司波達也の日常   作:ネコ

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第6話

 九校戦の出場生徒は、全校生徒の前にて、その名前を知らされることになっている。その時期は、魔法協会より九校戦の種目が通達されてからすぐに行っているのが通例だ。

 第一高校でも、それに漏れることなく行われている。

 

『それでは、第一高校の代表選手とスタッフの紹介を行います』

 

 司会を行っているのは、生徒会に新しく入ったばかりの達也だった。

 達也自身もスタッフではあるのだが、壇上に並ぶことなく、司会を請け負ったのである。達也がスタッフであることは共通認識ではあるのだが、見た目としては1科生が並んだ方が良いという意見に、達也が賛同したのが原因だったりもするが、それはまた別の話である。

 代表選手とスタッフの氏名を読み終え、達也が胸に花を着けていく。

 この時、これを見守る生徒から凄まじい視線が選手ではなく達也に集まったが、達也はこれを無視して淡々と作業をこなしていく。

 そして、何事もなく紹介を終えると解散になった。

 

 

 

 紹介が終われば、その日から選手たちは九校戦に向けての本格的な練習に入る。

 始めに行うのはルールの詳細な確認と、選手の特性に合わせた作戦決めをすること。

 今回の大会の種目は、スピードシューティング、クラウド・ボール、バトル・ボード、アイス・ピラーズ・ブレイク、ミラージ・バット、モノリス・コードの計七種目である。

 

「エイミーの得意な事を教えてくれ」

「私は器用貧乏なので、一通りは水準以上に出来ますけど、その中で得意なのは移動系かも?」

「オールラウンダータイプか」

「そんなに良いもんじゃないですけどね」

 

 エイミーは肩をすくめて見せるが、選手に選ばれた段階で、その水準が高いことが調査をした達也には分かっていた。その上で移動系が得意と言っているのだから、相応の実力があることは想像に難くなかった。

 

「では一度、実際に競技を行ってみるか」

「あれ? 雫やほのかはいいの?」

 

 エイミーが疑問に思うのも無理はない。話の流れとしては、続けて雫とほのかに話を聞くものだと考えるからだ。

 達也はなんのことかと考えたが、すぐに理解の色を示す。

 

「既に聞いているから大丈夫だ」

「そうなんだ……」

 

 不思議そうに首を傾げ、あまり納得していないようではあったが、達也は時間の無駄を省くために、CADを3人に持たせる。

 

「先ずは射撃技術からだな」

「私もですか?」

「基本的な技能を見るだけだから3人ともしてもらうぞ」

 

 射撃の関わる競技は、今回で言えばスピードシューティングだけであり、その出場選手は雫とエイミーであるため、ほのかは意外そうな顔をして達也を見つめる。しかし、達也の考えが変わることはなかった。

 

「その汎用型CADに登録されているものは一般的な術式になる。一覧は手渡した情報から確認して好きなものを使ってくれ」

 

 3人はデバイスから情報を読み取り始める。

 

「───決まったら言ってくれ」

「じゃあ、私からお願いします!」

 

 始めに名乗りを上げたのはエイミーだった。

 射撃用のラインに立ち、CADを構えて的が現れるのを待つ。

 達也は準備が整ったことを確認すると、手元のコントロールパネルを操作し、標的を順次出していった。

 その後、雫、ほのかと行い、次々と他の科目についても調査を続けた。

 

「これで終わりだ」

「疲れたところに、バランス感覚を、要求するとか、鬼ですか」

「達也さんは、鬼畜で、間違いない」

「きっと、深い、考えが、あるんですよ」

 

 それぞれ思っている事を隠そうともせずに吐露するが、あまりの試験項目の多さに疲れ果てており、言葉に勢いがない。

 

「よし。先ずは魔法面から。雫は、魔法力が十分な反面、制御に難有りだな。エイミーはその逆だ。ほのかは全体的に高水準に纏まっている。次に身体面だが、バランス感覚はほのかがダントツに良い。次いでエイミー、雫の順だ。ただ、3人ともに言えることだが、体力不足だ」

 

