Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第138話 仮元帥府のニューイヤーパーティーです。

仮元帥府がおかれた高級ホテルの宴会場で、新年を迎えるパーティが行われていた。

豪奢な黄金の髪を若き覇者が揺らし、音響システムを組み込んだ四方の壁から新年を告げる鐘の音が鳴り、若き覇者ラインハルトが自分の前にあるテーブルからシャンペンを満たしたグラスを高く掲げた。居並ぶ将帥たちもそれに応じてグラスをかかげ、いっせいに

「プロージット!」と叫ぶ。

「プロージット!新たなる年に!」

一斉に唱和する中に

「プロージット!自由惑星同盟最後の年に!」

とひときわよく通る声がひびきわたる。声の主は、ラインハルトをみやりつつ、高々とグラスをかかげた。ラインハルトが端正な口元に微笑をひらめかせてグラスをかかげかえすと、歓声と拍手がわきおこり、発言者は、面目をほどこしたかたちとなって、少々恥ずかしげにほおを赤らめた。

声の主は、イザーク・フェルデイナンド・フォン・トゥルナイゼン中将といい、幼年学校時代からラインハルトに次ぐ優等生集団の一角を占め、士官学校を経て、多くの同窓生がリップシュタット貴族連合軍へ行って戦死したにもかかわらず、彼は、迷うことなくラインハルトの招来性を見抜いて、ケンプのもとでも多くの戦功をたてた。ケンプのイゼルローン派遣部隊には加わらず、ラインハルト直属となった。有能さのみならず運もあると周囲にはみなされている。

「若い連中は元気だな。」

おさまりの悪い蜂蜜色の髪の若き提督がつぶやくとその隣にいた砂色の髪と瞳を持つ背年提督が答える。

「わたしも若いですが、あれほどの元気はありませんよ。」

とその声には、皮肉混じり響きが加わる。アムリッツア、リップシュタット戦役、フェザーン占領と宇宙の統一が近づくにつれ武勲を得る機会が少なくなり将校たちは互いに戦友というよりは競争者となる。その空気をミュラーは感じており皮肉っぽくならざるを得ない。

「さて、同盟は、おそらく宇宙艦隊司令長官が自ら出てくることになるだろうな。」

「アレクサンドル・ビュコック提督でしたね、たしか...。」

「ああ、目当たないが第3次ティアマト会戦で崩れつつある味方をかばって撤退を成功させている。アムリッツアでも、引き際を知りつつも、ヤンの第13艦隊とともによく戦い、相当数の兵力を維持しつつ的確な判断でイゼルローンへの帰投を成功させている。さしずめ、同盟のメルカッツといったところか、老練な男だ。卿とおれとロイエンタール、ここにいるいく人かの軍歴を合わせてもあの老人には及ばない。呼吸する軍事博物館というべきだな。」

「話が弾んでいるようだな。」

その声に二人の提督は恐縮の表情で一礼した。クリスタル・グラスを片手に金髪の若き主君が立っている。

「稀代の用兵巧者たる卿に、いまさらわたしから言うこともないが、同盟軍は窮鼠と化してわが軍を迎えるだろう。いかに対処するか、一応、卿の思うところを聞いておきたいが...。」

「同盟軍に十分な兵力があればフェザーン回廊の同盟側出口に縦深陣をしき、正面から決戦を挑んでくるでしょう。わが軍としては中央突破しかあありませんが、相応の損害と時間の浪費を覚悟しなければならないでしょう。その場合、わが軍の後方のフェザーンの動向が気になりますし、悪くすれば各個撃破に追い込まれる可能性もあります。しかし、今回、この方法をとるには、アムリッツアの大敗と救国会議の内戦でその傷は十分にいえておらず、兵力はすくなくなっているはずです。一戦すればあとはなく彼らの首都に至るまで広大な領土が無防備にさらけだされることになりましょう。そうすれば彼らとすれば最初の戦いが最後になり、降伏以外道はなくなります。」

「ですから彼らとすれば、深く領内へ引きずり込み、行動の限界点に達したところで補給路を遮断し、通信を妨害して各部隊を孤立させ。各個撃破をかけてくるでしょう。つまり3年ほど前のアムリッツアの会戦を攻守ところを変えて再現することを狙うでしょう。したがって隊列を長くすれば敵の思惑にのることになるでしょう。ですが、小官としてはそこにこそわが軍の勝機があると考えます。」

ミッターマイヤーが口を閉ざし、若き主君をみつめると、ラインハルトは鋭敏さと優美さが絶妙に融合した笑顔をつくって確認するように話す。

「卿のいうところは、双頭の蛇だな。」

「御意...。」

「ミュラー提督はどう思う?」

砂色の瞳と髪を持つ大将は主君に軽く一礼し、

「ミッターマイヤー提督のお考えに小官も賛同します。ただ同盟軍の作戦行動が一糸も乱れないものになりえないかもしれませんし、なにやらしかけてくるかもしれません。」

「敵の姿を見てその場で戦わないのは卑怯だと考える輩がアスターテにもいたな。ガイエスブルグ爆発後にもしつこく追ってきた追撃部隊がいたんだろう?ミュラー提督?ミッターマイヤー提督?」

「御意...。あのときはもろくて、こいつら本当にヤン・ウェンリーの部下かとおもったくらいです。まあ、そんな連中が多ければ重畳きわまりないことです。ずるずると彼らをひきずりこみ、戦略目的のない消耗戦に追い込めばいやでも勝利の女神がとりすがってきます。」

「しかし、それでは興がなさすぎる。敵にも秩序ある行動を望みたいと思っていたが、今回の航路図の件といい、油断できないのも確かだな。」

ラインハルトはそう言い残して、別の談笑の輪へ歩み去っていった。

午前2時ごろ、ミッターマイヤーは

「では、閣下、お先に...。」

と主君に敬礼を施し、ラインハルトは片手をあげて応える。

「武運を祈る。惑星ハイネセンで卿らと再会しよう。」

ラインハルトの不敵な笑みに、疾風ウォルフも同様な表情で応じて、敬礼すると会場から歩み去っていく。午前4時に帝国軍将帥たちの新年会は散会した。

 


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