Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第110話 恐るべき双璧さんです。

「フーゼネガー中将が面会を求めています。」

「とおしてくれ。」

「ケンプ司令官はどうなさった?」

「亡くなられました。」

「亡くなった、だ、と?」

「はい。ケンプ司令官より伝言です。こんなことになって申し訳ない、あとは頼むと。」

ミュラーはわなわなと身体を震わせ、絞り出すようにうめいた。

「大伸オーディンにご照覧あれ。ケンプ提督の仇をかならずとるぞ。ヤン・ウェンリーの首をかならずつかんでやる。いまはだめだ。おれには力がない。しかし、みていろ、何年か先を。」

しばらくしてミュラーは落ち着きを取り戻して副官を呼んで命じる。

「通信スクリーンを用意しろ。画面はいい。音声だけにしてくれ。」

それは大けがを負った自分の姿で兵の士気を落としたくないからだった。

ミュラー艦隊の700隻余りの回線に若き副司令官の理性に富んだ冷静かつ意志の強さをうかがわせる明晰な声が流れ出てくる。

「わが軍は敗れたが、司令部は健在である。司令部は、卿ら将兵全員を生きて郷里へ帰すことを約束する、誇りと秩序を守り、整然と帰途へつこうではないか。」

ミュラーは懸命に指揮を執って帰路をすすんだ。

 

「前方より艦艇群が接近。その数700余。」

「停船せよ。しからざれば攻撃す。」

やがて通信スクリーンにあらわれたのは、包帯だらけのミュラーだった。

「どうした?」

ミッターマイヤーは、ミュラーからケンプ死亡を聞き。肩を落として嘆息した。

「ケンプが死んだか...。」

「ミュラー、わかった。ローエングラム公に復命してくれ。ケンプの復讐戦は俺たちにまかせろ。」

通信を切るとミッターマイヤーは、部下たちに向き直る。小柄なはずの司令官の身体が大きく見える。

「最大戦速で前進だ。ミュラーを追ってきた敵の先頭集団に一撃を加える。乱れたところをもう一撃加える。それ以上の戦いは無意味だ。バイエルライン!ビューロー!ドロイゼン!例の指示に従って動け!いいな?」

一方、金銀妖瞳の青年提督にもケンプ死亡の報がはいる。

しかし、ロイエンタールの反応は突き放すようだった。

「そうか...ケンプが死んだか。」

(敗因のない敗北はない。ケンプは負けるべきして負けたのだ。)

イゼルローンは、建国祭とダゴン戦勝祭が重なったような騒ぎだった。イゼルローン占領以来、アムリッツアの壊滅的な敗戦と救国会議の内乱という苦い経験に振り回されていたから無理もないことだった。しかし、司令部には休む余裕はなかった。

「グエン提督とアラルコン提督の部隊が戻っていません。」

「妨害電波の影響ではぐれてしまった模様。」

「なんていうことだ。すぐに連れ戻さないと危険だ。」

みほもうなづく。

 

「敵艦隊発見。5000隻程度。」

「よし。バイエルライン、敵をひきつけてくれ。」

「御意。」

バイエルラインの分艦隊は、グエンとアラルコンを挑発するように後退する。

 

「敵艦隊発見。50光秒。逃げているもようです。」

「まだこんなとこにいたのか。とどめを刺してやる。追え!」

「了解!」

グエンとアラルコンはバイエルラインの巧みな後退に引きずり回されていた、

 

「こ、後背から敵襲!」

グエンとアラルコンは、自分たちが引きずり回されていたらしいとおぼろげながら気が付き始めるがもう時すでに遅しであった。

「ケンプの仇だ!一隻残らず屠ってしまえ!」

ミッターマイヤーは命令した。しかし、内容は命令というより部下をけしかけたようなものだった。

同盟艦隊に、後背から光の槍が豪雨のごとく降り注ぎ、その艦艇は、次々と火球に変わっていく。

 

「よおし、撃て!」

巧みに後退していたバイエルライン分艦隊は、後背をつかれて動揺している敵に対しあめあられのごとくエネルギー弾をぶつけた。

「こ、今度は前方の敵から砲撃です。」

「なんだと?」

「「うぎゃあああああ..」」

.グエンとアラルコンの旗艦は前方と後方からの攻撃で貫かれて四散した。

 

「!!」

「閣下、後方100光秒に叛乱軍の艦隊!」

「なんだと?」

「二万隻以上です。」

 