 現在の3人は壁に寄りかかり息も絶え絶えの状態だった。

 それでも、達也の要求に従いやりきった3人に対して、達也が追い討ちを掛けることはなかった。

 

「後は実際に作戦が合うかの確認だな」

「えーっと……今からですか?」

「今日のところは、どういった内容で進めるかだけに留めるから、実技は無しだ。どうしてもと言うならば考えるが?」

「忘れてください!」

「何事にも限度はある」

「予定通り進めましょう!」

 

 このまま続行するという意見が無いことを、やや残念に感じながら、達也は各自の作戦を煮詰めていった。

 

 

 

 水曜日になり、約束された真由美と摩利の様子を確認しにいく。

 この二人に対して達也が行うことは、メンテナンスとインストールする術式の相談に乗ることくらいだった。

 作戦は既に決まっており、達也が口を出すべき事もない。

 真由美が出場する競技はスピードシューティングとクラウドボール。摩利はバトル・ボードとミラージバット。

 一応この練習期間に出場種目の交代をすることはあるが、この二人に至っては、過去の実績や日頃の成績から、種目の変更は有り得なかった。

 

「ところで司波くん」

「何でしょう?」

「一年生3人とはうまくやっているかい?」

「うまくというのがどのような意図を含むものか分かりませんが、3人の能力は一通り把握しました」

 

 達也がこのような回答をしたのにも理由がある。それというのも、摩利の顔が悪巧みをしているように、ニヤニヤとした厭らしい顔をしていたからだ。

 そのような表情を見て、達也の元々あまりなかったやる気が底辺にまで落ち込んでいる。

 

「美少女を侍らせてどんな気持ちだ? ん?」

「では先輩も美少女ということですね?」

「なっ!? 私の事なんか言ってないだろ!」

「誰も先輩が渡辺先輩であるなど言ってません」

「…………」

 

 摩利の言葉に対して、CADを摩利に返すと共に、お返しとばかりに言い終えると、雑談を打ち切って真面目な話に戻す。

 

「渡辺先輩のCADは、起動式を入れ替えることがなければ、こちらとしてもやることがほとんどありませんね」

「完成している……という認識で良いのか?」

「こちらがやれることは、定期的なメンテナンスと調整くらいでしょう。後は空き容量が少しあるので、そこに工夫をこらすことくらいでしょうか」

「これ以上を入れても、たぶん私は使わないぞ?」

「問題ありません。空き容量が勿体無いと思っているだけなので」

「余計な話かもしれないが、それを入れることで他のものと干渉しないか?」

 

 不安そうな声を出すが、その心配は無用とばかりに達也は断言する。

 

「そのような事はあり得ません」

「自信があるんだな」

「そう受け取ってもらっても構いませんよ」

 

 話を終えたことを見計らったように真由美が部屋の中へ入ってくる。

 その姿は実技の授業で使う服装に着替えられており、汗を掻いているため、服が肌に張り付いて、妖艶さが醸し出されてた。

 

「待たせちゃってごめんね」

「だいぶ待ったぞ!」

「ほとんど待っていません」

 

 摩利の言葉に被せるようにして、達也は答えた。

 

「ノリが悪いぞ」

「嘘をつく必要性が無かったので」

 

 達也は摩利の方を見向きもせずに、真由美へ向かって目の前の座席を勧める。

 

「こちらへどうぞ」

「ありがとう」

 

 摩利に替わって座った真由美に、測定用のデバイスを手渡す。

 真由美は自分のCADを達也へ渡した。

 

「この前と変わりはないから、調整だけで大丈夫よ」

「───そのようですね。前回から想子の値はほとんど変化はありません」

「それにしても、ただのメンテナンスであれほど変わるとは思わなかったわ」

 

 真由美は、前回の調整での事を感慨深そうに思い出しながら答える。

 しかし、達也にとっては当たり前の事をしただけに過ぎず、そのような事に感心されても困ってしまうのが本音だった。

 

「ただ、CAD内のゴミを掃除しただけですけどね」

「そんな事が出来るなんて知らなかったから、私にとっては凄くためになったわ」

「一般的な魔工師であれば知っていることですよ」

 

