの相棒を携えた私は、悪党達やグリムを凪ぎ払い、世界の平和を守り続ける。「名乗る程の者じゃないけど」私はそう、不敵に仮面の下で笑んで、いずこかへと飛び去る。
そんな夢を幾度となく見ながら、クレセント・ローズは形になっていったんだ。
皆ハッピーなら、それでいい。私はいつだってそう、思ってた。
「えっと、色んな事考えてました……」
「それでいい。オイラも初めて打った時はそうだった。オイラの打った武器をハンターが使って、そいつが強え飛竜をぶっ倒す、そんな事ばっか考えてた。お陰で不細工なのが出来たよ」
あれ? 私と似たような……
「今のオイラが打ってんのは最高の得物だ。ただ無心に寄り、打った得物だ。出来は最高だが、無難なだけだ。こうすりゃいいものが出来る、こうすりゃ失敗しない、そんなノウハウばっかり重なって出来た代物だ」
「それって理想なんじゃないんですか?」
「ああ。誰が使っても馴染むんだろう。だが、そこでしかない。結局のところ、オイラが作ってんのは、誰でも使えるが、誰かが最高に使えるモンじゃねぇ」
えっと……つまり、どういう事?
「半端者が叩いた所には、欲がある。力がある。誰かが、自分の打ったモンを使って活躍してくれるって欲がよ。だから誰にでも使える代物じゃねぇものが出来る。自分の想いがこもっちまう。それじゃあ商品にはならねぇ。だけどよ……」
主は、すっ、と虚空を眺め、言った。
「その想いが、歪みが、最高の力になる事もある。嬢ちゃんがそうだ。あの鎌は悪く言えば歪んでる。だが、お前さんには何よりも合っていた。お前さんが使っていて、初めて輝く得物だったんだ」
「…………」
「だから、治すにゃあ、お前さんも必要なのさ。半端者のお前さんがな。何が悪い、半端者上等じゃねえか」
「――なんか、ビミョーに嬉しい様な嬉しくない様な……でもでも私、鍛冶なんてやったことないし……」
「打つのはオイラ達の仕事だ。お前さんは仕上げるんだよ。さて、あとは火竜狩りに出た連中の帰りを待つだけだ」
――「あわわ、大変です!」
その時、表が妙に騒がしくなっていた。騒いでいるのは、クエストの斡旋や村の案内をしたりする、ベルナの看板娘である。
何事だろうと、私が覗いた時には、彼女の周りに村長さんや龍歴院の人、或いは見たことない人達がいた。
あ、あのグループ、筆頭ハンターって人達かな? ルーキー君も居るし。
「どうしたんですか?」
私はつい、好奇にかられてルーキー君に話し掛けた。
「あれ!? 王国ハンターのルビーちゃんじゃないッスか! どうしてここに居るんスか?」
ルーキー君は驚いた顔で、こう返した。
「あ、あの、私は……お留守番で」
「丁度よかったッス! 実はッスね――」
「失礼。君が王国ハンター、チームリーダーのルビー・ローズか?」
ルーキー君を押し切り、前に出たのはベテランっぽい人だった。立派な鎧や武器からして、結構偉い様な人なんだろう。
「は、はい、そう、です」
「私は筆頭ハンターのリーダーだ。訳あって本名は名乗れないが。単刀直入に言う。緊急事態だ」
リーダーさんってことは、ルーキー君の上司か。
「君達チームRWBYの受けた依頼だが、どこで手違いがあったのか……あの依頼の火竜リオレウスは、未知の部分の多々ある個体だったのだ」
「本来なら、我々が調査に赴くべき危険な個体、通称黒炎王の二つ名と呼ばれるヤツでな。並のハンターでは即座に消し炭にされてしまう」
背中に大きな槍を背負ったおじさんが言う。
「あなた、メンバーに連絡をとる手段とかないかしら?」
褐色肌のお姉さんが、落ち着いた調子で言う。
いつもなら、スクロール端末で一発なんだけど、この大陸では電波のアンテナがたった試しがない。
「無い、です……」
「弱ったな。我々も緊急の仕事があるし、すぐには救助に向かえない。ところで君は今から動けるのか?」
「私は、武器が……今、無くて……」
「なんてことだ! 予備の武器すら持っていないのか!? 君はハンターだろうに!」
「そ、それは……」
「リーダー、待って下さいッス。言い過ぎッスよ!」
「……悪かった。だが、これはマズイことになったぞ」
頭を抱えるリーダー。ルーキー君は私を連れて、加工屋の中に入った。
「ごめんッス、ルビーちゃん。リーダーに悪気はないんッスよ。仕事に関して厳しい人だし、昔何かあったみたいなんで」
「ううん……リーダーさんの言う通りだよ。私がハンターとして未熟なのは分かってる」
傍らでは、鉄を打つ音が何度も反響する。真っ赤な炎が、釜から吹き上がり、熱がこちらまで届いた。
「ルビーちゃんの武器、あれッスか?」
「うん……クレセント・ローズっていうの」
「あらら、直せないんッスか?」
「火竜の素材が足りないって……だから、ワイスやブレイクやお姉ちゃんは無理して行っちゃった」
「火竜……火竜、あっ、そうッス、俺、丁度火竜の素材持ってるッスよ!」
ゴソゴソとポーチから、火竜の鱗を取り出すと、「ほらっ、これを使うッス!」とルーキー君は言った。
「そんなっ、だってそれはあなたの……」
「いいからいいから! おやじさーん、ルビーちゃんの武器、こいつで直せるッスか?」
「ちょっと、待って! ルーキー君、どうしてそこまでしてくれるの?」
「カワイコちゃんが困ってたら助けなさいって、いつも母さんが行ってたッス。それに、仲間の所に行かなきゃいけないんじゃないんスか?」
「そ、それはそうだけど……ホントにいいの?」
「勿論ッス! ほら、おやじさん、どうッスか!?」
「こ、こいつぁ、逆鱗じゃねーか! こいつがありゃあ直ぐにいけるぜ!」
「やったッス! よかったッスねルビーちゃん! じゃあ、俺は色々忙しいから、もう行くッス。絶対、仲間を助けてくるんスよ!」
「……うん、うん! ありがとう、ルーキーさん!」
やっぱり彼、ジョーンに似てる。お人好しで、ちょっぴり情けなさそうだけど……最高にカッコいい。
ありがとう、本当にありがとう。
そこからの作業は流れる様だった。刃がだんだん打ち直され、柄が、部品が忠実に再現されていく。
そうして出来上がった部品を、私は組み立てていく。あの頃とはちょっと違うけど、私はこれで皆を助けたい。
私の想いを、一つ一つに込めて――最後に、紅い玉を柄に嵌め込んだ。
それは火竜の紅玉という、火竜の最高級の素材だった。紅玉、ルビー、奇しくも、私の名前と同じだった。
「出来た……」
「おおっ、こいつぁいい」
私は、完成した鎌を一振りした。軽い、自分の手足みたいに、まるで重さを感じない。
灼熱に染まる、湾曲した刃。赤を基調とした柄には、紅玉が光り、スイッチ一つでそれはスナイパーライフルへと変形する。
凄い……凄い、私の相棒が、帰って来たんだ。
「ありがとうございました!」
「いいってことよ。お嬢ちゃん、そいつの名前はどうすんだ?」
「うん、この子はルビー……クレセント・ルビー!」
私は、加工屋さんに頭をさげて、直ぐにお姉ちゃん達の後を追った。
新しい友達、クレセント・ルビーを携えて。