「なんとか間に合ったようだな。」

「閣下。グエン少将とアラルコン少将は戦死したそうです。」

「そっちの方は間に合わなかったようだな。」

ヤンはベレーをいったん脱いで頭をかくとかぶりなおす。

 

「拡大しろ!」

ミッターマイヤーがオペレーターに命じると、セルリアンブルーの敵旗艦ヒューベリオンとアンコウ型のロフィフォルメ、その背後に無数の緑色の艦影が映っていた。

「ふむ。ロイエンタールにつないでくれ。」

「御意。」

「ミッターマイヤーか。あらたな敵のことは知っている。」

「ヤン・ウェンリー自身のお出ましのようだ。例の小娘もいる。どうだ。卿は戦いたかろう。」

「まあな。だが今戦っても意味はない。」

「同感だ。引き返すとするか。それにしても...。」

「それにしても...。」

「要塞まで持ち出して数千光年の征旅を企てておきながら、ヤン・ウェンリーとあの小娘に名を成さしめたのみか。やれやれだな。」

「まあ百戦して百勝というわけにもいくまい。これはローエングラム公のおっしゃりようだがな。ヤン・ウェンリーの首はいずれ卿と俺とでいただくとするさ。」

「ミュラーもほしがっている。」

「ほほう、こいつは競争が激しなりそうだな。」

不敵な笑みをかわして、二人の青年提督は、撤退のためにじわじわと艦隊を編成していく。

 

千隻単位で編成し、一集団が退くときにその後背を一集団が守る形で整然と後退していく。

(ふむ...つけ込む隙もないな...。)

後退する際にも、いつでも逆撃してやるぞという、気迫を感じさせる。

(すごい...ミッターマイヤーさんとロイエンタールさんて言ったっけ...。)

みほの脳裏には恐るべき指揮官であったキルヒアイスとのコルマール星域会戦の記憶がよみがえっていた。

ヤンとみほは整然と遠ざかる帝国軍の光点の群れをみつめていた。ヤンのそれは素晴らしい芸術品を見つめる表情に近い。

「みたか、ユリアン。」

亜麻色の髪の少年は軽くうなづく。

「これが名将の戦いぶりというものだ。明確に目的を持ち、それを達成したらあとに執着せずに離脱する。ああでなくてはな....。」

 

ヤンは、生存者の教出をおこない、残存艦艇をひきつれてイゼルローンに撤退する旨全艦隊に命じ、一息つくと亜麻色の髪の被保護者に話しかけた。

 

「さてとユリアン。」

「はい?」

「お前の紅茶を久しぶりに飲みたいのだが淹れてくれるかな?」

「はい。閣下。」

「ユリアン君はたいしたものです。」

元帝国軍の宿将は、おだやかな実のこもった声ではなしはじめた。メルカッツがケンプの作戦を見破っていないわけではなかった。むしろ具体的な作戦案をシュナイダーと詰めていたのだが、亡命の客将という立場からどのように提案したらいいか機会がほしいと考えていた。キャゼルヌとシェーンコップは、ユリアンにも気軽に意見を聞くヤン艦隊の民主的な雰囲気を利用して、微妙に軍内にわだかまっているメルカッツは元帝国軍という空気を払拭させ、比類なく有能な客員提督の指揮するきっかけをつくったのだった。

メルカッツは、目をほそめて、ユリアンが帝国軍の作戦を看破したことを伝えた。言外には、ヤンとみほが戦術指揮の講師となって彼を鍛えているでしょう、それを知っていますよ、という含みを持たせて。

ヤンは軍用ベレーとって、恥ずかしげに黒い髪をかき回す。査問会では、軍人らしくない髪型だ、クルーカットにしたらどうかなどと嫌みを言われたのも記憶に新しい。ヤンは尊敬する用兵家の先達に話しかける。

「メルカッツ提督...。」

「ご存知でしょうか。わたしは、あの子に軍人になってほしくないんですよ。本当は命令してもやめさせたいくらいなんです。」

「それは、民主主義の精神に反しますな。お気持ちはわかりますが。」

メルカッツはおだやかな表情でヤン艦隊の空気にいい意味で毒されたユーモアで返した。ヤンは、礼儀とてれの混じった苦笑を返した。こうして要塞隊要塞と呼ばれた第8次イゼルローン攻防戦は終結した。


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