Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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今回はいくらか長めです。


第104話 フェザーンの若き補佐官と青みがかった黒髪の美女、再び

フェザーンの酒場から血色の悪い若い細面の男が出てきた。なにやら酔っぱらっていてやつれている様子だ。

「わたしは、プログレスリー・ライトバンク、救国会議最高首席執政官だぞ。なんでこんなことになるんだ...。」

若い男は暗い夜道をふらふら歩きながらつぶやく。

「くやしい。わたしは一時は同盟の支配者にもなったのだ。なのになぜだ…ルビンスキーめ。」

すると前方に何やら極彩色に半円状に光るものをもった人影に気が付く。

「ん、お前は誰だ?」

近づいてみると大鎌を持った青みがかった黒髪の美女が微笑んでいる。

ルビンスキーはしばらく同盟を脅すためにライトバンクを自由惑星同盟正統政府首班としてまつりあげていたが、自由貿易及び経済連携協定でトリューニヒト政権からも甘い汁を吸えるとわかった時点で、帝国侵攻時にも同盟の象徴としての使い方もできないため廃物処理したのだった。

その際、ルパートはライトバンクに近いうちにゼフィーリアという美女に紹介するから復活の機会が与えられると秘密裏に話していた。

「ルパートさんからご紹介に預かったゼフィーリアと申します。わたしの部屋に来ていただけますか。良いお話があります。」

「お前がゼフィーリアとやらか。」

「はい。」

「それでは…。」

ライトバンクが連れてこられた部屋はMRIを行うような医療施設のように見えた。

「あなたを宇宙の支配者にする装置ですよ。ヤン・ウェンリーへの復讐ができるようにもしてあげます。髪の毛を二本ほどいただきますが。」

「これでヤン・ウェンリーを殺し、わたしは再び支配者となり、名誉が回復されるのだな。」

「はい。」

(望む通りとは限りませんが)

「では、横になってください。」

ライトバンクが横になると、ヒューヒューピーピー音を立てて装置が動き出す。

装置の上を動くアーチがライトバンクの頭上を通った時、うぐっとライトバンクはうめいて白目をむいていた。そこにあるのは記憶も人格もすべて消去されたライトバンクの抜け殻-実質上の遺体-だった。

「髪の毛を二本いただきますね。」

美女が特殊な液体の入っているカプセルに髪の毛を入れると数分後にライトバンクがもう一人カプセルの中にできあがった。

美女はどこからともなく地球教総大司教のフード付き黒衣をもってきてライトバンクの身体にかぶせた。

「わが忠良なるしもべ、ゼフィーリアよ。汝を大司教に任ずる。わしは、まずフェザーンの狡猾な黒狐の私生児に会えばいいのだな。」

「はい。総大司教猊下。」

 

若きフェザーン自治領主補佐官は、秘密裏に作らせた部屋で、秘匿回線による立体ホログラム通信装置の呼び出しを受けた。

立体映像に青みがかった黒髪の美女が映しだされている。

「これはゼフィーリア殿。リップシュタットの時は貴族連合、今回はイゼルローン組といそがしいものですな。」

「そういうあなたも父親殺しの計画と同時に父親とヤン政権成立への画策やら、帝国に同盟を滅ぼさせることの画策やらお忙しいことですね。」

「同盟のレベロが心配しているように軍閥化させることも一計かなと考えているのは否定できませんな。」

「それにしても地球教は、救国会議の時もうまい汁を吸い、トリューニヒト政権のときもうまい汁を吸っている。ゼフィーリア殿は何を考えているのかな。」

「うふふ....。それはお話できませんね。さていいものをお見せしましょうか。」

「!!」

「それは....。」

総大司教の黒いフードの中から出てきたのは...。

「そう。これは「彼」本人。クローンも作りました。これはわたくしが作った二体目のクローン。よくできてるでしょう。」

それは、かって同盟の支配者にもなった血の気のすくない細面の男ライトバンク、すなわちアンドリュー・フォークの変わり果てた姿だった。

「....。」

「ヤン・ウェンリーをいつか殺すために本人に同意してつくらせたのですけれど。」

青みがかった黒髪の美女は、清楚な顔に妖艶さをにじませた笑みを浮かべる。

「じゃあ、わたくしは、失礼いたします。総大司教猊下を地球のカンチェンジュンガに送り届けねばなりませんし…また逢う日を楽しみにしていますよ。ルパート。」

「ふん...。」

青みがかった黒髪の美女は一瞬ほくそえんで消えた。

 

