司波達也の日常   作:ネコ

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第12話

 ミラージ・バット決勝戦。

 残っているのは6名の選手のみ。

 9名の内3名は、これまでの試合で魔法力不足により脱落していった。

 残った選手についても、半分以上が疲労困憊のような状況である。

 それも仕方のないことではあった。圧倒的な強さの2人がいる中で、残った光球の奪い合いになっているのだ。しかも限られた範囲であるが故に、その運動量と集中力は、必然と高いものが要求される。

 ほのかは、最後の試合だからと、全力で光球を追い続ける。足場にはほとんど戻らず、空を駆けるように飛び回っていた。

 対する深雪は、ほのかの行く手に先回りし、膨大な魔法力にものをいわせて、ひたすらに上空へのジャンプを繰り返す。こちらについても、ほとんど地に足をつけていない。

 勝負の行方は、時間と運。そして自らの集中力に懸かっている。

 一時も緩めることなく動き続ける2人に、観客は固唾を飲んで、黙って見守ることしかできなかった。

 

 ───ビーーーーー

 

 電子音が鳴ると同時に、それまで現れていた光球は消え去り、競技の時間は終わりを迎える。

 選手たちは息も絶え絶えの状態になり、円柱の上に座り込んだり、寝転がったりしている。

 ほのかは地に手を着けて、深雪は意地なのか地に手をつけることなく、膝に手を着けて勝者が記される掲示板に目を向ける。

 そして、表示された文字を見て目を見開いた。

 記された文字はまさかの2名分。

 ほのかと深雪の名前がそこには表示されている。

 これには観客も困惑の色を隠せなかった。

 

『ただいまのミラージ・バットの得点は、トップ2名が同数となりました。2名については、同じ高校ではないため、大会規定に基づき、30分後、再度時間を短縮して競技を行います。繰り返します───』

 

 アナウンスが告げるのは、同点と言うもの。

 しかも30分後に試合となれば、ほとんど休む時間もない。

 最終的な勝利がどちらに転ぶかを予想したときに、2人の現状を見てみるとよく分かる。

 ほのかが立つことが出来ないのに対し、深雪は声が掛けられた方へ向けて手を振っているのだ。どちらが余力を残しているかなど一目瞭然だった。

 各校のスタッフが、選手に付き添って控え室に戻っていく。

 達也も他の選手に習ってほのかの元へ歩いていく。

 

「よく頑張ったな」

「すい、ま、せん」

 

 目元を腕で隠し、震える声で答えるほのかに、達也は近付き横に片膝をつく。

 ほのかの状態は誰が見ても分かる通り、魔法力がほとんど無いと言ってもよい状態だった。体力についても同様で、マッサージを施したところで焼け石に水なのは分かりきっている。

 

「取り敢えず今はゆっくり休むといい」

 

 達也は選手控え室へほのかを連れていくと、簡易ベッドに寝かせると、安心させるように額へ手を置く。ほのかはゆっくりと目を瞑り、仮眠を取り始めた。

 もう1台のベッドには、ほのかと同様にスバルがベッドへ横になっている。

 

「光井さんの状態はどうですか?」

「思わしくはないです」

 

 小さな声で話し掛けてきたのは、スバルのCADを担当している梓だった。

 梓は心配そうにほのかを見ている。

 

「そうですか……」

 

 本当は決勝に出場するかどうかを確認したいようだったが、それはさすがに憚られたのだろう。特にそれ以上何も言わずに、スバルの横に戻る。

 その10数分後。

 今度は真由美と鈴音が選手控え室へ入ってきた。

 

「達也くん。光井さんの具合はどう?」

「本人に確認した方がいいでしょう」

 

 達也は額に翳していた手を退けると、その手でほのかを揺さぶり優しく起こす。

 

「ほのか、起きろ」

 

 達也の呼び掛けに、ほのかは目を擦りながら起き上がる。

 

「達也さんが、何で私の部屋に? これは夢?」

 

 ほのかは達也の手を取り、抱き締めて感触を確かめる。その光景を見て、真由美が茶化すように、鈴音は冷めた目線で声を掛けた。

 

