Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第111話 戦後の論功行賞です。

「西住ちゃん。」

「会長さん。」

「わたしら帰るね~。」

「どうしてですか。」

「クブルスリーのおっちゃんから通信だよ~。」

スクリーンにクブルスリーが映し出される。

「ヤン大将、西住中将。統合作戦本部クブルスリーだ。トータス特務艦隊については、キャゼルヌ少将とも相談させていただいた。キャゼルヌも残念がっていたが、イゼルローンの収容能力、補給能力からイゼルローンに駐留させることは困難と判断した。

通常は、イゼルローン回廊同盟側出口、アルレスハイム、ダゴン、エル・ファシル、アスターテ、テイアマトやその周辺宙域の警備にあたらせることにした。このあたりは、フェザーン出口付近と同様、帝国に扇動された海賊が蠢動しているから油断ならない。しかし、ビュコック長官とも話して、西住中将の指揮下に「チームかめさん」として組み込み、今回のような事態には、別働隊としていつでもイゼルローンに駆け付けられるようにしようと一致した。では、「ミス・アプリコット」を呼んでくれ。」

「はい。」

「アンズ・カドタニ、イゼルローン回廊出口警備艦隊司令官に任じる。通常の勤務宙域は、アルレスハイム、ダゴン、エル・ファシル、アスターテ、テイアマト等イゼルローン回廊出口およびその周辺宙域とする。兼ねてイゼルローン駐留艦隊副司令官付き分艦隊司令官に任じる。イゼルローン要塞付近に敵の攻撃が認められた際は、西住中将の指揮下に入るものとする。」

「謹んで拝命いたします。」

杏は謹厳な表情をつくったが、のちに文部科学省学園艦事務局の辻廉太が大洗女子の前に廃校を伝えにきたときとは異なる明るさと覇気がその表情にやどっていた。

 

巨大な「禿鷹の城」が宇宙の藻屑になった日の翌日には、その凶報は、金髪の覇者のもとにいち早くもたらされた。

「なんだと!全艦隊の9割を失い、ガイエスブルグも喪われただと!」

「はつ。」

「ケンプとミュラーはなにをしていたのだ。」

金髪の若者は、ワイングラスを激しく床にたたきつけた。

「声をかけるな。だれが来ても通してはならぬ。」

バタンと激しく戸の閉まる音がして、部下たちは独裁者の怒りに恐怖におびえた。

ラインハルトは、しばらく怒りに肩を震わせていたが、握ったペンダントを不意に開くとアンネローゼ、幼いキルヒアイスと自分、そしてキルヒアイスの赤毛が目に入った。

(ラインハルト様...)

(このたびの征旅は戦略的に重要だったでしょうか?)

(...。)

(ラインハルト様が諸将にいつも説いておられました。ラインハルト様にはお分かりになるはずです。ミュラー提督は得難い人材です。民をしいたげる後門の大貴族どもは一掃されましたが、前門にまだ腐敗しつつもなお強大な同盟という敵がいます。それなのに味方にまで敵をおつくりになりますな。宇宙を手に入れて、姉上とすべての民を解放するのがわたしたちの夢だったではありませんか。)

(...そうだな。キルヒアイス。お前の言う通りだ。お前のいない今貴重な人材を一人として失うわけにはいかぬ。ミュラーは得難い男だ。あのような無益な戦いで死なせるわけにはいかぬ。それでいいだろう、キルヒアイス?)

赤毛の友はほほえんで軽くうなずいた。ラインハルトの怒りは鎮まり、心は、はれやかになった。

 

