Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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ここはほぼ原作通りです。つなぎ部分です。


第115話 密告です。

さて一方、オーディンでは、くすんだ金髪を短くまとめて一見美少年のようにも見える若い女性が主人である金髪の若者の執務室を訪れていた。衛兵がうやうやしくドアを開き、件の若い女性は、窓際をながめていた部屋の主の姿を認めたとき、その金髪の若者、帝国宰相であり宇宙艦隊司令長官でもある若者ラインハルト・フォン・ローエングラムは、豪奢な髪をゆらして振り返った。

「おじゃまでしたでしょうか。宰相閣下。」

「いや、構わない。用件を伺おう。フロイライン。」

「憲兵総監ケスラー大将から大至急でお願いしたいとの面会願いをお伺いしています。」

「ケスラーが大至急か。あの男がそれほど急ぐ案件か。わかった。つれてきてくれ。」

まもなく茶色の頭髪の両耳のわきが白く、また眉も白いが、生気のみなぎった精悍な風貌の軍人がはいってきた。

「宰相閣下、ご多忙のところ恐縮です。実は先日旧貴族連合の残党2名が帝都に侵入したという情報が入りましたので、ご報告に参上した次第です。」

「なぜ、それがわかったのだ。ケスラー?」

「実は密告がございまして...。」

「密告だと?」

金髪の若者はつぶやいた後、ひとしきり無言だったが、やがて思い直したように

「わかった。続けてくれ。」

と壮年の憲兵総監に報告の続きをうながす。

クスラーは携帯メモリ兼立体映写機を操作して、文弱な印象の若い貴族の姿を映し出す。

「ランズベルク伯アルフレットです。年齢は26歳。昨年のリップシュタット連合に参加した貴族のひとりで、敗戦後はフェザーンに亡命していました。」

ラインハルトは頷いた。次に映し出されたのは、三十代くらいであろうか、有能なビジネスマンのような印象の男であった。

「貴族連合軍で、フレーゲル男爵の副官をつとめていたレオポルド・シューマッハ大佐です。

二十代で士官学校卒業後、後方勤務が多かったにもかかわらず、この業績や十年ほどで大佐に昇進していることを考えると有能な男と言っていいと思います。どうやら旧主との折り合いはあまりよくなかったようです。」

ラインハルトは、ふと思いついて壮年の憲兵総監にただした。

「彼らは旅券と入国査証をもっていたはずだな?偽名の贋物と気が付かなかったのか?」

「いえ...それが実はフェザーン自治政府の発行した本物でして...。入国審査について不審な点は見当たらなかったようです。おそらくフェザーンが何らかの形でからんでいるのは明白と思われますので、宰相閣下の政治的判断を仰ごうと参上した次第です。なお、二人については秘かに監視させています。」

「わかった。早急の報告ご苦労だった。監視はそのまま続けろ。後のことは追って指示する。さがってよろしい。」

「はっ。」

ラインハルトは、ケスラーが退出したあと、くすんだ金髪を短くまとめた一見美少年のようにも見える、彼の首席秘書官である理知的な若い女性に視線を戻してたずねた。

「聞いただろう、フロイライン。あなたはどう考えたか意見を聞かせてほしい。」

「ランズベルク伯らが、帝都へ戻ってきた理由ですか?」

「そうだ。おとなしくフェザーンに居座って下手な詩でも作っていれば平穏に過ごせたものをわざわざ危険を冒してまでもどってきた理由だ。」

「ランズベルク伯は、私の知る限りかなりのロマンチストでしたわ。」

ラインハルトはさざ波のような微笑で口元をわずかにほころばせる。

「貴女の観察に異存はないが、あのへぼ詩人が昨年から一年もたっていないのに戻ってきたのは、故郷へ戻るなどといった単純な理由ではあるまい。」

「仰るとおりです。ランズベルク伯が戻ってきたのは、もっと深刻で、彼にとって危険を冒す価値のある動機からです。」

「それはなんだろう。いったい。」

ラインハルトは、興味をその瞳におどらせていた。聡明な伯爵令嬢との会話を明らかに楽しんでいた。

「行動的ロマンチストを昂揚させるのは、強者に対するテロです。ランズベルク伯は、純粋な忠誠心と使命感に突き動かされて潜入を敢行したのではないでしょうか?」

「テロというとわたしを暗殺するつもりかな。」

「いいえ、おそらく違うと思います。」

「なぜ?」

「フェザーンは、閣下が殺された場合に生じる統一権力の瓦解による政治的、経済的混乱を歓迎しないはずです。複数の勢力に資金源をねだられるような不安定な事態は避けたいはずです。ですからフェザーンがテロを使嗾する場合は、要人の誘拐することだと考えられます。」

「その対象はだれかな?」

「三人が考えられます。」

「そのうち一人がわたしだな。あとの二人は?」

「もう一人は閣下の姉君、グリューネワルト伯爵夫人ですが、これは今回の場合考えられません。」

「なぜそう言い切れる?」

「女性を誘拐して人質にすることはランズベルク伯の主義に反するからです。先程も申し上げましたように彼はロマンチストです。かよわい女をさらったと後ろ指をさされることは肯んじないでしょうし、生理的に忌避するでしょう。」

「それはそうかもしれない。しかしフェザーンはいい意味でも悪い意味でもリアリストだ。権道の極致をとってランズベルク伯らに強制する可能性はあるのではないか。」

「閣下、わたしは、誘拐の対象として三人の方を考えました。まず閣下が除外されますが、それは、もしランズベルク伯らに意思があってもフェザーンが了承しません。第二に、姉君、グリューネワルト伯爵夫人が除外されます。ランズベルク伯がそれを了承するとは考えられないし、もしフェザーンが権道の極致をとる場合にランズベルク伯という人選をするとは思えないからです。結局残る三番目の方が計画者と実行者の双方を満足させる要件を揃えていると、私は考えるのですけれど...。」

「その三番目の方とは?」

「現在至尊の冠をいだいておられます。」

「するとあなたは、へぼ詩人が皇帝を誘拐すると...。」

「ランズベルク伯にとっては、これは誘拐ではありません。幼少の主君を敵の手から救出する忠臣の行為です。抵抗を感じるどころ、嬉々として実行するでしょう。」

「へぼ詩人についてはそれでよいが、もう一方の当事者フェザーンにとっては何の益があるのだろう。皇帝を誘拐することで...。」

「それはまだわかりませんが、フェザーンにとっては害になる可能性は考えにくいのですがいかがでしょう。」

「なるほど...あなたの言う通りだ。」

「またしてもフェザーンの黒狐か。やつは決して自分では踊らない。カーテンの陰で笛を吹くだけだ。踊らされるへぼ詩人たちこそいい面の皮だな。」

ラインハルトは苦々しくつぶやき、美しい主席秘書官に向き直ってたずねる。

「フロイライン・マリーンドルフ、へぼ詩人たちの潜入を密告してきたのは、フェザーンの工作員と思うのだが...」

「はい。閣下のお考えの通りと存じます。」

「うむ。今日はさがってよろしい。お疲れだった、」

主席秘書官は、上司たる金髪の青年が、その蒼氷色の瞳を窓の外へ向けて、表情を引き締めている様子をみた。

 

 


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