Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

12 / 181
さて、ひさびさにヤンがハイネセンの自宅、高級士官の官舎へもどって数日後、アスターテ会戦の戦没者の慰霊祭が行われることとなった。
当日、控室の鏡でネクタイの位置を整えているやせぎすで優男風の国防委員長のところへ、黒い肌をした白髪で巨躯の統合作戦本部長がやってきて何やら報告をはじめた。
「何?ヤン・ウェンリー少将が欠席だと?…本当かね本部長?」
「アスターテ会戦で受けた傷と疲労が癒えていない、とのことです。」
「ほお、そんなに重傷とは知らなかった。ふむ。十分に養生するようトリューニトが言っていたと伝えてくれたまえ。」
「はつ。我々は先に席のほうへ行っております。」
「うむ。」

トリューニヒトは秘書官につぶやく。
「ヤン少将がそんな重傷とは聞いていないぞ?」
「はい。かすり傷程度だったという話ですが…。」
「とにかくアスターテの英雄のくだりは変更だ。すぐに書き直したまえ。」
「はい…。」


「委員長閣下のありがたいおおせだ。すぐにヤンに伝えてやってくれたまえ。」
「はぁ…わたしがですか?」
「そうだ。ああ、それからわたしからの伝言だ。仮病をつかっておらんで、早めに本部に顔を出せと。」
ヤンが士官学校時代に校長だった現統合作戦本部長は、なにやら少し思い出して微笑みを浮かべる。
「まったく。士官学校のころから手口に進歩のない男だな。英雄が実は仮病使ってましたなんて話せんだろう。」
元校長の隣で、士官学校の先輩だった男も苦笑せざるをえなかった。



第11話 こっそりジャイアン作戦です。

トゥルルルル…。

「はい。」

亜麻色の髪の少年が受話器をとると、ヴィジホンの画面にキャゼルヌの顔が映る。

「ユリアンか。ヤンを呼んでくれ。」

「少将?キャゼルヌ少将からです。」

ヤンは、キャゼルヌから慰霊祭で起こったことと、シトレの伝言を聞いた。

「そうですか。お見通しとはね。」

「まあ、そういうことで。シトレ本部長はともかく、トリューニヒト委員長は不愉快かもしれんな。アスターテの英雄にすっぽかされては。」

「だれが英雄ですか?」

「いま、わたしと話している人物さ。なんだ?ニュースもみていないのか?マスメディアはこぞってそう伝えているぞ。」

「敗軍の将ですよ。わたしは。あの戦争で何万人死んだと思ってるんです??」

「だからこそ、英雄が必要なのさ。市民の目をそらすためのな。そんな英雄にされるのが嫌なら欠席もいいだろう。まあ、あの男の下品なアジ演説を聞かされて、こっちも病気になりそうになったがね。繰り返すが、本部長は、早めに本部へ顔を出せということだ。確かに伝えておいたぞ。」

「はいはい。」

プッン…

「キャゼルヌ少将もあまり国防委員長のことはお好きじゃないようですね。」

「まともな神経があれば、トリューニヒトが好きなんてやつはいないさ。で、趣味の悪くない私としてはだ、ユリアン、シロン星産の紅茶を…。」

「あの?ところで提督、この女の子は?」

「あ、忘れていた。ユリアン、ミス・ニシズミだ。」

「あ、あの….ユリアンさん、ですか?」

「そうですけど…。」

「わたしは、西住みほです。はじめまして。よろしくお願いします。」

「どうしたんですか、提督?」

「アスターテ会戦のさなかに旗艦の中に突然現れたのさ。」

「なんですか?それってSFみたいですね。」

「そうなんだ。わたしも彼女自身も驚いている。彼女にはミス・グリーンヒルの手伝いをしてもらっているのだが、ミス・グリーンヒルがひさしぶりの休暇で自宅へもどるので預かったんだ。」

「え?女性同士でグリーンヒル中尉のところじゃだめだったんですか?」

「う~ん、今は直属の上司と部下ってことになっちゃうからね。お互い気を使うし、だからといって彼女の存在は機密だからやたらなところには預けられないし、一人にするのは危険すぎるし…消去法だね。」

「そういうことですか。それならわからなくもないですが…しかし、僕と提督って、その手のことは信頼されるみたいですね。」

「そう…だな。手籠めにするみたいなことは考えられないんだろう。この場合はすなおによろこんでおくべきなんだろうね。」

 

「くしゅん。」

「どーした?ポプラン?」

「な~んかうわさされたような気がするんだが…。」

「夜遊びばっかしてるせいでかぜっぽいだけだろ。もっともいくらうわさされてもおかしくないが…。」

「ほっとけぃ。」

 

みほとユリアンとヤンは別々の部屋で寝て、翌日ヤンは統合作戦本部へ出頭した。

「かけたまえ。」

グリーンヒル総参謀長にすすめられヤンはすわろうとする。

黒い肌をした白髪で巨躯の統合作戦本部長がバリトンを響かせる。

「ところで、ヤン少将。」

「はい。」

「新たに編成される第13艦隊の司令官に就任してもらう。」

「艦隊司令には、中将をあてるのでは?」

「アスターテで生き残った兵に新兵を補充した艦隊だ。艦艇6400隻、人員およそ70万人。通常のおよそ半数の艦隊だ。」

「その最初の任務はイゼルローン要塞の攻略だ。」

「寄せ集めの半個艦隊であのイゼルローン要塞を落すのですか?」

「そうだ。」

「可能だとお考えですか?」

「君にできなければだれもできん。」

「勝算がないかね?」

「…。」

「これに成功すれば、国防委員長の感情はともあれ、才能はみとめざるをえんだろう。」

ヤンは立ち上がって敬礼し

「微力を尽くします。」

と答えた。

 

