バカと中華小娘とお姉さん   作:村雪

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どうも村雪です!何か月も間を開けた上、新年の挨拶もせずに本当に申し訳ありませんでした!皆様あけましておめでとうございます!

 さて、長々と間を開けての投稿となるのですが、今回は前までとは別の話を挟ませていただきます。個人的な事情で全く話を進めることができず、いわば穴埋めのような作品となってしまいお待ちになって下さった皆様には申し訳ありませんが、一つ寛大な心で許してやってくださいませ!

それでは、何か月ぶりかになりますが………


――ごっゆくりお読みください。



絶対に怒らせてはいけない!バカたちの八雲家訪問編!
訪問―招待、されたからと言って勘違いするなっ!


「吉井明久。放課後職員室へ来い」

 

「えっ?」

 

 

 いつも通りの学校、いつも通りの授業。今日も無事一日が終わってこれからどうしようかと考えていた僕に、そんな言葉が飛びかかってきた。

 

 

「聞こえなかったのか。放課後私の元へ来いと言っているんだ」

 

「ど、どうしてですか?八雲先生」

 

 

 突然だった上に理由が分からなかったので、僕は命令してきた女先生――八雲藍先生にすぐさま尋ね返す。心なしかその目が授業中より冷たく見えるのは気のせいかな?

 

 

「貴様が知る必要はない。ただ私のもとへ来ればそれでいいんだ」

 

「呼び出されたらその理由を知る権利があると思いますよ!?ちゃんと説明をお願いします!」

 

「うるさい。いいか、絶対に私の所へ来るんだぞ。来なければ明日を過ごせると思うなよ(ガララ)」

 

「そこまで言われるだなんて僕はいったい何をしたのっ!?」

 

 

 もうそれは行っても行かなくても嫌な結果は変わらないんじゃないかな?そう不安を抱く僕を無視して、八雲先生は教室から出て行った。

 

 

「おいおい明久、今度はいったい何をやらかしたんだ?」

 

「や、八雲先生すっごく怒ってましたね。何かやったんですか明久君?」

 

「雄二、姫路さん。僕が一番それを知りたいよ……」

 

 

 近づいてきた悪友、坂本雄二とFクラスの可憐な花の1人、姫路瑞希さんに僕は力なく答える。姫路さんは当然だけど、今だけは雄二の好奇心の言葉にも慰められるなぁ~…

 

 

「しかし、八雲先生もどうしたのじゃろうな?いつもはあそこまで話が通じぬ人ではないのじゃが…」

 

「ですよね?八雲先生ってあんなに理不尽な方ではなかったと思うんですけど…」

 

「いや、秀吉、美鈴さん。八雲先生は意外と理不尽に怒る時があるよ」

 

「む?そうじゃったか?」

 

「ああ。おれも身を持って断言できるぞ」

 

「はえ~。知りませんでしたよ、ねえ秀吉君?」

 

「うむ。知らなかったのう美鈴」

 

 

 続いてやってきた男子(おんなのこ)の木下秀吉と、男子ばかりのクラスでもかなり身長が高い女子、紅美鈴(ホン メイリン)さんが八雲先生の新しい一面を知ったようで顔を見合わせた。

 

前までは紅って呼んでたのに、学園祭のころから秀吉は美鈴さんとよくおしゃべりしてる気がするなぁ。この前もムッツリーニが2人のツーショットをとらえて大売れだって言ってたっけ。

 

 

「で、アキはどうするのよ?藍先生の所へ行くの?」

 

「うん、美波。そうしないと怖いことになりそうだからね」

 

 

 かと言って先生のもとへ行くのも同じくらい怖いけども。ポニーテールがトレードマークの島田美波さんが心配そうな顔をする気持ちがよくわかる僕だった。

 

 

「まあ安心するんだぜ吉井。いざという時は私が骨を拾ってやるから成仏はできるさ」

 

「僕が心配してるのは成仏できるがどうかじゃないからね魔理沙?」

 

「………遺影はおれが準備しよう」

 

「だから僕がお陀仏すること前提で話を進めないでよ!?」

 

 