「ん~元気そうね?」

「貴方たちも、あのバカップルと同じようなことをする気ですか?」

 

 その声に気付いていないほのかを正気に戻すため、達也は抱き抱えられた手でほのかの頬を掴む。

 

「ほのか。そろそろ起きろ」

「ふぇ!?」

 

 いきなり掴まれた事に驚き、ほのかは飛び上がるようにして起き上がると、顔を激しく左右に動かし、今の状況の確認を始める。

 

「ここは……」

「選手控え室だ」

「光井さん大丈夫?」

「はい! 大丈夫です!」

「あと数分後に試合があるけど、光井さんはどうしたい?」

「今大会については総合優勝は決まっていますので、無理に出場する必要はありません」

「やります! やらせてください!」

 

 ほのかの叫びに、真由美と鈴音は困ったような表情で達也に目線で問う。達也は、その視線に頷いて見せるとその場に立ち上がった。

 

「ではお願いね」

「司波くん。くれぐれも無理はさせないように」

 

 真由美と鈴音は、控え室を出ていく。それを見送った達也は、ほのかを立ち上がらせた。

 

「さて、残り数分しかない。CADの調整をしよう」

「はい!」

 

 それまでの間、近くにいた梓は顔を真っ赤にして動けずにいた。それと言うのも、達也がほのかを立ち上がらせた距離が近すぎたことから、梓の方から見ると、二人が重なって見えたためだ。それは抱き合っているようにも見え、男女の経験のない梓にとっては刺激が強すぎた。

 そんな事はお構いなしに、達也はほのかを調整機器に連れていく。

 しばらくの間、梓は顔を伏せてその場から動くことができなかった。

 

 ミラージ・バットの舞台には、2人の選手が立っている。

 1人はほのか。もう1人は深雪。

 二人に対して力を注ぐように、それぞれの高校や関係者が応援している。

 そうして始まった競技は、皆の想像を越えるものとなった。

 まさに独壇場と言っても差し支えない。それほどの差がそこには存在していた。

 皆の目に映るのは、空中を飛び回るほのかの姿。

 時折、視界に深雪の姿が映るが、それもすぐに映らなくなり、ほのかだけが得点を重ねていく。

 達也の目には、2人の状態が鮮明に映っていた。

 魔法力が満ちているほのかと、前の試合で出し切った深雪。

 達也としても、深雪があそこまでなりふり構わずに追いすがってくるとは思っていなかっただけに、この第5試合は想定していなかった。

 だからこそ、不安材料を全て無くしたのだが、逆にそれが目立ってしまっている。

 

(やりすぎだったかもしれないな)

 

 達也は反省しつつも、試合の行く末を黙って見ていた。

 

 勝敗は誰の目にも明らかだった通り、ほのかの勝利で終わる。

 試合が終わった後の深雪は、顔が真っ青になりつつも、その表情から笑顔が尽きることはなかった。

 魔法力がほぼ枯渇した中で、得点できたことは誉めるべきだろうが、達也は第三高校の生徒でもない。

 その日の第一高校の夕食は、多いに盛り上がった。

 

 その後、夕食が終わると、達也たち作戦本部の人間は、新人戦最終日に向けてのミーティングを行っていた。

 

「ここまでの得点差は25点。最後のスバルさんが獲得した点数がきいています」

「つまり、明日のモノリスで2位以内に着けることが出来ればいいわけだな?」

「はい」

「森崎か……」

「いけそうですか?」

「入賞はするだろうが、本番でどれだけ動けるかで変わってくるだろうな」

「勝率通りと言うことか」

 

 達也たちの前には、グラフが表示されており、各順位になる確率が表示されている。

 ステージによりその勝率は変わってくるが、あるチームに当たったときのみ、同じ確率になった。

 それは第三高校のチーム。

 勝率は、0が幾つか並んだ後に、気持ち程度につけられた1が表示されている。

 つまるところ、勝てる見込みが全く無いことを示していた。

 

