Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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宇宙暦798年/帝国暦489年8月31日、壮行式の前日である。
「ミス・ニシズミ」
「ヤン提督?」
「一万四千隻を率いて、近い将来出撃するであろうビュコック司令の艦隊を援護、いや、同盟が有利になるよう作戦行動をしてほしいんだ。」
「あの…イゼルローン要塞にも帝国軍の大軍が来るはずでは…。」
「たしかにそのとおりだ。しかし、いかな大艦隊でもこの要塞は内部からの攻略でないと落とせないし、所詮は陽動だ。浮遊砲台やトゥールハンマーもあるし、一万一千隻もあれば十分だ。それよりも、先日の作戦案だ。敵が来る前にやらなければならないことがたくさんある。時間がない。」
「そうですね。おそらく今年中に帝国軍はフェザーン回廊を通過しますから長くて4か月以内にすべての準備をしなければならないということですね。」
「うむ。その期間は短くなることはあっても長くなることはない。招かれざるお客人に撤退へのフルコースをふるまって、お帰り頂かなければならないからね。」
「わかりました。すぐにでも出発します。」
「よろしく。」


第134話 作戦始動します。

ロイエンタールは、ほくそえみながら、トゥールハンマーの射程内に引きずり込もうと試みるアッテンボローの巧みな艦隊運動を看破し、揮下の艦隊に誘いに乗らないよう十分に言い含めていた。接近、後退をあざやかなタイミングで繰り返し、包囲を締め付けるかと思えばゆるめる。アッテンボローは舌打ちせざるをえない。要塞のオペレーターたちは、その動きに翻弄されて、不安を募らせる。シェーンコップはロイエンタールを殺しそこねたことを本気で後悔し始めていた。

 

12月9日、ロイエンタールは、500隻ほどの艦艇を一団にして車懸かりというべきか順番に一撃離脱方式による全面攻勢に出た。流体金属に浮かぶ砲塔が複数の光の槍に貫かれて水柱のように白く輝いて消滅する。一方で帝国軍の駆逐艦や巡洋艦がイゼルローンの人工重力につかまり、砲撃を受けて、四散したり、真っ二つに引き裂かれて流体金属の海に沈没する。トゥールハンマーの死角をついて巧みに攻撃を加える。イゼルローンのオペレーターは不眠不休で対処する。帝国軍は二千隻を失ったが、イゼルローン要塞ものべ半数の浮遊砲台を失った。

 

この日の攻勢が失敗に終わったことをこれ見よがしにロイエンタールはオーディンに伝える。イゼルローンの防御力と抵抗力の巨大さを帝都に向かって訴え、帝国軍最高司令官ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥に増援軍の派遣を求めた。

ラインハルトはロイエンタールの苦戦に遺憾の意を示し、一挙にイゼルローンを攻略すべく諸将に伝達した。帝都周辺宙域にあったウォルフガング・ミッターマイヤー上級大将、ナイトハルト・ミュラーら三人の大将がローエングラム公に招集された姿が放映される。

「可能な限り迅速にイゼルローン回廊に向かい、卿らの任務を果たせ。なお戦力が必要とするときは、私自ら帝都を発って、卿らの戦列に加わるであろう。」

「御意。微力を尽くします。」

軍用宇宙港で、ラインハルトは、満天の星の海のなかへ浮上していく戦艦ベイオウルフをはじめとする無数のように思える帝国軍艦隊の姿を秘書官であるヒルダとともに見送った。

「はじまりましたわね。」

ラインハルトは少年めいた熱っぽさでうなづいて答える。

「そうだ、終わりの始まりだ。フロイライン。」

二人はしばらく星々の海をながめていた。さてその「海」は征服されるべきものとなるのか近いうちに回答が得られるはずであった。

 

さて、アルレスハイム星域である。歴史上何度か会戦が行われた要衝の地でもある。太陽系で言えばカイパーベルトにあたる主星アルレスハイムから40天文単位、約6億キロの空間で、おびただしく小惑星がうかんでいる。その空間に同盟軍艦隊一万四千隻が航行している。先頭には平たくあんこうを思わせるレーダーのついた戦艦ロフィフォルメ。西住みほイゼルローン駐留艦隊副司令官の旗艦である。フェザーン回廊方面に向かってゆっくり航行していた。そこへ一隻の同盟軍巡航艦が接近する。

