司波達也の日常 作:ネコ
達也の生活は、あまり変わることなく過ぎていく。唯一変わったところと言えば、見合いだの婚約だのと周囲が色々と騒いだ結果として、達也の家には新しい同居人が2人増えた状態になったことだろう。
その2人に対して、それまで攻撃的だった亜夜子は大人しくなり、逆に仲良くなったことで達也は不思議に思っていたが、煩くなければ良いかと納得した。
達也にとっては、平和であれば何でも良かったりするのだが、イベントごとの賑やかさが更に増えたのには少し困惑することになる。
その際に、達也の生活を真に変える言葉が掛けられた。
「達也さん。高校生活は今しか出来ないんだし、色々楽しんだ方が良いと思う」
「そうですよ。学生の内に出来ることはやるべきです!」
「私も、達也さんが何故目立ちたがらないのか不思議でなりません。素性を知られるのは不味いですが、会社の社長をやっていることはばれても問題ないのではないですか? 宣伝にもなりますし」
この言葉は、達也の考えを改めさせるに十分だった。
達也の奥の手が知られるのは不味いが、技術力の高さや想子保有量が多いのは別に知られても問題ないのでは、と。
この日から、達也は実利に走るばかりではなく、学校生活にも目を向け始めた。
学校生活では、始めに生徒会内での達也の後任として、1年2科生の隅守が入った。この勧誘については、1科生の勧誘とは違いスムーズに事が運んだと言って良いだろう。それと言うのも、隅守は昨年の九校戦以降、達也のCADの調整技術に憧れて第一高校を受けることを決めたのだから、憧れの達也からの勧誘であれば、ほぼ否は無いと言うのも頷ける。
そうして、生徒会は上手く機能し始めた。
また、亜夜子が親との縁を切ったことで自制を止めたことにより、学年トップの座を不動のものとし始めた。それにより、生徒会に対する1年生の認識が変わったことも、上手くいくための一助となっている。
更には、元々プライドの高かった入試首席の七宝が、成績で負けたことが悔しいのか亜夜子へ勝負を挑んだことも、要因のひとつとなった。
その勝負の行方は達也にとって予想通りと言ってよいだろう。亜夜子と七宝とでは、あまりにも実践経験が違いすぎた。
七宝のミリオン・エッジという紙を媒体とした攻撃に対して、亜夜子が取った手段は、極散(極致拡散)の応用により空気の分布へ干渉しただけ。
それにより、酸欠状態に陥った七宝は何が起きたのかすら理解せずに倒れ、制御不能となった七宝の攻撃は、極散の副次的な効果により座標を狂わされて、あらぬ方向へと飛んでいく。
そして、設定した距離を消化した紙は、紙の雨となってパラパラと周囲へ降り注ぐ。
あまりにも呆気ない幕切れに、同席した生徒会のメンバーと風紀委員のメンバーに加え、部活連のメンバーは呆然とその光景を見ていた。
「今のは?」
「このような茶番に付き合うのも面倒なので、瞬殺致しましたが、何か問題でもありましたか?」
「瞬殺って……」
「問題はなさそうだけど……」
七宝に外傷はなく、意識を失っているだけという状況に、七宝の指導役を努めてきた十三束は釈然としない様子で亜夜子を見る。
亜夜子が何をしたのかは、薄々ではあるが十三束には分かった。確かにあのようなことをされれば、魔法力の大小など些末なこと。相手が何をしようとしているのか気付かなければ、十三束の魔法を接触することで破壊する術式解体も役に立たない。
「私とも試合してくれないかしら?」
香澄の言葉に驚いたのは、姉妹である泉美を除いたメンバーだ。
挑発的な態度は取るものの、これまで自ら向かっていったことなど無い。そんな人物が何を思ったのか亜夜子へ宣戦布告したことに、言葉もなかった。
「えーっと……。色々と手続きしないといけないんだけど」
「私は構いません。確か承認は会長、または風紀委員長の承認により試合は可能だったと思いますし」
「確かにそうなんだけどね……」
「すぐに終わらせます」
亜夜子の言葉にまたしてもその場にいるメンバーは絶句する。相手は十師族。その十師族に対して絶対に負けることがないという自信に、何も言葉がでなかった。
「すぐ終わってしまうようであれば、七草としても困りますし、2人で挑んでも構いませんか?」
「泉美ちゃん!」
「ここまで虚仮にされては私も黙っていられません」
「まあ、私もやることには変わり無いんだけどさ」
2人のやる気に、各代表が集まり相談を始める。
「良いんじゃない? やらせても。ここで後腐れ無いようにキッチリしといた方が良いと思うし」
「俺も問題ないと思うぞ。1年の時は何かと挑戦したいと思うしな。危険であれば俺たちが止めれば良いだろう」