予鈴が鳴り、インタホンをとる。

「補佐官、来客です。」

「お通ししろ。」

そこへはいってきたのは、おどおどした表情のやや細面の中年の男で、やや興奮気味の様子だった。

「おお、これは弁務官殿。」

「補佐官殿、わたしは承服できないのです。これはどういうことですか。」

「まあまあ、そう興奮なさらずに。弁務官殿。」

「そうは、おっしゃるが、わたしとしては冷静さを保ちかねます。われわれは、あなた方の勧告に従ってヤン提督をイゼルローンから召還し、査問にかけたのですぞ。なぜそのタイミングに帝国軍が大挙して国境へ侵入してきたのでしょうか。まるで留守であるのを知っているかのように。そのあたりの事情をぜひ詳しくお聞かせ願いたいものです。」

「お茶が冷めますよ。」

「茶どころではない。われわれはあなた方の勧告に従って...なのに...。」

「不当な勧告でしたな。」

「??どういう意味ですかな?」

「不当な勧告だったと申し上げているのです。」

ルパートは、わざとらしいくらい優雅な所作でクリームティーのカップを口へ運ぶ。

「そもそも、ヤン提督を査問にかけるべきだ、という意見を口に出す権限はわれわれにはなかった。内政干渉にあたることですからね。あなたがたのほうにこそ拒否すべき正当な権利と理由があったはずです。しかし、あなたがたはそうはなさらず、われわれが勝手に口を差し挟んだことを自主的にそのまま受け入れたというわけです。それでもなお、全責任はわれわれフェザーンにあると、弁務官閣下は主張なさるのですか?」

弁務官の顔は秒単位で負の方向の範囲で変化する。

「し、しかし、あのときわたしが拒否していたら、私ども自由惑星同盟は、あなた方フェザーンの好意を今後得ることはできなくなる。あのときのあなたの態度からそう考えたとしても無理のないことでしょう。」

「まあ、済んだことを言っても始まりませんな。今後弁務官殿はどうなさるおつもりですか?」

「今後とは?」

「おやおや考えていらっしゃらない。われわれフェザーンは真剣に悩んでいるんですよ。現在のトリューニヒト政権と、将来ありうべきヤン政権とどちらと友情を結ぶべきであろうか、とね。」

「将来ありうべきヤン政権ですと?ばかな!いや失礼、そんなことがあるはずがない。絶対にありません。」

「ほう、自信満々で断定なさる。では、3年前にあなたは、ラインハルト・フォン・ローエングラムなる若者がごく近い未来に銀河帝国の実質上の支配者になることを予測なさいましたか?」

「.....。」

「歴史やら運命やらがいかに気まぐれなことかかくのごとしです。もっともわれわれには織り込み済みでしたがね。さて、弁務官殿もよーくお考えになったほうがよろしいでしょう。トリューニヒト政権のみに忠誠をつくすことがあなたの幸福にどれだけつながるか、ということを。そう考えれば賢明なあなたなら、先行投資というものがいかに重要かおわかりになるでしょう。どうせなら過去の結果としての現在よりも、未来の原因としての現在をより大切になさることをおすすめしますよ。」

湯気の向こうに見えるヘンスローの顔に打算と怯えと動揺とが交錯しているのを楽しむようにルパートは再びカップを口にあて、クリームティーを一口流し込むと、飲み込むまでのわずかな時間、口の中でそれをころがしていた。


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