 冗談だろうけど全然笑えないことを言うイタズラ好きの霧雨魔理沙さんと、エロがすべてのムッツリーニこと土屋康太に僕は全力で訴えた。まだまだ花盛りの高校生だというのに、そんな切ないことを言わないでほしいもんだ。僕だってこれから花を咲かしていく予定なのだから。

 

 

「ん?何してんのよさみんな?」

 

「ああ、チルノか。今から明久が八雲藍先生と命がけの勝負をしに行くんだ」

 

「らんせんせーと?ふ……よしーったら自分のバカさも図らずにらんせんせーに挑もうだなんて、いつまでたってもダメなやつね~」

 

「今はバカさは関係ないよね!?それを言うなら力量でしょ!」

 

 

 そもそも挑むどころか逃げる気でいっぱいだというのに、やっぱりこのチルノ・メディスンという女の子はFクラスが誇る大おバカだ。

 

「……でも、実際に何かやったの?」

 

「う~ん、でも藤原さん。僕は心当たりがありすぎて見当がつかないよ」

 

「……どんな過ごし方をしてるんだ。アンタは」

 

 

 そして僕の偉業に感心してくれたのは(※していません)、新参者にしてウサギにも引けを取らない人見知りの美少女、藤原妹紅(ふじわらの もこう)さん。今日は珍しく特徴の白髪を結んでポニーテールにしてるんだけど、ふわっとした美波とは違ってストレートなポニーだからまた別の魅力があるね。

 

 

「ふ~……まあ、行ってくるよ。八雲先生のところに」

 

『グッドラック』

 

 

 どっちにしても動かないことには始まらない。僕は思い切り上げたくない腰を上げて、八雲先生がいるであろう職員室へと向かった。う~ん、この勇気を称えてちょっとだけでも優しくなってくれると嬉しいんだけどなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

「………くっ……!ちゃんと来たのか……っ!」

 

「八雲先生がそう思い切り脅したんですよね!?」

 

 

 なのにそんな嫌そうな顔をするのはおかしいでしょ!どうして優しくなるどころか手厳しい反応をされなきゃいけないの!?ねえ!

 

 

「……仕方ない。そこに座れ」

 

「あ、あの。僕が来ない方が良いのなら、このまま帰らせてもらえるとありがたいんですけど」

 

「この部屋が棺おけでいいんだな?」

 

「(ガチャン)先生の気が済むまで付き合いましょう」

 

 

 僕の未来はどうやら完全に握られてしまったようだ。抵抗する力を持たない僕は、素直に八雲先生の正面のいすへと座った。

 

 

「え………え~と。それで、僕になにか用事でも…?」

 

 

 そして恐る恐る気になっていたことを尋ねる。こうなったら少しでも八雲先生に従順になって撤退しよう。じゃないと僕の命が保証されないもの。

 

 

「……………………」

 

「いや、無言のまま重苦しい顔をされても僕には事情が分かりません先生」

 

 

 でも、この様子だと僕が何かをやったことを怒るとかそんなんじゃないようだ。ひとまずそこは一安心だけど、話ってじゃあなんの話なんだろう?

 

 

「………………………………」

 

「………………………………」

 

 

 知りたいけど、返ってくるのはまたまた沈黙ばかり。う~ん、聞こえてないってことは無いと思うけど、もう一度―――

 

 

 

「………土曜日(ボソッ)」

 

「え?」

 

 

 ど…………土葬日(どそうび)?もしかして僕の葬り方を告げられたのっ!?

 

 

「先生…………僕はまだ、土の中へ眠りにつきたくないです……!!」

 

「……何を突然言い出すんだ?」

 

「い、いやだって今『土葬日』って……」

 

「土葬…………たわけ。土曜日だ土曜日」

 

「ど、土曜日?」

 

 

 な、な~んだ良かった~~!!思いつかなかったけど本当に辞世の句まで考えちゃったよもー!