「2人が賛成であれば僕に否はないよ」
相談の結果として、相対することになった2組。そんな代表3人に亜夜子は提案した。
「人数的に問題があるのでしたら、司波先輩にこちらへ入っていただいてよろしいでしょうか?」
亜夜子の提案に、3人の顔が達也に向けられる。
名前を出された達也は、僅かに困ったような表情をしたが、こちらを見る2人組を見て答えた。
「2科生の俺でよければ構いませんよ」
「ん~。人数的には良いとして、本当にいいのかい?」
「私は全く問題ありません。むしろこちらからお願いしたいくらいです」
「そこまでいうなら……。2人は問題ないかな?」
「ええ。人数としての数合わせということは理解できました。そこまでの自信を砕いて見せます」
「それでは双方ともに、離れて」
五十里の言葉に、2組はそれぞれ離れた位置に向けて歩いて行く。
「狡過ぎる……」
雫の独り言は誰にも聞きとられることはなかった。
始まった試合は、その瞬間に終わりを迎えた。
アイコンタクトも何もなしに達也が七草姉妹の魔法を粉砕し、亜夜子が止めを刺す。
呆気ない幕切れに、最初の七宝の時以上の静寂がその場に漂った。
亜夜子は達也に軽く礼をすると、達也共々CADを収納しに行く。
この日から亜夜子は、1年における成績と実力の双方がトップであるという認識が広がっていった。
学校生活と会社生活を快適なものとするため、達也が何もしなかったわけではない。
政界における反魔法師派の政治家のスキャンダルを掴んでは、匿名による情報提供を色々な放送局に送りつけるなどの地味な嫌がらせを続けて信頼を落としたり、地域の魔法師に対する悪感情を持つ者たちを裏で操り、同じ感情を持つ連中同士をぶつけたりと、平和な日常の裏で活動を続けていた。
フリズスキャルヴの解析が上手くいっていないが故のストレス解消ではあるが、自分達の立場の向上も兼ねることが出来るため、達也としては一石二鳥のようなものだ。
そのような地道な活動が効を奏したのか、関東方面では反魔法師団体の勢力が他と比べてかなり弱いものとなっている。
そのような活動の賜物なのか、それとも軍の活躍のせいか。
九校戦の種目の大幅な変更は無くなった。
制限はこれまで通り、1選手につき2種目まで。
変わったことと言えば、ミラージ・バットがロアー・アンド・ガンナーに変わったことだろう。
この種目の変更に関しては、昨年度のほのかの飛行魔法が原因だと言える。
高校生のエンジニアに、飛行魔法の術式を弄るだけの技術力はほぼないと言っていい。そのため、この競技を認めてしまえば、第一高校の優勝がほぼ確定となってしまうため、魔法協会としても変更を余儀なくされたのは余談である。
ただ、今回の九校戦でも運営する魔法協会では頭の痛くなるような事が起こった。
技術力に関して自重を止めた達也が、担当選手のCADを大会の規定されたハード内で改造したのである。
この世界に、達也以上に魔法の理論を理解している者はいない。魔法には世間一般にブラックボックスとなっている場所があり、達也にとっては仕掛けをするに十分な場所であると言えた。
ハード的にはスペックを抑えられているはずなのに、市販されている最新のCADを越える性能なのだから、使った選手たちが動揺したのも頷ける。
達也が担当したのは、昨年同様、2年生の雫とほのか、エイミー、それに加えて1年生の亜夜子と七草姉妹と大幅に増えた。
達也のエンジニアとしての腕を知っている2年生や亜夜子はさておき、七草姉妹が手を挙げたのには、他の者も驚きを露にした。
七草姉妹としては、姉である真由美に相談した結果と、亜夜子の自信に溢れた指名に、確信を持っていた部分もある。
ただ、負担が余りにも大きいということで、達也の補助に隅守がつけられた。
「こんなの詐欺もいいところじゃない……」
「流石にここまでとは思いませんでしたね」
香澄と泉美は、大会用に調整されたCADを使いながら、言葉をこぼす。それほどまでに、2人にとって衝撃的なことだった。
CADは身体の一部であり、それを見知らぬ人に弄られることに拒否感があるのが普通である。しかし、香澄たちの手に持つCADは、そんなことを考えることすら失礼であると思わせる出来だった。
それこそ、身体の一部であると思えるほどに親しんだ自分のCADと遜色無い。
「亜夜子が譲らないわけだわ」
「お姉さまも言われてましたし、既にエンジニアとして活動しているそうですよ」
「えっ!?」
「高校生の大会にプロが参加しているようなものですね」
