Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第144話 帝国軍、イゼルローン奪還です。

金銀妖瞳の細顔の青年提督は、今度は、参謀長に話しかけた。

「ベルゲングリューン。要塞を占拠し、完全に支配したら、ヤン・ウェンリーを追うのだ。ただし、追いついて戦う必要はない。後からついていくだけでいい。ヤン・ウェンリーが案内役をしてくれる。」

「まあ、それは後日のことだ。さしあたっては、やつらがわざわざ空城にしてくれたイゼルローンに乗り込もうとしようか。」

「閣下。」

「ルッツ提督。なんだ?」

「ヤン・ウェンリーがイゼルローン要塞を放棄したのは事実としても注意すべきは置き土産の存在です。艦隊戦では閣下の指揮に攻めあぐねていましたが、もしわれわれが空城になったイゼルローンに乗り込んだときに一斉に爆発物が爆発したらどうでしょうか。労せずして帝国軍を一網打尽にできるということです。ですから今全艦が急行して要塞に接近するのは危険すぎます。ですからまず爆発物の専門家を派遣して調査させ、それが終了して安全が確認されたときに進駐を行うべきではないでしょうか。」

「ふむ。ルッツ提督の意見は大いに傾聴すべき点があるな。あのペテン師のことだ。そのくらいのことはするだろう。」

ロイエンタールはぼそりと独語すると、今度は声を張り上げて命ずる。

「全艦隊は20光秒まで後退。それからシュムーデ技術大佐を呼べ。」

「閣下、いかようでございましょうか。」

「卿を見込んで頼みがある。きっと同盟の連中は爆発物をしかけているだろう。われわれを一網打尽にしようというわけだ。それを見つけ出して除去してほしい。」

「はっ。謹んで拝命いたします。」

シュムーデ大佐をはじめとする技術士官たちは、極低周波爆弾をすべて発見して解体することに成功した。

「危機一髪でした。実に巧妙に隠されていまして発見があと5分遅れていればイゼルローン要塞は木端微塵になりわが軍がその爆発にまきこまれて膨大な損害を出すところでした。」

興奮を抑えきれないシュムーデ大佐の報告にうなずきながら、金銀妖瞳の司令官は、脳裏で思考の糸車を回転させていた。

(要塞に進駐せず、ヤン艦隊を後背から狙うという選択をとれたかもしれないが、その場合は必ず要塞を爆発させるだろう。その混乱した状態で逆激をくらえば、ケンプの二の舞だ。やはり今はこの程度の成功で満足しておくべきであろう。しかしヤン・ウェンリーの置き土産はほんとうにこれだけなのだろうか...。)

ほかにもなにやら辛辣な罠が残されているのではないかという疑念をぬぐいきることができない。

(食えない男だからな...なにをたくらんでいるやら...)

そんなことを考えつつ、金銀妖瞳の青年提督はヤンのいるだろう宇宙空間を軽くにらんでいた。

 

さて、一方、「夜逃げ」に成功したヤン艦隊である。ヤンは、艦橋のメインスクリーンに映し出されたイゼルローンの球体を見つめていた。

爆発の予定時刻が過ぎてもイゼルローン要塞の外壁にはひび一つはいらないのを確認して、ヤンは胸をなでおろす。

「やれやれ...どうやら気づいてくれたようだ。」

ヤンは仮眠をとるべく艦橋を立ち去った。

 

帝国軍はイゼルローン要塞に進駐する。同盟軍が機密以外に消去までする必要がないと残したデータを消去し、帝国軍のデータをインストールしていく。カスタマイズが完了するまでしばらく時間がかかるだろう。

(譲られたのなら遠慮せず受け取っておくさ)

ロイエンタールは心の中でつぶやき通信士官につたえる。

「大本営に報せよ。我イゼルローン奪還に成功せり、とな。」

こうしてイゼルローン要塞はほぼ二年半ぶりに帝国軍の手に戻ることになった。

 

 イゼルローン要塞奪還の報を、ラインハルトは、旗艦に設置された仮大本営で聞いた。副官であるシュトライト少将とリュッケ大尉が控えていて、上司である金髪の若者に対し、恭しく敬礼し、報告書が差し出される。

「おめでとうございます。これで閣下は二つの回廊を二つとも制圧なさったことになります。」

「今後もめでたくあり続けてほしいものだ。」

デスクに坐し、報告書を繰りながら、ラインハルトはつぶやくように

「ヤン・ウェンリーは無事息災らしいな。」

 

「そのヤン・ウェンリーですが、要塞を放棄して撤退したとのことですが、それが同盟政府の怒りを買って、処罰されるようなことにならないでしょうか...。」

「では、その場合だれをもって艦隊指揮官にあてるのだ?安全な場所で、書類の処理ばかりやっていた輩が将軍だと乗り込んだところで兵士たちがおさまらないだろう。」

「御意ですが、イゼルローンさえ確保しておけば、わが帝国の攻勢をフェザーン回廊側の一方向へとどめておくこともできるでしょう。あえてその安全策をとらなかったのはなぜでしょうか。」

「なるほど。同盟の連中は、巧みな罠でわれわれの侵攻を遅らせてはいる。しかし、イゼルローンのみ残って同盟全土が失陥するのは時間の問題だ。だからやつらは時間を稼いで少しでも有利になるよう兵力をかき集めているわけだ。」

「そしておそらく彼は同盟が勝利を得る唯一の方法をとるために兵力を自由に行動させたかったのだ。」

「唯一の方法...ですか?」

「わからぬか。戦場でわたしを斃すことだ。」

驚きの表情の部下をしり目にラインハルトは淡々と話した。


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