Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第143話 ミスター・レンネン、罠にはまります。双璧、罠を見破ります。しかし...

同盟軍の艦隊は、レンネンカンプの行動曲線を想定してイゼルローンの対空砲塔群の前面に誘い出すことに成功した。

 

流体金属の中から無数の砲台が現れて、無数の光条の槍があたかも下からの豪雨のようにレンネンカンプ艦隊に突き刺さる。レンネンカンプ艦隊は、次々に火球に変わり、爆煙をふき上げる。

被害を受けた艦艇の名が撃沈、大破、通信途絶の報告とともに通信回線にあふれた。同時に聞こえてくるのは、「至急来援を請う!来援を請う!」という「悲鳴」としか思えない声だ。

「見殺しにもできまい、援護せよ。」

今度は数万か十数万かとも思えるおびただしい光のシャワーが要塞外壁に降り注ぎ、流体金属に浮かぶ砲塔群が次々と砕かれ、四散し、爆炎を噴きあげる。腹を食い破られた蛇のごとくのたうち回っていたレンネンカンプの艦隊はようやく秩序をとりもどすことができた。

 

レンネンカンプ艦隊のうち前面に回り込もうとした部隊は無傷であったから、復讐にたけりくるったように一斉に砲撃をはじめた。同盟軍の隊列はみだれて形ばかりの砲撃を無秩序に繰り返して、潮に押される砂のように退却、というより輸送船団を残して「逃走」を始めた。

「ふん。同盟軍め。司令官の薫陶が行き届いているようで逃げるのを恥とも思わんようだ。」

レンネンカンプは同盟軍を追い、ついに輸送船団に接近し、

「停船せよ、しからざれば攻撃す」の信号を打とうとした瞬間だった。

輸送船団が次々に爆発した。帝国軍の艦艇は、その爆発にまきこまれて火球に変わっていく。通信回線に悲鳴を放てた艦艇は運が良かったのか、それともそんな余裕もなく爆発にまきこまれたほうが運が良かったのか、やや後方にいた艦も衝突回避システムが作動せずばらばらと右往左往しながら次々に衝突して爆発にまきこまれた。

帝国軍の混乱は、同盟軍が反転、砲撃を加えるのに充分であった。アッテンボローは思うさまに帝国軍に無数の光の矢を突き立てて、薙ぎ払い、叩きのめした。ルッツ提督が急行して横撃を加えようとしたときには、巧みに隊列をととのえて最小限の被害に抑えて逃げ切ってしまった。

 

「ベルゲングリューン。敵があのような策を弄したのは、こちらの追撃の意思を鈍らせようと考えたからだ。」

「では、追撃しますか。」

「いや、その必要はない。労せずしてイゼルローン要塞を奪還できるのだ。それだけでも十分な勝利とは思わぬか?」

「ですが、ヤン・ウェンリーに行動の自由を与えると後日我が帝国軍にとって大きな災いになりかねません。」

「ふむ...同盟がどれほどの兵力を集められるか正確にはわからないが、アムリッツアに救国会議の内乱の傷はいえていまいし、フェザーン方面からのわが軍ほどの兵力はあつめられまい。仮に運よくわが軍を撤退に追い込めたとしても満身創痍だろうからそれを後背から討てばよい。」

「ですが閣下...。」

「知っているか、ベルゲングリューン。野にすばしこいうさぎがいなくなれば猟犬は烹られるだけだ、そして飛ぶ鳥が狩りつくさされれば優れた弓でも無用になるということわざを。」

「閣下、めったなことをおっしゃいますな。無用な誤解で済めばともかく、...讒言(ざんげん)のもとになります。閣下のことを快く思う者ばかりではございますれば。」

「うむ。卿の忠告は正しい。すこし口をつつしむとしようか。」

「お聞き入れくださりうれしく存じます。さて、イゼルローン要塞への進駐の準備を整えたく存じますが。」

金銀妖瞳の青年提督はうなづいて

「そうだな。早速やってもらおう。」

と指示をした。

 

