司波達也の日常 作:ネコ
男子のアイス・ピラーズ・ブレイクは、周囲から心配の声が上がったものの、そのような心配は無用とばかりに、第三高校の一条将輝が優勝を果たした。
十師族の力を誇示するように、膨大な魔法力にものを言わせて相手を圧倒する。
その姿に、観客は十師族の強さを再認識した。
女子のアイス・ピラーズ・ブレイクは、大方の予想を裏切り、第一高校の快進撃が繰り広げられていた。
勝ち進めているのは第一高校の二人。雫とエイミーである。
雫は、情報強化で自陣の氷柱の守りを固めた後に、振動魔法の応用による共振で、悠々と相手選手の氷柱を破壊していく。
対するエイミーは、先手必勝と言わんばかりに、相手選手の氷柱全体に横加重を掛けて倒し、倒すことの出来なかったものは早々に諦めて、完全に攻守を入れ換えて時間切れの作戦を取っている。1本でも多く倒せていれば完全に守りに入るスタイルだ。
雫と当たれば、少しずつ破壊されていく氷柱に絶望し、エイミーと当たれば、いつまでも破壊できない事に焦りを感じる。
中には先日までの不幸な事故を期待する者もいたが、起こる気配は全くなかった。
「良い形で進んでいるみたいだな」
「そうですね。ここまでは予定通りです」
「それにしても、大会委員に買収されたやつがいるとは驚いたな。言われなければ、全く分からなかった」
「既に大会委員の身辺調査が始まってるみたいですよ。公私ともに……」
「十師族の内、3つも相手取ってはそこまでいかざるを得ないだろうな」
「国としても、魔法協会所属である大会委員が、自国の魔法師を意図的に傷付けることは許容できないでしょう。九校戦に出場するような選手であればなおさらです。状況によっては、国家反逆罪として取り扱われるのではないかと思いますよ」
「まあ、自業自得だな」
「ほらほら、暗い話は止めにして応援するわよ!」
真由美が手を叩きながら、皆に視線を送り、意識の矛先を会場が映ったモニターに向ける。
そこには、準決勝で相手を圧倒している雫の姿があった。
その後、予定調和の如く、雫とエイミーは決勝戦へと駒を進める。
アイス・ピラーズ・ブレイクを一目見ようと、観客席は満員状態になり、通路には人が溢れていた。
その原因は、スピード・シューティングに続き、第一高校が再び決勝戦を行うからである。しかも、スピード・シューティングは新魔法を披露しているため、前回の競技を見ていた者は、今回も驚くようなことがあるかもしれないと、足を運んだのだった。
決勝戦まで、同校の生徒が勝ち進むことは喜ばしいことではあるのだが、そうも言ってられないのが、達也の立場である。
両者ともに、作戦の立案からCADの調整までを達也が手掛けているため、相手がどのような戦法をとってくるのか丸分かりであるため、どちらかを贔屓にするわけにはいかず、板挟みのような状態だった。
そのため達也が取った方法は、各自に合わせた作戦とCADの起動式の案を話した上で、そこからは完全に個別相談へと切り替えたのである。
最初の方法は知ってはいても、その後の経過を双方とも知ることがないまま、今回の九校戦に来ていた。
その二人は、今まさに勝負服に身を包んで、4メートルの高さにあるステージの上に立っている。
アイス・ピラーズ・ブレイクの競技は、ひとつの通例行事のようなものがある。それは、服装の自由だった。
各人、自分の一番気合いが入る服を着用しており、雫は着物を、エイミーは乗馬服を着ていた。
余談ではあるが、達也に言わせれば、動作の邪魔になりそうな物は、余計な思考を取られる分不利なのではと思っているものの、わざわざ本人に言うことで、やる気を低下させることはないと、その事には触れずに、黙々と調整していたりする。
ステージの二人は、相手の表情を見つめる。
試合開始の合図前ではあるが、既に試合は始まっていた。
相手がどこから狙ってくるか。それを相手の些細な行動から先読みし、対策を立てては次の一手を考える。
両者の距離は約24メートル。
自陣の範囲は、12メートル四方の中に立っている12本の氷柱のみ。勝負は、相手より先に全て倒すか、相手よりも多く自陣の氷柱が残れば勝ち。
短期戦になるか、はたまた長期戦になるかは、試合が始まってみなければわからない。観客は、競技が始まるのを今か今かと待ちわびていた。
スタートの合図を示す3つの信号の内、1つ目が点り二人の間に緊張が走る。フライングは失格となるため、絶対にできないが、コンマ数秒の世界で見極めようと、意識を極限まで集中する。
