司波達也の日常   作:ネコ

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第25話

 生徒会の勧誘として七草姉妹を呼んだのはいいものの、2人からの返答は五十里の期待を裏切るものだった。

 

「折角ですが、生徒会に興味はありませんので御断りさせていただきます」

「私も興味ないかなー。───私もお断りします……」

 

 泉美からの非難するような視線を受けて言い直したが、香澄の回答は変わることなく、言葉を変えただけだった。

 五十里は残念そうに2人を送り出したものの、姿が見えなくなると落ち込み、頭を抱えて悩み出す。

 

「やばい……。このままだと歴代の先輩方に顔向けできないよ……」

 

 そもそも、昨年からの出来事を除き、1年生で生徒会に入るための条件は1科生であることが挙げられる。

 それは学校の代表として、次世代を任せる人材を育成するためであり、交渉などスキルも必須となるため、優秀な者が求められるからだ。

 そこから言えば、上位3人に断られる事は、学校の体面的にもあまり良いことではなかった。

 

「五十里君、元気出してください」

 

 慰めるように、肩へ手を当てて声を掛ける梓を見て、達也と雫は何も言わずに一歩下がる。

 

「中条さんはうちの啓に何してるのかなー?」

「ヒッ!?」

 

 肩をビクンッと震わせて、梓が恐る恐る後ろを振り向くとそこには、五十里の彼女である花音が、歯を食い縛り、目を吊り上がらせて立っていた。

 梓は咄嗟に言葉が出ず、顔を左右に振って無実である事をアピールするが、花音には届かない。

 ゆっくりと近付いてくる花音に、梓は震えるばかりで何も出来ず、ただ、刑が執行されるのを待つだけだった。

 そんな梓に救いの手を差し伸べたのは、慰められていた五十里だ。梓と花音の間に入り込み、事情を説明する。

 

「中条さんは励ましてくれてただけなんだ。花音が心配するようなことは何にもないよ」

「啓は私よりも中条さんを取るわけ?」

「だから、そう言うことじゃなくて───」

 

 三角関係に発展しそうな状況の中。

 巻き込まれないように離れた2人は冷静だった。

 

「達也さん。亜夜子ちゃんに入ってもらうのはいい?」

「本人の気持ち次第だろう。そもそも、この成績も手を抜いた結果だろうしな」

「何故?」

 

 雫は手を抜くことが理解できずに達也へ問い掛ける。成績が悪ければ落ちることもある以上、試験で手を抜くべきではなく、亜夜子の意図が分からなかった。

 

「本人に聞いてみないと分からないな。勉強を見ていた限りでは、首席を取れると思っていたんだが……」

 

 達也は生徒会の権限を使い、亜夜子の成績を眺めながら呟いた。

 亜夜子の成績は、他の3人に比べると、筆記でトップを取っており、実技で劣っているという結果だ。劣っていると言っても、平均よりも少し上なくらいであるため、総合4位であることを考えれば、筆記が余程良かったことが分かる。

 詳しい内訳を見ることはできないが、亜夜子の技能を以てすれば、1位を取ることは然程難しいこととは思えなかった。

 

「達也さんが家庭教師をしたの?」

「同じ家に住んでいるんだし、受験生ともなれば先輩として家庭教師くらいはするさ」

「なんかズルい」

「そう言われてもな……」

 

 達也は画面を見ながら、2科生の成績を見ていく。

 昨年から2科生も生徒会への勧誘が必要になったのだが、1科生とは違い、2科生の勧誘に関して達也はすぐに決まるだろうと考えていた。

 

 しばらくして、生徒会室の雰囲気が落ち着いた頃に亜夜子を呼び出したわけだが、亜夜子は五十里に聞かれて達也へ視線を向けると、達也が軽く頷いたのを見て返事をする。

 雫はその動作に気付いたが、何も言わずに亜夜子を見つめる。

 

「私で務まるか分かりませんが、精一杯頑張らせていただきます」

「ありがとう!」

 

 五十里が亜夜子と握手しようとしたところを花音に咎められ、再び喧しくなった室内で、梓がホッとしながら亜夜子に話し掛ける。

 

「それにしても、黒羽さんが受けてくれて良かったです。このまま断られ続けると思いました」

「他の方は断られたのですか?」

「ええ……」

 