「後は祈るしかありませんね」

「新人戦も優勝できたら最高だけど、流石にそこまでいくと欲張りすぎかもね」

「まあ、なるようにしかならんさ」

 

 達也は静かにデータの打ち込みを行い、克人は目を瞑り考え込む。その場の主導権は、完全に女性陣が握っていた。

 

 ミーティングはあっさりと終わり、部屋に戻っていると、呼び出し用の振動が胸を叩く。

 達也は胸のポケットから携帯を取り出して相手を見ると、部屋に向かっていた足を止め、元来た道を戻り始める。

 達也が向かった先はホテルの娯楽施設。

 そこでは浴衣に着替えたエリカたちがエアホッケーで白熱した試合をしていた。

 

「貰った!」

「っ!?」

 

 幹比古の手を潜り抜けて、ゴールへと打ち込まれる。

 

「やりぃ!」

「くっ!!」

「エリカちゃん上手ですねぇ」

「よっしゃー!! 幹比古の敵は俺が取ってやるぜ!」

「任せるよ……」

 

 丁度入れ替わりのタイミングであったため、自分達に近付いてくる達也に気が付く。

 

「おお、来たか! 後で俺とやろうぜ!」

「私が勝つからそれは無理な話ね!」

「言ってろ!」

 

 達也は競技台の横に置かれた長椅子に座っている幹比古の隣に腰を降ろす。

 

「珍しいな吉田がこういったことに加わるなんて」

「エリカに言われなければ来なかったよ……」

「尻に敷かれているのか?」

「幼馴染みなだけだ。腐れ縁とも言うけど……」

 

 幹比古は溜め息混じりに話すと、視線を足元に向ける。

 

「まあ、エリカが幼馴染みだと苦労しそうだな」

「分かるかい?」

「まあ、な……」

 

 達也の視線は、エアホッケーの台へと向けられる。丁度そこでは、エリカのスマッシュが決まり、レオに二倍以上の点差をつけて、エリカが勝利をおさめたところだった。エリカはガッツポーズをすると、挑戦的な目を達也に向ける。

 

「次は達也くんよ! さっきから私の事をコソコソと言ってたのは聞こえてたんだからね! こてんぱんにのしてあげるわ!」

「お手柔らかに頼む」

「徹底的に勝ってから考えてあげるわ」

「達也気いつけろ! そいつはサイボーグかなんかでできてんぞ!」

「それは気を付けないとな。体力勝負になれば勝てそうにない」

「レオ! あんた覚えてなさいよ!」

「おお、こわ!!」

 

 エリカの言葉に、レオはわざと団扇で顔を隠して見せる。エリカは達也の手元にある円盤から目を話さずに、レオを威嚇した。

 達也は、エリカの意識がレオに向いた瞬間を狙い、素早く動かす。一瞬で決まったゴールに、身動きができなかったエリカは驚いたものの表情を引き締めて、手元に排出された円盤を止めて達也に問い質す。

 

「今のはどうやったの?」

「その作戦には乗れないな」

「ふーん。答える気はないってこと……」

 

 喋り終わるよりも早く、エリカは円盤を達也に向けて打ち込むが、達也はガードした上で、その速度を利用し打ち返す。

 エリカは更に加速されたその円盤を防ぐが、円盤は達也の元に流れてしまった。

 

「簡単なクラウド・ボールのようなものだな」

「そんな余裕の態度でいれるのは今の内だけよ」

 

 話しながらも意識を切るようなことはせず、円盤に集中させる。達也はそれを利用し、片手で円盤との視界を遮った瞬間に打ち込んだ。

 一瞬遅れてエリカは反応するが、それでも僅かに遅れたことで、ゴールを割られてしまう。

 

「達也くん、なんかズルくない?」

「言い訳は俺が勝った後に聞く」

「そう簡単に勝たせない!」

 

 何度か円盤が宙に舞ったものの、スコア表示は11対3で達也がエリカを下した。

 

「次は俺だな!」

「次は美月の番でしょ!」

「おっと、そうだった」

「お手柔らかにお願いします」

 

 特に特別なことがあるわけでもないが、ここ連日の忙しさから解放されたようで、達也の表情は明るいものへと変わっていった。

 

