Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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しばらく過去にさかのぼる。みほが帰還したときだった。
「副司令官が戻ってきたのだから...。」
とキャゼルヌは階級の高いみほに指揮権を返そうとした。
「いいえ、キャゼルヌさん。わたしはまだいないことになっています。しばらく行方不明ということにしておいてください。」
「司令官代理」
キャゼルヌがその声に振り向くと諜報の専門家である男の姿が目に入る。
「バグダッシュ中佐?」
「トリューニヒト議長は、不祥事を起こしたんでしょうから、西住中将の件は隠し通したいはずです。また、軍法会議とは異なり、査問会は、恣意的な私的制裁ですから公開しにくいはずです。この際それを徹底的に利用しましょう。」
「というのは?」
「西住中将には、旗艦に乗っていただき、艦橋クルー以外には目につかないようにしばらく艦隊指揮をとってもらいます。これが事実上の緘口令になるわけです。帝国軍は、西住中将がいると思って戦うわけですが、実際に戦っているわけです。捕虜に捕まるなとか死ねなどとは言えませんから、必然的に、つかまった捕虜はお二人とも査問会に行ったと思っていますからそのように証言するでしょう。例えばヤン提督が帰還しようとしたときに帝国軍は罠を張って捕らえようとするかもしれません。そのときに実は、二人とも査問会に呼ばれていて戻ってきたのだという情報を流せば大混乱になるでしょう。」
「具体的にはどうするんだ?」
「ふたりの声紋データはとってあります。これを利用するわけです。さいわいにもミズキ中佐は、戦闘衛星に同盟艦艇のレーダー反射パターンを埋め込んでますからこちらからの罠の張り方は思いのまま、具体的に言えば、ヤン提督と西住中将は戦況に合わせてどこにでも出現させられるというわけです。」
「なるほど。」
「ヤン提督には、いざというときのためにマルチスタティック・サテライト・システムの戦闘衛星をおあずけしてある?きっと上手くお使いになるはず?」
「わかった。そのようにしよう。」
みほとチームあんこうは顔をみあわせてうなづいた。


第107話 艦隊戦です(前編)

レダⅡ号の艦橋では、黒髪の学者風提督が金褐色の髪をショートにまとめたヘイゼルの瞳の副官と話していた。

「われわれにそれほど時間はないんだ。今の要塞司令官が戦況をおそらく「わが軍優勢」と報告しただろう。決して嘘ではないが戦闘詳報は、ローエングラム侯に送られるだろうから、援軍をよこすはずだ。それまでにガイエスブルグと帝国の艦隊を撃退しなければならない。」

「これまでは時間が味方してくれたけどこれからはそうではないということですね。ところで、閣下が敵の指揮官だったら、とうにイゼルローンを陥としていらっしゃったでしょうね。」

「そうだね。私だったら要塞に要塞をぶつけるね。ドカンと一発、相撃ち。これでおしまいさ。そのあとに別の要塞をもってきてもいい。もし帝国軍がその策で来たらどうにも考えなくてはならなかったが、帝国軍の指揮官は発想の転換ができなかったみたいだ。」

「ずいぶんと過激な方法ですわ。」

「でも有効だろう。」

「それは認めます。」

「まあ、敵がそうしなかったのは助かったよ。イゼルローンがなければ首都まで無人の野みたいなものだからね。もっともこれからその策でくるというならその対策はあるけどね、」

「イゼルローンが外から陥ちることはないように思えるのですけれど....。」

「大尉、さっき言ったことを帝国軍が本気で考えるならあながちありえないことではないよ。なにしろ味方艦隊をトゥールハンマーで焼き払うことも辞さなかったからね。同盟軍が回廊を何度も屍で埋めたことを考えれば壊してしまったほうが世話がないからね。」

 

「ミュラー、皆を集めてくれ。作戦会議を招集する。」

「はつ。」

「敵艦隊は接近している。1万隻なのか5千隻なのか報告に差があるが、逸見少将が70光年の位置で戦ったところ、5千隻分は、戦闘衛星やデブリで、レーダーを照射した際に同盟艦の艦形で返す特殊な電波ないしコーティングを施している可能性があるとのことだ。現在20光年の位置にいると考えられる。そのため、やっかいな援軍から先にたたくことにする。

まず、イゼルローンの前面から後退する。すると同盟軍は救援が来たものと考え、挟撃の機会ととらえて要塞から出てくるであろう。それを反転迎撃する。そうすると同盟軍は救援軍が近いというのは実はわれわれの罠だと考えるだろう。そうして、敵を要塞内に封じ込めて再反転して援軍をたたく。敵が近づいたらやっかいな戦闘衛星を使う前に指向性ゼッフル粒子を放出し、敵の出方を待つ。敵を600万キロまで誘い出して、戦闘衛星もろとも指向性ゼッフル粒子の餌食とする。敵は我々の半数だ。残存艦艇も一挙に叩き潰せる。この間3時間半ほどだ。援軍のピンチにあわてて駆け付けた同盟軍がくるのには狭い回廊内だから順次ワープしてそろうまで5時間ほどかかる。時間差をつけた各個撃破だ。なにか質問は?」