帝国本土から数千光年か慣れたイゼルローン回廊帝国側出口付近の宇宙空間では、合計二万五千隻を超える灰色の艦隊が航行していた。

「西住少将。逸見少将」

「ミッターマイヤー閣下、ロイエンタール閣下。」

「長い征旅お疲れだったな。」

「二人にローエングラム公から新たなご命令があるようだ。」

画面が切り替わり、金髪の元帥がスクリーンに映り、二人に呼びかける。

「このたびのイゼルローン回廊派遣軍についてはご苦労であった。西住少将については、よくケンプとミュラーを支え、敵に少なからず損害を与え、逸見少将の危機の際にもよく助けたことについて報告を受けている。よって西住少将は一階級の昇進とし、中将に任ずる。同盟で妹と思われる小娘が中将になっているようだからこれで対等となるだろう。逸見少将については、陛下の艦隊を損ね、同盟側回廊出口付近のヤン艦隊を防ぎ得なかったことから一階級降格の上、准将に任じ、その艦隊は西住中将指揮下の分艦隊とする。戦車道だったか、ここへ来る前の世界で隊長と副隊長だったか、そのような関係だったのだからそれでいいだろう。任務はイゼルローン回廊出口付近の海賊討伐とする。同盟の息のかかった海賊どもが通商破壊を試みようとしているようだから任務に精励せよ。」

「との御沙汰のようだな。それではわれわれはオーディンに帰還する。公爵のご命令の通り新たな任務に励んでほしい。」

四人はスクリーンに映る相手に対してたがいに敬礼してわかれた。

 

700隻にまで撃ち減らされたミュラー率いるイゼルローン回廊派遣軍は、ロイエンタール、ミッターマイヤーの両艦隊に守られながらオーディンに帰還した。

副司令官ミュラーは、血のにじんだ包帯を頭に巻いた姿で、元帥府に赴いた。

砂色の瞳と灰色の髪を持つ青年提督は、金髪の元帥の前にひざまずいて敗戦の罪を謝した。

「小官こと、閣下より大命を仰せつかりながら、任務を果たすことかなわず、主将たるケンプ提督をお救いすることができず、多くの兵を失い、敵をして勝ち誇らせました。この罪万死に値しますが、おめおめと還りましたのは、事の次第をお知らせし、お裁きを待とうと愚考したからであります。敗戦の罪はすべて小官にありますればどうか部下たちには寛大なご処置をたまえありたく...。」

包帯からにじんだ血が一筋二筋と頬をつたって、したたり落ちる。

ラインハルトは、敗残の提督を蒼氷色の瞳でしばらくながめていたが、息をのむ廷臣たちの前で口をひらき、ミュラーに静かに語りかけた。

「卿に罪はない。一度の敗戦は一度の勝利で償えばよいのだ。遠慮の征旅ご苦労であった。」

「閣下...。」

「わたしはケンプ提督を喪った。このうえ卿まで失うことはできぬ。傷が全快するまで療養せよ。しかるのちに現役復帰を命じるであろう。」

ミュラーは片膝をついたまま。さらに深々と頭をたれたが、どうと床に突っ伏してしまった。すでに疲労が限界に達し気力だけでひざまずいていたが、ほっとした途端に気を失ったのだった。

「病院に運んでやれ。それからケンプは昇進だ。上級大将の称号を贈ってやれ。」

ラインハルトが命じると親衛隊長キスリング大佐は。部下に合図してミュラーを病院に運ばせた。

「それから科学技術総監シャフトを呼べ。」

ラインハルトはビヤホールの店主のような太った赤ら顔の技術総監を呼びつけた。

シャフトは、金髪の元帥の前に平然と進み出た。

「弁解があれば聞こうか」

「お言葉ながら、閣下、わたしの提案に瑕疵はありませんでした。現に要塞はイゼルローンにワープしました。作戦の失敗は統率、指揮にあたったものの責任でございましょう。」

ラインハルトの低い冷笑が苛烈な雷霆に変わるのに数秒を要しなかった。

「だれがいつ敗戦の罪を問うと言ったか。ケスラー!ここへきてこいつの罪状を教えてやれ。」

「シャフト技術大将。卿を収監する。罪状は収賄、脱税、公金および物資の横領、特別背任、軍事機密の漏えいだ。」

シャフトの顔色が火山灰を塗りたくったような色に変わった。明らかに罪を暴露された恐怖によるものだった。

「連れて行け!」

ケスラーが命じ、ラインハルトは「屑が!」と悪態をついた。シャフトは許しを請うようなわめき声をあげつつ連行されていく。

最後にケスラーが退出しようとするのを呼び止める。

「ケスラー。」

「はっ。」

「フェザーンの弁務官事務所の監視を強化しろ!むしろあからさまに強化しろ。それが奴らに対しての牽制になるだろう。」

「御意」

精悍な顔つき憲兵総監は敬礼を主君に返した。


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