 

 

 新人戦最終日。

 男子のモノリスコードでは、予想通りの結末と言うべき事象が発生していた。

 それは、第三高校のチームである。

 相手チームのメンバーを再起不能にすることで、呆気なく勝利を掴んでいく。もちろん他校の生徒も応戦してはいるのだが、それは試合が終わるまでの時間を伸ばしているにすぎなかった。

 最後まで粘ったのは第一高校のチームであり、特に森崎は、ボディーガード家業をやっているせいもあるのだろうが、護衛対象であるモノリスの前に立ちはだかり、一条と撃ち合いまで行っている。

 対する一条は、モノリスなど気にも止めず、標的のみを狙っており、森崎はなす術なく、身体を地に押さえつけられた。

 この時の戦闘が尾を引いて、第一高校の成績は3位に、第三高校は予定通りの1位となって、新人戦の優勝は第三高校のものとなる。

 

「みんなお疲れさま! 九高戦の残り2日も張り切っていきましょう!」

 

 新人戦の敗けを抱え込んでいたため、暗い雰囲気になっていた空気を一変させて真由美が乾杯の音頭を取る。

 しかし、自分の責任であると思い込んでいる生徒には、あまり効果が無いようで、暗い表情のまま夕食に参加していた。

 

 明日からの本戦のために、出場選手とエンジニアは早々に切り上げて、調整のために移動する。

 達也も例に漏れず、摩利と共に明日の調整のため部屋を移動していた。そこで、摩利の携帯が鳴る。

 

「司波。すまないが先に行っててくれ」

「分かりました」

 

 摩利は携帯の画面を見るや、その表情を緩め、ロビーの方へ向けて駆けていく。

 達也は摩利を見送ることなく、そのまま踵を返して進んでいった。

 

「達也くん、もう準備終わったの?」

「いや。終わってはいないんだが、少し暇してたところだ」

「じゃあ、ラウンジで話さない? 丁度私も暇してたし」

「ラウンジよりも、最上階にあるバーにいかないか?」

「───私を酔わせてどうする気?」

「流石に、高校生に酒は出さないさ。あそこならゆっくりできそうだしな」

「確かに、達也くんかなりの有名人になっちゃったからね」

「成りたくてなった訳じゃないんだが……」

「エンジニアだけじゃなくて、お姫様抱っこなんかするからよ。自業自得ね」

「短い距離を運ぶのには、あの方が楽だからなんだが……」

 

 達也はエンジニアとして、他校にも響き渡るほどの知名度に達していた。新魔法の開発に、起動式の効率化。そして、高等魔法の起動式の調整。さらには最新技術のオンパレード。有名にならない方がおかしいと言えるだろう。

 また、エンジニアとしてだけではなく、サポートスタッフとしても優秀ともなれば、要注意人物として他校に顔が知られるのも無理はなかった。

 

「言い訳はみっともないわよ。さっさと最上階にエスコートしてよね」

「了解しました、お嬢様」

「う!?」

 

 達也の口から紡がれた聞きなれない言葉に、エリカは背筋を仰け反らせ、耳を塞いで駆け出す。

 達也は笑いながらその後に続いた。

 

 

 

 結局、前日に摩利から呼び出されることもなく、寧ろ上機嫌な摩利と選手控え室で会う。

 

「今日は負ける気がしないな」

「それは良かった」

「なんだ? 昨日の事を怒っているのか? それならば謝っただろう?」

「特に怒ってなどいませんよ。測定結果としても問題なく、本人の調子も良いとなれば、こちらから言うべきことはありません」

「分かってるじゃないか! まあ、こっちには勝利の女神がいるんだ。大船に乗ったつもりでいてくれ」

「凡ミスだけしなければ、先輩に勝てる人はいません」

「任せろ!」

 

 摩利は自信満々に控え室を出ていく。

 達也は溜め息を吐きながら、摩利の様子だけではなく、他の選手の状態も把握していく。

 他の選手についても、この試合に向けて調整してきたのだろう。体調不良と思われる生徒はおらず、魔法力に関しても十分だと言える。

 しかし、相手が悪い。

 何故ならば───。

 

