司波達也の日常   作:ネコ

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第3話

 部活の勧誘期間中に達也たちが関与しないところで発生した人傷沙汰の事件により、生徒たちのCADの携帯に関する罰則が強化された。

 内容に関しては、剣術部と剣道部のデモンストレーション時に、どちらがより上かという言い合いから剣術部の生徒が殺傷の高い魔法を使用し傷付けた、と言うものだ。

 負傷した生徒の傷自体は浅かったものの、傷付けた方が1科生であり、傷を受けた方が2科生であったことから、1科生と2科生の間にあった溝は学年の垣根を越えて更に深まっていった。

 

「達也くん聞いた?」

「何をだ?」

「剣術部の人が1ヶ月の停学だって」

「ああ、その件か」

「俺も聞いたぜ、殺傷ランクB相当の魔法を使ったらしいな」

 

 達也の前の席にいたレオも話に加わり、美月の隣に立っているエリカの話に補足を加えてくる。

 魔法にはその規模や内容によりランク付けがあり、特殊なものを除き、最大をAとして、その後B、Cとランクがある。

 今回はその中でもBランクと言うことで、十分に相手を殺害することが可能な魔法だったことを表していた。

 

「相手が軽傷だったからって、1ヶ月の停学ってなんか対応が温いわよね。風紀委員はちゃんと仕事しろっての」

「言い方はあれだが、それは俺も思ったぜ。寧ろ、察にパクられるような案件だと思うんだけどな」

「そんなことがあったんですね」

 

 エリカとレオは今回の対応に不満があるようで、その言葉の端々に嫌味のような言い回しを含んでいる。

 美月は話を初めて聞いたのか、二人の話を聞いて頻りに頷くばかりで完全に聞き手へ回っていた。

 

「ただ、魔法を使用した先輩は、どうも暗示に掛かっていたようだけどな」

「「暗示?」」

 

 達也の言葉は、エリカとレオの双方にとって初耳だったようで、二人同時に声を揃えて達也を見る。

 

「魔法の使用に関する理性が僅かに緩くなっていたようだ。それも含めた検査入院と言うことで1ヶ月の停学なんだろうな」

「いったい誰が掛けたって言うんだ? 精神に作用する魔法は許可が無い限り違法だろう?」

「それはどこから聞いたの?」

「噂を耳にしただけだ。詳細は知らないな」

「ふーん……」

 

 達也の言い方に、エリカは若干詰まらなさそうに答えるのみで特に反応は示さなかった。

 

 

 

 4月も半ばに入り、生徒同士の立ち位置が明確になり始めた頃、昼休みの休憩時間にそれは起こった。

 

『これより……』

 

 急に始まった放送に、教室で談話をしていた生徒は勿論のこと、廊下や食堂にいた生徒も、その音量の大きさに驚き、食事をしていた者は箸を持つ手を止め、話していた者は口を閉ざす。

 

「いったい何事?」

「何か連絡しようとしたようだが、ボリュームの設定をミスったようだな」

「連絡なんてデバイスで十分じゃない?」

「そうだよな……」

 

 静かに聞き耳を立てていた生徒たちも、先程の放送に話題が変わる。

 それほど校内放送は珍しいことであり、話題に上がるには十分な出来事だった。

 

『あー。あー。───みなさん。お昼休みの貴重な時間ですが、拝聴願います。

 私たちは今の学校運営に不満を持つものです。なぜここまでの行動に至ったか。それは今年度に入ってからの立て続けに起きた事件が起因しています。

 まず、入学早々に起きた1科生による魔法の無断使用です。本来魔法の無断使用は犯罪に当たりますが、その生徒は特に謹慎などの処分にされることなく学校に来ています。

 次に、部活動においても同様の事が起きました。先週にあった部活勧誘期間において、殺傷性のある攻性魔法が1科生により使用されたのです。本来であればその部活は活動停止処分を受けるのが妥当にも関わらず、現在も活動しています。

 確かに私たちの通っている学校は魔法を学ぶ場ではありますが、あまりにも秩序が無さすぎます。私たちはこの原因が現在の運営体制にあると考えており、1科生のみで構成されていることが要因の1つであると───』