「これって本当に、大会用のCADなのよね?」
「家の者に調べてもらった結果、そうであるとしか答えが返ってきませんでしたし、そうだと思うんですけど……」
泉美は、CADをしげしげと見ながら呟く。
「持って返って調べたの?」
「持ち帰るべきじゃなかったと反省しています」
「学校の備品だしね」
「いえ。そうではなく、どこから話がいったのか、お父様が会ってみたいとおっしゃられて……」
「そこまでの物かぁ」
「最近、海外からの風当たりが強く、会社の業績がよろしくないようですし、技術力が高い方を入れたいのだと思いますよ」
「なるほどー」
泉美の説明に香澄は納得を示す。
既に九校戦での勝敗の事など忘れたように、2人は話し合っていた。
───〆───
あれから約10年。
技術は日々進歩し、その最先端を進むのは、達也が経営するトーラス・シルバーである。
日本の国内のみならず、他国にまでその支店を置き、あらゆる分野でシェアを伸ばしていた。
「もっとお話ししてよ~」
「そろそろ時間。後はほのかに任せた」
「え~。もっと聞きたい~!!」
「続きは私がしてあげるからね」
その部屋には、雫とほのかの他に、3人の子供たちがそれぞれ布団に寝転がっていた。その内の2人はすでに寝付いているが、最後の1人は眠たそうにしながらも、雫の語っていた昔話に耳を傾けていたのである。
「後は頼んだから」
「いってらっしゃい。達也さんたちによろしく言っておいて」
「ん」
雫はテキパキと着替えると、急いで部屋を出ていく。
残されたほのかは、子供の横で添い寝しながら、子供が寝るまで続きを語って聞かせていた。
雫が向かったのは、昔と同じ場所にあるトーラス・シルバーのラボ。そこではこの日、大規模な実験が行われようとしていた。
「計器に乱れなし!」
「結界の状況も良好です!」
「よし! てめーら気合い入れろよ!」
「開始してください」
開始の合図と共に、研究者たちの目の前には、太陽を圧縮したような光を放つ物体があった。
その物体はしばらくそのままだったが、次第に発光は落ち着き、その後に中心で青白い光を放つ球体になる。
「これで、核となる機能は完成ですな」
「皆さんのお陰ですよ」
「いやぁ。これは過去の歴史を遡っても、誰も成したことの無い偉業でしょうな」
「まあ、そうでしょうね」
達也たちが行ったのは、重力制御装置の開発だ。
数年前に永続式の熱核融合炉を完成させ、今度は宇宙開拓を進めるためのプランに着手していた。
電力に関しての不安はなく、宇宙に出た際のコロニーも小さいながら完成した。
学校の校庭並みの広さしかないが、数十人が自給自足で生活できることは、研究者たちが住んでいることにより確認住みである。
そのため、後は宇宙での移動手段として重力発生装置を開発していたのだった。
「これで、またひとつ目標が叶いましたな」
「次は惑星間の長距離移動についてですね」
「短距離の瞬間移動が出来るなら、長距離も可能という考えは嫌いじゃないですぜ」
研究者たちの一部は、達也の隣に立つ亜夜子へと目をやる。
亜夜子は視線を向けられても、なんら表情を変えること無く達也に熱い視線を向けていた。
「おめでとうございます。達也さん」
「ありがとう。亜夜子」
「お熱いことですな」
冷やかしの言葉はそこら中から出るが、2人は気にした様子もない。
そんな2人の空間に、割って入る人物がいた。
「達也さん、おめでとう」
「ありがとう」
雫は達也を挟むようにして亜夜子の反対側に行くと、開発した機器の成果物を見る。
「これが例の言ってたやつ?」
「少し浮いたのがわからなかったか? 多分、この施設の端から見た方が分かりやすいかもな」
モニターの映像には確かに浮いている姿が映っているが、あまり実感の伴うものではなかった。そのため、達也は自分の目で確かめることを勧めたのである。
この日を境に、各国間での戦争は沈静化の兆しを見せ始めた。
他の国に先駆けて日本が宇宙へ進出し始めたのが大きいだろう。
各国はこぞって技術提供をトーラス・シルバーに申し入れ、達也はこの件に賛同的な技術員を派遣し宇宙開拓への推進に努めた。
その数年後、長距離移動の技術開発に成功した達也は、過去へ遡る開発を手掛けることになる。
すいません。
リハビリ失敗致しました。
ここで他の作品のことに触れるのはあれですが、多分あの作品の続き書けよ!と思われる方が多いかと思います。
ハッキリ言って思い浮かばないんですorz
お詫びの変わりに、やる気のあったときに作ってた作品(未完)をチラ裏に投げときます。
それでは長々と言い訳失礼しました。