司波達也の日常 作:ネコ
月日が流れるのは早く、達也たちの入学から、あっという間に3ヶ月の月日が過ぎ去っていった。
達也の忙しさは、五月に入ってから更に増し、土日の休みは勿論の事ながら、平日の夜中にも仕事をしなければ追い付かないような有り様にまでなっている。
それと言うのも、先日に発表した飛行術式が原因だった。
今まで加重系統の技術的な三大難問とひとつと唱われてきたものが、事前に魔法協会への打診などなく、公表されたのだから問い合わせが殺到するのは当然と言えるだろう。
しかも、達也が抱え込んでいる者はほとんどが研究者であり、その中に接客などのスキルを持つものはほとんどいない。
そんな者たちに、外部の対応を任せてしまえば、余計な事にまで波及するのは明らかだった。
今のところは現場の責任者である牛山が秘書と共に対応している。しかし、それにも限度がある。
そのため、対応の窓口は減らすしかなく、解決までに時間が掛かるのは致し方なかった。
「達也さん。お疲れさまでした」
「ああ。亜夜子か」
達也が今日の報告書をまとめ終え、椅子の背もたれに体重を掛けたところで声が掛けられた。
部屋に訪れたのは、黒羽亜夜子。
達也の再従妹であり、達也の手助けという名目で親元から送られてきた人材だった。
亜夜子の仕事は秘書の統括的な業務であり、秘書の三人とは別に仕事をこなしている。
基本的に対外的な対応は亜夜子が行っており、その対応の仕方は、見た目とは違って本当に中学生なのかと疑わしいことこの上なかった。
「コーヒーになります」
「ありがとう」
達也は亜夜子からコーヒーカップを受け取り、ゆっくりと口に運ぶ。
亜夜子の入れたコーヒーは濃く、眠気を取り去るのに十分なものだった。
そんな達也の隣にある丸椅子に亜夜子もカップを片手に腰掛け達也を見る。
「今日も遅くまでされるのですか?」
「ああ。一段落ついたとはいえ、発注依頼を受けている物の納期が、半年先まで入っているとなっては、睡眠時間を削るしかないだろう? まあ、小さな会社としては嬉しい悲鳴と言うやつだ」
「無理は体に禁物です」
「分かってる。もう少し進めたら寝るつもりだ。亜夜子も明日は学校だろう? 早く寝ておいた方がいいぞ」
心配そうに見てくる亜夜子の頭を撫でると、亜夜子は顔を紅潮させて慌て出す。
「子供扱いしないでください! これでも達也さんとは1歳しか離れてないんですから!」
「済まないな。それは気づかなかった」
「もういいです!」
顔を赤らめたままそっぽを向く亜夜子に、達也はどこか懐かしく思いながらも、亜夜子の機嫌をどうやって回復しようかと、その髪を撫でながら考えるのだった。
学校の授業にも生徒たちが慣れて余裕が出来始めた頃。
生徒たちは学校での娯楽を求めるように、噂話しに対して敏感に感じとるようになっていた。
そんな噂と無縁なのは、当の本人たちだけであり、辛うじてその周囲の人達くらいだろう。
わざと隔離されたような形になってしまっているが、それを咎めるものがいないのもまた事実だった。
しかし、噂と言うのは広まれば広まるだけ、漏れるリスクが増大し、本人の知るところとなる。
「達也。ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「どうしたんだ? 改まって」
「達也はエリカと付き合ってるのか?」
「何?」
「えっ?」
レオの質問の内容が理解できなかったわけではなかった。しかし、そのような質問がくるとは思っても見なかった達也は、思わず聞き返してしまう。
驚いたのはエリカも同じようで、達也と共にレオを見ていた。
「俺が知ったのは最近だが、結構前から噂になってるみたいだな」
「初耳だな」
「私も……」
「お二人は付き合ってるんじゃなかったんですか?」
それまでの視線を180度変えて、今度は美月に視線を向ける。
「まさか、美月が広めたんじゃないでしょうね?」
「そ、そ、そんなことないですよ! 周囲では普通にカップルとして認識されていたので、てっきりそうだとばかり思ってただけで!」
必死に言い訳を語る美月を、エリカは顔を真っ赤にしながら威嚇するように見つめる。そんな美月は顔を真っ青にして慌てふためいていた。
美月が勘違いするのも無理はない。
むしろ、そう考えることが自然と思えるほどに、二人が行動していることが問題だったと言えるだろう。
二人ともに部活動をしておらず、授業が終われば帰宅するのみ。
入学初期の印象のせいなのか、帰宅部が原因なのか、はたまた性格が原因なのか。エリカの交遊関係はそれほど広がりを見せず、他の同級生と帰ることも少なかったことから、自然と達也と共に帰ることが多くなった。
達也としても駅までは一緒のルートであるため、エリカの帰りの誘いに特に意識することもなく乗っていた部分があった。
そのような事が続けばどうなるか……。
端から見れば二人は恋人か何かだと考えても仕方ないだろう。
「それほど気にすることでもないだろう」
そう言って間に入ったのが、噂の当人である達也だった。
「えーっとそれって……」
「所詮は他人の噂だ。飽きてくれば噂すらされなくなる」
「そ、そうよね。ハハハハハ……」
誤魔化し笑いをするエリカを、達也は不審気に見るのだった。
気にするなと言われた手前、エリカとしては意識せざるを得なかった。
授業中に達也の顔色を何度か周囲にバレないように窺ったが、全く表情の変化は見られない。
(全く! 少しは反応してくれても良いじゃないの! これじゃ自意識過剰な奴みたいじゃない!)