 

 長々と不満を言い綴る生徒のバック音声からは、時折扉を叩くような音がしており、それはこの放送が予定していたものではないことを表していた。

 

「放送室を占拠だってよ!」

「見に行ってみるか?」

「いま行ってきたが、人が多すぎて近付けなかったぞ」

 

 教室へ駆け込んできた生徒の話を聞いて、達也たちは顔を見合わせる。

 放送室に行ったからといって何かできるわけでもなく、寧ろ野次馬根性を出すことにより、その場を混乱させることになりかねない。

 それを理解していたがために、達也たちはその場から動こうとはしなかったが、興味があることには代わりはなかった。

 

「役員は大変だな」

「そうよね~。まあ、この放送にしても、言いたいことは何となくわかるけどやってることはテロだしね」

「テロ……ですか?」

「そうでしょ。放送室を不法占拠して、自分たちの主張が正しいと言い張り、要求が飲まれるまで閉じ籠るって……。小学生かっての」

「確かにな……。しかも要求の内容がなぁ……」

 

 要求は、非魔法クラブの優遇や現体制の解体など、その場で簡単に決められるような内容のものではなかった。

 達也たちのいる教室が2科生と言うこともあってか、放送の内容に関して否定はしないが、肯定というには微妙といった空気を醸し出している。

 

「俺たちがここで何を言っても変わらないさ」

「それもそうだな」

「ところで、部活に仮入部した感想はどうだ?」

 

 放送の内容に関しての意見を締めると、達也は部活の話題へと変える。

 

「それがよ。仮入部だからって楽しませてくれる訳じゃなく、みっちり時間一杯まで体力作りでよ。あれじゃあ、仮入部で何人が残るのか不安になっちまうぜ。確かに体力が無いと厳しいけどよ……」

「最初からとは珍しいな。最初は楽しい思いをさせるものだと思ってたんだがな」

「俺もそう思ったけどよ───」

 

 達也たちは静かになった放送を気にも止めなかったが、これが達也を巻き込むことになるとは、この時は誰も思いもしなかった。

 

 放送室立て籠り事件があった週の終わり。

 カリキュラムの調整の結果、午前中に全校集会が設けられることとなった。

 この日達也は、授業が無いのであればと欠席し、家の中に引き籠っていたが、この集会の場で決定された内容が自分の影響を与えるなど知るよしもない。

 学校に着くなり、いつもより自分に向けられる視線が多いことを不思議に思いながら教室に入ると、一斉に視線が達也に集まる。

 達也は何事かと思ったが、美月の席の近くで達也に向けて手をこまねいているエリカを見て、気にせずに自席へ行く。

 

「おはよう」

「おはよー」

「おう」

「おはようございます」

「どうも視線を集めるんだが、何かあったのか?」

 

 挨拶もそこそこに、何かを言いたそうにしているエリカへ、学校に来てから感じることを達也は訊ねる。

 

「達也くんは掲示板見てないの?」

「今学校に着いたばかりで、まだ見てないな」

「まあ、見たら一目瞭然だろ」

 

 達也は教える気のない3人へ呆れ気味な目を向けると、掲示板に行く手間を惜しんでデバイスを立ち上げた。

 そして、お知らせに記載された自分の名前に目が行く。

 

「達也くんも大変よね。これから頑張って!」

「何故こうなったのか、全く要領を得ないんだが?」

「俺はいいと思うぜ?」

「頑張ってください! 応援してます!」

 

 内容には触れずに励ましの言葉を掛けられるが、達也には理解できないことが増えるばかりだ。

 その時間は達也の疑問が解消されることなく、過ぎていった。

 しかし、1時限目のカリキュラムが始まる前に事態は動く。

 ざわざわと生徒の話し声が上がっている方へ達也が目を向けると、そこには上級生が教室の入り口に立ち、教室中を遠慮気味に見ていたのだ。

 その人物───摩利は達也を見つけると、素早く近づき達也だけに視線を合わせる。

 