第13艦隊のイゼルローン攻略については同盟軍内でまたたくまにうわさが広がった。その数日後、統合作戦本部で自分の執務室に向かう途中の廊下でヤンはアッテンボローと鉢合わせる。

「ヤン先輩。」

「ああ、アッテンボローか。」

「ヤン先輩の第13艦隊のイゼルローン攻略の話ですがね…。」

とアッテンボローは切り出して、どのように話が伝わってるか一部始終を説明する。

「それで…ほかの艦隊司令官がたがですね…ヤン先輩の艦隊がイゼルローンを攻めるって聞いて、おむつも取れない赤ん坊が素手でライオンを殴り殺そうとするようなものだって言って酒の肴にしていたらしいんですがね。」

「ん~、正確な論評だね。」

「そ、そうですか?でも第5艦隊のビュコックの爺さんが一言言ったらみんな黙ったらしいですが…。」

「ほほお。」

「どうです?今夜あたり、人の肴になってないで一杯いきませんか?」

「あ、いやあ、すまないが、アッテンボロー、今度にしてくれないか。」

ヤンは首筋あたりをかきながら言うや、右腕をひろげて

「出動まで日がなくて、まるでひまがないんだ。」

「おっけー、じゃあ次の機会に。」

 

執務室へ入るとまもなく

ピポピポーン

予鈴がなった。

「どうぞ。」

ドアが開くと、栗毛色のボブヘアの少女が立っていた。みほは、フレデリカ付きのアルバイトということになっている。だからヤンの権限が及ぶ範囲に限って自由に軍関係への施設に出入りできることになっている。

「あのう…。」

「ミス・ニシズミ?。」

「はい。」

手招きすると、みほはヤンの執務室へはいろうとして、

「あっ。」

ドシャーン…

「いたた…。」

つまずいて、どこかの赤いリボンをつけたアイドルのようにしりもちをついてしまう。

「だいじょうぶか。」

「だいじょうぶです。」

「なんかすまないなあ。ミス・ニシズミにこんなことを考えさせて。」

ヤンはみほがイゼルローンをどう攻略するのか参考に聞きたいとおもって資料をわたして考えさせていたのだった。また同盟の科学技術で何が可能かも教えておいたのだ。

「いえ。作戦を考えるのはきらいじゃないので。」

「で、どんなことを考え付いた?」

「あのう…ひとつはごっつんこ作戦です。」

「で、どうするんだい。」

「小惑星を光の速さに近いスピードでぶつけるか、イゼルローン要塞の場所にいきなりワープさせてごっつんこ。味方はだれも死なないで済みます。」

「なるほど。ミス・ニシズミ。それだけじゃあないだろう。」

「はい。もし、イゼルローン要塞をこれからも使いたい場合の作戦も考えました。」

ヤンは続けるように無言の合図をする。

「帝国軍の軍艦をつかって、帝国語の上手なとっても強い...お兄さんたちを帝国軍の兵隊さんのふりをさせてしのびこませるんです。それで要塞の内部のコントロールをのっとっちゃいます。」

「それからおまんじゅう作戦です。艦隊を散開させながら要塞の砲台の有効射程ぎりぎりにひやかすように攻撃しながら背後にまわりこませます。同時に要塞のまえのほうに小惑星を近づけてその引力でイゼルローン要塞の「海」をお月さまが満ち潮にするようにひっぱります。要塞の「海」がおまんじゅうのようになると薄くなるところが出てくるので、そこを爆破または集中攻撃して穴をあけます。その穴へ艦載機とやっぱりすごく強いお兄さんたちに侵入させて、要塞をのっとっちゃいます。」

「その場合、駐留艦隊を封じ込められないと反撃される可能性があるね。」

「はい。だからこのように配置します。」

「なるほど、わざと逃げ道を開けておくのか。」

「はい。」(プラウダ戦で大洗がされたことの応用です。)

(いずれにしても、やはり…問題は要塞を内部から制圧可能な白兵戦部隊の確保か…)

「しかし、よく調べたね。ミス・ニシズミ。」

「基本中の基本です。」

みほは微笑んで答える。

「そうか。一本取られたな。じゃあ二番目の作戦名はどうする?」

「え~と、こっそりジャイアン作戦っていうのはどうでしょうか?。」

「おもしろいね。ありがとう。大いに参考になったよ。」

「そうですか。うれしいです。」

「うん。実はわたしも同じような作戦を考えたんだ。堅牢な要塞は内部から侵入させて制圧するしかないと。その場合、ミス・ニシズミの言うように「すごく強いお兄さんたち」を確保する必要がある。」

「そう思ったんです。外からだと砲門はないけどトール…というカールみたいな大砲を撃たれてたくさんの人が死にます。」

「ありがとう。ミス・ニシズミ。相談してよかったよ。何をすべきかはっきりした。これからも中尉を手伝ってあげてくれ。」

「はい。」

みほは微笑んで退出した。

 




ヤンはひょんなことから帝国語に堪能な「すごく強いお兄さんたち」の確保に成功。みごとイゼルローン要塞を無血占領し、中将に昇進することとなった。

みほの作戦名は「ひらがな」的な表現なのでかなり考えましたが、「パラリラ」作戦みたいな、おっさんホイホイ的なネーミングもあるので、ジャイアンもありかなと考えました。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。