 

 

「土曜日がどうかしたんですか?」

 

「……………………」

 

「いや、だからそこで口を閉じられても……」

 

 

 そんなに言いづらいことなんだろうか。安定した鼓動がまた騒がしくなるのを感じながら僕は八雲先生の言葉を待った。

 

 

 

 

「…………今週の土曜日。貴様は時間が空いてるのか」

 

「へ?」

 

 

 そんな言葉が、しばらく無言だった先生の口から飛び出してきた。

 

 

「ど、土曜日だったらまあ大丈夫ですけど……」

 

「………むぅ」

 

 

 返って来たのは、可愛らしいけどすごく不機嫌そうなうなり声。ゲーム三昧の至福の一日を捨ててまでOKと言ったんだから、少しは褒めてほしいんだけどなぁ……

 

 

 

 

 

「―――ならばウチへ来い」

 

「……………はえっ?」

 

 

 んんっ?聞き間違えたかな。今『ウチへ来い』って…………家(ウチ)?

 

 

「そ、それって八雲先生の家……ですか?」

 

「そこ以外にどこへ招くというのだ」

 

「………………」

 

 

 何を当たり前のことを、みたいな顔をする八雲先生。い、いやいやいや!僕にとっては天変地異が起きたことにも匹敵する異常事態ですよ!?お招き!?すっごい美人でお子さんもいる既婚者の八雲藍先生から直々のお招きだなんて、始めてやって来た春がまさかの禁断の恋!?僕ってやつぁなんて憎いんだ!

 

 

「い、いいんですか?僕なんか呼んじゃって……」

 

 

 とは言え何かの勘違いの可能性がある、というかその可能性の方が高い。確認のため八雲先生に念を押してみた。

 

 

「…………ふん。構わん」

 

「!」

 

 

 八雲先生の言質も取れたっ!こ、これはもう僕も腹を括って、八雲先生とのご自宅デートを満喫するしか―――!

 

 

 

「橙のためなら、私は泥にまみれて血の涙も流そう」

 

 

 

…………………………あれ?

 

 

「先生」

 

「なんだ」

 

「今、橙(チェン)ちゃんって言いましたか?」

 

「言ったが、貴様がその名前を呼ぶんじゃない」

 

「……すみません」

 

 

 聞き間違えではないようだ。橙ちゃんというのは八雲先生の一人娘さんの名前で、その溺愛っぷりは怖いものを感じるぐらい。3回身を持って味わっている僕がその恐ろしさを保証しよう。

 

 でも、ここで橙ちゃんの名前を出すということは……

 

 

 

「ひょっとして、チェ…娘さんが何か言ったんですか?」

 

「……………っ!!(ギリギリ)」

 

「わ、分かりました!僕の予想が当たってたのが分かりましたから血が出るほど唇をかんで僕を睨まないでください!」

 

 

この血の涙も流しそうな気迫を見たら、地獄の鬼もはだしで逃げ出すこと間違いなしだ。

 

・・・でも、やっぱり僕の早とちりかー。そりゃ橙ちゃんを狙ってるって勘違いしてる先生が自宅にあげるわけないよね。それこそ、大切に思っている橙ちゃんが何か言わない限り。

 

 

「その……せ、先生が良かったら、何があったのか聞いてもいいですか?」

 

「……………つい昨日(さくじつ)のことだ」

 

 

 

 

 

 

『おかーしゃまおかーしゃま。私もお手伝いしていーい?』

 

『あら~ありがとう橙!でも大丈夫よ。私が全部準備するから橙はゆっくり待っててね~』

 

『でもでも、おかーしゃまばかり頑張ってて橙は何もしてないもん。橙も頑張って、おかーしゃまのお手伝いをしたいの!』

 

『……っ!ほんっとうに良い子ね橙~~!じゃあ、一緒に野菜の皮を剥きましょうね~♪』

 

『は~い!』

 

 

 

『学校はどうだった橙?何か嫌なことがあったかしら?』

 

『ん~ん!皆と休み時間遊んだりしてとっても楽しかった!あっ、ちゃんと勉強も頑張ったんだよ!算数のテストが満点だったの!』

 

『そっかそっか、偉いわね~♪これはご褒美に、橙のお願いを一つ叶えてあげなきゃいけないとね!』

 

『え?ほ、本当っ!?』

 

『もちろんよ橙!私は橙にウソなど絶対につかないわ!』

 

『やった~!おかーしゃまありがと~!』

 

『いいのいいの!さっ、どうする橙?おこづかい?お洋服?欲しいものがあったら遠慮なく言ってちょうだい!』

 