「時間を貰いたい。授業については話をしてあるので、単位について気にする必要はない」

「単位は気にしていませんが、何の用でしょうか?」

「昨日集会があったことは知ってるな?」

「ええ。休んではいましたが、事前に周知がありましたので知っています」

「その会議で、君が生徒会役員に任命された」

「内容は意見討論会だったはずですが?」

 

 掲示板に記されていたのは、達也が生徒会入りをする事についてだった。しかも丁寧なことに簡易なプロフィールと顔写真までつけている。

 意見討論会で何故、任命にまで繋がったのか達也には全く理解できない。

 

「まあ、ここで説明もなんだし、その辺は生徒会長に直接聞いてくれ。さあ行くぞ」

 

 摩利は有無を言わさず決定事項として教室を出ていく。その間、全く振り返ることはしない。

 達也は溜め息混じりに、ニヤニヤと笑みの絶えない二人を一瞥して教室を後にした。

 

 達也が連れていかれたのは、二度目となる生徒会室。

 そこには、生徒会役員だけではなく、これまでに見たことのない生徒たちも座っていた。

 部屋の中では誰も話すことなく静まり返っている。

 部屋の中にいるのは以前にも話したことのある学生代表の3人と、見覚えのない女子生徒。顔だけは知っている生徒会役員書記である2年の先輩だった。

 

「お呼びとのことですが、何のご用でしょうか?」

「呼び出してごめんなさいね。既に聞いているとは思いますが、達也くんは生徒会役員に選ばれました。突然の事で驚いているとは思います。本人の了承を得ずに進めて───」

「先ずは、何故そうなったのか経緯を教えてください」

 

 達也は真由美の謝罪を遮る。

 僅かにそうなるかもしれないと達也は予感していただけにショックは少ないが納得はできなかった。

 

「分かったわ。現在の規則では1科生しか生徒会役員になれないことは知ってる?」

「ええ」

「それが昨日あった全校集会で変更になりました。内容は生徒会役員に2科生を入れるというものです。最近、1科生による問題行動が増えたことから、その原因は1科生だけで運営しているから……ということになったの。そこで、2科生を運営に関わらせることになったのだけど、入れるとして3年生はもうすぐ引退するから論外。1年生と2年生どちらを入れるか考えたときに、後々のことまで考えるのであれば1年生が望ましいという結論になったわ」

「1科生のみの運用では客観的に見ることが出来ないから2科生を入れると……。そこで、どうして俺なんです?」

 

 達也は一番の疑問を繰り返す。

 2科生を入れる事は分かったが、それを達也がしなければならないということには繋がらない。

 

「それはあなたの成績よ」

「成績? 言ってはなんですが、俺の成績は2科生の中でも良くて中位です。生徒会の要件には満たないと思われますが?」

「私たちが見たのは実技ではなく筆記の方よ。達也くんは筆記試験をダントツの成績で合格しています。二位との差は平均点で十点以上。魔法力で選んでいたら、今の1科生を選ぶのとそう変わらないので、逆に筆記試験が良かった人を選んだの」

 

 点数差までは聞いていなかったのだろう。生徒会役員を除く者たちは驚きを隠せずに達也を見つめる。

 達也は皆からの視線を気にすることなく真由美を見る。

 

「だからと言って、生徒の意志を無視するというのは如何かと思いますが?」

「どうしても駄目かしら? この話は既に先生方にも了承を得ているのだけど」

「あなたが入らなければ、私たちが頑張った意味がなくなるのよ! あなたも2科生でしょう!? 1科生からの嫌がらせは少なからずあったはずよ!」

 

 それまで静かに事の経緯を見守っていた女子生徒が急に大声をあげる。

 その声に達也は聞き覚えがあった。

 思い当たるのは、放送室を占拠して演説していた生徒の声。

 達也は目を細めて女子生徒を改めて見る。

 

「あなたは?」

「2年の壬生沙耶香よ。私の事はどうでもいいわ。それよりも、今がチャンスなのよ。この腐った体制を───」

 

