司波達也の日常   作:ネコ

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第24話

 冬休み明けは、周囲の気候も相まって生徒たちのやる気を確実に奪っていた。

 約1年という期間学んできて、自分には向いていないのではないかという考えに囚われてしまう者も少なくない。

 目的意識がはっきりとしていればそのような事はないのだが、将来に不安を抱える生徒は、目前に迫った事態に悩み苦しんでいた。

 

「もうすぐ学年末テストかぁ。これって落ちたらヤバイのよね?」

「そうだな。現在の制度では留年を認めていない以上、退学になる可能性が高いのは間違いないだろう」

「単刀直入に言われると、少しきついな……」

「でも、皆さんそんなに成績が悪い訳じゃないですよね?」

「きついのはやっぱり実技だよな……。筆記はなんとかなりそうだけどよ」

「みんなそうだろう。2科生なんだからな」

「そうよねー。実技が良かったら1科生だったかもね」

 

 ここにいる4人は、筆記試験でも高い位置についている。筆記が苦手そうにしているレオの順位も、50番以内であり、筆記だけで言えば十分に優秀であると言えた。

 

「3年は卒業か……」

「なーに染々呟いてんのよ」

「いいじゃねえか! わざわざ叩くんじゃねぇ!」

 

 容赦なくエリカから背中を叩かれ、レオは抗議するが、それをエリカは何でもないことのように手を振って受け流す。

 

「卒業式はやっぱり3年生だけですか?」

「いや。卒業式は全校生徒参加みたいだ」

「まあ、世話になったしそんなもんだろ」

 

 その後も雑談に花を咲かせていると、予鈴がなる。生徒たちは自分の席へ戻り、デバイスを立ち上げると、与えられたカリキュラムを消化するべく、静かにテキストへ目を通すのだった。

 

 授業が終われば各自が別行動になる。

 レオと美月は部活に向かい、エリカはそのまま帰宅。達也は生徒会へ顔を出していた。

 年度末ということもあり、この時期に生徒会でやるべきことは少ない。あったとしても、卒業式に関することばかりだ。

 

「卒業式の司会は北山さんで、中条さんはそのサポート。司波君は設営をお願いするよ。僕は会場案内の件で風紀委員会と調整してくる」

 

 それぞれに与えられた仕事はあるものの、その内容は無いのと変わらない。司会については、決まった文言を言うだけであり、達也に与えられた設営にしても、既に配置などは決まっている。

 むしろ一番忙しいのは、生徒会長である五十里の調整の方だった。

 しかし、達也はそれを分かっていても口には出さない。達也だけではなく、他のメンバーにしても口を出すことはなかった。

 理由としては、風紀委員長である花音と五十里が恋人同士であることを考えれば、自ずと察せられるものである。

 誰も2人の逢瀬を邪魔しようなどとは考えていない。

 

 生徒会の集まりが終わると、達也は図書館の地下の書庫に足を伸ばす。

 フリズスキャルヴをもってしても、ネットワークに接続の無い機械には、入ることが出来なかった。

 この件について、達也は安心と苛立ちの両方を感じていた。

 理由としては単純なもので、これまでの防犯対策であるネットワークの閉鎖が有効であると知ることが出来たことと、わざわざ学校の図書館の地下へ足を運ばなければならない事の2つである。

 達也は溜め息を漏らしながらも、地下に行き書物漁りに没頭した。

 

 達也が日常を平和に過ごしている間も、他の場所では事態が推移している。これに対し、達也としても何もしなかったわけではない。ただ時間的な制約もあり、この冬休みで出来たことなど少なかったと言っていい。

 アメリカに行き、協力者に挨拶を済ませ、米軍基地を遠くから観察し、日本に帰る。主なものはそれだけだが、他にも色々と動いていた。この行程は1泊2日の過密なスケジュールで行われたため、達也はろくに眠らず帰国したのである。

 達也がわざわざアメリカにまで足を運んだのは、現在アメリカである研究がされていたためだ。

 その研究は途中で失敗に終わる上に、日本への被害も馬鹿にならないことを未来の知識で知っている達也は、状況を確認するために来たのである。

 夜間の内に施設へ侵入し調査した結果、研究はほぼ予定通りに進んでいることが判明した。

 達也がマテリアルバーストを使用していなかったことにより、僅かに未来知識より進捗は遅れているものの、既に憑依実験まで来ていることを考えると、次の事件が起こるのは時間の問題であった。