 メンテナンスを数分で終えると、真由美にCADを返す。

 真由美は受け取ったCADを両手で持ち、精神を集中するように想子を流し込んだ。

 そして、目を見開き達也を見る。

 

「いかがですか?」

「また、何かいじったの?」

「今の会長の想子状態を反映させただけです。誤差のようなものですよ」

「僅かだけど、使いやすくなってる……」

「お持ちのCADを、今の状態を含めて最適化しているだけですから、それほど明確な変化を感じるとは思わなかったのですが……、余程鋭敏な感覚をお持ちなのですね」

 

 この言葉に、真由美は絶句せざるを得ない。真由美から見て、今の状態からの調整など無いに等しいのだから、そこから更に上方修正するなど思い付きもしないからである。

 

「それほどの技術をどうやって会得したの?」

「勉強しましたから」

 

 達也は曖昧にしか答えずに、再度摩利のCADを貰うと、空き容量に記入を始めた。

 

「今度は何をする気?」

「CADの能力を向上させているだけです。他の起動式に対して何かをするものではありませんので、使用者本人にも影響はありません」

「えーっと。初めて聞くのだけど、そういったものというのは、作成段階に設定されているものなんじゃ……」

「後から付け加えることも可能です。ハードとソフト、両方の知識がないと難しいですが」

 

 何でもないことのように答える達也へ掛ける言葉もない。摩利は、中身についてそれほど詳細な知識があるわけではないので、首を傾げるだけに留めているが、真由美の方は目を見開いて達也を見つめていた。

 

 

 

 木曜日。

 この日は服部との調整の日であり、いざ達也が呼び出された場所に向かってみると、服部が既に席について待っていた。

 

「お待たせしました」

「時間前だ。特に問題ない」

「では早速ですが……」

 

 達也は服部の対面の席に座り、服部のデータを表示する。

 

「服部先輩について客観的に分析しました。出場される競技はバトル・ボードとモノリス・コード。まずバトル・ボードからですが、昨年度の他校の実力を鑑みても、十分に入賞圏内に入ると思われます。

 しかし、現状では不安要素が多いため、より確実にするための方法を提示しますので、参考にしてください」

「参考ということは、こちらが決めた作戦に準じると言うことだな?」

「その通りです。最終的には実際に行う選手に決めていただいた方が、不満もなく試合に望めると思いますので」

「ふん。とりあえず聞こう」

 

 服部は、最初こそ不機嫌そうな顔をしていたが、達也の低姿勢なやり方に、その表情は和らいでいく。

 達也はその変化をよく観察しながら続きを話す。

 

「バトルボードのルール内に、魔法で他者への妨害は禁止されていますのでこういったものを検討してみました」

 

 服部は表示された内容を読んでいく。そうして、次第に眉根を寄せると、困惑したような表情で達也に訊ねた。

 

「まず、最初のは理論上可能かもしれんが、起動式を作れるのか?」

「可能です。最終的に必要になってくるのは、魔法力と制御力になるので、そこは服部先輩の腕次第となります」

「まあいい。二つ目だが、これは効果があるのか?」

「経験されたことはありませんか? それを人為的に行うだけです。ただし、先頭にいなければ使えませんが」

「ひとつ目の策で圧倒的に突き放し、二つ目で更に差を広げ、三つ目は……やりすぎではないか?」

「三つ目は保険です」

 

 服部は提示された案を睨み付けて唸り始める。

 今までやったことがないだけに、判断が難しいところではあるが、表示された起動式を使用した際の速度は、コース的にロスはあるもののそれを補って余りあるものだった。

 後はその制御と最後までもたせることのできる持続力があれば問題はない。

 

「起動式はどの程度で用意できる?」

「服部先輩さえよければ、今からでも起動式を入れ換えることができます」

「使ってみないことには判断がつかないが……、その起動式の安全は保証されているのか? 今まで聞いたこともないんだが」

「ええ。これは独自に作成したものなので、聞いたことはないと思います」

「おい!」

 

