Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第158話 ワーレン提督、金髪(ラインハルト)さんに上申します。

「付近に敵影ありません。」

ヒューベリオンの姿が、実はレーダー反射を逆手にとった虚像だということが判明した報告を受け、レンネンカンプは地団駄をふんだそのとき、さらに新たな報告がもたらされる。

「閣下。後方5光秒に、ワープアウト反応。」

「艦種識別。黒十字槍騎兵。」

「味方だが...。」

「銀髪の小娘の艦隊ですな。」

副官の言葉を聞いて、レンネンカンプは苦笑するしかなかった。

エリカは、「小娘」の艦隊がすでに立ち去ったことを聞き、

「戦うより、逃げているほうが多いんじゃないの?」

とぼやくようにつぶやく。再び、同じセリフをつぶやくことになるとは、思いもよらないエリカである。

 

レンネンカンプ艦隊を破った後、沙織はみほに尋ねる。

「みぽりん、どうして、敵はいきなり攻撃をやめたの?」

「レンネンカンプ提督は、先日、イゼルローン回廊で、アッテンボロー提督の罠にはまってひどい目にあってるの。だからヤン提督の旗艦がみえたり、こちらがわざとらしく逃げて見せれば罠だと考えて、近づきたくないっていう気持ちになる。どうしてもしかえししてやるなんていう人だったら別の作戦もあったんだけど...。」

みほは敵の索敵網も計算にいれて、エリコに敵のレーダーがヒューベリオンの画像を反射するようしかけ、ご丁寧にも第14艦隊の艦列の動きに合わせて動かして見せたのだった。レンネンカンプが欺瞞に気付いたときには、彼の艦隊はしたたかに打撃をこうむって混乱していてなんら対処ができず歯ぎしりするしかなかったのである。

 

 

ガッシャーンンン...

ラインハルトは、シュタインメッツとレンネンカンプの敗戦の報告を受け、感情を抑えられなくなっていた。そのため手にしていたワイングラスを床に叩き付けていた。

「閣下。いかがなさいましたか?」

グラスの割れる音を聞きつけたのか、秘書官ヒルダことヒルデガルド・フォン・マリーンドルフが金髪の若き上司に声をかけた。

「フロイライン...。レンネンカンプが援軍に失敗した。挟撃の好機を逃したのだ。なんのために派遣したのか...。レンネンカンプをイゼルローンに駐留させようかと考えている。」

「閣下。それはお考え直しください。」

「なぜだ?」

ラインハルトはレンネンカンプに対する処罰に反対する理由をヒルダに訊ねた。

「まず、先般ゾンバルト少将を粛清して一罰百戒をなしたのに、厳罰を下しては人心を委縮させることになります。次に前線から遠ざけるという人事は更迭ということになりますから、レンネンカンプ提督を異動させ、シュタインメッツ提督を留任させれば、今回の戦闘で同じように兵を損なったことにはかわりないのに不公平感が生じます。三つ目に、この時期にイゼルローンへ異動するという人事は、イゼルローン要塞司令官が戦略上の要地を抑える重要な職にもかかわらず、左遷された者が行く職という印象となり、軽んじられる結果になりかねません。」

そう理由を述べてヒルダはラインハルトを諌めた。

「ふむ...それに公平を期そうとしてふたりいっぺんに前線から外すとなると著しい戦力の低下といたずらに遊兵を生じさせることになるな...。」

「ご賢察恐れ入ります。」

「わかった。わたしもヤン・ウェンリーとあの小娘には苦杯をなめさせられたこともある。戦闘には、運、不運もつきものだ。譴責にとどめよう。」

「それでよろしいかと存じます。」

 

「シュタインメッツ、レンネンカンプ」

「はっ。」

「どうして今回敗れたのか、よい勉強になったはずだ。敗北にはかならず原因がある。わたしが、卿らに現在の地位をなぜ与えたかそれを熟考して一から出なおせ。」

金髪の若き元帥は、ひざまずく両提督を手厳しく叱責し、艦隊の再編をすませるまで戦場に立つことを禁じた。

 

殺風景極まりない内装と調度ながら、惑星ウルヴァシーには、高級指揮官用の宿舎が建設され、ロイエンタールとミッターマイヤーは、数カ月ぶりに人工のものでない大地の感触とワインのある会話を楽しむことができた。それぞれの戦場についての話を語り終えると、話題はどうしても小賢しい敵将たちについての話題になる。

 

「ゾンバルトの件といい、二個艦隊を立て続けに破った手腕といい、補給艦隊をたちどころに葬った手腕といい、逃げ足の速さといいまったく見事というほかないが、いずれもヤン本人じゃなく、やつの部下だ。いったいやつは、どこにいるのやら...それに戦術的な勝利を積み重ねたところで一時的なもので、わが軍にそれほど打撃にはならない。やつはいったいなにをしたいのか。」

おさまりの悪い蜂蜜色の髪を持つ精悍な若き上級大将ミッターマイヤーは、階級が同じ上級大将である金銀妖瞳をもつ細面の戦友であり親友でもある男に話しかける。

「?なにか思い当たることでもあるのか?」

「うむ...」

「言ってみろよ、おれにだけ。」

「ローエングラム公が言われたことがある。同盟軍が戦略上の不利を一気に覆すには、戦場において自分を、すなわちローエングラム公本人を斃すことだ。それ以外やつらに好機はないと。」

「ほう...。」

「すると戦術レベルでの勝利に固執するように見えて、実は、ローエングラム公本人を引きずり出して正面決戦を強いる下準備というわけか...。」

「そう考えれば筋が通る。」

「たしかにな...。」

ミッターマイヤーは友人の意見に相槌を打ちつつ、友人と自分のグラスにワインをそそいだ。

「ローエングラム公がお倒れになれば我々は指導者を失い、忠誠の対象を失う。これ以上誰のために戦うのかということになる。敵としては願ってもないことだ。」

「誰をもって後継者となすか決まってもいないし、誰を後継者にしてもローエングラム公ほどの支持を得ることはかなわないだろう。」

「ふむ...。」

しばらく沈黙がつづき、ロイエンタールは空っぽになったワインの瓶にむけられる。

「もうおしまいか。できればあと1本ほしいところだが...。」

「残念ながら、あの輸送部隊が全滅してから、補給関係者の機嫌と気前がはなはだ悪くなった。高級士官だけが良い目をみるわけにいかんしな。」

「ワインやビールならまだしも、肉やパンの配給が滞り始めると兵士たちの士気に影響するぞ。古来より飢えた軍隊が勝利を得た例がないからな。」

「やはり、飢える前に戦わざるを得ないか...。」

 

危機感を感じていたのはミッターマイヤーとロイエンタールだけではなかった。

アウグスト・ザムエル・ワーレン大将は、同僚の提督たちと食堂、ラウンジで話すときに

「補給を待って空しく日々をすごすのか?われわれは、ランチを食べるために敵中奥深く入り込んでいるのではない。わかるだろう。」

諸提督は、同意する。

「そのとおりだな。ただ補給路をどう確保するか...。」

「敵は、地の利がある。索敵網もきつい。ようやくかいくぐって数日分をかろうじてはこぶのがせいぜいだ。」

「ひとつ作戦を考えてみたんだ。ローエングラム公に上申する。」

「どうするんだ?」

「はこべないなら現地調達しかないだろう。アムリッツアの二の舞にならないよう敵基地や敵の補給路を狙う。」

ワーレンは、作戦を上申するため、仮元帥府に向かっていった。


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