『オオーーー!!!』

 

 そこは摩利の独壇場だった。

 とは言っても、ほのかの時のように自由自在に飛び回っているわけではない。ただ、空中を蹴って、次の標的へ駆けているだけだ。

 その移動速度に他の選手はついていけず、呆然と見守ることしかできない。

 まるで上空に足場があるような錯覚に、その光景を見ている者は陥っていた。

 

「いやー。爽快だったな」

 

 試合を終えた摩利の第一声はそれだった。

 摩利は僅かに汗を滲ませているものの、その表情は、まだまだ余裕があることを物語っている。

 

「まだ第一試合が終わったところです」

「分かっているさ。しかし、負けることなどあり得んだろ? これで負けたら選手として失格だな」

 

 摩利は上機嫌にストレッチをこなし、疲れを解していく。

 点差は、大人と子供の試合と思えるほど開いており、新人戦では深雪がいたため、感じることはそれほどなかったが、バトル・ボードの服部の時を思い起こさせるには十分であると言えた。

 苦手意識を刷り込んだ相手に、絶好調の摩利が負けるはずもなく、最後の決勝で少し苦戦したものの、無事に優勝を果たした。

 

「おめでとう、摩利」

「いやー。ここまで綺麗に勝てると気持ちがいいな」

「そうでしょうね。まあ、摩利は昨日の逢い引きで調子がよかったとも言えるけど」

「ナ、ナ、ナンノコトダ!?」

 

 真由美からの爆弾発言で、摩利は動揺し、他の生徒は興味津々にその話しに食いついた。

 明日のモノリス・コードは、勝利が確定しているだけに、はめを外す者も見受けられる。

 それは最後の夕食ということもあり、盛大に盛り上がり、それまで新人戦の優勝を逃したことで暗かった生徒たちも、次第にその輪に乗じていく。

 達也は鈴音に頭を下げると、静かにその場を後にした。

 

 

 

 九高戦最終日。

 達也の姿は、作戦本部や選手控え室にはなく、観客席にあった。

 その周囲には、第一高校の生徒や、新人戦の選手が集まっている。

 達也は、ジュースとポップコーンを器用に片手で持っているエリカの隣で、試合を観戦していた。

 

「達也くんはあっちにいなくてもいいの?」

 

 エリカが指差した先は第一高校の作戦本部。

 本来であれば、達也は補助する役目であるため居なければならないが、今日の競技はどこにいようとも結果が変わるものではない。

 その証拠に、克人が一条以上の力を持って、相手を蹂躙していた。

 

「その必要はないだろうな。昨日の競技が終わった段階で俺の役目も終わりだ」

「だろうな。これを知ってたら、やることなんて何もないだろ。どうやったらあれに勝てるのか想像もつかないぜ」

「規定のCADを使っているから、僅かに魔法の発動が遅いところをつくしかないが、そもそも接近する前に起動する魔法には手も足もでないだろうな」

 

 克人の得意な魔法であるファランクスで圧倒する姿に、達也たちはどうやって攻略するかを議論しあう。

 

 モノリス・コードは第一高校の優勝で終わり、新人戦は第三高校に軍配が上がったものの、総合優勝は第一高校で決まった。

 表彰式も無事に終わり、最後の締めとしてパーティーが行われる。

 パーティの始まりには、関係者の他に、魔法に関わる各メーカーの代表者も来ており、今回の大会における目ぼしい人材へと声を掛けていた。

 しかし、肝心の生徒に会うことは叶わず、時間まで会場の入り口を気にしたり、生徒たちへそれとなく訊ねたりと様々な反応をみせる。

 その肝心の生徒であるところの達也と言えば……。

 

「ああ。今回の大会でも十分にデータは取れた。個人に対しての販売についても検討していこう」

 

 会場の外に停めてある大型車両の中で、会社の事務処理を行っていた。仕事の内容は多岐にわたり、それらを平行して処理していく。

 その横では、亜夜子が黙々とモニターを操作していた。

 