 達也の言葉に、服部は台を叩いて立ち上がる。その瞳には怒りがはっきりと浮かんでいる。

 服部が怒るのも無理はない。元々起動式は、色々な技術者が試行錯誤をし、何度もテストを行ってから世に出すものであり、一介の技術者がおいそれと出せるものではない。

 達也の言っていることは、安全の確認が出来ていないものを、練習で使えと言っていることである。それは、もし事故が起こった際には最悪魔法師生命が断たれることを意味していた。

 

「安全性については、俺が最初に使ってみせますので、それを見てから判断してください」

「本当に大丈夫なんだろうな?」

 

 身をもって証明すると言われれば、それほど強く出ることもできない。そのため、駄目押しとばかりに安全について再確認するが、達也の返答は簡潔なものだった。

 

「問題ありません。問題があるとすれば、俺の能力では使いこなすことが出来ないだけです」

「───まあいい。そこまで言うのならば見てみよう。そうしなければ話にならないようだからな」

「では、移動しましょう」

 

 達也と服部は、CADの設定をするため立ち上がり、場所を移動した。

 服部のCADの設定と調整はスムーズに終わる。

 元々、そのつもりで達也は起動式を作っており、プレゼンをしたのであって、出来ないことを言うつもりはなかった。

 入れ換えの最中も、服部の表情はよくなかったが、そこには突っ込まずに達也は作業を進めたのである。

 そうして、場所を練習場に移る。

 練習場の端にある、ドーナツ型の簡易な訓練場にて、達也は制服姿のままプールの上に浮いているボードの上にゆっくりと乗った。

 

「司波」

「何でしょうか?」

 

 服部が中央にある陸の部分から、達也に向けて声を掛ける。

 

「お前は二科生ではあるが、エンジニアとしての実力だけは高いと思っている。一応、俺としても案を持っているから、失敗しても気にするな」

 

 達也は服部を見ると、わずかに口許を緩めた。二科生を見下すような態度に変わりはないが、服部は達也の心配をしているのである。

 

「安心してください。起動式を扱う技量が低いだけで、失敗はあり得ません」

「───分かった。取り敢えず、このプールを何周かしてみてくれ」

「では始めます」

 

 達也の合図後。

 その光景を信じられないように、服部はしばらく呆然と見ていた。

 

 

 

 土曜日の朝から、達也の姿はトーラス・シルバーの会社内のフロントにあった。

 服装はラフな格好をしており、一目見て社員だとは分からない。

 トーラス・シルバーの役員名簿で、社内に名前が公表されているのは牛山のみであり、実は達也が社長であるということを知っているのは、ほんの一握りしかいないのが現状である。そのため、普段着のような格好でフロントに居れば、不審人物として捕まってもおかしくない。

 今回はそのような雑事を避けるためにも、牛山に来てもらったのだが、先程から役員のひとりである牛山がいるため、社員からの視線が達也に集まってきていた。

 

「集合場所を間違えたな……」

「どうかしたんですかい?」

「いえ。少し早かったかなと思いまして」

「まあ、少し早いですが、出迎える方としてはこんなもんでしょう」

 

 柱に埋め込まれたアナログ式の時計の針は、約束の時間まで後15分程であることを示していた。

 

「それにしても、大将がエンジニアとして参加するなんて詐欺もいいとこですな」

「俺は歴とした高校生です。多少他の人よりも知識があるだけですよ」

「多少ねえ……」

「事実です」

「まあ、試合はこっちに皆を連れてきて応援しますんで、頑張ってください」

「俺が試合に出るわけではないんですが……、みんながこちらに来るのであれば、こちらのセキュリティを強化しなければなりませんね」

「まあ、同じ敷地内ですし移動自体は直ぐですがね」

「それでもですよ」

 

 達也が牛山と話しているところに、社内へと入ってくる数名の姿が見えた。

 人数は四人。先頭には北山家で、雫たちの世話を主にやっているメイドがおり、その後ろに雫とほのか、最後尾にエイミーがついてきている。

 雫たちは達也の姿を見つけると、受け付けには向かわずに、そのまま向かっていく。

 