普段友達感覚で意識していなかっただけに、それまでの行動を振り返ってエリカは頭を抱える。
そんなわけで、授業に身が入らなかったエリカは、当然のごとく休み時間を削って補講することになった。
「こんな始めの頃から補講になって大丈夫なのか?」
「大丈夫なわけないでしょ!」
八つ当たりとは分かっていても止められないのか、エリカは測定器に向けて想子を流し込みながら答える。
達也はやれやれとばかりに、自席の方へと視線を向けると、心配そうにエリカを見る美月と視線が交わる。
達也は肩を軽くすくめて見せると、エリカの席に購買で買ってきた物を置いた。
「差し入れだ。適度に休憩を入れることだな」
「───ありがと……」
ボソボソと小さい声で礼を言うと、エリカは袋の中からパンを取り出しくわえながら再び挑戦し始める。
「どうでした?」
「何やらむきになっているせいで、制御をミスっているようだな」
「やっぱ、朝の事が気になってるのかね」
「そうかもしれないな」
レオは達也を窺うようにして話している。レオとしても、二人の関係には興味があるところだった。
「そのわりに達也さんは平然としてますね」
「特に何かを損するわけでもないし、気にするものでもないだろう? 女子だとそう言うわけにはいかないかもしれないが」
「いや。男だとしても気にするだろ、普通……」
呆れたようにして答えるレオに、達也が答えようとしたところで口をつぐむ。
レオは不審に思い声をかけようとしたが、顔に命中した上履きによって阻まれる。
「あの女……」
「話題にするなと言うことだろ。それよりも、もうすぐ九校戦だが二人は見に行くのか?」
「───毎年見に行ってるぜ。テレビで見るよりも実際に見た方が燃えるしな」
「私も行くと思います」
達也は二人の意識を身近に迫ったイベントに向ける。
顔に上履きを投げ付けられたレオも、文句を言いたいのを抑えてその話題に乗ってきた。
美月もレオに賛同してくる。
「達也はどうするんだ?」
「俺も行くんだが……」
「どうしたんだ? 行くなら一緒に行こうぜ」
「私もご一緒して良いですか?」
「おう」
「俺は先に行くことになる」
「ん? ───そういや、エンジニアだっけか」
「あっ!」
「そう言うことだ」
ここで改めて達也が違う立場で行くことになるのに気付いた二人は微妙な顔をし始める。
当初の予定ではレオと達也と美月とエリカの四人であるため、バランス的に丁度良かったが、現在のメンバーはレオと美月の二人。
これがレオ一人であれば、他の男友達を誘っていけるのだが、美月に対して一緒に行くと言ってしまった手前、美月の事を考慮しなければならなくなってしまった。ここにエリカが入ってくるとなると、両手に花ではあるが、居心地が悪いのは間違いない。
そんな考えに没頭していたからだろう。
近付いてくる人物がいるのにレオは気が付いていなかった。
「私も行くから」
突然掛けられた声に反応してレオが顔を上げると、仁王立ちしたエリカが、一人の男子生徒を捕まえて来ていた。
「いきなり、引っ張らないでくれ!」
「ミキがめんどくさそうにするからでしょ」
「僕の名前は幹比古だ!」
エリカが連れてきたのは、同じクラスにいる吉田幹比古だった。
幹比古は、エリカの行動に対して不満があるようで、捕まれた手を離そうと躍起になっているが、解くことが出来ないでいる。
「あんたが心配しているようなことはないから安心なさい」
「安心できる材料が無いんだが……」
「宿泊場所でしょ? うちで取っとくから問題なし。ミキも来るのよ?」
「何で僕がいかないといけないんだ!」
「たまには他の事に目を向けるのも大事だってことよ。あんたの親にも話しとくから逃げられないわよ」
エリカの一言で、幹比古からの抵抗が無くなる。
エリカはそれを確認してから幹比古の手を離した。
「親まで使うとは鬼だな」
「使えるものは何でも使わないと損でしょ」
「その考え方はどうかと……」
