Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
「はい、シトレ元帥。お世話になります。今回は何でしょうか。」
「昇進だ。第14艦隊の司令官になってもらう。」
「あ、あの…。」
「君は辺境の海賊討伐ですばらしい戦果をあげている。
そろそろ表に出していい頃かと思ってね。」
「はい...。」
みほは少し赤くなって下を向く。
「今度の出兵において参戦してもらうことになった。作戦会議の日程は…。」
みほは、士官食堂で「あんこう」の皆と食事をしているときにそのことを話した。
信頼できる友人たちとリラックスした場でないと気の弱い彼女には「心中を吐露」するのは難しいからだった。
「で、みぽりんは承諾したの?」
「うん….。」
「7000隻、84万人の司令官?」
エリコが確認するかのように話しかける。
「うん。」
「みほさん、すごいです。」
「まあ、西住殿の指揮は折り紙付きですから。」
「でも…とても不安。わたしなんかがこんなにたくさんの人たちを率いなければならないなんて…。」
「でも、西住殿は黒森峰でも大洗でもまた海賊討伐艦隊でも的確な指揮をしてきました。皆さんも信頼してくれると思いますよ。」
「そーだよ、みぽり~ん。自信だしなよ~。」
「で、この日が作戦会議….。」
「みぽりん~^^;」
「あんこう」の皆は実際の戦闘指揮より難題かもしれない「課題」を「発見」し、どうしようか相談し始めた。
第20話 作戦会議?です。(前編)
みほは作戦会議の日に前もって統合作戦本部のシトレの執務室を訪れることになっていた。
「じゃあこちらへ来てくれたまえ。」
フォークと同じ宇宙暦790年卒にもかかわらず、ちっとも年を取っていないようにみえるみほだった。
白髪で黒くつややかな肌をした大柄な男が、統合作戦本部の同盟軍中央作戦室に入室する。統合作戦本部長シドニー・シトレ元帥であった。そのあとを栗毛のまだ少女のようにしかみえない小柄な女性がはいってくる。皆の目はその「少女」に釘づけになった。
キャゼルヌは。(ほう...)という表情をする。ヤンは、一瞬驚いたが、納得した表情になる。
「本日は、帝国領遠征におけるわが軍の具体的な行軍計画について議論するために、諸君らに参集してもらうことになった。帝国領への遠征についてはすでに最高評議会において決定されている。諸君には忌憚のない意見をのべてもらいたい。まずそのまえに諸君らに紹介したい人物がいる。」
「さあ、先輩方に挨拶してくれたまえ。」
「あんこう」のジャケットに白いプリーツスカートを着けた栗毛色の髪の少女-ただし、その襟には同盟の五稜星と少将の階級章がついており、五稜星バッジの付いた黒い軍用ベレーは着けている-は、こくりとうなずくと
「このたび、第14艦隊司令官を拝命しました西住みほといいます。よろしくおねがいします。」
「知らない者も多いと思う。彼女は辺境の海賊討伐で功績をたててきた。このたびの遠征では、少将として半個艦隊を率いてもらうことになった。これは国防委員会の決定でもある。」
諸将は、おどろきを隠せない。
(こんな「少女」が...艦隊司令官?)
と顔に文字が書いてあるかのようだった。
シトレは説明を続ける。
「なお、彼女と彼女の指揮する第14艦隊については、国防委員会と彼女たちの事情で極秘あつかいとなっている。人事についても非公式になっており、すべてファラーファラ星域の海賊討伐となっている。諸将にはご承知いただきたい。」
一方、ヤンは、彼女の希望を守れなかった慙愧の念とみほのたぐいまれな作戦指揮への期待が入り混じった複雑な表情を浮かべざるを得ないが、この場に及んでという結果論から後者の気持が勝って、結果的に得心していた。
(彼女自身が選んだことだ。何も言うまい。)
そして(これからもよろしく)という笑みを浮かべて彼女を見る。
みほは、ヤンに微笑みを返す。それは「あんこう」の面々に再会したときの喜びと同種の気持がにじんだ笑みだった。
ウランフは
(知っているのか?)