さてイゼルローンからの民間人脱出作戦は主にキャゼルヌによってすすめられたが、もう一方、技術士官リンクス技術大佐の工兵部隊にヤンは指示を出していた。

極低周波爆弾を水素動力炉、中央指令室など要所要所に仕掛けられた。これは、佐官以上の将校の身に知らされたが、さらに極秘の任務がフレデリカに与えられた。

「爆発物を発見させなくてはならない。ただし容易に発見させてはいけない、というわけですのね。そうしないと真の罠が見破られると...。」

「うん。つまりね、大尉、わたしとしては、最初から燃やすための人形を用意しておいて、真の罠から帝国軍の目をそらせたいのさ。ただ、この要塞とそれを運営するシステムが無傷でない限りこの罠は何ら意味がない。だからすんでのところで人形に気付いてもらって、そこで油断してもらう必要があるんだ。これだけ大掛かりな仕掛けの後には何もないと、ね。」

「しかし、これが成功すれば...と思うと...閣下の智謀には、感嘆を禁じえませんわ。」

「う~ん、智謀なんてそんな上等なものじゃないさ。悪知恵だよ、これは。まあやられたほうはさぞかし腹がたつだろうがね。」

「いえ、普通はおもいつきませんわ。」

フレデリカはうれしさと驚きの、そしてその視線には、彼女自身のヤンに対する好意、憧れの混じった表情で、敬愛する上官を見つめる。

「...それに罠をかけた結果が必ず生かされるとは限らない。われわれは二度とイゼルローンを必要としなくなるかもしれないしね。」

「きっと役に立ちますわ。イゼルローン要塞はわたしたちの...ヤン艦隊全員の家ですもの。いつか帰る日が来ます。そのとき必ず閣下の布石が生きてきますわ。」

ヤンは、片方の手のひらで軽く頭をかく。どういう表情をしていいかわからない時に彼はそうするのだが、手を下すと物慣れない少年のような、恥ずかしげな表情で半ばつぶやくように話す。

「まあ大尉、何はともあれ、今後ともよろしく。」

黒髪の若き学者風提督は、ふたたび恥ずかしげに頭をかるくかいた。

 

さて、ロイエンタールのもとには、膨大な数の艦船がイゼルローン要塞より離脱を開始した旨の報告が入ったが、それは同時に司令官に攻撃命令を出すよう期待が含まれてのものだった。はやったあまり自己の独断で攻撃を開始した一少将の階級をはく奪し、指揮権を奪って、降格したことで自己の姿勢を全軍に知らしめ、

「追撃は不要だ。同盟のやつらは要塞を引っ張っていくことはできない。われわれは要塞を完全に占拠するすることこそ目的とせよ。」と命令を下した。

レンネンカンプが表向き追撃の可否を問う形であからさまに追撃命令を上申してきたが、ロイエンタールは一瞥をくれて、

「卿は、以前もおなじように攻撃するよう上申して、俺はそれを許可したが、その結果どうなったか。やつらは必ず反撃の準備をしている。今度は逆撃を被った上に、避難する民間人に危害を加えたということになると汚名が歴史に残るだけでなく、占領行政に支障をきたすことになる。俺の冷笑をうけたくないだろう。それなら視野を大きく持って、今の状況が卿個人の問題にとどまらないことを自覚するようつとめる習慣をつけることだ。」

レンネンカンプはおとなしくひきさがった。

(よろしい。なにかとやりやすくなる。)

ロイエンタールは金銀妖瞳にかすかな笑みを浮かべ、満足げに小さくうなづいた。




※野にすばしこいうさぎがいなくなれば猟犬は烹られるだけだ、そして飛ぶ鳥が狩りつくさされれば優れた弓でも無用になる
→蜚鳥盡 良弓藏、狡兎死走狗烹、『史記』越王句践世家

11/28,1:05am(JST)、旧145話(現144話)投稿に伴い、原稿を一部入れ替えました。


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