幹比古に対して同情的な二人に、エリカは眉値を寄せて不機嫌そうな表情になるが、何かを思い付いたように笑みを浮かべる。
「ふーん……。そんなに二人で旅行がしたいわけね」
「「!?」」
いきなりの発言に戸惑うのも無理はない。
先程まで、似たようなことを考えていたレオにとっては尚更だった。
「その辺にしておいたらどうだ」
「達也くんもこの二人の肩を持つんだ?」
「そう言うわけではないが」
「じゃあどういうわけよ?」
今度はエリカの矛先が二人から達也に向かう。
しかし、達也にはその矛先をかわす術があった。
達也は前方の壁に向けて指を指す。
エリカもその指先の方向へ、なぞるように視線を向けると、その方向には電子時計があった。
今の時刻は昼休みの終わる1分前。
休み時間がまもなく終わることを告げていた。
エリカは時間を確認し、何も言わず席に戻っていく。
それからのエリカは誰と話すでもなく、静かにカリキュラムをこなしていた。
入学してから初めての定期試験を終えて、学生たちの気が緩んでいる中、達也の目には隈が浮かんでおり、疲労が目に見えてハッキリと出ていた。
「どうした達也? 試験は終わったんだからパーっとどこかに行こうぜ!」
そんな達也に向けてレオは元気づけようと、肩を叩きながら誘ってくる。
「例の喫茶店で軽く慰労会でもやる?」
「いいですね。たまには息抜きをしないと」
いつものメンバーが賛同したことで、達也も重い腰を上げた。
「そうだな。たまには息抜きも必要か」
「達也さんは今回そんなに勉強したのですか?」
「いや。勉強と言うより資料を見ていたというか……違うことをしていた」
「さっすが余裕がある人は違うね~」
「時間的な余裕はないがな……」
達也の言っていることの意味を理解できる者はいなかったが、久しぶりに集まって騒ぐということで、特に気にせずに話を流す。
「よし! じゃあ行こうぜ!」
レオの言葉で全員立ち上がり、教室を出ようとしたところで、四人は待ち構えていた人物に足を止められる。
「達也さん一緒に帰りませんか?」
「……」
待っていたのは、Aクラスにいるはずの雫とほのかだった。
今日は試験の最終日ではあるが、午後からは学校の都合上、下校するように連絡が入っているため、部活もない。
そのため、二人は久し振りに達也と共に帰ろうと待ち構えていたのだった。
「いいか?」
「俺は別に人数が増えたところで大丈夫だぜ。あそこのマスターもお客が増えるんだし、文句ないだろ」
「私も色々聞きたいことあるし賛成~。多い方が楽しいもんね」
「もちろんです」
声を掛けてきた皆の返事を聞いて、ホッとしたような表情をすると、笑顔でみんなに挨拶する。
改めての自己紹介は喫茶店ですることにし、その場では簡潔に終わらせると、外に向けて歩き出す。
季節は夏に入りかけな事もあり、外の気温は軽く運動すれば汗をかく程度には暑かった。
学校からは近く、大通りから外れた場所にある喫茶店の扉を開く。
店内からは涼しげな空気が、扉を開けた瞬間に漏れ出てきて、店を訪れた人に快適な気分を味あわせている。
「マスターお久し振り!」
「いつものとこ使うねー」
「お邪魔します」
マスターへ挨拶をしながら、レオたちは一番奥の場所へ特等席とばかりに陣取った。
陣取った場所は、Uの字型のソファーになっており、外からは見えにくい位置にあった。
「二人は奥ね」
エリカの勧めで、雫とほのかはソファーの奥に座り、それをエリカと美月で挟むようにして座る。
その後に、男二人がソファーの両端に座って席が整う。
「本日はどうされますか?」
タイミング良くやって来たマスターに軽く注文をする。
注文の品がくるまで、時間もあることから、改めて挨拶を交わした。
「1ーAの北山雫です。よろしく」
「同じく、1ーAの光井ほのかです。よろしくお願いします」
「俺は西城レオンハルト。長いからレオで良いぜ。よろしくな」
「柴田美月です。こちらこそよろしくお願いします」