そして、二つ目が点り、相手の行動を推測して二人が動く。この時に、もう片方にとって全く予想だにしていなかった出来事に動揺し、3つ目が点った後、数瞬のタイムロスを発生させてしまう。
その予想を裏切る行為とは、CADを二つ同時に構えたことだった。
CADを二つ構えると言うことは、同時使用するということを示している。同時使用するには、平行して別々の事象に対する処理を行わなければならず、かなりの高難易度な技術であるため、高校生レベルで出来るものはほとんどいない。
しかも、これまでの競技で一切使われなかったことも、相手に衝撃を与える要因のひとつとなった。
(まさか、エイミーがCADの同時使用を使ってくるなんて……)
雫は意識を切り替え、予定通りに自陣の氷柱を情報強化で固めていく。
しかし、事象改変が完了するよりも、エイミーの攻撃は早かった。
4本が3列に並んでいる氷柱の1列目を、丸ごと雫の方へと飛ばしてきたのである。
その速度は、加重、加速、移動の3つから織りなされ、雫の氷柱へ襲い掛かった。
雫の1列目の氷柱は、その速度を多少緩める緩衝材にしかならず、2列目に至っては何も出来ないまま崩される。
そして、3列目は……。
観客は一瞬で起こった出来事に、静まり返っていたが、一旦流れが止まったことで大きな歓声を放ち始める。
雫の陣に残ったのは、僅かに2本。
それ以外は成す術なく倒されたが、逆に言うならば、その2本は倒れることはなかった。
雫は目標を絞ったことで、改変の速度を上げ、更に強度を増したのである。
エイミーは更に2列目の2本を使い攻撃を仕掛けたが、その氷柱は雫の事象改変力も合わさって、エイミーの攻撃を耐えきる。
それを見たエイミーは、攻撃を諦めて完全に守勢へ回った。
雫に勝つための手順は今のところ順調。
エイミーは自らの力では行き詰まり、達也に相談していたことを思い出す。
『司波くん、相談があるんだけど……』
『なんだ?』
『雫に勝つにはどうしたら良いか教えてほしい』
雫と一緒に訓練するようになり、アイス・ピラーズ・ブレイクで、完全に負けていたエイミーからの言葉に、達也は考えた末に、幾つかの問いかけをエイミーに行った。
その中には、聞き逃すことのできない事もあったが、詳しく聞くのが怖かったこともあり、その場で明確な答えは出さなかった。
しかし、エイミーの真剣な相談に、達也も意見を出し、対雫用の作戦で応える。
その作戦は、完全にエイミーへ対するものであり、この目論見が上手く行けば、雫を封殺できるような内容だった。
『これ! これでいきます!』
『かなりの練習が必要になる。コツは教えるから、自宅で練習を積むと良い』
『ありがとう! 司波くん!』
その作戦とは、最初に雫へ伝えられた攻撃手段の振動魔法による共振を、自らも振動魔法を使うことで防ぐというものだった。
ひとつのCADで、振動魔法を発生させ、もう片方のCADで、自陣の氷柱を守る。
CADの同時操作が出来るからこその芸当だった。
対する雫は、完全に自分の攻撃手段のひとつが潰されたことで、着物の袖に腕を通し、そこにしまわれていたCADを取り出す。
そして、それまでに使われなかった魔法を使う。
「フォノンメーザー!?」
雫のCADから放たれたメーザーは、エイミーの防御を上回り、氷柱を貫いていく。
しかしながら、貫いただけでは氷柱が倒れることもなく、雫はゆっくりと横へメーザーを動かしていった。
雫はフォノンメーザーに集中し、エイミーはその進行を遅らせようと、魔法力を注ぎ込む。
(このままだと最後まで持たない……)
時間は残り五分。
エイミーの魔法力が尽きるのが先か、氷柱が倒されるのが先か……。
迷ったのはわずかな時間。
エイミーは残り5本にまで減らされた氷柱の内、2本を使い、雫の氷柱へ攻撃を仕掛けた。
このままジリジリとやられるのを待つだけよりも、自分本来の持ち味を活かした攻撃を行なうという意思によるものだ。
「あ……」
最後は呆気なく終わりを迎えた。
完全に倒された氷柱に、再び静まり返っていた観客席は、拍手喝采のもと、立ち上がって両者を褒め称える。
勝ったのはエイミー。
フォノンメーザーを使用するのに意識を割いたため、情報強化に回す余力が雫にはなかったのである。
ただ立っているだけの氷柱に、エイミーの放った氷柱の弾丸が防げるはずもなく、呆気なく破壊された欠片を撒き散らしながら倒れていった。
その光景を見終わり、エイミーは笑顔を浮かべながら倒れる。
