Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
さて6月20日の午後、フェザーンの駐オーディン弁務官事務所である。
弁務官事務所に武装した巨漢の10人の憲兵が踏み込んでくる。
「帝国軍最高司令官ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥より、フェザーン自治領駐在弁務官ボルテック殿に出頭せよとのご命令である。すみやかに出頭されたし。」
弁務官事務所のスタッフたちは何事かと色を失った。
「う~ん、もうちょっとスパイスを効かせられなかったものか...大味だな...。」
そのとき、ボルテックは遅い昼食中で仔牛肉バター焼きのスパイスについてぶつぶつ文句を言っていたところだった。
「弁務官、ボルテック弁務官はいらっしゃいますか!」
「なにごとだ。」
「帝国軍元帥府より出頭命令です。」
(出頭命令...。なるほど、いちおうフェザーンは帝国治世下の一自治領だからそういった法理も成り立つわけか...。)
憲兵のいる場所に、案内され、自分をおちつかせるために
「ふむ。その襟の形はいいな。」
呼び出しに来た女性秘書の襟の形をほめた。物々しい雰囲気に疲れを覚えていた、弁務官事務所のスタッフは気分を暗くし、ため息をつく者もいた。
元帥府に案内され、ボルテックは例の「金髪の孺子」に椅子をすすめられた。
「ありがとうございます。」
「最初に確認しておきたいことがある。」
「はい、閣下、何事でございましょう。」
「卿は、自治領主ルビンスキーの全権代理か?単なる使い走りか?」
微妙な空気が流れる。ボルテックは、金髪の青年元帥を言質を与えないような謹直な表情でながめ、観察と打算を働かせる。
「どうなのだ。」
「....かたちとしては、むろん後者でございます。閣下。」
ようやく言葉を紡ぎ出して答える。
「かたちか...実利主義者のフェザーン人が実態より形式に重きをおくとは寡聞にして知らないな。」
「...お褒めいただいたと考えてよろしいので....。」
「卿の解釈に干渉する気はない。」
「はあ...。」
「フェザーンは何を望んでいる?」
ボルテックは細心の注意を凝らし、軽く目を見張ってみせる。
「恐れながら閣下...何のことやら仰ることがよくわかりませぬが...。」
「ほう。わからぬか。」
「はい...申し訳ございますが、不敏な身には、何のことやら見当がつきかねますが...。」
「これは困ったな。一流の戯曲が一流の劇として完成をみるには、一流の俳優が必要だろうが、卿の演技は見え透いていていささか興をそぐな。」
「なかなか手厳しいおっしゃりようにございます。」
ボルテックは恐縮したように笑った。
「どうやら言い直した方がよさそうだな。皇帝を誘拐してフェザーンには、何の利益があるのか訊いておるのだ。」
「...。」
「それにランズベルク伯ではいささか荷がかちすぎると思うのだがどうかな。」
「...。」
ボルテックは思考と打算を必死にめぐらせている。どこまでラインハルトが知っているかということにさぐりをいれ対策を練らなければならない。
「わたしは、いささかも痛痒を感じないからさらに知っていることを話そうか?」
ボルテックはここまで言われて敗北を認めるように吐息した。
「驚きましたな。すると密告した者がいて、それがわが自治政府の手の者で閣下へのサインであることもお見通しというわけですか...。」
「弁務官。わたしの情報網はこれまでの帝国のものとは違う。同盟や貴族連合との戦いで短期間で完勝したことで交渉巧者のフェザーン人であれば想像ついてもよいと思うのだがな...。」
「わかりました。それでは、私どもの思惑のすべてをご高覧に入れましょう。」
「私どもフェザーンは、ローエングラム閣下が宇宙を支配なさるにつき、その偉業にご協力させていただきたいと考えております。」
「ルビンスキーの意思なのだな。」
「はい。」
「それにしても、その協力の第一歩が門閥貴族の残党どもに皇帝を誘拐させることだというのは、いささか説明を要するのではないか。」
ボルテックは一瞬ためらった。しかし、ここで言い逃れることでかえって金髪の独裁者の気分を損ねても仕方がないと考え、手持ちのカードを切ることにした。
「わたしどもの考えるところは、こうでございます。ランズベルク伯アルフレットは、皇帝陛下を逆臣の手から救出し...ああ、これは彼の主観ですがら、実際のところは誘拐ですが、フェザーン回廊から同盟領に逃亡し、そこで亡命政権を樹立することになりましょう。なんら実体のあるものではありませんが、このような事態を閣下としてはお認めになられますまい。」
「当然だ。」
「ですからここにおいて閣下は自由惑星同盟を討伐する立派な大義名分を手に入れることになります。そうではありませぬか。」
(皇帝を持て余しているだろうからそれを取り除いてやると?ふん。例によって恩着せがましい奴らだ。)ラインハルトは心の中で毒づいた。
「それでわたしはどうすればよいのだ?フェザーンの行為に対して、頭を下げて礼を言えばいいのか?」
「そう皮肉をおっしゃいますな。」
「ではなにをしてほしいか、はっきり言え。腹の探り合いもときにはよいが、毎回そうではいささか胃にもたれる。」
ボルテックはこれについてはさほど躊躇せずに答える。
「では、率直に申し上げます。ローエングラム公は、政治上軍事上の覇権と世俗的権威のいっさいをお手になさいませ。わたしどもフェザーンは、閣下の支配なさる宇宙の経済的権益、とりわけ恒星間の流通と輸送のすべてを独占させていただきます。いかがなものでしょうか?」
「悪くない話だが、フェザーンの政治的地位はどうなるのだ?」
「閣下の宗主権のもとで自治を認めていただきます。つまり、主は変われど今まで通りというわけで...。」
「それは認めよう。だが同盟が皇帝の亡命を受け入れぬ限り、どれほどすぐれた戯曲でも筋の進行のさせようがないが、そのあたりはどうするのだ?」
そのとき3体の黒い影がラインハルトに襲いかかった。