 達也はその後、アメリカ軍の基地の内部を確認してから脱出すると、車を乗り換えて足跡を確実に消す。

 そして、朝になってから帰国したのだった。

 この時には、既に完成していた認識阻害専用CADが大変役に立ったのは言うまでもない。

 

 達也が帰国してから数日後。

 事件は起きた。

 米国兵の脱走。

 その報が達也に知らされたのは、帰国して1週間後だった。

 

 

 

 静かな部屋の中で、達也は四葉真夜と向かい合っていた。

 

「今回は、結構急だったわね」

「それは仕方ない。いつ起こるかは未知数。前回起こったのが早かったのは、恐らくマテリアルバーストを使用したことで、危機感を募らせたせいだろう。俺が関わらなければ、本来はこれくらいになっていたということだな」

「十師族への勧告はしなくてよかったのね?」

「内容を知れば欲を出す老人がいるだろうから、ばれない方がいいだろうな」

 

 達也は葉山の入れた紅茶を飲みながら、自分の推測を交えて話す。

 未来の出来事は確定ではない。確定ではないが、それを変えるべきアクションを取らなければ、変わることが無いこともまた道理だった。

 

「では、渡航してきた米軍兵はこちらで監視しておきましょう。ですが、追っ手も来るのでしょう?」

「追っ手はスターズのシリウス少佐か同僚のカノープス少佐か……、その辺りが来たら、渡航してきた段階で広域監視体制を敷いた方がいいんじゃないか?」

「今回、あなたは何もしないのかしら?」

「捕まえる準備はするから、あとは勝手に……と言うわけにはいかないか……。まあ、俺よりも深雪の力が必要となるんだが」

「それはどう言うことかしら?」

 

 真夜は不思議そうに達也を見る。

 真夜の元に入っている情報は、アメリカで吸血騒動があり、その元凶である兵士が脱走したというものだった。

 そのため、渡ってきた兵士を捕まえれば済むはずだが、達也の言葉を信じるならば、それを深雪に頼まねばならないとあっては、捕まえることが容易なことではないことを知ることができる。

 

「早い話が肉体の無い寄生生物だから、精神に直接作用する魔法じゃないと効果が無いに等しい」

「つまり、精神生命体ね……。確かに魔法特性を考えれば深雪さんに頼むのが一番でしょう。事のついでに話しておくわ。日程はこちらで組んでも構わないかしら?」

「見張るのはそっちなんだ。好きにしたら良い。ただ、少しだけ馴らす時間を設けたい」

「分かりました。2、3日後にここへ来てもらえるかしら?」

「分かった」

 

 話が終わると、達也は席を立ち部屋を出ていく。

 達也が屋敷を出ていくのをモニターで確認しながら、葉山が口を開いた。

 

「よろしかったのですか?」

 

 何が、とは言わずに、事の成り行きを見守っていた葉山が真夜に問い掛ける。

 それだけで、真夜は葉山がどのことを言っているのか悟り、軽く微笑みを浮かべて答える。

 

「あの子は干渉を嫌がるから、これくらいの距離感でいいのよ。持ちつ持たれつ。双方のメリットを考えれば、今以上を求めない方が身のためよ」

「それでは、亜夜子さんから上がっている件についてはいかがされますか?」

「それは困ったものよねぇ……。達也は四葉の力の象徴と言っても良いのに、本人は四葉と縁を切りたがってるし……。でも、婚約自体を拒否しなかったことを考えれば、四葉というより、世間体を気にしてるのかしらね。亜夜子さんからの案件は……守るべき者が増えるのも面白そうね」

 

 悪戯を考えている子供のように、真夜はクスクスと笑う。葉山は真夜の笑う声に、少しばかり驚いたものの、気分を害することが無いように、会話を続けた。

 

 

 

 移動する車の中は、暖房で暖められているにも拘わらず、運転手である小原は肌寒いものを感じていた。

 その原因は後部座席に座る2人と助手席に座る1人。つまるところ小原以外のメンバーによるものだ。

 助手席には黒羽家当主の貢が険しい顔で座っており、後部座席には不機嫌そうな四葉家当主候補の深雪が、隣をチラチラと見ながら時折溜め息を吐いている。

 そして残る1人は、四葉家の当主候補を辞退した司波達也。

 使用人として四葉に仕えてきた小原にとって、北極の監獄に囚われているようなものだった。

 何時もであれば、気軽に話せるはずの貢は、雰囲気的に会話を拒否しており、深雪もその状態に近い。達也に至っては、イヤホンを着けているため、話を聞く気すら無いだろうことが分かる。

