Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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宇宙暦798年/帝国暦489年8月31日、壮行式の前日である。
「ユリアンさん?」
「ミズキ中佐?」
「これをもっていってほしい?。」
そう言って渡されたのは1台のノートパソコンと二十数個の指輪のようなものだった。
「これは....?」
「もし、帝国軍にフェザーンが占領させそうだとわかったら、同盟弁務官事務所でつかってほしい?使い方のファイルもつけてある?くれぐれも取り扱いに気をつけて?」
「わかりました。」
亜麻色の髪の少年はほほえんだが、その晩使用法を読んで驚いた。
(これはあらん限りの知恵を絞った渾身の作戦...すごい。ヤン提督やミス・ニシズミのお役に立てるし、期待にも応えられるだろう...)
翌日エリコに話す。
「すごいですけど...責任重大です。」
「ユリアンさんならできるはず?」
「ありがとうございます。頑張ってみます。」
少年は、必ず成し遂げたい、いや成し遂げてやるという密かな決意を胸にタナトス3号に乗り込んだ。



第135話 フェザーンが占領されます。

さて、取引を終えて帰途に帝国領との国境に近い宙域を航行していたフェザーン商船「ぼろもうけ」号は、メインスクリーンにあらわれたおびただしい光点に驚愕する。

「未確認物体多数接近。」

「船籍不明の大型宇宙船多数!」

「緊急事態だ。船籍の確認を急げ。」

「宇宙海賊か?しかしこんな数は...。」

「船籍照合!帝国軍戦艦、巡航艦、駆逐艦多数。帝国軍艦隊です。しかしすごい数だ...一万隻、いや二万隻をこえる...。」

「なんだって?なぜやつらがこんなところにいるんだ。ここは非武装宙域のはずだぞ。」

乗組員たちの声は驚愕でうわずった声をぶつけあう。結論を出したのは日頃は無口な航宙士だった。

「やつらはフェザーン回廊に侵入するつもりだろう。イゼルローンへ行くと思っていたがどうやらいっぱいくわされたらしいな。」

皆をおちつかせようと

「悪い冗談はよせよ。」

との声が上がるものの、乗組員たちの胸中には不安と恐怖の溶岩が噴き出して流れ出している。

「...するとやつらはフェザーンを武力占領するつもりか?」

「それ以外に何がある。」

「落ち着いているな!一大事だぞ!すぐにフェザーン本星に伝えなければ...」

「停船せよ。しからざれば攻撃す!」

10隻を超す帝国軍駆逐艦と快速哨戒艇が接近しつつ、常套句をつげたのはそれからまもなくだった。

「弁務官事務所はなにをやっているんだ...こういうときのためじゃないのか。」

「起こってしまったことは仕方ない。どうせ本星でもやつらの不機嫌なツラを拝むことになる。ここはおとなしく従って心証をよくしておくにこしたことはない。」

 

12月24日、ミッターマイヤー艦隊は、フェザーンの衛星軌道上にあった。ここに至るまで60隻のフェザーン商船を捕捉し、その半数を破壊しなければならなかった。

旗艦ベイオウルフの艦橋で、ミッターマイヤーは大スクリーンを通じて惑星表面への降下作戦を見守っていた。

フェザーン中央宇宙港管制局から幾度となく警告の通信がなされる。

「管制に従ってください。法規違反は処罰されます。管制に従いなさい。」

執拗で責任感に富んだ問いかけは無視された。

バイエルライン中将の指揮する分艦隊はすでに大気圏降下を開始している。銀色にかがやく艦列は太陽光を反射している。客観的にみれば美しく見えるこの光景もフェザーン人からすれば不安と恐怖をあおるものでしかなかった。

「自治領主府に連絡しろ!帝国軍が大気圏に突入してくるぞ!侵略だ!」

管制当局は驚愕に見舞われていた。

ヒステリックな叫び、乱れた足音がオフィスに響く。

管制官のいく人かは、頭をかきむしって叫ぶ。

「しかし..こんな事態になるまで、どうしてわからなかったんだ。」

自治領主府や弁務官事務所をののしる声があちちこちらで発せられた。

フェザーンの地上、一般市民も、まず子どもたちが空を指さして、見慣れない人工的な光を多数みて不審が驚きと理解と恐怖に変わり、パニック状態に陥っていた。

 

ユリアンもこの様子を見て、ついにはじまったかと得心した。彼はフェザーンの地上にいる、数少ないも最も冷静な者の一人だった。予測した本人が一番喜べないだろうが、ヤン提督の予測はやはり正しかった、という感慨だった。やれることは数少ない。亜麻色の髪の少年は、ふと思い出し、エリコからあずかったパソコンと指輪を二十数個もっていかなければならない。自宅にもどってパソコンと指輪をもって、幾人とぶつかるたびに、謝罪しながらも弁務官事務所に急いだ。

 

「帝国軍、フェザーンに侵攻。中央宇宙港はすでに彼らの占領下にあり。」

の報がもたらされたとき、自治領主アドリアン・ルビンスキーは自治領主府や公邸にはおらず、私邸のひとつにいた。

ソファに腰かけ悠然とワイングラスを傾けている。

「聞きましたか?自治領主閣下」

「聞いた。」

「フェザーン最後の日が、指の届くところまできたようですな。」

「...。」

「あなたの時代は終わった。地球教の力で、ワレンコフを逐って自治領主となって在位7年、歴代で最短命というわけだ。いずれボルテックが帝国軍の武力を背景に乗り込んでくるでしょう。あなたの地位を奪い、奴の肩には重すぎる権力をかつぐためにね。」

「ほう、わたしの時代が終わったということを、君が保証してくれるのかね。」

ルビンスキーは身の危険を察して指を鳴らす。

 

黒い影が数人現れる。

しかし、その黒い影は、次の瞬間には、切り刻まれて、血を流して白目をむき床面にころがっていた。

「お、おまえは....。」

「ふん、元雇人には悪いが、金髪の孺子を殺せなかったかわりに同盟のやつらに入れ知恵しておいたよ。しかしこれは便利だな。」

いつのまにか、光学迷彩を満足そうに見つめる男ニヒトと青みがかった黒髪の美女がその場に現れていた。

「あらあら、親子で殺し合いなんて。ルパートのおぼちゃま。小魚が高みにのぼろうとしてもメザシになるだけですよ。」

美女は微笑みながら、彼女の身長ほどもある弧を描いた巨大な大鎌をルパートののどもとにつきつける。

「くッ。」

ルパートは舌打ちしたが、美女は微笑みながらルパートになにやら教えるように数か所に大鎌を向ける。鏡の裏がかすかに黒ずんで見える。影の者以外にも荷電粒子ブラスターを持った自治領主のSP部隊がひそんでいるというわけだった。

「さあ、行きましょう。」

自治領主の息子でもある野心家の青年は、美女ゼフィーリアに連れ去られるようにすごすごと出ていった。

 

ルパートと美女とニヒトが去ると、SPが鏡の影から現れた。

「自治領主閣下、これからいかがいたしますか。」

ルビンスキーは鋭い眼光を一瞬SPにむけたが、やがてふだんのふてぶてしい風貌をとりもどし、自信にみちてうそぶいてみせる。

「同盟元首トリューニヒト評議会議長は、救国会議のクーデターの際に安全にかくれておったそうだ。われわれもそのひそみにならうとしようか。」

 

フェザーン中央宇宙港のビル内に臨時司令部を置いたミッターマイヤーの最初の仕事は、帝国軍の進駐に反感を持つ暴徒から守ってくれという帝国の弁務官事務所からの要請に応じて陸戦隊の一個大隊をおくることだった。

 


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