 

「みぽりん、ビューフォート准将の艦が来たよ。」

「接舷するように伝えてください。」

「了解。」

 

「はじめまして。西住中将、ミズキエリコ中佐、秋山優花里中佐。」

「はじめまして。今回はわざわざありがとうございます。」

「いえ。こちらこそ、ヤン提督とあなたがビュコック長官に送られた親書につけられたという作戦案には驚かされました。わが同盟軍で三指にはいる智将にご指名いただき光栄です。さてわたしの任務とは?」

「帝国軍はフェザーン回廊からかならすやってきます。その数は八万八千隻弱、兵力一千二百万です。決戦場はおそらくランテマリオ星域になりますが、戦力がそろうまで時間稼ぎをしなければなりません。そこで准将には特殊戦闘艇に慣れていただこうと...。」

「こ、これは...。」

「ミズキ中佐の自信作であります。特殊な魚雷や機雷も散布できます。」

「これなら帝国軍を阻止できるどころか全滅させることも可能なのでは?」

「相手が無能ならありえる?しかし、相手は超一流と言ってもいい将帥?きっと対策を練るはず?」

「しかし、どんなレーダーを使おうと発見されないはずでしょう?単なるステルスとはわけが違いますから。」

「確かにレーダーでは発見できない?でもワープが可能な艦艇をつくる技術があれば気が付く可能性が高い?」

「なるほど...。」

 

さて一方、帝国軍は、イゼルローン回廊に向かっている...はずであった。大部分の将兵がそう思い込んでいた。しかし、指示された座標どおりのワープを繰り返すうちに、航法部門の将兵たちを中心にイゼルローンとは反対の方向に向かっているのではという疑惑がささやかれはじめた。最初は見当がつかなかった将兵たちもイゼルローン以外の帝国領の外側といえば...と考え、脳裏にアルファベットの文字配列が浮かび上がりはじめる者もいた。それはPHEZZANという文字列だったが、まさか...という思いがある。

 

彼らの不審と疑惑は12月23日に氷解した。それまで将官のみに知らされていた「神々の黄昏」作戦の全容が兵士たちに知らされたのである。

旗艦ベイオウルフの艦橋から全艦隊へ向けてミッターマイヤー上級大将から通信が発せられ、はちみつ色のおさまりの悪い髪を持つ若き精悍な提督の姿が各艦のメインスクリーンに映し出される。

「もううすうす気が付き始めた者もいるようだが、はっきり言っておこう。我々の赴く先はイゼルローン回廊に非ず、フェザーン回廊である。」

疾風ウオルフの声を聴いた兵士たちは。ひとしく声を呑んでスクリーンを凝視してしまう。最初は驚愕の波が襲い、そのあと興奮の空気に覆われる。その空気は低く熱いざわめきに変わっていった。心なしか兵士たちの興奮と士気が高まっている。

「最終的なわれわれの目的は、むろん、フェザーンの占領にとどまらない。フェザーンを後方基地として、自由惑星同盟を僭称する叛徒どもを制圧して、数世紀にわたる人類社会の分裂抗争に終止符を打つこと、それこそがこの出兵の目的なのだ。われわれは戦い征服するためにここにあるのではなく、歴史に記録されるべき偉大な一ページをめくるためにここにあるのだ。」

「むろん、目的を達するのは容易ではない。同盟領は広大であり、彼らの陣営にはなお多くの兵力と優れた将帥がいる。だがわれわれは、フェザーン回廊を制圧することにより圧倒的に有利な立場を手にすることができる。卿らの善戦に期待するところ大である。」

「フェザーン回廊へ向けて針路をとれ!」

はりのある疾風ウォルフの声がスピーカーを通じて帝国艦隊全艦の艦橋にひびいた。おびただしい数のグレーの船体は、その三倍の数のエンジン噴射孔の輝きを帝国本土にみせつつ、隊列をととのえて将兵たちとその昂揚をのせてフェザーン回廊へむかっていった。


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