Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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「だれ?」
「お嬢さん、おもしろい話を持ってきたよ。俺か?」
エリコは頷く。
「おれはなくてないもの。俺の前には門はないのさ。」
エリコはほほえんだ。
「お嬢さんはおもしろいな。俺はこれから皇帝になる金髪の孺子の首をとりそこねたんだけどな。」
「その実力ならできた?」
「ああ、可能だとおもったがやめた。あれは大した奴だ。」
「わかる?でもこの国をまもりたい?」
「ますますおもしろいな。テイコクがフェザーンを通過して攻め込むってさ。八万八千隻、一千二百万でさ。」
「なぜ、そんなこと教えてくれる?」
「だっておもしろくないじゃん。一方的過ぎてさ。まじこの国、ドウメイっていってたっけ?このままじゃ金髪の孺子に滅ぼされるぞ。まあ俺の知ったこっちゃないがな。」





第14章 「神々の黄昏」発動です。
第131話 金銀妖瞳の青年提督、イゼルローン回廊に出現です。


ルパートの隣にあでやかな大鎌を持ち、白百合のような清楚なワンピースをまとい、青みがかった流れるような美しく黒髪をもった美女が現れた。

野心家の青年は、話を続ける。彼は嘲弄されることに慣れておらず、慣れたいとも思わなかった。嘲笑は勝者の身に許された特権であり、しかも自分にはこのおそるべき美女が味方であるという確信が野心と力の裏付けにもなっていた。

 

「総大司教がおそるるに足らないと言った意味がわかったろう。私と組まないというなら貴様が酒と麻薬と女におぼれた狂態はすべて録画してある。これを利用させてもらうまでだ。陳腐な手だが効果があるから常用されるし、常用されるからこそ陳腐にもなる。決心してもらおうか。」

沈黙が続いていた。腐臭さえ感じられるような不快な沈黙である。

やがて司教は

「犬め...。」

とつぶやいた。狂信者にすらなれなかった悲しく弱弱しい敗者のつぶやきだった。

 

さて、帝国駐在フェザーン弁務官のボルテックは、帝国軍の侵攻がイゼルローンに対して行われるということをことさらに強調してフェザーンと同盟に流した。

11月4日にロイエンタール上級大将による三万人規模の大演習をおこなった。これは、イゼルローン侵攻の準備であると報道される。

ボルテックは、民間の宇宙船からフェザーンニ送られる情報に整合性をもたせることに気を配った。半年ほど前までは政治的忠誠心の対象であったルビンスキーを過去の人としてあつかい、自らの後ろめたい心理を正当化するために、ルビンスキーの欠点をあげつらい、権力を失って当然との宣伝に抱き合わせでフェザーンの独立に意味があるのかという疑念ををたくみに潜り込ませた。

 

11月8日ラインハルトは、神々の黄昏作戦の人事を発表する。

先鋒は、疾風ウォルフの二つ名で呼ばれるウォルフガング・ミッターマイヤー上級大将、第二陣は、ナイトハルト・ミュラー大将、第三陣は、帝国軍最高司令官ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥自身であり、第四陣はシュタインメッツ大将、第五陣は、ワーレン大将である。動員兵力は八万七千五百隻、兵員一千二百万の大兵力であった。ファーレンハイト大将、西住まほ中将、逸見エリカ少将は、イゼルローン方面から召還されて待機を命ぜられた。ファーレンハイトと西住・逸見の艦隊は決戦時の予備兵力としてその攻撃力には定評がある。西住まほ、逸見エリカの両艦隊は、全艦黒十字が塗られ、、黒十字槍騎兵(シュクロイツランツェンレイター)と呼ばれた。先日来のイゼルローン攻防戦において、「栗色の髪の小娘とその愉快な仲間たち」にしてやられた雪辱戦を江戸の仇を長崎でもいいから果たしたいという意気に燃えていた。

 

イゼルローン方面軍については、その日時まで公表された。

「帝国軍は、ロイエンタール上級大将を総司令官として、イゼルローン回廊への軍事行動を行う模様。」

 

