Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第175話 今度はハイネセンが強襲されます。

さて、ミッターマイヤーがロイエンタールと共同作戦をとり、首都星ハイネセンを衝くことにした旨の命令をしたとき、主だった部下たちはとまどいをかくせなかった。

とくにバイエルラインは、この種の嗅覚がはたらく男で、声を低めて司令官に話しかける。

「ロイエンタール提督はどうお考えになるでしょうか。もしかして帝国軍同士が相撃つ事態になりかねないのではないですか?」

「卿は意外に文学的想像力が豊かだな。」

ミッターマイヤーは揶揄するような語調で答えたが、その発言の直前までの短いが深刻な空気を変えることができなかった。ミッターマイヤーは続ける。

「ロイエンタールは俺の親友だ。俺は物わかりの悪い男と10年以上も友人づきあいできるほど温和な人間ではない。卿が想像の翼を羽ばたかせるのは自由だが、無用の誤解を招くがごとき言動はつつしめよ。」

「はい。出過ぎたことを申し上げ、お詫びいたします。」

その場では深々と頭を下げるものの、自分の旗艦へ戻るシャトルで部下たちに第一線臨戦態勢をとるように命じる。驚いた部下に理由を問われて、バイエルラインはいくぶんか声をいらだたせて命じる。

「常に奇襲に備えるのは武人として当然なことだ。しかもここは敵地である。どんな罠がしかけられているかもわからない。故郷の小学校の裏庭のように教師の目を盗んで昼寝を楽しむようなわけにいかないのはわかるだろう。」

バイエルラインは、命令しておいて度が過ぎたか、想像の翼とやらにおもりが必要かと考えたものの、ついにいったんだしたそれを取り消そうとまでは思わなかった。

 

ミッターマイヤーからヒルダの提案を聞いたロイエンタールは即答できなかった。「反転しなかったらどうなるか」とは考えたものの、実際には、反転しなければほかの提督たちに功績を奪われ、自身の評価が下がるだけである。

 

「閣下。」

「どうした?ベルゲングリューン参謀長?」

「ミッターマイヤー艦隊のうち、バイエルライン中将の分艦隊が、妙に厳重な警戒態勢をとっています。」

「付近に敵艦隊の存在は?」

「ありません。なぜあのように警戒をしているのでしょう。」

(ミッターマイヤーに問いただそうか...いやもし彼が指示しているのなら、その気性からいって無言でいるはずがない...ということはバイエルラインの青二才が勝手にやっていることか...もし、あの小娘の意見を拒否して妨害する動きをみせたら一戦も辞さぬというわけか...。)

 

スクリーンに映し出されたロイエンタールの金銀妖瞳は一見静かのように見えたが、ヒルダはその奥にある内面の嵐をみてとった。

(やはり、自分の心の中にある不安は的中したということかしら...わたしは、もしかして比類ない野心と能力の所有者に絶好の機会があることを知らせる愚行をしているのでは...戦場までかけつけても主君を救いえぬとあれば、普段は心の奥底に野心を封じ込めて自覚していない者さえも不敵な意思を芽生えさせかねないのに...。)

ヒルダは珍しくおちつかない気持ちだった。しかし、ロイエンタールは、あたかもその危惧と不安を見抜いたかのように、声を立てずに笑うと、大きくうなずいてみせた。

「わかった。卿が言うなら、わたしもフロイライン・マリーンドルフの提案にしたがおう。ただちに全部隊をハイネセンにむかわせる。ハイネセンから一光分の位置で合流できるだろう。合流したら作戦の細部を検討するためにそちらへむかわせてもらう。」

(ミッターマイヤーのほうをよびよせでもしたら、バイエルラインの青二才あたりが人質にするつもりかと過剰な反応をみせるかもしれん。)

ロイエンタールは、あばれようとする心の大鷲、悍馬に手綱をつけようとつとめる。

(いまは無理をする必要はない。しかしあのくすんだ金髪の小娘、聡明で機謀に富むがなにもかもその考え通りに進むとは限らないことをいつか思い知らせる必要があるかもしれんな。)

 

5月4日...

「敵艦隊接近。ハイネセンまで一光分。総数三万隻!」

「ただちに迎撃せよ。」

自由惑星同盟の艦隊約二万二千隻がハイネセンの衛星軌道上に集結する。ランテマリオの生き残りのうち修理不要な全艦艇を繰り出したのだった。

ミッターマイヤーはほくそえむ。

「ワーレンの仇だ。発射!」

バサードラムジェットの液体水素タンクを同盟軍艦隊へ向けて突入させ、爆発させたのだ。爆発が続き、同盟軍艦隊は艦列が乱れ、誘爆した艦艇は次々に火球に変わる。

帝国軍は一挙にたたみみかける。同盟軍があっさり崩壊する中で、ウランフが直接指揮する部隊がかろうじて戦線を支えていたが、帝国軍の駆逐艦がミサイルのように猛然とウランフの旗艦盤古の右舷に激突する。

「敵兵が侵入してきます。」

「白兵戦だ!」

同盟軍兵士たちは武器をとっていく者、白兵戦用装甲服に着替える者が衝突部分へ向かっていくが、まもなく凶報が彼らを襲った。

「し、司令官が...。」

彼らを指揮するはずの司令官が床にうつぶせに倒れていた。外傷は、わずかな切り傷が認められただけだった。死因は切り傷からの猛毒によるものとのちに判明した。

(悪く思うなよ。あんたに恨みはないが、あの依頼主にいい思いをさせたくないんでね。)

盤古に侵入していた人影がすばやくいずこかへ姿を消した。

同盟軍艦隊は、一万四千六百隻、実に2/3が撃ち減らされ、全面降伏した。5月5日、ハイネセンの衛星軌道上に帝国軍が集結する。

ハイネセン市民は、夜空に見慣れない銀色に輝く無数の光点群を認めた。

「あ、あれは何だ?流星雨...じゃないよな。」

「帝国軍だ、帝国軍が衛星軌道上に集結しているんだ。」

「なんだって!!政府は軍は何をやっているんだ。ランテマリオで帝国軍が撃退されたんじゃなかったのか。」

たしかにランテマリオ会戦は、見方によっては、同盟軍の辛勝とみなしえないわけではなかった。実際にはヤンとみほが駆け付けたために帝国軍がいったん後退したのにすぎないのに、かってアスターテで大敗したときに大勝利と報道し、ヤンを英雄にしたように、事実を捻じ曲げて大勝利だったかのように「大本営発表」したのだった。同盟は、「一度も負けないうちに」城下の盟を強いられようとしていた。

 

 


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