『えっと、えっと~~………あっ!』

 

『!思いついたのね!おかあしゃまに言ってくれるかしら?』

 

『……で、でも良いのかなぁ……』

 

『大丈夫よ橙!何でも聞いてあげるから遠慮なく言ってちょうだい!』

 

『ほ、本当?おかーしゃま怒らない?』

 

『怒るわけないじゃないっ!だから安心して言ってちょうだい橙!私はいつまでも橙の味方よ!』

 

『じゃ…じゃあ………えっとね?』

 

『うんうんっ。何かしら?』

 

『…………この前会ったお兄さんと、遊びたいなぁ……』

 

『…………………………………………うんっ?』

 

『この前おかーしゃまの学校に遊びに行ったときに会った優しいお兄さんなんだけど、また遊ぼうって言ってから全然会わなくて……』

 

『……………』

 

『だ、だからおかーしゃまが良いのなら、あのお兄さんに遊ぼうって言ってくれたら嬉しいなーって……』

 

『……………』

 

『…あう、ご、ごめんなさいっ!やっぱり先生が生徒に勝手なことを頼んじゃダメだよね。ごめんなさいおか―』

 

『だ、だ、だっ、だ駄目なものかっ!私に任せなさい橙っ!』

 

『ええっ!ほ、ほんと!?』

 

『……ほ、ほ、本当だとも!チェ、橙に嘘など私はつかない!』

 

『わ~!!ありがとうおかーしゃま!大好きーっ!』

 

『そ、そーかそーか。はっはっはっはっは……!』

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

「な、なるほど。それで僕をいやいや招こうと……」

 

「でなければ貴様のような、いたいけな少女をたぶらかす変態を橙に会わせるかぁあああっ!!(ドンッ!)」

 

「大粒の涙を流してますけどそろそろ泣きたいのは僕ですからねぇ!?(バシンッ!)」

 

 

 それぞれの悲しみで瞳を濡らしながら力いっぱい机を叩く僕たち。そんな趣味はないのに。僕が至って真面目な男子生徒ということをいつ分かってくれるのかな!?

 

 

「でも…『優しいお兄さん』ってなんだか照れるな~」

 

 

 そんなことを言われたのはここ最近じゃ初めてのことだ。厳格なお母さんとは違ってなんて優しい娘さんなのだろう。

 

 

「ふんっ!橙は人への気配りができる立派な子だからな!今生で最後の褒め言葉にせいぜい浮かれてるがいい!」

 

「生徒の未来を勝手に灰色で染めるなんて八雲先生はそれでも教師なの!?」

 

「教師である以上に橙の母だっ!貴様と橙のどちらが大事かなど吟味するまでもない!」

 

「それを言われたら何も言い返せないよ畜生!」

 

 

 それに対してこの刺々しい対応。確かに親子の愛情が大事なのはわかるけど、もう少し生徒のことも大切にしてほしいものだ。(※あなただけがこうであって、普段は常識溢れる八雲藍先生でございます)

 

 

「ま、まあともかく、そういうことだったら僕はぜんぜんオッケーですよ?」

 

 

 いろいろ言われたけれど、要するに橙ちゃんが遊ぼうって僕を誘ってくれてるらしい。純粋なお願いを断る理由もないから、僕は迷うことなく引き受けた。

 

 

「……っ!や、やはり駄目だっ!貴様を橙に会わせても百害しかない!」

 

「へっ?いやでも、先生から言い出したんですよ!?あとそんな存在が罪でしかないような言い方はやめてくださいっ!」

 

 

 でも八雲先生はどうしても嫌みたいで、最初とは真逆に自宅へ僕を上げることを拒みだした。絶対に生徒に言ったらまずい言葉まで使って、どれだけ危険人物と思われてるんだ僕は。

 

 

「えっと、じゃあ、行かない方が良いのなら僕行きませんけど……」

 

「それも駄目だっ!貴様は橙が悲しんでも良いというのか!?だったら実力行使に出るぞ!」

 

「行くも行かぬもふさがれて一体どうしろっていうのかなぁ!?」

 

 