 断られたことを思い出し、暗くなっていく梓を気遣ったわけではないが、話を進めるために達也は次の案件を口にする。

 

「後は2科生ですね」

『!?』

 

 それまで言い合っていた五十里と俯いていた梓は、驚いたように達也へ顔を向ける。そして、従来の制度は昨年から変わったことを徐々に思い出し、頭を抱え始めた。

 

「2科生の事を忘れてたなんて!」

「制度が変わったんでした……」

「上げて落とす……鬼畜の所業」

「変なことを言うな。そもそも、これは雫が進めるべきことだぞ」

「適材適所。私は達也さんに私の全てを任せる」

「それは駄目だろ……」

 

 僅かに顔を赤くしながら答える雫に、達也は突っ込みを入れる。

 亜夜子は、そんな雫を少し睨んだものの、部屋の混沌とした雰囲気に馬鹿馬鹿しくなり溜め息を漏らした。

 

「賑やかな事はいいことですが、そろそろ進めてはいかがでしょう?」

 

 1年生に諭されて、更に落ち込む人が約2名いたが、達也はその状況を無視して先に進めた。

 

 入学式が終われば、学校の行事として待っているのは部活動による新入生の勧誘期間だ。

 この時期の生徒会としての役割は、生徒同士のトラブルが頻発するため、その仲裁役を任されることが多い。

 本来は風紀委員会で対応するのだが、人手が全く足りないことと、風紀委員会だけでは手に余る案件の対応をするためだった。

 この時ばかりは、達也にも役割が与えられる。

 それは、生徒会室に訪れた人の対応だった。

 生徒会長の五十里と、副会長の梓は揃って風紀委員の部屋に、即座に動けるよう待機しており、その間空いた生徒会への対応を誰かがしなければならない。

 会長と副会長がいなければ、他の生徒会メンバーがするしかなく、達也は雫と共に居残りを指示されたのだった。

 

「亜夜子ちゃんは、無理して居なくてもいいよ」

「生徒会に入ったのですから、少しでも先輩方の負担を減らしたいと考えています」

 

 内心はどうあれ、相手を気遣うような言葉を掛け合う。

 そんな平和な生徒会室に、呼び出し音が鳴り響いた。

 

「司波くんいるかい!?」

「ええ」

「すぐにロボ研の建物に向かってくれ!」

「分かりました」

 

 余計な言葉や必要な情報を話さずに、目的地だけを告げた五十里の電話はすぐに切れた。

 達也は通信機器の通話状態を切ると、2人に向き直り、2人へ留守を頼み部屋を出る。

 2人が声を掛ける前に達也が出ていった部屋は、その後、人がいるにも拘わらず静まり返った。

 

 指示された場所では、予想通りと言うべきか、部活同士の激しい口論が飛び交っていた。

 片方には風紀委員が、もう片方には部活連が対応し落ち着くように言い聞かせている。

 それでも、その抑えを乗り越えるようにして言い争っている状況から、いつ抑えが効かなくなってもおかしくはなかった。

 達也はざっと状況を確認すると、対立している部活のメンバーの後方に回り込み、数人ずつ目にも止まらぬ早さで気絶させると、対立している間に入り、事前に渡されていた風紀委員用のモニターに備え付けられた拡声機能を使用して呼び掛ける。

 

『代表者に話を聞きます。それ以外のメンバーは解散してください。この指示に従わない場合は、部活連を通して罰則が課せられます。その事を十分に認識した上で反論があれば伺います』

「ふざけるな!」

「悪いのはそっちだぞ!」

 

 他の者の言葉で止まらなかったのに、達也の言葉で止まるはずもなく、言い合いは続くが、最初よりもその勢いはなかった。

 

『2つの部活については、部活動に関する規約違反として取り締まります。また、これ以上騒ぐようであれば強制的に沈静化させてもらいます』

 