「私は千葉エリカ。よろしくね。私の事はエリカって呼んで。二人も下の名前で良い?」
「うん」
「はい。もちろんです!」
「俺もした方がいいか?」
「当たり前だろ?」
「そこは、空気を呼んでしてほしかったな~」
「俺にボケの才能はないから無理だな」
達也をからかうのもそこそこに、エリカは雫とほのかへ質問を始めた。
「Aクラスってカリキュラムはどんなことしてるの?」
「多分、そんなに変わったことはしてない。ただ、担当の教師がつくから、その場で聞くことができる」
「その教師にしても、教え方が違うので、自分に合ってなければ参考にしかならないかもですが……」
「ふーん。別にいるから絶対的に良いって訳じゃないのね」
「疑問に思った際に聞けるのは良いかもしれません」
「参考にはなるってことか~」
「カリキュラムの進行はみんなと同じになる」
エリカは何度か頷きながら話を聞いていく。
レオや美月も興味があるのか、黙って話の内容を聞いていた。
「お待たせしました」
話が多岐に渡り始めた頃、マスターが注文の品を運んできたため、一旦質問を打ち切り、今日の目的を達成するべくレオが音頭を取る。
「それじゃあ、試験お疲れさん! また明日から頑張ろうぜってことでかんぱーい」
『かんぱーい』
それぞれ持ったカップやグラスを上に掲げ、順次運ばれてくる食べ物に手を伸ばしていった。
そうして、場が落ち着いてきた頃、今度は雫が質問を始める。
「みんな部活を何を?」
「俺は山岳部だな。見せ掛けじゃない使える肉体にしときたいしな」
「私は美術部です。自分の描いたイメージをそのまま絵に出来れば良いなと思って入りました」
「私たちはバイアスロン部。色んな事を一気にミスなくやると気持ちいい」
「ただ、ボードで滑走するだけでも気持ちが良いですよ。風をきって進む感じは、空を飛んでるみたいでとても良いです」
「私は一応剣道部に入ってるけど、家の道場で鍛錬してるから、帰宅部なのよね」
「俺も帰宅部だな。専らの活動は、真っ直ぐに家へ帰ることだ」
「それ部活じゃない」
他愛ない雑談はその後も続き、一通り話終えたところでお開きとなった。
雫たちが1科生ということもあり、最初は溝のようなものがあったが、特に偏見を持っていないことが分かると、次第に打ち解けていった。
「それじゃあ、また明日」
駅まで着いたところで、達也たちは別れて帰宅した。
九校戦の選抜はつつがなく終わった。
初めて達也を見る生徒は不信な目を向けていたが、第一高校の代表である3人に保証されてなお、不満を口にするものはいない。
しかし、それ以前の問題が発生する。
どの選手に割り当てるか、だ。
いくら真由美たち生徒代表が保証したとしても、決める権利は選手にもある。
名乗りを上げたのは、今のところ達也の実力を知っている者のみ。
いくら優秀だという噂が流れていても、自分の目で確かめていなければ、躊躇するのも無理はなかった。
最終的に選ばれたのは、三年から真由美と摩利、二年から服部、一年から雫とほのか、そして英美だった。
名乗りを上げた選手で予想外だったのが、服部である。あれほど2科生というカテゴリーで見ていたにも関わらず何を思ったのか、真っ先に手を上げたのだった。
選手が望んでいるのであれば、他の生徒から不満などあるはずもない。
真由美は自分でメンテナンス可能であったし、摩利は入れる術式が決まっているので、それの調整のみ。
達也が見るのは実質的に四人しかいないことになる。
エンジニアの人数に対して、四人というのは少ない数だった。
「大体こんな感じかな?」
「まあ、無難なところだな」
「そうねぇ。他に意見はあるかしら?」
真由美の視線を受けて、各担当表を見る。無難ではあるのだが、達也のみ全学年を見ており、異質なのが浮き彫りになっている。
「達也くんは大変かもしれないけど、お願いね」
「練習時間については担当の選手と調整したいと思います」