 達也の動きは早かった。

 沙耶香が話に夢中で完全に無防備で、達也に詰め寄った際にその首を掴み一瞬で意識を奪う。

 

「この生徒は病院に見せた方がいいでしょう」

「なっ!」

 

 悪びれもせずに気を失った女子生徒を抱き上げて宣う達也へ、驚愕の視線が向けられる。

 それもそうだろう。何の予告もなく、話している最中にいきなり相手の意識を奪ったのだから。

 

「あなた……何をしたのか分かってるの?」

「こちらとしては、何故皆さんが気付かないのか不思議なのですが」

「あなたがやったことは暴行罪に値するのよ? ましてや、ここには客観的な立場である者がほとんど。言い逃れなど───」

「少し待て七草」

「でもね十文字君……」

 

 真由美は十文字の視線を受け、浮かせていた腰を椅子に降ろす。

 

「司波。我々が何に気付いてないと言うのだ?」

 

 返答次第では容赦しないとばかりに、十文字の圧力は上がっていく。

 それに伴い、その圧力に慣れていないのだろう。書記をしていた女子生徒は顔を俯かせ、十文字から視線を外して体を僅かに震わせていた。

 

「壬生先輩はマインドコントロールを受けているようです。医者に見せて掛けられた術を解くべきでしょう」

 

 達也は抱き抱えていた沙耶香を十文字に預ける。

 そして、話は終わりとばかりに部屋を出ようと扉に向かう。

 

「待て司波!」

「何でしょうか?」

「どうしてマインドコントロールを受けているとわかる?」

「相手の状態を分析することが得意だから……と言うことで納得していただけませんか?」

「───分かった。今日のことについては明日連絡しよう」

「それでは失礼します」

 

 達也は部屋にいる者の気が変わる前にそそくさと部屋を出て行く。

 残されたものたちは、誰も達也を引き留めることなく部屋を出ていくのを見送った。

 

「とりあえず、俺が壬生を病院へ連れていく」

「そうね。マインドコントロール云々はともかく、意識を失うような事をされたのだから、一度は見てもらった方がいいわ」

 

 十文字が沙耶香を抱えたまま保健室に向かうのを見て、部屋に残された真由美たちは緊張の糸が切れたように息を深く吐き出す。

 

「それにしても、動く前兆を全く感じなかった上に、私が反応できないとは……」

「仕方ないわ。誰もあんなことをするなんて思いもしなかったんだから」

「うう……怖かったです……」

 

 それまで、震えていた書記───中條梓の声に、居ることを忘れていた二人は顔を見合わせ、忘れていたことの贖罪とばかりに慰めていた。

 

 

 

 達也が呼び出された翌日。

 予想通りと言うべきか、登校して早々に再び生徒会室への呼び出しがあった。

 達也はどこか諦めたように、生徒会室の扉を潜る。

 

「率直に言おう。今回の実績を持って、司波の生徒会入りは不動のものとなった。

 ちなみに司波が気絶させた生徒だが、魔法による精神疾患で1ヶ月ほど入院することになっている」

「生徒会に入るのは構いませんが、入った際のメリットを教えてください」

「通常であれば、生徒会に入ることは名誉なことなんだが……、そう言うことではないんだな?」

「ええ。具体的なメリットがなければ、雑用係など御免です。ただでさえ、2科生という肩書きですので……」

「雑用係って……」

 

 真由美は達也の生徒会に対する評価に落ち込む。

 達也は真由美の態度を気にした様子もなく、部屋にいる者たちを見渡した。

 皆はそれぞれ表情は違うが、どのような判断が下されるのかと、真由美の方を見ている。

 

「では、図書館のデータベース使用の優先権っていうのはどう? 混んでるときにも1台は生徒会が優先的に使えるようになってるの。

 図書館の利用が多いみたいだし、便利だと思うんだけど」

「合わせて地下書庫へのフリーパスもあれば引き受けます」

「地下書庫……? 何か特別なものってあったかしら?」

「地下にあるのは、古文書と言えるような古い文献がほとんどです。一般の生徒が見ることはほとんど無いため知らないのも無理はないかと」

「それなら大丈夫……かな?」

 