 元々、生徒会としての役割は仲裁であり、それ以上の権限はない。ここで前置きをしたのは、風紀委員会と部活連に対して、早く事態を終息させろという意味だった。

 この言葉を理解したのは2、3年生であり、1年生は意味が分からなかったのか、達也に向けてどうやるのかと疑問を視線に乗せてぶつけていた。

 しかし、そんな1年生も、達也が手に持ったデバイスで周囲の撮影をするのみであり、上級生が苛立ちを込めて鎮圧しているのを見て事態を察し、達也を睨み付ける。

 達也にしてみれば、数を減らした上に、言わなければならないことを言っただけに過ぎず、何故こちらを睨み付けるのか内心で首を傾げていた。

 争う人数が減ったことで、程なく鎮圧された生徒たちを確認し、達也がその場を去ろうとしたところで声が掛けられる。

 

「司波くんすまない。余計な手間を掛けさせて」

「この期間はお互い様だ」

「そう言って貰えると助かる。ただ、大人しくさせるなら、もう少し穏便に出来なかったのかい?」

「何の事か分からないが、後ろから説得していたら急に気絶しただけだ。体調に問題があったんだろうな」

「そういうことにしておくよ……」

 

 やれやれといった感じで納得したのは、部活連の副会頭を努める十三束だった。

 そんな十三束の元にやってきたのは、生徒会入りを拒否した七宝で、達也を一瞥した後取るに足らない相手と言わんばかりに無視して十三束へ話し掛ける。

 

「十三束先輩、戻りましょう」

「ああ」

 

 七宝は十三束に言い終えると、そのまま踵を返して去っていく。

 

「すまない。後で七宝にはきちんと言っておく」

 

 後輩の態度に、十三束はすまなそうに謝ると、七宝の後を追って駆け出した。

 達也は嵐のように去っていく2人を見て、溜め息を吐くと、生徒会室へと戻っていった。

 

 

 

 部活動の勧誘期間も無事に終わり、ひとまず静かになった学校生活とは裏腹に、達也の方は慌ただしくなり始めていた。

 

「今日は何の用件が?」

 

 達也の経営するトーラス・シルバーに訪れたのは、達也の父親である龍郎と、その再婚相手である小百合だった。

 達也は珍しい人物の来訪に、少々驚きながら応じる。

 

「今日は役員として来た訳じゃない」

「? まあ、中で話そう」

 

 達也はロビーから応接室へと場所を移し、飲み物を準備させてから改めて問い掛けた。

 

「それで?」

「達也に有益な話を持ってきた」

「有益……ね」

「トーラス・シルバーにとって有益なことは間違いないわ」

 

 自信に溢れた返答に、達也は嫌な予感を感じながらも疑いの眼差しを向けつつ確認する。

 

「今度は何をしたんだ?」

「微妙に失礼な物言いだが、ある大手と繋がりが強固になる」

「資産はこちらの倍以上あるし、経営内容を見てもつぶれることはまず無いから安心してちょうだい」

「全く安心できないんだが? はっきりと言ってくれ」

 

 嫌な予感が高まっていくなかで、達也は聞きたくもなかったが、聞かなければ事態が更に悪化するような気がして先を急かす。

 

「トーラス・シルバーとも懇意にしている北山財閥と縁談を組んだ。縁談については本家にも確認済みだ」

 

 突拍子もない話に達也の頭がすぐにはついていかず、聞き返してしまう。

 

「誰が?」

「あなたが」

「誰と?」

「北山家とだ」

「…………」

 

 達也は2人が言っていることを理解できずに、しばらく唖然としていたが、言われた内容を消化して再起動を果たす。

 

「既に俺は婚約している。聞かされてないのか?」

「言われなかったが……」

「私たちの方は、つい先日に確認したことよ。既に先方とは婚約について了承した旨を通知してあるわ。もう決まったことなの」

「勝手なことを……」

 

 達也は溜め息を漏らしながら呟く。

 取り敢えず、達也がうるさく言わないことに、話がうまくいったと考えた2人は、達也が余計なことを言い出す前に立ち去ることを決めた。

 

「良かったな。先方の写真を見せてもらったが、綺麗な子だったぞ。確か昨年の九校戦に出て優勝していたはずだ」

「優秀で資産家。年齢も同じであれば、私たちも言うこと無いわ。見合いの日取りの設定などは先方から来ると思うから待ってちょうだい」

「───おい」

 

 言い終えると2人は立ち上がり扉に向けて歩き出し、達也の引き留める声も無視して部屋を出ていった。

 

「あいつらは余計なことしかしないな……」

 