ミュラーは手を上げる。

「ミュラー提督。」

「司令官のご提案は、素晴らしいとは思いますが、一歩間違えるとこちらが挟撃される恐れがあります。ですからガイエスブルグ要塞をイゼルローンや駐留艦隊を攻撃できる位置に置き、まずは全艦隊をあげて、敵援軍をたたくのに全艦隊をあたらせた方がよいかと考えます。」

「うむ。俺もそれは不安だった。いいだろう。ミュラー提督の意見を入れて、作戦を一部変更する。」

「御意。」

「では解散。」

 

「敵艦隊、後退していきます。」

「どうしたんだろう。」

「ガイエスブルグ要塞は、60万キロの位置のまま動かず。」

「作戦会議を開く。中央指令室へあつまってくれ。」

 

「あれは、いつでも攻撃できるっていうかまえというのは間違いないな。」

「そうだな。」

「援軍が近いからなのか、罠なのか判断がつきかねるな。」

「失礼します。」

そのときユリアンがコーヒーを会議室にはこんでくる。

「ユリアンさん。」

みほがユリアンにほほえみかける。

本来は副司令官であるみほが話しかけたので、キャゼルヌがユリアンに声をかける。

「そうだ、ユリアンはどう考えているんだ?」

「援軍が近いからなのか、罠なのかってことですか?」

「そうだ。」

「両方かもしれません。」

「両方?」

「はい。確かにヤン提督の援軍は近くに来ています。帝国軍はそれを知っていますから罠に使おうと考えているんじゃないでしょうか。こちらの艦隊が要塞をでたときに、全面攻勢をかければ、こちらは、やはり罠だからひきあげろという気持ちになるはずです。そこでこちらの艦隊を封じ込めておいて、援軍をたたくのに全力を挙げるというわけです。」

幹部たちは、しばらく黙然として、みほの顔をちらりとみたあと、亜麻色の髪の少年を注視した。

「「どうしてそう思うんだ?坊や(ユリアン)。」」

キャゼルヌとシェーンコップが同時に発言し、コホンとムライが軽く咳払いをする。

「帝国軍の動きが不自然すぎます。」

「それはそうだが、それだけで君の判断の根拠になるのか?」

「ええと、それはこうです。彼らが純粋に罠を仕掛けるとしたら、その目的は何でしょうか?伏兵をしいているか、こちらの出撃にくっついて要塞内に侵入するかどちらかですよね。でも、こちらが防御に徹して、出撃しないことは敵も十分承知していますから、彼らとしてはこちらの防御心理を利用して封じ込めにでたほうがいいからです。そのためにガイエスブルグを攻撃可能な位置に置いてにらみを利かせているわけです。」

「なるほど、坊やがおれやポプランの弟子であるという以前に、ヤン提督の一番弟子であるということがよくわかった。それともミス・二シズミかな。」

シェーンコップは、にやりと軽くみほに目をやると、ウオッホン、とムライが咳払いをする。

「西住中将閣下の薫陶ですかな。」

「あの...それはいいですから。」

みほは、ほおをいくぶん赤らめてすこし困惑気味に顔の前で両手を振って見せる。

防御指揮官が苦笑して、キャゼルヌにかるく頷き、指示をうながすと、キャゼルヌ司令官代理は、

「メルカッツ提督、どうお考えになりますか。」と初老の客将に尋ねる。

「おそらく、そのとおりと考えていいでしょう。であれば話は難しくない。われわれは彼らに封じ込まれたふりをすればいいのです。そして彼らが反転したとき、突出してその後背を撃つ。援軍との呼吸が合えば理想的な挟撃戦が展開できるでしょう。」

「提督、艦隊の指揮をお願いしてよろしいですか。」

「はい。引き受けさせていただきます。」

メルカッツがおだやかな笑みをみほに向けてうなずく。その一言をきいたとき、みほはかすかな安堵の笑みを浮かべて、机に突っ伏してしまった。

幕僚たちは、軽く笑みをうかべて、おつかれさまという無言の表情と視線をみほにむけた。

老練な名将は、将来有望な少年に賞賛を含んだ笑みをむけて声をかける。

「ユリアン君には、ヒューベリオンに同乗してもらおう。艦橋にな。」

亜麻色の髪の少年は無言だったがうれしさを隠しきれない表情だった。

シュナイダーが少年の頭をやさしくなでた。


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