「お待たせしました。北山家のメイドをしている黒沢といいます。この度は当家の急な依頼に対し、対応していただきありがとうございます」

「───あー。気にしなさんな。金は貰ってるんだし、思う存分やってくれ、設備で分からないことは、たいし……じゃなく、こちらの子に聞いてくれ。んじゃ受け付けはやっとくから後は任せた!」

 

 牛山は顔を赤くしながら言い終えると、逃げるようにその場を立ち去っていく。

 そんな牛山を視線で追っていた黒沢は、達也に向き直り再び礼をする。

 

「取り敢えず移動しましょう」

 

 物珍しげに建物内部を見ている3人に聞こえるように声を掛けると、達也は社員の視線から逃れるように移動した。

 

 移動した先には既に準備がされており、スピード・シューティング、ミラージ・バット、アイス・ピラーズ・ブレイク、バトル・ボードの舞台が出来ていた。

 

「すご!」

 

 エイミーがその光景を見て呟く。

 雫たちも同様に、その光景に見いっていた。

 達也たちのいる空間は広く、全体としては学校の体育館の4倍に迫るほどあり、その区画ごとに各種競技のセットがされている。

 この建物は外から見た場合、普通のビルに見えるが、その実、ビルで囲われた中央にこの空間が設けられているため、このような場所があるなど簡単には分からない。

 

「まずは、こちらを見てくれ」

 

 達也は3人それぞれに、3人についての調査結果が表示されたデバイスとCADを手渡す。

 4系統8種の魔法について、誰がどの系統を得意としているか、身体能力はどの程度かをグラフに纏めてある。

 

「これを見ると、全部丸裸にされてるような……」

「責任を取ってもらうしかない」

「こういう風に客観的に見るのは初めてですね」

 

 3人が調査結果に対する意見を述べるが、達也はそれに取り合わず、その分析結果を基にした作戦概要を映し出す。

 

「この作戦はあくまで仮に決めたものだ。他にもこうしたい、といった意見があれば遠慮なく言ってもらいたい」

 

 達也の言葉に従い、皆が質問をし始める。

 

「この起動式は見たことないけど、どういったもの?」

「そこのボタンを押せば、立体映像を可視化できるようになっている」

「私のもこれで見れる?」

「そうだな。エイミーも押してみてくれ」

「達也さん。私のものにはありませんが……」

「ほのかは既存の魔法のみだから作成しなかったが、イメージしにくいか?」

「いえ! 大丈夫です!」

 

 雫とエイミーが映像を見ている最中は、ほのかに付きっ切りで競技の中身についても触れていく。

 

「全部で3試合だが、一試合目はほのかの得意な光魔法によって、開始早々に仕掛ける。これで、かなりのリードを稼げるはずだ」

「それでも迫られたら……」

「その試合内であれば、同じように使えるだろう。ただし、遮光眼鏡の着用はしておくように」

「はい……。あの、2試合目は影の利用とありますが具体的にはどうするんでしょう?」

「こちらも光の調整だな。恐らく2試合目からは他の選手も警戒して遮光眼鏡を着用してくるだろうから、それを利用する」

「利用出来るんですか?」

「利用するのさ。人の知覚は無意識で闇を避ける。そこに道があったとしても、身体がそれを拒否するからな」

「それだと、私も無理な気がするんですけど……。私も遮光眼鏡を着用するんですよね?」

 

 ほのかは不安そうに達也を見上げてくる。

 

「ほのかなら出来るさ。そのためにみっちりと練習を積んでもらう。コースを身体に覚えこませれば、多少の誤差など気にする必要もないからな」

「分かりました!」

 

 ほのかはそれまでの不安を一切見せずに、達也に向けて微笑むと、恥ずかしそうにしながら、自分の状態を見て少し離れる。

 ほのかの顔が達也の顔に近付いたため、恥ずかしさのあまり離れたのが真相だが、達也は気にせずに、後の二人に視線を向けた。

 そこには、映像を見終わり、CADをセットする二人があり、CADに想子を流し込んでいるところだった。

 達也はほのかに、ミラージ・バットの練習を指示してそちらに向かう。

 