そこへ、他の誰よりも早く分かっていたように駆け寄った達也は、エイミーを抱き上げて、走り寄ってきた雫と共に医務室へと向かっていった。
「エイミーは大丈夫?」
「少し無理をしただけだ。寝ていれば治るだろう」
医務室に到着してベッドに寝かせると、真由美を始め、摩利や1年生女子が集まってくる。
達也は後のことを任せると、その場を離れた。
新人戦も残すところ2日。
明日がミラージ・バットで、新人戦最終日がモノリス・コードになる。
最初の想定から練り直された予定では、第三高校に25ポイントの差が出る計算だったが、蓋を開けてみれば、10ポイント差で第一高校が勝っていた。
第一高校の生徒たちは、今の勝利に喜んではいるものの、上に立つ克人や鈴音の表情が晴れることはない。
「今のままでは厳しいな」
「そうですね。後の2つの競技は、第三高校もあの二人を出してきますので、優勝は難しいでしょう」
「でも、ここまでこれたのは皆が頑張ったからなんだし、最後まで諦めずに応援しましょう」
真由美が話を締め括り、笑顔で場を盛り上げようとしたところで、達也が口を出す。
「ほのかについてですが、勝率を変更させてもらいます」
「どういうことですか?」
達也はデータを鈴音に送り、自身もそのデータを表示させる。
「先ほど本人から使用する旨の連絡が入りました。それを使用すれば、ほのかの特性を考慮しなくとも、勝率は飛躍的に上がるはずです」
「これは……」
「まあ、今のほのかでは自由自在に使えるわけではないので、要所要所にはなりますが、十分に勝てるはずです」
「…………」
誰も達也の提示したデータに対して意見を述べることができない。
それほど信じられない事が目の前で行われようとしていた。
「俺の話は以上です」
「───作戦参謀として承諾します」
「鈴ちゃん!?」
「これは、数ヵ月前に公表されたばかりのはずだが……」
「問題ありません。練習でも十分な成果は出ています」
達也は摩利の言葉に即答すると、視線を鈴音に移す。
鈴音は達也に頷いて見せると、再び興味津々といったていで、達也から渡されたデータに釘付けとなる。
表示されているのは、数ヵ月前にトーラス・シルバーが発表した飛行デバイスに記述されている起動式と、その効果。
起動式が分かったとしても、現在使用しているハードに合わせなければならず、更に調整を加えるとなると、高校生が出来るようなものではない。それどころか、一般の魔工師ですら手を焼く行為だ。
それをわずかな時間でやり遂げる達也を、真由美たちは畏敬の念を抱かずにはいられなかった。
その日の夜。
夕食を終えて部屋に戻っていった達也は、部屋の前に佇む人影に目をやる。
そこには、申し訳なさそうに立ち尽くす亜夜子と深雪が立っていた。
「何か用か?」
「お手間は取らせません」
達也の無愛想な言葉に、亜夜子は深雪の後ろで頭を下げ、深雪は姿勢を正し達也に向き直る。
「先日はこちらの依頼を受けていただきありがとうございます」
「依頼だから受けたにすぎない。損得勘定で動いたにすぎないから気にするな」
「受けていただいたのは事実です」
「昔から真面目だな……」
深雪は礼を言い終えると、別の話題を切り出した。
「残りの競技で、担当される選手はどなたになりますか?」
「突然だな……」
「世間話として捉えていただいて構いません。何分久しく会ってなかったのですから、どういったことをしているのか興味があるだけです」
「対抗心を燃やすのは良いが、ほどほどにしといた方がいいぞ」
「それはどう言うことです?」
「分からないなら良いさ」
達也の意味深な言葉に、深雪は眉根を寄せて訝しむ。
昔から、深雪は達也に対してよく絡んでいた。理由は深雪自身よくわかっていない。兄妹以上の何か見えない力でそうなるように仕組まれていると思えるほどだ。
「はあ……。もういいです」
聞いても誤魔化されると感じた深雪は、問うのを諦めた。
達也はそれに答えることは無かったが、代わりに最初の質問に答える。
「俺が担当するのは、ミラージ・バットの新人戦では光井、本戦では渡辺先輩になる」
「光井……」
「聞いたところで、どうすることもできないとは思うが……」
「私が負けるとでも?」
「何事もやってみなければ分からんさ。勝負は時の運ともいうしな」
達也の言葉に納得できないものの、担当選手の名前を聞けたため、それ以上は深く聞かずに深雪は引き下がる。
「では、この辺りで失礼します」