「これで最後か……」

「───はい。お疲れさまでした」

「亜夜子もご苦労様」

 

 亜夜子は最後のデータを整理し終わると、立ち上がり、奥に設置してある給湯室に向かう。

 そこで、コーヒーをカップに注ぐと達也に運んでいった。

 達也はそのコーヒーを受け取り、軽く口に含むと、味わうようにゆっくりと飲み込む。

 

「最初は煩わしいと感じたが、こうしてみると得るものが多かったな」

「そうですね。新術式の開発と実証実験には丁度よかったかと思います」

 

 寛いでいる傍らで、携帯が振動を始める。

 その表示には見馴れた名前が数人分表示されていた。

 

「少し溜めていた業務も終わったし、呼び出しに応じるか……」

「わざわざ行く必要性をあまり感じませんが……」

「これをネタにされてはかなわないからな。少しは顔を出しておかないと……。では行ってくる」

「───お気をつけて」

 

 達也はカップを皿に戻すと、自分のCADを腕に嵌めて車両を出ていく。

 車両に残った亜夜子は寂しそうに達也が出ていくのを見つめていた。

 

 第三者を交えたパーティも終わり、残ったのは生徒たちとホテルの従業員のみとなっている。

 他校ではあるものの、交流を深めようと談話をしていた。

 パーティは盛り上がっていたものの、一瞬にしてその場は水を打ったように静まりかえる。

 会場に入ってきたのは第一高校の達也。

 皆の視線は図らずも達也に集中した。

 達也は居心地悪そうに、第一高校の生徒が集っている場所へ行くと、ほのかと雫が飲み物を持って近付いてくる。

 

「どうぞ、達也さん」

「ああ、ありがとう」

「何度か電話したけど、何してたの?」

「色々とやることがあったんだ。ところで、なぜ皆こちらを見ているんだ?」

 

 達也は周囲を見渡すと、目があった生徒たちは視線を逸らし、自分達の話へと戻っていく。

 

「達也さんは有名人」

「たぶん各校に達也さんのデータが回ってるからではないでしょうか」

「まるで手配書だな」

 

 達也は受け取ったジュースを飲み干すと、テーブルに並べられた料理に手を付けた。そして、食事を済ませて退散しようとしたが、両サイドをガッチリと固められて、その場から動けなくなってしまう。

 達也は、この後の予定を思い浮かべて憂鬱そうに溜め息を漏らした。

 暫くすると、会場の照明が少し落ち、中央に光が寄せられる。

 そして、その雰囲気にあった音楽が流れ始めた。

 達也の目の前には、ほのかが立ち上目遣いで、何かを期待するように達也を見つめている。

 会場内では、少しずつではあるが曲に合わせて踊っている者がいることから、ほのかが何を期待しているのか理解することはできた。

 

「あー。俺は踊れないんだが……」

「大丈夫です!」

「達也さんならできる」

 

 何を以て大丈夫なのか、達也には全くわからないが、逃げることも出来そうにないと諦め、ほのかに手を向ける。

 

「踊っていただけますか?」

「はい! 喜んで!」

 

 始めに、ほのかと踊り、次いで雫、エイミー。その後、真由美と摩利、そして鈴音と踊り、達也はようやくダンスからは解放された。

 第一高校の生徒からは解放されたものの、達也のダンスパートナーを狙っている者はまだいるようで、遠巻きに達也を見ている。

 

「ほい。お疲れさま」

 

 そんな達也に近付いてきたのは、メイド服に身を包んだエリカ。

 達也はトレイの上に載せられた飲み物を手に取ると、口を潤すために口へ含む。

 

「それにしても、いつにもまして疲れてるわねー」

「───馴れないことはするもんじゃないな」

「でも、まだまだ狙ってる子は居るみたいよ?」

「終わるまであと30分くらいか……」

「長話すると睨まれそうだから、私は退散するから」

 

 エリカはそう言うと、その場を離れて仕事に戻る。

 その後の達也は、第三高校の生徒と踊ることになり、精神的な疲労はたまっていくのだった。

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