「内容は理解できたか?」

「私は大丈夫」

「私もです」

「それじゃあ早速練習を開始しよう。今回は雫がメインで白を狙ってくれ。エイミーは魔法力を温存しながら赤を狙ってくれ。無理に落とす必要はないからな」

 

 達也はコントロールルームに戻ると、スピード・シューティングの起動ボタンを押した。

 その数秒後、雫たちの目線の先にある信号が3つ表示され、時間と共に消えていく。

 そして、完全に消えると同時に、ふたりのいる空間内に赤と白の標的が射出された。

 始めは操作の仕方に手間取った雫だったが、途中からミスすることなく撃ち抜いていく。

 

「おお~。途中からパーフェクトじゃない?」

「良い感じ」

 

 エイミーは雫のスコアを見て褒め称え、雫も満更ではないように照れて見せると、銃身の長いCADを持ち上げてみせる。

 

「次は交代だ。エイミーがメインで、雫は休憩しながら狙ってくれ」

「よーし。頑張りますか~」

「分かった」

 

 エイミーは雫の時にコツをつかんでいたのだろう。初めて使う起動式であるにも関わらず、ほとんどミスをすることなく標的を撃ち抜いていく。

 

「ビリヤードみたいで楽しいかも!」

「後は交互に練習を重ねてくれ。一時間したら休憩にしよう」

 

 その後、達也は昼頃まで3人の状態を随時確認しながら調整を加えていった。

 

 昼になる頃には、3人共に疲れが見え始めており、顔には珠のような汗が浮かんでいた。

 そんな3人は、休憩所内のテーブル座り疲れを癒している。

 

「午前中はこのくらいにしておこう。昼からは種目を変えるからそのつもりで」

「これは結構疲れるね」

「ふぅ……」

「足がパンパンに……」

 

 足のふくらはぎを擦るほのかに、達也は予定していた練習メニューを変更することを視野に入れて、黒沢に話し掛ける。

 

「昼食の準備をお任せしてすいません」

「私の仕事ですので、お気になさらないでください」

 

 黒沢はワゴンから料理を取り出すと、テーブルの上に並べ始めた。

 

「それにしても、よくこんな場所取れましたね。トーラス・シルバーって言ったら、完全秘密主義の会社なのに……」

「ここは対外向けの建物だから使わせてもらえるだけ。もう1つの建物は関係者以外誰も入れない」

「いいなあ。そう言えば、雫たちはトーラス・シルバーの社長って見たことある?」

 

 エイミーの何気ない質問に、場の空気が緊張したのが分かったのか、エイミーは不思議そうにみんなの顔を見渡す。

 

「どうかした? 聞いちゃ不味かったとか?」

「気にしないで。一応私は会ったことはある」

「ほのかも?」

「ほのかはその時はいなかった」

「そっかー。で? どんな人だった?」

「普通の人に見えた。意外に若かったかも」

「普通の人か~。やっぱり能ある鷹は爪を隠すってやつなのかな~」

 

 雫は当たり障りのない答えで、エイミーの質問を交わしながら、時おり窺うように達也を見る。

 

(このまま続けば、いつかぼろが出るな)

 

 達也は昼食の途中ではあったが、話題を変えるために午後の予定を伝える。

 

「午後からの予定は、雫とエイミーがピラーズ・ブレイク。ほのかがバトル・ボードだ」

「今の状態だと、中途半端にしかならないと思うよ~」

 

 初日からの激しいトレーニングに、エイミーは休憩時間をもう少し延ばそうと画策するが、達也には通じなかった。

 

「本番でも、決勝では似たような状態になるだろうから、丁度いいだろう」

「もう、決勝の事を考えてるなんて。司波くんって自信家だね」

「そうでもないさ。初めから負ける気で試合に挑むやつはいないというだけだ」

「まあ、確かにそうだよね。私も期待に添えるよう頑張らなくちゃ!」

 

 エイミーは、弱音を吐いた自分を奮い立たせると、あまり喉を通らなかった昼食に手を付け始める。

 うまく話題をそらすことに成功した達也は、質問する気力が沸かないよう、徐々に練習のハードルを上げていくことにしたのだった。

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