Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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さて、時間はさかのぼって、「別世界」のアスターテ会戦のヒューベリオン艦内の浴室からあがったみほは...


第10話 アスターテ会戦分析します。

浴室に入っている間にきれいに洗濯されたあんこうマークが背にえがかれたパンツァ―ジャケットに袖を通し、白いプリーツスカートをはく。

「フレデリカさん、ありがとうございます。」

フレデリカはほほえんで答える。

「いいえ。ここはお風呂に入っている間にお洗濯が終わる高速ランドリーがあるから気にしないで。」

「ヤン提督にうかがったわ。あなたははるかな過去からきたようだと。」

「そうみたいです。友達ともはぐれてしまったようで...。」

みほは悲しそうにうつむいて、それからフレデリカのほうをむき、話をつづける。

「実はここへ来る前に、灰色のテイコクグンという艦隊のエルラッハさんという方の船にいて、拷問をうけました。その方に「前へ進んでください。」と言っても無視されて、針路を反転したのです。そうしたら、皆さんの艦隊からの砲撃が命中して、その船が爆発したのに、気が付いたらここにいたのです。」

「そう。不思議なこともあるものね。」

このことをフレデリカはヤンに話すと、ヤンは何を思ったのか

「ミス・ニシズミ。」

とみほを呼び出す。

「ヤン...提督ですか?」

「そうだ。提督だの閣下だのめんどうくさいな。わたしは本当は歴史学者になりたかったんだ。まあ、ほかの者の手前、そうしか呼びようがないもんな。で、ミス・ニシズミ」

「えっと...そういえばわたしも呼びようがないですね。みほ、じゃあなんか恋人を呼び捨てしてるみたいだし、みぽりんじゃ...。」

沙織のことを思い出してみほはおしだまる。

「だいじょうぶか?ミス・ニシズミ。」

「はい...ちょっとお友達のことを思い出しちゃったんです。ごめんなさい...。」

「中尉から聞いたよ。帝国軍のあの反転した艦隊のなかにいたのか...不思議なことがあるものだな...そのとき反転しようとする司令官に前進するように話したっていうことだが。」

「はい。スクリーンをみて。艦隊をひろげて後ろから撃とうとすることがわかったんです。」

「!!」

「ミス・ニシズミ」

アスターテ会戦の陣形図の最初の場面をヤンは見せる。

「これをどう思う?」

「ヤン提督がいらっしゃる...」

「同盟軍」

「同盟軍は、敵を包囲するには都合がいいですが、相手のテイコク軍は、一つ一つの艦隊をつぶすチャンスです。」

「そうだ。」

「ところで、この時点で、本当にこの配置だとわかっていたんですか?」

「これは、状況証拠や、わずかな索敵データから考えたわたしの案だ。結果的にこれは正しかったんだが、同盟軍の索敵は十分でなかったのは否定できない。」

みほはうなずいた。索敵が十分にできない試合は苦戦した。

アンツィオ戦では偵察でデコイを見破って、それからは自分たちのペースで勝つことができた。プラウダ戦では勢いに任せた結果、陽動による包囲にさそいこまれ、絶体絶命におちいった。このときも逆転の契機はあの3時間で敵の配置を把握したからだ。

「確実な敵の位置を素早く知る方法は…。」

「帝国の妨害電波をすりぬけて通信可能な高速移動する偵察衛星を飛ばすことも提案したが却下された。曰く「数の上の優位がある、なぜそのうえ負けない算段をしなければならないのか。君も議長の前で、指揮官の能力差も数の優位で補いがついてしまうと言ったではないか。」とね。それに最後に分かった帝国軍の艦隊配置、そして自分が帝国軍の指揮官だったらとるであろう手段を考えた場合、確実な索敵を行っている時間がないなとおもったんだ。相手は高速で各個撃破をしかけてくることは目にみえていたからね。」

みほはうなずいた。索敵している間、たとえば、敵がいないからと優花里を偵察に出したところを敵に攻撃されたら元も子もない。

「あの...それぞれの船の数はどのくらいありますか?」

ヤンは指をさし、

「第2艦隊15,000隻。第4艦隊12,000隻、第6艦隊13,000隻だ。帝国軍と同盟軍の時間的距離は推定6時間程度。これだけの距離があって、すでに強力な妨害電波が発信されていたので、完全な索敵を行うには短いんだ。」

「わたしがテイコク軍なら、最初に第4艦隊を集中攻撃、それから第6艦隊を...。」

「わかった。ミス・ニシズミ。もし同盟軍なら?」

「索敵を十分にします。敵は各個撃破を狙ってくるはずですから、艦隊の配置は...。」

ヤンは驚いた。自分の作戦案とそっくりだったからだ。

「もし、包囲網を完成する前に第4艦隊が攻撃されたら。」

「この時間的距離なら間に合いません。だから第2艦隊と第6艦隊が合流して...。」

「わかった。ミス・ニシズミ。」

「まずかったですか?」

「そうじゃない。その逆だよ。」

「戦車道でも戦争の歴史を勉強するんです。でもわたしは、個々の戦いの作戦の面白さはわかっても、お姉ちゃんみたいに歴史の全体の流れを...。」

みほはだまりこむ。その表情が沈んでいる。

「ミス・ニシズミ?」

「えへへ...。ごめんなさい。」

 

「そうか。そんな少女が突然現れたのか。信じがたいが君がいうのならそのとおりなのだろう。」

「はい。本部長。これは機密に属することなので下手に漏洩させないようお伝えした次第です。」

「うむ。彼女を亡命者としてあつかう手続きと生活のことを考えてやらないといけないな。」

「幼稚園の先生になりたいそうです。先ほど申し上げたように彼女の軍事的才能は優れていますが、本人の希望をかなえてあげたいのです。」

「そうだな。しかし、当面の生活のことを考えてやらないといけないだろう。やむを得ないな。君の艦隊付の事務員ということにしよう。しかし、それだけの才能があるなら君のように生活のために士官学校へいくという手もなくはないぞ。」

「いえ、本部長。軍人なんてろくでもない稼業だと申し上げているじゃないですか。ましてや彼女は高校生の女の子ですよ。彼女が銃をもって戦う姿なんて考えたくありません。」

「そうだな。」

白髪で黒い肌の統合作戦本部長は、豊かなバリトンで答えた。その声音と表情には、かわらんなぁというという気持ちと将来を嘱望すべき有能な愛すべき生徒が、有能なだけでなく、あくまでも市民のための軍人であるという精神を体現しようとする指揮官に育ったことに対しての感心が含まれていた。

 

こうしてみほはヤンの分艦隊付の事務員となり、幼稚園の先生になる勉強をしながらフレデリカの手伝いをすることになった。




デスクワークが苦手なヤンは、みほの生活は救済できたものの、「亡命」手続きについてはあまりの例外的な出来事に心を痛めつつもどうにもならずに放置することになってしまった。

一応「田中芳樹を撃つ!」の板には目を通してヤンが索敵重視を進言せずに自分の作戦案を提案した理由を考えてみました。


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