達也は亜夜子と共に立ち去っていく深雪を見送ると、部屋の中へと入っていった。
新人戦、ミラージ・バット当日。
達也は選手控え室にて、CADの調整も終わったことから、ほのかの話し相手になっていた。
ほのかの体調は、昨日に睡眠をしっかり取ったこともありすこぶるよい。後は精神的なケアさえ出来れば、不安材料は無くなるといってもいい。
そのための話し相手だった。
「そろそろ時間だな」
「達也さん!」
「どうかしたか?」
「大会が終わった後のことなんですけど───」
ほのかが言い掛けたところで、競技開始を知らせるブザーが鳴り響く。
ほのかは言いかけた言葉を飲み込み、CADを握り締めた。
「競技が終わってから言いますね!」
「ああ。今はミラージ・バットに集中するようにな」
「はい! では行ってきます!」
ほのかは軽い足取りで選手控え室を出ていく。
達也はその後ろ姿を見送り、選手がよく見える位置に移動する。
プールの中に設置された円柱に、各校の選手は上空を睨み付けて身構えた。片手には出現した光球を叩くためのステッキを持ち、もう片方の手は、いつでも魔法を起動できるようCADに添えられている。
競技開始の合図と共に、選手は腰を落とし、上空に現れる光球を見逃すまいと、目を見開いた。
最初に足場から飛んだのはほのか。
飛んだ先には何もなかったが、ほのか近づくにつれて光球が形を成し始める。
それを余裕を持って、ステッキを使い打ち消していく。他の選手は、ほのかが間に合うことのなかった光球に狙いを定めるしかなく、その差はあっという間に開いていった。
認識できる前に飛び上がられ、認識した頃には間に合わない。
他の選手からすれば、何か不正をしているとしか見えないが、誰も気付くことはできなかった。
不正などしていないので当然ではあるが……。
「達也さん! 勝てましたーー!!」
「お疲れさま」
抱きつきそうな勢いで駆け寄ってくるほのかに、達也は笑みを見せながら出迎える。
それでも、興奮止まぬ状況で、ほのかは達也に駆け寄った速度のまま抱き着いた。
「上手くいきました! 作戦通りです!」
「それは、よかった、な……」
「はい! これも全て達也さんのお陰です!」
「そうか……」
抱き着いたまま、上目遣いで達也を見つめてくるほのかに、達也は頬を掻いて、自分の心境を知られないようにほのかから視線を逸らす。
ミラージ・バットは別名フェアリー・ダンスとも呼ばれており、水上を選手が妖精のように飛び回っている姿が、まるでダンスを踊っているように見えることからついている。
着ている服もそれを助長するような、神秘性を纏ったものであるため、あまり多くを着飾っているわけではない。そのため、肌の露出は少ないものの、身体の線がハッキリと出ており、抱き着かれるとその感触がダイレクトに伝わってくる。
ほのかは、そのようなことを気にせずに自分の胸を押し当てたまま、話し続けた。
極短い時間であれば、一時の気の迷いと言うべき興奮状態と言えるが、ずっととなれば話は変わってくる。
達也も、周囲の視線をいやというほど感じ始め、迷いを振り切るようにほのかの両肩に手を置いた。
「まだ予選を通過しただけだ。目標はもっと上だろう?」
「あっ……。そうですね。達也さんの言われる通りです。最後まで気を緩めずに頑張ります!」
ほのかは、達也の意図を知らずに、応援されていると考え、胸の前で手を組み瞳を潤ませながら、決心を告げる。
端から見れば、告白しているように見える姿を、周囲は息を飲んで見守っていた。
2試合目も、ほのかは順調に勝ち進み、決勝を迎える。
決勝の相手にいるのは、第三高校の深雪。それ以外にも同じ第一高校の生徒が勝ち上がってきていた。
「決勝か……。真由美はどう見る?」
「そうね……。やはり、達也くんの妹が一番の脅威でしょうけど、光井さんはまだあれを使っていないし……」
「光井が優勢ということだな」
「実際に、あれが使えるのであれば、光井さんの勝ちが揺らぐことはありません。後は光球の出現ポイント次第ですね」
鈴音が補足を加える。その手には、達也から貰ったデータを表示したデバイスが握られていた。
通常時の勝率は、これまでのデータを反映した結果40%。
予想以上に下がってしまったが、達也の用意した作戦とCADは、それを簡単に覆す。
───勝率95%
ほのかの体調が悪かったり、ミスをしなければどんな相手であろうと勝てる計算だ。
元々のほのかの特性として、光波振動系魔法を得意としており、特に光波には敏感に反応する。
