Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第176話 衆愚政治家の正体あらわです。

衛星軌道上のミッターマイヤー艦隊から宣告が伝えられる。

「わたしは、銀河帝国軍上級大将ウォルフガング・ミッターマイヤーである。同盟市民諸君、卿らの首都ハイネセン上空はすでにわが軍の制圧下にある。わたしは、自由惑星同盟政府に対し、全面講和を要求する。ただちにすべての軍事活動を停止し、武装解除せよ。さもなくば首都ハイネセンに対し、無差別攻撃を加えるであろう。返答までに三時間の猶予を与えるが、そのまえに余興をひとつみせてやろう。」

帝国軍の戦艦から極低周波ミサイルが発射される。ひときわそびえたつ統合作戦本部ビルにそれは命中し、閃光、轟音が響き、ビルはオレンジ色の光彩におおわれて、引きちぎられ、四散した。激しい輝きと轟音がやんだときには、その直前までそびえたっていたビルはみる影もなくなっていた。

スクリーンに映った地上の惨然たる光景を見守るヒルダに、おさまりの悪い蜂蜜色の髪の青年提督は、苦笑めいた表情で声をかける。

「これでいいでしょう。権力者というやつは一般市民の家が焼けたところで眉ひとつ動かしませんが、政府関係の建物が破壊されると血の気を失うものですから。」

「市民にはできるだけ害をおよぼしたくないとお考えですのね。」

「まあ、わたしも平民の出身ですから...。」

「提督、いまひとつ通達していただけませんか。降伏すれば最高責任者の罪は問わない、帝国宰相ローエングラム公爵の名において誓約する、とです。おそらく彼らの決意に一つの方向性を与えると思うのですけれど.,,。」

「それも筋からいえば情けない話ですな。ですが、おっしゃる通り効果があるでしょう。そう伝えます。」

 

巨大なスクリーンに地上の様子が映し出されている、

地上に暮らす市民よりも地下深くはるかに安全な場所で自由惑星同盟の国防調整会議が開かれていた。政府と軍部の高官が血の気の失せた顔をならべている。

統合作戦本部長ドーソン元帥もうつろな視線をスクリーンに向けていた。

冬眠から覚めたというより安全な場所で戦争を賛美していればすんだトリューニヒトは自分が戦場に直面させられて惰眠から覚めたというべきであろう。

この会議を招集した最高評議会議長ヨブ・トリューニヒトは、泥濘のような沈黙を破って「結論を言おう。」と口火を切るように発言した。

しかし続く発言は、危機感や悲壮感はなく、機械人形が声を出しているようにさえみえて、どこまでもひとごとのようだった。

「帝国軍の要求を受け入れる。無差別攻撃を明言されてはそうするしかあるまい。」

国防委員長のアイランズが顔をしかめて抗議の声をあげようとしたとき、みかけだけはダンディな細面の評議会議長は、針を投げつけるような視線を放つ。

「わたしは、まだリコールされてはいないはずだ。ということは、戦争終結の決定を下す責任と資格がわたしの手中にあるということだ。その責任を、その資格において果たすだけのことだよ。」

「責任や資格はあるのかもしれませんが、どうかやめていただきたい。民主政治の制度を悪用して貶める権利はあなたにはない。あなたひとりで、国父ハイネセン以来二世紀半にわたる民主国家の歴史を瓦解においやるつもりなのですか。」

トリューニヒトは唇の両端をつり上げた。そして安全な場所で戦争をあおり、政界を泳ぐことしか考えない政治屋でしかないことを証明する発言、聞く者がその耳を

疑うような発言がその口から放たれた。

「ずいぶん偉そうなことを言うねえ。アイランズ君。君は忘れたかもしれないが、私はよく覚えているよ。どうにかして閣僚になりたいと、わたしの家へ多額の株式と高価な銀の食器セットを持ってきた日のことをねえ。それだけではない。君がどういう企業からどれだけ献金やリベートを受け取ったか、選挙資金を受け取ったとき、そのうち何割かをためこんで別荘を買う資金に回したり、かくれた買収などの選挙違反、公費を使った旅行に奥さん以外の女性を何度とれていったか、わたしはすべて知っているんだ。」

「それはお互い様でしょう。議長。あなたがわたしの何倍それをやったのかわたしも知っています。それが白日の下にさらされたらあなたもたたですまない。ただ、あなたのいうとおりわたしは三流の政治業者で、今の地位につけたのもあなたのおかげだ。恩義があるのも確かです。一方でリベートだ、献金だ、などという話は歴史上枚挙にいとまがなく、それでうまくいった政治もある。ある東洋の島国でタヌマなる人物、西洋の大国と言われた島国でも議会政治の象徴のように言われた人物も手を染めていたということです。だからこそあなたが亡国の為政者として歴史に名を残すのを見過ごすわけにはいかないのです。どうか考え直してください。われわれは抵抗を続けて、処刑台行きになるかもしれませんが、ローエングラム公をヤン提督が敗死させれば同盟は救われるのです。ローエングラム公が死に、帝国軍が後継者を巡って覇権を争っている間にヤン提督が国防体制を立て直してくれるでしょう。わたしたちの次の政治的指導者が彼と協力すれば...。」

「ふん、ヤン・ウェンリーか。」

その声は声そのものが毒になったような感があった。

「考えてもみたまえ。ヤン・ウェンリーの愚か者がアルテミスの首飾りを破壊しなければ、われわれは帝国軍の侵略から自分自身を守ることができたのだぞ。こうなったのもヤン・ウェンリーのせいだ。先の見えない無能者ではないか。」

「議長。」

ビュコックはトリューニヒトに呼びかける。それは、抗議の含まれた強い調子の口調であった。

「なにかね。ご老人。」

トリューニヒトは、平静を装って答えるが、その返事には、例によって愚直ゆえに政略にたけた自分よりも上回った地位につけない相手を見下す成分が微粒子のごとく含まれていた。


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