 達也はソファーに座ったまま天井を仰ぎ見てしばらくすると、机と一体化しているデバイスを操作して電話を掛ける。

 

「どうかされましたかな?」

 

 数コールで電話に出たのは葉山だった。

 達也は葉山へ手短に用件を伝える。

 

「そこにいる叔母と代わってください」

「───分かりました」

 

 葉山は少しの間を空けて了承する。それにより、葉山を映していたモニターは一瞬で切り替わり、真夜を映し出した。

 

「どうかしたのかしら?」

「うちの親に婚約を進めたと聞いたんだが?」

「ええ。婚約だけだったら問題ないでしょう?」

「確か亜夜子と既に婚約していたと思ったんだが、気のせいか?」

「それがねぇ、貢さんから苦情が何度も来るのよ。面と向かって苦情を言ってくる訳じゃないんだけど、不満は募る一方。ここで黒羽に不満を抱かせても仕方ないから、一旦白紙に戻させてもらったわ」

「つまり?」

「あなたとの婚約はなかったと言うことね。次に目をつけてたのは津久葉家だったのだけど断られたのよ。分家のあなたに対する考え方は変わらないみたいね。少し残念だわ」

 

 昨日から姿の見えない亜夜子が、何処に行ったのか理解した達也は、真夜の説明に頷く。

 

「言いたいことは理解できた」

「そう? では、良い機会だしもう1つの方も言っておくわね。あなたの妹である深雪さんについてだけど、私の養子と言うことで、正式に四葉の名前を名乗ってもらい、その後当主として指名させてもらうけどいいかしら?」

「その辺りは勝手にやればいい」

 

 達也は気にした様子もなく、どうでもいいことのように答える。実際に、妹の人生は妹のものであるため、達也に口を挟む気は毛頭なかった。これがもし、司波姓のまま当主として指名するとなれば別だが、養子にした上で指名するとなれば、達也への影響は少ないものとなるだろう。

 

「そう? それならば秋にでも発表させていただくわね」

 

 真夜は達也へ言質を取ったことを確認する。

 達也はこれ以上無駄な会話をする気もなく、挨拶もそこそこに電話を切った。

 達也はこれからのことを予測するが、これまでの事と比べてあまり変化がないことに思い至る。

 そもそも亜夜子との婚約を認めたのは、達也の素性を知ってなお一緒にいてくれる存在だったからだ。

 その点を考慮すれば、何ら今までと変わることはない。

 今後の亜夜子の出方が気になるところではあるが、問題があるとすれば、亜夜子の身の振り方だろう。

 会社の対外的な交渉を亜夜子に任せているため、会社を辞めるとなれば、引き継ぎなどで膨大な時間をとられることは間違いなかった。

 会社から家に戻り、明日の支度をしながらしばらく悩んでいると、玄関が開く音と共に敷地内への無断侵入による警報が鳴り響く。

 すぐさま達也は敷地内を可視化して視てみれば、数人の人物が玄関並びに裏口へと回り込んでいた。

 達也は取り敢えずといった感じで様子を見ていると、数秒後には全員が崩れ去り、物言わぬ置物に成り果てる。

 

「急いでいたようだが、何かあったのか?」

「親と絶縁してきただけです。その際に洗脳されそうになったため、こうして逃げてきたのですが……やはりご迷惑だったでしょうか?」

「特に迷惑などとは思ってないが、こういったことが何度も続くようであれば、それなりの対応を取らせてもらうことになる」

「お手数をお掛けして申し訳ありません」

 

 達也は頭を下げる亜夜子の頭に手を置き、慰めるように声を掛ける。

 

「気にするな」

「はい……」

 

 達也は亜夜子を落ち着かせるために部屋へ戻すと、自らは家の外に出て一人ずつ敷地の外に放り出す。

 それを待っていたのだろう、敷地外で待機していた者たちが達也の放り投げた侵入者を受け取り、連れ去っていった。

 




最近のスランプ具合は酷いです。
話を圧縮して終わらせようとも思います。
時間を掛ければ少しはましになるでしょうが、たぶんダラダラとなってしまいます。
見切り発車な作品を見て頂きありがとうございました。
また、誤字脱字を指摘して頂きありがとうございました。
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