とヤンにたずねる表情をする。
(まあ、そういうことです。)
ヤンは訳知り顔でそれに無言で答える。
ウランフは、
(ヤン・ウェンリーが評価するほどの人物か...心強いな。)
と内心安心感を覚えた。この勇将にしてみほが女性だからという偏見はない。彼女の優秀さはシトレやヤンの態度が証明している。
いっぽうで、驚愕と妬みと独りよがりな怒りに身体を小刻みに震わせる人物がいる。
作戦立案者のアンドリュー・フォークである。彼は、士官学校時代の戦術シュミレーションの忌まわしい思い出がフラッシュバックする。
みほはそんなことはつゆほどにも感じていなかった。というのも、彼女は人前に出ると緊張してしまう。二秒スピーチとか三秒スピーチのヤンとは違った意味で、スピーチが苦手だ。講演会をまかされそうになり、台風で中止になるよう祈ったことさえある。だから就任のあいさつも苦し紛れに「パンツアー・フォー」と言いそうになるのを予想した沙織と優花里に原稿を書くようにすすめられて準備はした。結局、戦車道の作戦ならいくらでも思いつくのに、たいした原稿は考え付かず、「第14艦隊の...。」と単純に自己紹介できたことに安堵していた。
「西住少将。君の席は、ヤン中将の隣りだ。」
「は、はい。」
みほは、居並ぶ諸将に敬礼し、諸将は答礼する。
ヤンのそばまで来て
「おひさしぶりです。ヤン提督。」
ヤンは無意識にベレーを一瞬はずして頭をかいて戻すと
「やあ、こちらこそよろしく。ミ..」
みほを以前の呼び名で呼びそうになって
コホンと軽く咳払いをする。
(かわらないです。あのときと。)
みほはなつかしさを覚えて満足げな笑みをうかべた。
ヤンは、再びベレーを一瞬はずすと伏し目がちに頭をかいた。
シトレはみほの着席を確認すると
「それでは、キャゼルヌ少将、今回の帝国領遠征の部隊編成を説明していただきたい。」
「はつ。今回の遠征は、総司令官を宇宙艦隊司令長官ラザール・ロボス元帥閣下がつとめられます。総参謀長ドワイト・グリーンヒル大将、作戦主任参謀コーネフ中将以下5名、情報主任参謀ビュロライネン少将以下3名、後方主任参謀、補給をわたしアレックス・キャゼルヌほか3名が担当します。実戦部隊については、
ルフェーブル中将の第3艦隊、ビュコック中将の第5艦隊、ホーウッド中将の第7艦隊、アップルトン中将の第8艦隊、アル・サレム中将の第9艦隊、ウランフ中将の第10艦隊、ボロディン中将の第12艦隊、ヤン中将の第13艦隊、西住少将の第14艦隊の合わせて9個艦隊を動員します。その他を含めた艦艇総数16万7千隻、首都星ハイネセンの防衛に第1、第11艦隊を残します。
陸戦部隊、補給、医療、工兵など非戦闘要員を含めた総動員数は、3200万4000名となります。」
シトレは議場を見回し、
「この遠征におけるわが軍の行動基本計画は立案されていない。この会議はそれを決定するための会議である。ご出席いただいている諸将には忌憚のない提案と活発な意見の交換をお願いしたい。」
シトレの声はどことなくうつろに感じられた。最高評議会で出兵に反対したシトレの幼な馴染みでもあった財務委員長のジョアン・レベロは、「すまん。シトレ。」とつぶやいた、とされるが、シトレが逆の立場だったら同じセリフを同じトーンでつぶやいたことだろう、それを想像させるような気乗りが感じられない声であった。
そのとき発言を求めた者がおり、指名されて発言を始めた。
「本部長閣下、作戦参謀のアンドリュー・フォークであります。今回の遠征は同盟開闢以来の壮挙と言えましょう。このような壮大かつ意義のある作戦に参加できるとは、武人の名誉であります。」
シトレはためいきまじりにうつむいているように見えた。
ヤン、ウランフ、ビュコックは考える。
(名誉とか壮挙?どうでもいいことだ。補給は?戦略上の目標及び目的は?クラウゼウィッツが言っていた。目的はパリ、目標はフランス軍だと。この場合大遠征になるから最終的な目的はオーディン占領、目標は帝国軍の殲滅になるだろうが、今の同盟にそこまでできる戦力はない。だからせいぜいその前段階の中間的な目的と目標が必要だ。それにしても事の発端と動機は、政治屋どもが失政から目をそらすための選挙対策だ。戦略構想もまともじゃないし、健全なありようじゃない。)
ウランフが口を開く。自由惑星同盟きっての名将であり猛将である彼にとってはフォークの発言はあまりにも不安なものだった。
「総司令官にお尋ねしたい。我々は軍人であるからには行けと命令されればどこへでも行く。ましてあのゴールデンバウム王朝の本拠をつくというのであればなおさらだ。しかしそれには周到な準備、戦略上の目標及び目的の設定が欠かせない。まず、この遠征の戦略上の目的をお聞かせ願いたい。」
「作戦参謀、説明を。」
ロボスがおもむろにフォークに振った。
作戦会議がはじまりました。さて....