帝国軍のこれ見よがしの挑発に、同盟首都ハイネセンは、震撼はするものの最終的な予定調和を信じてのそれであって緊張感を決定的に欠いていた。イゼルローンには堅牢な要塞と宇宙屈指の名将がいる。帝国軍が領内に侵攻を果たしえようがないと思い込んでいた。

 

政府と軍部の最高幹部が一堂に会しての国防調整会議では、宇宙艦隊司令長官ビュコック大将は、発言をもとめて三度ばかり無視された後ようやく指名された。

「これほどまでに帝国軍がイゼルローンへの攻勢を宣伝するのは、なぜなのか。真の目的であるフェザーン回廊からの侵攻から目をそらさせるための陽動ではないかと考えます。」

「わたしもそう考えます。」

ウランフとボロディンも同意する。

「帝国軍は、八万八千隻弱、一千二百万の五個艦隊をフェザーン回廊に向かわせようとしています。」

エリコとバグダッシュの情報網からもたらされた画期的な情報を提示するが、同盟の高官たちの反応はにぶいものだった。

「ビュコック司令長官のお考えはなかなかに独創的であるが、帝国が強大化すれば、彼らの政治的中立や強いては存続がおびやかされる。一世紀余の伝統を捨ててまでそのようなことをするだろうか。」

「フェザーンは同盟に莫大な資本を投下し、膨大な権益を有している。もし同盟が帝国に併呑されでもしたらそれが接収されるだろう。そんな割にあわないことを彼らのような現実主義者がするだろうか?」

「たしかにフェザーンは、同盟に膨大な資本を投下して権益をもっていますな。しかしそれは同盟領内の諸惑星、鉱山、土地、企業などであって、同盟政府にではありますまい。彼らにとっては、その権益が守られさえすれば同盟の国家機構がどうなろうとさほど痛痒を感じるとは思えませんな。」

「それともフェザーンが同盟政府に対して資本投下を行っている事実をわしは二、三把握していますが挙げてもよろしいですかな。」

政治家や高官たちは蒼くなった

「提督、すこしお口をつつしんでいただけますかな。」

「そうだ、そうだ。」

国防委員長のアイランズがにがにがしさを含んだ語調で老将の毒舌を制し、場にいた政治家や高官たちも口々に同意した。

ビュコックは想う。建国の父アーレ・ハイネセンが知ったら嘆くであろう、同盟政府の政治家、高官たちがフェザーン流精神の最悪な一部分を模倣して、自己の権限や責任を金銭に変える輩は後継者難になやんだことがない。さらに、ジャーナリズムの政界癒着、たとえば政治家、高官たちの会食や脅迫が行われ、スキャンダルの表面化は派閥次元の政争の結果でしかないという状態。軍機保護をたてまえになぜか政治家や高官の個人情報への取材制限をもぐりこませた言論統制立法が進んでいることもまともなジャーナリズムや市民を委縮させ、民主主義の形骸化がいきつくところまですすんでいる。

ビュコックの指摘は空論として退けられ、イゼルローンに警備強化命令を出し、必要があれば補給物資を輸送することを決めて、三人の例外を除き会議は散会した。

 

そのころイゼルローン回廊で哨戒活動を行っていた戦艦ユリシーズの艦橋は、ひとりのオペレーターの恐怖交じりの上ずった声により緊張が走った。

「400光秒先に艦影多数!」

「!!」

「艦種照合!帝国軍と認定。ブレーメン級...すごい数だ...推定3万隻。」

「艦長、いかがしますか。」

「ぐずぐずするんじゃない。さっさと逃げ出すよう僚艦にも伝えろ!」

 

同盟軍艦艇の様子は帝国軍にもとらえられていた。

「400光秒先に同盟軍艦艇発見!30隻程度と思われます。敵、逃走に移っている模様。追いますか?」

「かまうな。その程度の弱敵を相手にしなくてもよい。」

部下に問われて、細面で金銀妖瞳をもつ青年提督は放置しておくよう命じた。

 


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