 ちょっと怒ってしまった僕は絶対に悪くない。僕はまだまだ八雲先生という母親をナメていたようだ。

 

 

「……他にも連れてこい」

 

「は、はい?」

 

 

 そして、無謀にもメンチを切り合い、桁違いの剣幕にびびって詫びを入れようとしたところで、八雲先生が叫んだ。

 

 

「他にも誰か女子を連れてこい!でなければ絶対に貴様を敷居に上げず、それ相応の覚悟をしてもらうからなっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――なるほど。それで私たちが呼ばれたと」

 

「うん。じゃないと僕は橙ちゃんに会えないままひどい目に会っちゃうからね」

 

「も~。あんたはそんなのばっかりねアキ」

 

 

 当日。僕は来てくれた女子2人……、美鈴さんと美波と一緒に八雲藍先生の家へと向かっていた。最初は来てくれるか不安だったけど、こうしてオーケーをしてくれたから2人には感謝をしなくちゃいけないや。

 

 

「しかし吉井君。どうして瑞希さんではなく私を誘ったのですか?誘ってあげたら大喜びだったでしょうに」

 

「そう言えばそうねアキ……………ま、まぁライバルがいないことは嬉しいんだけど……(ゴニョゴニョ)」

 

 

 ん?美波の後半の声が聞き取れなかったけど………ひとまず美鈴さんの質問に答えよう。

 

 

「ほら、2人ってレミリアちゃんとか葉月ちゃんみたいな妹がいるでしょ?だから年の近い女の子とも仲良くできるんじゃないかなーって」

 

「あ~、そういうことですか」

 

「ウチ。美鈴もいる時から分かってたでしょ。アキがそのつもりで誘ったんじゃないって最初から分かってたじゃない……!(ゴスッ ゴスッ)」

 

「あ、あれ?なんかダメだった美波?」

 

 

 なぜか近くの電信柱に拳をぶつけ始める美波。ケガをする前に、電信柱を倒壊させないかが心配だ。

 

 

「ふ~、なんでもないわ。それより藍先生の家はこの辺なのアキ?」

 

「うん。確かこのあたりだと思うんだけど……」

 

 

 書いてもらった地図だともう見えてもおかしくないはず。えっと、一体どこにあるんだろう?

 

 

「おっ。あれじゃないですか?」

 

「あ、見つけた美鈴さん?」

 

 

 美鈴さんの近くに寄ると、確かに目の前に【八雲】と書かれた表札がかけられていた。あまりない苗字だし、ここで間違いないよね?

 

 

「へ~。ウチ、こういう家は初めて見るわ」

 

「確かに、私もここまで和風な家は初めてですかねー?」

 

「うん、僕も久しぶりだよ」

 

 

 その家は、今どきにしては珍しく木造建ての一軒家。2階がない代わりに面積がかなり広くて、少し視界からはみ出るくらいだ。なんだか田舎のおばあちゃんの家を思い出すな~。

 

 

「あ、ピンポンはここにありますね」

 

「じゃあアキ、ピンポンお願いね」

 

「うん、りょうかい」

 

 

 正しくはピンポンじゃなくてインターホンとか呼び鈴らしいけど、招かれた人が押すのは当然。僕はすこしだけ息を整えて、八雲宅の来宅の合図を鳴らした。

 

 

 

ピンポーン

 

 

『(プツッ) はい』

 

「あ、こんにちは八雲先生。Fクラスの吉井です。約束どおり――」

 

 

 ブツンッ 

 

 

「―来ました……のに無言で切るのはあんまりだっ!」

 

 

 妹紅さんみたいなクールな反応はやめてほしい!あれって本当に心に来るからイヤなんだよ!