 真由美は他のメンバーの顔を窺う。

 特に反対意見はないのか、真由美と目が合うと頷くばかりだ。

 

「興味があって聞くんだが、何を見るつもりなんだ?」

「一般的に出回ってない資料が多いので、魔工師志望としては見ておきたい資料があるだけです」

「司波は魔工師志望だったのか……」

 

 摩利が意外そうな口調で達也を見る。

 摩利がそう感じるのも、達也の昨日の対応を見て、かなりの力量があると感じた為だった。

 そのため、警官などの実力を伴う職業を目指していると思ったのである。

 

「司波の技量を見たいのだが構わないか?」

 

 それまで沈黙を保っていた克人が達也に訊ねる。

 

「今からですか?」

「いや、放課後だ。時間もかかるだろうしな。

 部屋はこちらで押さえておく」

「何かあるの?」

「九校戦のメンバー候補を見ておこうと思ってな」

「達也くんがメンバー?」

 

 真由美が不思議に思うのも仕方がない。九校戦は魔法力を競い合うため、魔法力の乏しい2科生では、勝負にならないと言うのが一般常識だ。そのため、真由美は克人に疑問を投げ掛けたのだった。

 

「語弊があるな。メンバーと言っても選手ではなく、CADのエンジニアとしてだ。

 司波は魔工師志望。テストの結果から、魔法に関する理解も深いことが分かる。その上、更に自らの知識を高めようとしているのだから、それを手助けするのも上の努めだろう」

「確かに、エンジニアは毎回選出に困っているからな……」

「エンジニアに頼りっぱなしの人が言うと重みが違うわね」

 

 摩利の何気ない一言に、真由美はジト目で反応する。

 摩利は目線を合わせないように、窓の外へ視線を移した。

 真由美の言葉からも分かるが、摩利はCADの調整が自分で出来ない。そのため、毎回エンジニアに頼っているのだが、真由美はそんな摩利に事あるごとに、自分で調整できるようにと呼び掛けているのだった。

 

「では、今日の放課後にこの場所に集合でいいわね? その時に先程の許可証を渡します」

「───分かりました」

 

 達也は、内心の思いを表情には出さずに承諾した。

 

 

 

 放課後に達也が集合場所へ訪れてみれば、既に他のメンバーは集まっており、入ってきた達也の顔を凝視している。

 集まったのは、既存の生徒会メンバーである4人と、1年生から生徒会に新任された雫。そこに、部活連から克人と風紀委員から摩利という内容だ。

 

「本当にこのような事を1年にさせるのですか?」

 

 挨拶もそこそこに、わざと聞こえるように克人に問い質したのは、生徒会副会長である服部だった。

 

「させなかったらこんな場を設けるわけないだろう?」

「そういうことではなくですね」

「服部君は黙ってて」

「……」

 

 真由美に叱られて黙った服部は納得がいかないのか、イライラの矛先を達也に向ける。

 達也はそんな視線に気付いてはいたが、敢えて何も言わずに無視していた。

 

「それでは、さっそくではあるが技師としての実力を見せてもらおうか」

「どなたでも構いませんよ。2科生に調整を任せても良いという方が居れば、ですが」

 

 達也の挑発的な物言いに服部は何かを言いかけるものの、口をつぐむ。

 言い方は挑発的だが、2科生としての立場を弁えているとも取れる発言だからだ。

 自らの首を締めるような行為をわざわざ止める必要もないと、沈黙したにすぎない。

 しかし、そんな事が通じたのはほんの一部で、それ以外のメンバーは気にせずに話し合っていた。

 

「この場を用意したからには、俺が率先してやるべきだろう」

「いやいや。ここはやはり、私のデバイスの調整をだな」

「ちょっとずるくない? 生徒会に入るのだからそこのトップが見るべきよ」

 

 何故か達也の調整に乗り気になっている状況だった。

 達也は困惑していたが、まさかという思いを込めて、雫に視線を向けると、雫は我関せずとばかりにそっぽを向く。

 