 かなりの精神的プレッシャーの中で、小原は運転手であることを嘆いていた。

 

 車での移動は2時間ほど掛かり、目的地へと到着した頃には真夜中になっていた。

 目的地は都内のホテル。

 3人は車から降りると、部屋から溢れ出る光を頼りに、上空へ向けて飛んでいく。

 そして、あるベランダに音もなく入り、達也は魔法を行使すると共に深雪へ目を向ける。

 深雪は苛立ちを感じながらも、達也の意図を読み取り、魔法を行使した。

 深雪の使った魔法は、精神干渉魔法である系統外魔法のコキュートス。

 精神を凍結させる魔法であるため、肉体も精神に付随するように硬直し、徐々に死へと向かっていくという恐るべき魔法である。

 四葉の英才教育の為せる技なのか、深雪に罪悪感を感じるような表情は見受けられない。むしろ眠気を我慢するように、目を吊り上がらせて対象のいる部屋を睨み付けていた。

 達也と深雪が魔法を行使する間、貢は部屋の電子ロックを解除して中へ入ると、一切の痕跡を残さないよう気を配りながら、精神の凍結した身体を持ち上げ、素早く外へ出て、暗い闇夜の中へ飛び降り姿を消す。

 深雪もその後に続き、ベランダから飛び降りる。

 達也は、開いたままの扉へ魔法を放ち、数分前の状態へ戻すと、2人の後を追ってベランダから飛び降りた。

 後続のトラックに拐ってきた身体を押し込め、それを3度ほど繰り返したところで、日が昇り始める。

 

「今日のところはここまでですね」

「ああ」

「お先に失礼させてもらいます」

 

 深雪は小原の運転する車に乗り込み、先に帰っていく。

 それを見送ることなく、達也と貢はトラックに乗り込み、四葉の研究施設へと向かった。

 

 今回、達也が開発したのは、肉体をコールドスリープ状態へするもの。精神に関しては、深雪の魔法で凍結させることは可能だが、その後に肉体が消滅した場合、どのように作用するのか不明であったため、このような手段を取った次第である。

 研究施設に着いた達也のすることは、それほどない。

 コールドスリープ用の機械を設置し、その調整を行うだけだ。この機械に関しては、四葉にて購入するとの申し出があったので、今回の夜間の作業は設置までのアフターサービスのようなものであると達也は認識していた。

 

「これで終わりです。必要なことはマニュアルを読んでください」

「…………」

 

 一切話すことの無い貢に対して、達也は説明を続ける。

 聞いていようがいまいが、達也の言っている説明はマニュアルに記載してあり、重要な事項を抜き出して説明しているにすぎなかった。

 

 対する貢は、複雑な心境でその話を聞いていた。

 目の前にいるのは悪魔であり、気紛れ1つで都市を壊滅させることもできる化物。そんな悪魔のところへ、可愛い娘───亜夜子がいると思うと、気が気ではなかった。

 亜夜子には才がなかった。才がないと言っても、それは四葉内でのことであり、一般的な魔法師で比べるならばかなり優秀であると言っていいだろう。しかし、それはなんの慰めにもならないことは分かっていた。周囲の者達には後から生まれた弟と比較され続け、それでも諦めずに自分の出来ることを伸ばそうと、亜夜子は魔法よりも勉学に比重をおいて取り組んだ。

 それを悪いとは言えなかったが、四葉内では、異端な行為であることは間違いない。

 しかし、その事を忘れさせるような出来事が起こった。

 それは、封印したはずのものが、封印できていない上に、感情すら持っているという事実。しかも、既に相当な力をつけているということが分かっている。

 全てを破壊する力を持つという当時の先代の言葉を思い出し、精神干渉魔法すら効かないのかと嘆いたものだった。あの時、殺してしまえばという言葉も、所詮はifの話。唯一の成果は、感情に制限が掛かっているようで、一定以上に高まることが無いとのことだが、そんなことなど気休めにしかならない。