そのため、ミラージ・バットのように光波を打ち消すような競技では、他の選手よりも先に出現位置を察知することが出来るため、その地点に向けて先に飛び立つことが出来るのだった。
しかも、そこに達也の調整したCADが加わったとなれば、まさに、鬼に金棒のような状態なのである。
決勝の合図後、ほのかが空中に飛び上がり、他の選手が円柱に立ったままであることから、予選と同じ光景を幻視していた観客たちは、その後の結果に驚きを見せた。
第三高校の選手が、ほのかが飛び上がってからかなりのタイムラグで飛び上がったにも関わらず、ほのかよりも先に光球を打ち消したのである。
他の選手はほとんど何もできないまま、時間だけは過ぎていく。
同じ第一高校の選手である里見スバルだけは、冷静に二人から離れた光球でポイントを稼いでいった。
元々ほのかと競い合っていたため、ほのかが狙う光球以外を狙うようになっていたことが、今回は幸をそうした形になったと言える。
大差でほのかが勝つと思っていた大衆は、第一クォーターが終わった段階で、大盛り上がりを見せていた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「よく頑張ったな」
「ふぅ……。やっぱり予選でも見てましたけど、第三高校の深雪さんは凄いですね」
「そうだな。魔法力にものをいわせて、力業でこちらを追い詰めてくるとは思っていなかった。あれだけ無駄の多い起動式でよくやるものだ」
「そうですね。勿体なく感じてしまいます。達也さんが深雪さんについていたら絶対に勝てないところです」
「そんなあり得ないことは気にしなくていい。それよりも……いけそうか?」
「はい。次から少しずつ使っていきます」
「まあ、無理はしないようにな。このまま続けても2位は確実なんだ。無理をする必要はない」
「任せてください! 達也さんに恥は掻かせません!」
「いや。俺のことはいいから……」
聞く耳持たずとは言ったもので、ほのかは深雪がいる選手控え室を睨み付けると、闘志を燃やしやる気をみなぎらせていった。
第二、第三クォーターも終わり、次が最後の第四クォーター。
ほのかの動きに不審を覚えたものは数多く、皆首を傾けて近くにいるものと語り出す。
観客はそれでよいが、当事者はそうもいかない。
「あれはなんだ!? 明らかに上空を移動したぞ!?」
「きっと、重複起動しているんだろ。だから、すぐに下へ降りてきてたじゃないか」
「あんなに自由に動いてからの着地は有り得ないんだよ! 3・4回連続起動すれば失速していく上に、それ以降は魔法が発動しない事もあり得るんだ! しかし、この画像では明らかに7回以上は使ってないとおかしい計算になる!」
画像を見ながら言い合いを続けるエンジニアに、疲れたような表情を見せず、食い入るように見つめていた深雪が発言する。
「おそらくは飛行魔法を入れているのでしょう。もしくは改良型かもしれませんが」
「はっ!?」
「飛行魔法ってついこの前発表されたあれか?」
「この短期間では無理だろ……」
「でもそれなら説明はつく……」
深雪の言葉に、それまで選択肢にも入っていなかったことが浮き彫りになる。
深雪としては、飛行魔法を使ってくるかもしれないと考えていたため、序盤から積極的にポイントを稼ぎにいっていたので、それほどのショックはなかったが、他の第三高校の生徒たちは違った。
呆気に取られたような表情で、モニターを見つめる。
そのモニターは、普通の人では知覚できない想子を捉えることができ、その流れを見ることができる。
対戦相手であるほのかの魔法からは、極小の想子しか使われていないのに対し、深雪の方は莫大な想子を使用している。
深雪ではなく、他の生徒であれば1試合目で終わっていた。それほどの魔法力を行使して、少し疲れた表情を見せるだけの深雪に、尊敬と畏怖が向けられる。
「まだ負けた訳じゃない。第一クォーターのポイントがきいてるわ」
ポイント差は追いつかれつつあるものの、未だにリードしている。その事実を再認識し、期待の目を深雪に向けた。
「私はまだいけますよ」
「これ以上は深雪には不要かもしれないけど……頑張ってね!!」
「ええ。皆さんのご期待に応えられるよう頑張ります」
不安を感じるものが多かったが、深雪ならば何とかしてくれると考えてしまうものが大半であり、深雪の後ろ姿へ、力を送り込むように拳を握り締めて、第三高校の生徒たちは見送った。