 

 

「あらら。吉井君、なんだか嫌われちゃってますね」

 

「うん。美人の人に嫌われるってこたえるよ……」

 

「残念ねアキ。………ウ、ウ、ウチで良かったら、胸を貸してあげるわよ?」

 

「う~ん。気持ちは嬉しいけど、美波の胸で泣くとちょっと固くて居心地が悪そうな気が……」

 

「かっ…!?ひ、人の必死な誘惑になんてこというのよバカーっ!(ゴキン!)」

 

「ヘッドバットォォ!?」

 

 

 胸だけじゃなくて頭もしっかり鋼鉄の硬度のようだ。直撃した鼻から血が止めどなく溢れて来てるのがその証拠。

 

 

「あっ、こらこら!人様の家の前で暴れちゃダメですよ!」

 

「うるさい美鈴っ!エロカップのアンタにBカップのウチの悲しみが分かるわけないわよ!」

 

「ちょ、エ、エ、エエロカップってなんですか!?私の胸はやらしくありませんっ!」

 

「よく言うわよっ!ウ、ウチもこれぐらいおっきな胸があったら、アキを悩殺できたのに~…!」

 

「あいたたたたっ!?ちょ、ちょっと美波さん!触るなとは言いませんからもう少し優しく!もぎ取るように握っても胸は外れませ~んっ!」

 

 

 おまけに刺激の多い言葉と光景も届いてきて、僕の意識はもう限界寸前だ。君たちは僕を出血多量死させたいのかな?

 

 

 

 ガチャガチャ ガララ

 

 

「「「あっ」」」

 

「む……」

 

 

 あと少し……というか天国のおじいちゃんみたいな人がぼんやり見えてきたところで、八雲家の引き戸が開かれ藍先生が顔を出した。

 

 

ん?あれ、なんだろう。なんだか思ってたよりも表情が穏やかなような……

 

 

 

「よく来てくれたな2人とも。休日のところ申し訳ない」

 

「先生、嫌いな僕を数に加えたくない気持ちもあるでしょうけど、ここにいるのは3人です」

 

 

理由が分かった僕はすぐさま存在を主張した。ちゃんといるよね?いつの間にか姿が消えちゃったとかそんなのになってないよね僕!

 

 

「あ、いえいえ。丁度時間も空いてたのでお気になさらず」

 

「ウチも楽しみにしてたから大丈夫です」

 

「ありがとう。さあ上がってくれ。あの子もきっと喜んでくれるよ」

 

「では、お邪魔しますね」

 

「お邪魔しまーす。わっ、やっぱりキレーね~」

 

 

でも、八雲先生の反応は変わらないまま。2人を敷居に入れた先生はガラガラと玄関の戸を閉め始めて………

 

 

「――ってちょっとちょっと!?全員を入れたみたいなことをするにはあと1人足りないですよ先生っ!(ガシッ)」

 

 

 人の家ということを無視して僕は全力で扉にしがみつく!こ、ここまで来て入れてもらえず帰るなんて出来るもんかぁ!

 

 

「ええい黙れっ!私はどうしても貴様を橙に会わせたくないのだっ!」

 

「もうこれは橙ちゃんがどうこうではなく普通にヒドイと気づいてください!」

 

 

 うう…!冗談抜きで締め出されるのは本気でつらい!そろそろ涙がこぼれ落ちそうだからねっ!?

 

 

「メ、メ、美鈴さんっ!お願いだから八雲先生を止めて!」

 

「い、いやしかし、八雲先生のお宅なので部外者が勝手なことをするのは……」

 

「うっ。じゃあ美波!男みたいにたくましい美波だったら簡単に八雲先生を止められるよね!?」

 

「ウチも美鈴と同じだし、あんたがウチのことをどう思ってるかよ~く分かったわ」

 

「しまったつい本音が!」

 

 

 どうやら2人に期待は出来ないようだ。こうなったら仕方ない、頼れるのは僕だけ!

 

 

「(ぎりぎりぎり)先生……!ここは一つ大人になって、僕を快く招いてあげてください…!」

 

「(ぐぐぐ)ぬかせ…っ!橙を狙う輩を快く招くぐらいなら、私は喜んで外道となってそいつを嫌ってやるさ…!!」

 

 

 なんとか閉めるのを防ごうとするけど、八雲先生も僕を入れまいとかなりの力を込めて引き戸に手をかけている。こ、こうなったら上等だ!そっちがその気なら本気を出すまでだよっ!

 

僕は負けじと、さっきまでよりも強く八雲家の引き戸を引っ張った!

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?お姉さんたちは誰ですか?」

 

 

 

「「ん?」」 (美鈴さんと美波の声)

「っ!!?(パッ)」 (慌てた顔をして手を離す八雲先生)

「わわっ!?」 (抵抗が無くなって慌てる僕)

 

 

 ピシャアアンッ!