 悪魔に触れることなく、過ごそうと思った矢先、当主である深夜の目に亜夜子が映った。

 順番から言えば、達也を抑えるための鎖として四葉内を探した結果、亜夜子が目に留まったと言った方がいいだろう。

 亜夜子は悪魔の元に連れていかれ、次に会った時には別人のように変わっていた。

 姿形は変わらないのに、雰囲気は全く違う。

 余裕の無い表情で必死に勉学に励んでいた姿はどこにも見当たらず、周囲へ余裕を持って接しているように見える。

 何も言えずに見ていると、亜夜子の方から話し掛けてきた。聞かされる内容は、達也を褒め称えるものばかり。表情には出さないように必死で説得したが、効果は無いどころか、余計に達也へ執心してしまうほどだった。

 そうして忙しい中、会う度に達也への想いまで暴露し始めたことは、当主へ直談判しようと決意させるに十分値した。新しく当主になった真夜であれば、考え方も変わっているだろうという密かな期待を胸に駆け込んでみれば、丁度良いと、話を切り出す前に婚約の話を言い渡される。

 貢は目の前が真っ暗になったのを今でも思い出せた。

 娘は達也と一緒にいることに幸せを感じ、親は悪魔の近くに娘がいるというだけで、心労が溜まる。

 拘わらないように立ち回ってはいるものの、生業のせいで達也と関わることが多いため、むしろ拍車がかかっていた。

 

「では、失礼します」

「待て」

 

 達也が説明を終えて去ろうとしたところを呼び止める。それは咄嗟に出た言葉だったために、続けて掛ける言葉を貢は考えていなかった。

 達也は首を軽く傾げながら貢を見る。

 

「亜夜子は……、元気にしているか」

「正月に会ったばかりと思いますが、健康状態に異常はないようです」

「───そうか」

「では」

 

 達也は貢にそれ以上話すことが無いと分かると、話を打ち切り踵を返す。

 貢は黙ってその後ろ姿を見送っていた。

 

 

 

 期末試験を終え、生徒たちが一喜一憂した後に控えているのは卒業式である。 卒業式の内容は一般の学校と変わりはなく、お偉方の長い話があり、送られてきた祝辞を読み上げ、一人一人が卒業証書を授与される。

 卒業式が終わった後は、各自で解散となった。

 達也は風紀委員会のメンバーと共に片付けを終えると、家に帰宅するべく校舎を出る。

 校舎から校門まで続く道は、生徒たちで溢れており簡易のバリケードのように立ちはだかっていた。

 達也はその人の波の隙間を上手く抜けていくが、まるで示し合わせたように行き先を塞がれ、腕を掴まれる。

 

「挨拶もなく行ってしまうなんて事は……、ないわよね?」

「そんな冷血漢じゃないだろう?」

 

 そう言って腕を掴んだのは、真由美と摩利だった。更に達也の前方には、見覚えのある3年生の生徒が数名立ちはだかっていた。

 達也は観念したように、肩を落として腕を掴む2人へ声を掛ける。

 

「卒業おめでとうございます」

「ありがとう。無事に大学へ進学できたし、優秀な後輩が引き継いでくれたから安心だわ」

「そうだな。私も防衛大に受かったし、心残りは司波に任せて大学生活をエンジョイすることにしよう。そんなわけで花音の事を頼んだぞ!」

「風紀委員長のことは会長に言ってください」

 

 他にも言いたい事はあったが、余計なことを言って気分を台無しにしてはしょうがないと、それ以上は話さずに聞き役に徹する。

 真由美と摩利がいるせいか、次第に人がその場に増えていき、達也は囲まれることとなった。

 思い出話に花が咲き、そこへは達也の名前も挙げられる。

 達也がその集団から解放された頃には、達也が校舎を出てからゆうに30分は経過していた。

 

 達也が家に戻って来るのを待っていたのは、一緒に住んでいる亜夜子である。

 亜夜子は第一高校の1科生の制服に身を包んでいた。

 

「どうでしょう? 似合いますか?」

「そう言えば、今年から高校生だったな」

「達也さんは一体、私を何歳だと思ってたんですか」

 

 腰に手を当て頬を膨らませる亜夜子に、達也は苦笑しながら答える。

 

「すまない」

「滅相もないです。こちらこそすいません」

 

 達也が頭を下げて謝る姿に、亜夜子は慌てて両手を振り気にしてないことを伝える。それを見た達也は、神妙にしていた表情を何事もなかったように元に戻す。

 

「この話は終わりだな。飯はできているか?」

「出来てますよ。何となく、良いように扱われたような気がします……」

 

