Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第129話 神々の黄昏作戦発動です。

オーベルシュタインのもとに現れたのは、青みがかった黒髪を持つ美女であった。

「来たか。」

「うふふ...。」

ニヒトの顔写真をみせる。

「こいつは知っているな。」

「もちろん。」

部屋の殺気を鋭く嗅ぎ取り、美女はつぶやく。

「あらあら、レディーをもてなす場所にふさわしいとは思えないのですけれど。」

「相変わらず鋭いな。」

「まあいい。この者が閣下に近寄らないようにしてほしい。」

「うふふ...わかったわ。」

「何か知っているだろう。」

「さあ...。」

「これはどうだ?」

オーベルシュタインは、ルビンスキーの顔の覆面と総大司教の黒衣をとりだす。

「お遊びにそんな真剣な顔をされると困ってしまいます。」

「次回の軍議の邪魔をするなということだ。」

「うふふ。それだけはお約束しましょう。あなたの目が光っているようですから。」

 

 

「キスリング」

「はつ。」

「あらためて軍議を開く。」

 

ラインハルトは、再度提督たちを集めた。

「不逞な輩でしたな。」

ワーレンが話しかけた。このとき将来この影の者を討伐するのに自分が地球へ行くことになろうとは思いもよらない。

「ああ、なんとか抑えた。」

ラインハルトは答える。

「オーベルシュタインの手の者に守らせている。「影の援軍」も取り付けたとのことだ。」

「ほう、そうでしたか。」

諸将が元帥府の会議室にそろうと、金髪の元帥から流麗な声で説明がはじまる。

ボルテックがあらゆる手段を用いてフェザーン回廊通過の便宜を図ること、フェザーンは政治的形式的な独立がなくてもフェザーンの実態は経済力にあるから生き延びる方策があること、いまの自治領主ルビンスキーを追うだけのことで売国などと言われる筋合いはないことなど、ご丁寧にもボルテックが追加で説明をする。

「ということだ。彼の協力でフェザーン回廊の旅客となることが可能になる。わたしは、彼の助力に対し相応の報酬と礼儀をもって報いたいと考えるがどうか。」

「小官としては才覚豊富なフェザーン人を手放しで信用する気になれませんな。フェザーン回廊を通過して同盟領に侵攻したとして、回廊を封鎖したら、通信も補給も意にまかせず、我々は、敵中に孤立します。いささか危険度が大きいとおもわれますが。」

「ロイエンタール上級大将のご心配はもっともだが、フェザーンがそのような卑劣な手段に訴えたら武力をもって教訓をたれればよいことではないか。」

「もし軍を反転させるというならば、後背から同盟軍が襲いかかってきたらどうする。敗れるとはおもわんが、犠牲は無視できないものになるだろう。」

「ロイエンタールの発言は理に適っているが、基本的な構想としてフェザーン回廊を通過して同盟領に侵攻することをわたしはすでに決めている。同盟のやつらがわれらがイゼルローンから攻め入ると思い込んで午睡を決め込むのは勝手だが、それにつきあう理由はない。卿らは城攻めは愚策であることは十分知っておろう。しかもフェザーン回廊を通過することはやつらの意表を突く意味でも他の方策に勝る。」

「そこでまず、やつらの期待通り、イゼルローンに兵をすすめる。この春にケンプやミュラーに率いさせたよりもさらに多い兵をだ。だが、これは言うまでもなく陽動だ。」

「同盟の関心がイゼルローンに集中した時にわが主力はフェザーン回廊を通過し、一気に同盟領に侵攻する。ヤン・ウェンリーはイゼルローンにあり、同盟軍の他の兵力や将帥は論ずるに足らん。」

おさまりの悪い蜂蜜色の髪を持つ俊敏な風格の若き提督が小首をかしげて問い返すように発言した。

「そのヤン・ウェンリーですが、彼がわが軍主力の動きに呼応してイゼルローンを離れ長躯して。わが軍主力を迎撃する可能性も考慮にいれねばなりますまい。」

「そのときは、移動するヤン・ウェンリーの後背から攻撃をかけ、奴を民主国家の殉教者にしてやればよかろう。」

ラインハルトが昂然と言い放つと、提督たちは、多数が同意してうなづく表情を示したが、オーベルシュタインは無言のまま虚空を眺めるようにみえ、ロイエンタールは口にだして「はたしてうまくいきますかな。」とつぶやいた。

「うまくいかせたいものだ。」

ラインハルトは端正な口元に微笑をきらめかせる。

「...そうありたいですな。」

金銀妖瞳をもつ青年提督も微笑をつくって応じた。

「作戦名はどういうものになりましょうか。」

砂色の瞳の青年提督が主君にたずねる。若き金髪の主君は会心の笑みをうかべて、黄金色の髪を手のひらで跳ね上げて、音楽的なまでの声で語る。

「....作戦名は、神々の黄昏(ラグナロック)

神々の黄昏(ラグナロック)!?」

提督たちは、その語の響きを確認するようにつぶやいた。遠く古い北欧神話にちなんだこの作戦名は、燃え尽きる恒星とともに運命を共にする惑星文明を幻視させるような妖しさをたたえるだけでなく、この名が与えられたことによってこの作戦がすでに成功したかのような想いさえいだいたのである。

提督たちは、覇気と鋭気を刺激され、この壮大な作戦行動に自分を参加させてくれるよう若き主君に求めた。

そのとき元帥府の屋根裏、床下をはじめ目立たない場所に、帝国とフェザーン、すなわち地球教の影の者の数十体にも及ぶ死体があった。オーベルシュタインはそれをひそかに片付けさせた。

 

「宰相閣下。」

ラインハルトはかたちの良い眉を少しばかり動かす。

「なんだ?」

「ボルテックのような小物にフェザーンが御しうるでしょうか。」

「ふむ。確かに万人の上に立つほどの器量はないかもしれぬな。」

「はい。無能ではありませんが、しょせん黒狐の威を借りる小利口な鼠にすぎません。フェザーンの不平派を抑えられなければわが軍の足を引っ張ることになりましょう。」

「力量があればよし。なければないで、やつは自分の地位と権力を守るため、不平派の弾圧に狂奔せざるをえなくなろう。当然ながら憎悪と反感は奴の身に集中するから、それが限界に達する寸前にわたしの手でやつを処断すればよい。そうすれば何の反動もなく、効率よく古道具を処理できるうえに、わたしの権威も高められるわけだ。」

「なるほど...そこまでお考えでしたか。わたしなどの懸念すべきことではありませんでした。」

「オーベルシュタイン。これはおそらく自由惑星同盟を征服した時にも使える手だ。そう思わないか?」

「御意。」

オーベルシュタインは恐縮した様子で点頭してみせる。

「新帝国の権威と武力を背景に旧同盟領の総督たる地位を欲する者はおりましょう。人選をすすめておきましょうか。」

美貌な金髪の若き帝国宰相は、銀髪で義眼の総参謀長の声に無言でうなずきかえした。


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