 

 

「ニャアッ!?」

 

 

 そこにやってきた突然の乱入者により、軍配は僕に上がった。よ、良かった!見たところ壊れたとかはなさそうだ!こんな高そうな扉を弁償することになってたらまた水道水生活をしてたところだよっ!

 

 

「あっ、ごめんね。ケガはないですか?」

 

「は、はいっ!ちょっと音にビックリしちゃっただけですから大丈夫です!」

 

「そっかそっか。それは良かったですよ~」

 

「ハロハロ~。ウチは美波っていうの。あなたが橙ちゃんかしら?」

 

「はい!私の名前は八雲橙です!」

 

「やっぱり。へ~、八雲先生とは髪の色が違うのねー」

 

 

 そう言う美波の言う通り、現れた少女――八雲橙(やくも ちぇん)ちゃんの髪の毛は混じりっ気のない金髪の藍先生の違って穏やかな茶色。お父さんの遺伝かな?

 

 

「ああ。この子の父親は黒髪で、遺伝的にな。大丈夫橙?ケガはしてない?」

 

「うん。大丈夫だよおかーしゃま!」

 

「そっか。ふ~良かった……」

 

「ですよ~。こんな幼い子にケガをさせちゃマズいですからね」

 

「まったく、アキったらあんなに力を込めなくってもいいじゃない」

 

「全くだ。仮にも人様の家というのに……」

 

「吉井君。あんまり乱暴なことをしちゃダメですよ?」

 

「ぼ、僕のせいなのは確かだけど八雲先生にも原因はあるよね!?しっかりそっち側にいて僕を睨んでるけれども!!」

 

 

 いつの間にかすっかり僕が悪者じゃんか!僕はただ頑張っただけなのに!男のメンツをかけて八雲先生に挑んだチャレンジャーなのにっ!

 

 

「あっ!お久しぶりです優しいお兄さん!元気にしていましたか?(たたっ)」

 

「う、うん。ちょっと今は涙が出そうだけど、全然元気だったよ」

 

「それは良かったです!」

 

 

 そう言ってニコッと笑う橙ちゃん。この優しさが今はすごくありがたいなぁ…!

 

 

「橙ちゃんの方こそ元気だったのかな?」

 

「はいっ!優しいお兄さんに会えてすっごく嬉しいです!」

 

「そ、そう?本当?」

 

「はいっ!」

 

 

……ど、どうしよう。小学生と分かってるはずなのに不覚にもドキッとしちゃったぞ。これが親御さんにバレたら間違いなく命がないから全力で隠さないと。

 

 

「え、え~っと。とにかく、誘ってくれてありがとう橙ちゃん。今日はよろしくね」

 

「こっちこそです!今日はよろしくお願いしますっ!」

 

 

こうして、半ば強引だったけれどそれほど嫌じゃなくなったお遊び会は始まった……んだけど。

 

 

 

「2人とも。すまないがもしも橙に危険が及んだら、即座に私を呼んでくれ。すぐにヤツを始末しよう」

 

「い、いや~。そんなことをする吉井君じゃないと思いますけど……まあ、その時は私がクラスメイトとしてきっちりケジメをつけさせますのでご安心を。橙ちゃんにはやましいこと一つさせません」

 

「オッケー。ウチもアキが変なことしないかしっかり見張ってます。瑞希達ならともかく、さすがに小学生はまずいもの」

 

「それは頼もしいな。改めてよろしく頼むよ2人とも」

 

 

 

果たして僕は無事にいられるのか……どうしても欲しかったその保証は、一切ない。

 

 




 お読みいただきありがとうございました!

 さて、お読みになられたように今回は久々の橙ちゃんと、その母親の藍せんせーが加わっての回でございます!藍せんせーの親バカっぷりはさすがですな~!

 そして前書きでも書きましたが、今回は短編回。本家でいう『〇、5巻』のようなものですね!短いですが、読んでくださった皆さんが一度でも笑ってくれれば感謝でございます!


 それではまた次回!今回のように長く間を開けないように頑張りますっ!
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