「なぜ皆さんそんなに乗り気なのでしょうか?」

 

 達也は確認の意味を込めて訊ねる。その答えは半ば予想した通りだった。

 

「司波くんは、北山さんのCADの調整をしていると聞いたからよ」

 

 真由美からはそれ以上の説明はなかったが、その場にいるものたちにはそれで十分だった。

 北山といえば、一代で大富豪の仲間入りを果たしており、それ故に商売上で信用できない者を使うことは、まずあり得ない。

 その考えからいくと、娘である雫のCADも、信頼できるプロの魔工師に任せるものであり、それだけの腕があるということを保証するものだった。

 そのため、雫が漏らした内容を察して、実力を見たいと思うのは、上の立場にいる者として当然の帰結なのかもしれない。

 ただし、その話を聞いても納得していない生徒がいた。

 その唯一の生徒───服部は疑わしい目を達也に向けている。

 聞いたことが信じられないと、その目は物語っていた。

 

「負けか……」

「くっ! この気合いを込めた拳が負けるとは……」

「やったわ!」

 

 じゃんけんで勝ったことに喜ぶ真由美は、小躍りしながら調整用の椅子に座り、自らのCADを机に置いた。

 

「さあ、司波くん! 早くここに!」

「分かりました」

 

 真由美は、楽しみなのが分かるくらい顔を綻ばせており、達也が席に座るのを今か今かと待ち構えている。

 

「調整するのはこのCADでよろしいですか?」

「ええ。お願いね」

「では準備します」

 

 達也は真由美のCADを手に取り、調整用の台に乗せて接続し、デバイスを起動する。

 そして、CAD内に保管された起動式を読み取り、幾つかのプログラムを立ち上げた状態で、真由美に向かい合った。

 

「それでは、そのパネルに両手を置いてください」

「はい。これでいい?」

「いつもと同じ感じでお願いします」

 

 達也はデバイスを操作して、真由美の想子波特性データを読み取っていく。その間も、CADの解析を進めていた。

 

「もう結構ですよ」

「もういいの?」

「ええ。後はこちらで調整します」

 

 話ながらも、達也の目線はモニターから外されることなく、指も動き続ける。

 第一高校が所有する調整機には自動調整機能が付いているため、この測定が終われば自動的に合わせてくれる。しかし、機械が行うことはベターではあるがベストではないため、プロの魔工師と比べると雲泥の差が出来てしまうのだった。

 

「───凄い……」

 

 ぽつりと漏れた声は、生徒会所属の中條梓。

 梓はエンジニアとして活動しているため、ことのほか達也の技量の凄まじさが理解できていた。

 モニターは激しく動き続け、達也の手も止まらない。

 常人には本当に見えているのかと疑いたくなるようなスピードに、達也が今何をしているのか理解できた者はほぼいなかった。

 その時間も約十分という短い時間で終わりを迎える。

 

「ふぅ……」

 

 達也は目頭を押さえて揉むと、CADの接続をはずし、真由美に手渡す。

 

「元々のCADに弄るべき所が少なく、とても良い調整がされていましたので、今回は魔法を使用するに当たっての負担を減らすことを念頭に置いて組み直しています。

 確認してみてください」

「───こんなに……」

「どう違うんだ?」

「何て言うか、自分の身体の一部と思えるくらいって言ったらいいのかしら……」

「それほどか……」

 

 手に取り想子をCADに流し込んだことで今までとの違いがわかったのだろう。

 真由美は驚きも露に達也を見た。

 周囲は真由美の反応を見て興味深々に、達也の調整したCADを見ている。

 

「ここまではっきり変わるものなのね」

「次は私のでやってくれないか?」

「確認するだけであれば一人で十分なはずですが?」

「ケチケチするものじゃないだろう? 減るものではあるまいし」

「時間は減ります。と言いたいところですが、構いませんよ」

 

 その後、達也は摩利、克人、梓の分を手掛けることになり、その説明に追われたため、この日は生徒会の内容について話すことなく刻限を迎えた。

 

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