 達也は亜夜子の呟きには応じず、リビングへ向かい食事をとる。

 この時ばかりは、4月からの学校生活について亜夜子から投げ掛けられる質問に、達也は律儀に答えていた。

 

 

 

 卒業式も終わり、少しの休みと共に新年度に入る。

 達也は生徒会役員として、いつもと同じように会場の設営を行っていた。

 

「手伝った方がよろしいですか?」

 

 そんな達也に声を掛けたのは、一緒に学校へ登校した亜夜子だった。

 

「必要ないよ。それより、学校の探索は終わったのか?」

 

 達也は亜夜子の背後にいるほのかを含めて問い掛ける。

 家が隣ということもあり、達也、雫、ほのか、亜夜子の4人は一緒に学校へと登校した。

 ただ、達也と雫は生徒会役員であったため、学校に着いた段階で分かれることになる。この空いた時間を潰すために、達也はほのかに亜夜子へ学校の中を案内するよう頼んだのだった。

 

「知りたかったことは、大まかに知ることができましたので戻ってきました」

「そうか。ほのかには急に案内を頼んですまなかったな」

「とんでもないです! 私も空いてましたし丁度よかったです」

 

 オーバーリアクションを取るほのかを微笑ましく見て、達也は再度礼を述べると、2人を待たせて、設営を手早く終える。

 

「さて、これで俺の方も手空きだな」

「そう言えば、今年の首席は何方だったんですか?」

 

 ふと思い出したように、ほのかが達也に問い掛ける。

 達也はわずかに溜め息を漏らしながら、気怠そうに答えた。

 

「七宝だ」

「七宝……女性ですか?」

「今年の首席は男だな」

「どんな方なんでしょう?」

「癇癪持ちの子供だ」

「?」

「会ってみれば分かるさ」

 

 達也はそれ以上は答えずに、会場を出ていく。

 会場の外では、チラホラと新入生の姿が目に入った。

 達也は腕に填めたデバイスで時間を確認すると、会場の扉を解放し、入り口近くに設置してある受付に腰を下ろす。

 ほのかと亜夜子も、幾つか置いてある椅子を引いて達也の両隣に座った。

 

「ここにいても、何もないぞ?」

「授業時間まで少しあるので、それまではここで見てます」

「中に入っても暇なだけですからここにいます」

 

 そう言うと、2人は時間ギリギリまで、受付で雑談しつつ残っていた。

 

 入学式が無事に終わると、休む暇もなく生徒会は次に向けて動き出す。

 

「よく来てくれたね。僕が生徒会長の五十里だ」

「七宝です」

 

 七宝は軽く頭を下げると、生徒会室の中を見渡す。

 生徒会室にいるのは生徒会メンバーだが、そこに見慣れない人物を見つけて少し不機嫌そうな顔になった。

 しかし、七宝はすぐに表情を元に戻し、生徒会メンバーの挨拶を受ける。

 

「七宝君は、生徒会に興味はあるかな?」

「すいませんが、俺は自分の能力を高めたいので、生徒会に入るつもりはありません」

「そうか……。変なことを聞いてすまなかったね」

 

 あらかじめ決めていたのだろう七宝の答えに、五十里は残念そうにしながらも、無理強いは良くないと、意識を切り替えて挨拶だけに止めた。

 

「遅くなったけど、入学式お疲れさま。これから新しい環境になるけど、頑張ってね」

「あ……、はい。えっと、これで失礼します」

 

 七宝は、喉に物が詰まったように言い淀んだものの、慌てて返事をすると、すぐに回れ右をして逃げ出すように去っていった。

 

「ん~。七宝君に断られちゃったし、次の子に行ってみようか」

「次って言うと成績順?」

「そうだね。それが無難だろうし」

 

 五十里は梓に頷いて見せると、デバイスを操作している達也に顔を向けた。

 

「彼を含めた上位4人は、ほぼ僅差ですね」

「誰だい?」

「2位が七草泉美。3位が七草香澄。4位が黒羽亜夜子の3人です」

 

 達也の答えに五十里は少し考えたものの、次の方針を打ち出す。

 

「じゃあ、次は七草さんのところの姉妹を呼ぼう」

「2人同時にと言うことですか?」

「そうだね。本当なら1人ずつがいいんだろうけど、そうも言ってられないし……、それに、2科生の生徒も入れないといけないから、止まっていても仕方ないよ」

 

 五十里の言葉に生徒会の皆は頷き、次の候補について検討を始めたのだった。

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