「始めにも言ったけど、私と摩利は週に一回、水曜日に見てくれたらいいから時間を空けておいて」
「俺の方も基本的には火曜か木曜に見てくれれば良い、聞きたいことなとがあれば聞きに行く」
「分かりました」
面倒が少なくて済むことに、達也は内心喜んだが、そんなことは一切表情には出さない。
その達也に対して、独占できることに雫たちは二人して喜んでいた。
顔合わせを兼ねた打ち合わせが終わり、達也たち四人は場所を以前も使った喫茶店に移していた。
今回もお馴染みの場所に座る。
「初めまして! 明智英美っていいます! 皆からはエイミーって呼ばれてます! よろしくね!」
「司波達也だ。こちらこそよろしく」
達也は差し出された手を握り返す。そんな達也にエイミーは握手した手を上下に激しく動かし、満足してから手を離した。
自己紹介が済んだところで、雫が話始める。
「達也さん。土日も練習したいんだけどいける?」
「そうだな……。今週は無理だが、次の土日からはいけるな」
達也は今のスケジュールを思い出しながら答える。
飛行魔法の入ったCADの売り上げは爆発的な売り上げを未だに続けているが、問い合わせ自体は落ち着いてきており、残りは会社の人間に任せられるレベルにまでなってきていた。
「じゃあ、お父さんに言って場所の予約する」
「決まったら連絡してくれ」
「うん」
話された内容は、学校外でも練習するというもの。
エイミーは目をぱちくりと見開き、声を上げた。
「えーっと。それって私も参加して良い?」
言い方は遠慮しがちだったが、言っていることはそうでもない。
「勿論」
「一緒に頑張りましょう!」
「おお! ありがとう!」
喜びあう3人を見ながら、九校戦に向けて既に思考を開始していた。
そんな忙しい達也の元に、会社からメールが届く。
宛先はトーラス・シルバーに対してであり、送信元は北山潮から。
本文の内容は施設の一部を貸して欲しいと言う内容だった。
達也の立ち上げたトーラス・シルバーという会社で、一番達也が気にしていることはセキュリティである。
外部とのリンクは一切出来ないよう物理的に遮断され、旧技術である有線の情報転送のみで社内のシステムは構築されていた。
そのため、部外者は一切入ることは出来ないようにしている。これまでにも、取材などを求められてきたが、その全てを断ってきた。
それでも、企業スパイなどはいるもので、その対策として、入り口に未だ技術を公開していない脳波を検出する装置を設置してある。これにより、登録された者以外は入室することが出来ず、無理に入ろうとすれば、強制的に捕まるシステムになっている。
しかし、全ての建物がそうであるわけではない。
会社を続けていくのであれば、将来の事を考えて雇用をしていかなければならない。
そうした新たに入ってくる社員用の建物も準備されていた。
そちらに関しては一般的にある強固なセキュリティを施しているだけなので、強行な手段や、世界的に実力のあるハッカーに対しては気休めにしかならない程度のものだ。
そちらの建物のスケジュールを見て、土日の業務が無いことを確認し、返信する。
「司波くん何してるんです?」
一人デバイスを操作していた達也に、エイミーが話し掛けてくる。
「土日のスケジュールを確認していただけだ」
「なんか司波くんって学生じゃなく、社会人みたいですね」
エイミーの発言に、雫とほのかは頷いて賛同する。
「それは、俺が親父臭いってことじゃないか?」
「そんなんじゃなくて、何て言ったらいいのかなぁ。落ち着いてるというか、安心感があるというか……」
「達也さんは風格がありすぎる。社交界に出てくるべき」
「普通にいそうだよね」
「雫が言うと冗談になりそうにないから止めてくれ」
「あはは。でも、似合いそうですけどね」
散々にからかわれた後に、自分の出る競技についてのスタイルなどを確認し、この日の打ち合わせは終わりを迎えた。
色々と省きすぎた模様