Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
コルマール星域沖の宇宙空間で、みほとエリコは、キルヒアイスに対してとりあえず先手を打つことに成功したが...
「司令官、後背から敵の攻撃です。」
キルヒアイスはアクティヴレーダーを発するよう命じた。
「敵の数さらに六千。艦種同定。蓋然性80%。」
同盟軍の艦艇の形状がスクリーンに映し出される。
しかし、後背の中性子ビームの光条の数がどうも六千にしては少ない感じがした。しかもミサイルが多い。キルヒアイスは不審に感じて勘を働かせた。
「エネルギー中和磁場の反応を測定してください。」
「エネルギー中和磁場反応は最初のものは四千、後背のものは三千です。」
「敵の半数近くはデコイです。実数は七千ほどです。残りは電波中継衛星、偵察衛星、それにカストロプや叛乱軍の首都を守る「アルテミスの首飾り」を小型にした戦闘衛星です。」
エリコは対海賊戦のステルス破りに使用したマルチスタテック・サテライト・システムを「アルテミスの首飾り」を参考に攻撃用に転用したのである。
「要するに敵はレーダーの反射パターンに同盟の艦艇の形状を返し、死角のない弾幕をつくれる戦闘衛星群で射線の不足をおぎなっていると。」
「その通りです。」
(しかし、かぎられた艦艇でこれだけの重厚な布陣をつくり、レーダー反射のデコイと「アルテミスの首飾り」を混ぜ込んでこれほど効率の良い射線をつくるとは凡将のなせる業ではありません。)
「指向性ゼッフル粒子工作艦を使ってください。」
キルヒアイスは工作艦に護衛艦をつけて後背の敵にあたらせた。その数も合理的なものであった。キルヒアイスは後背からの攻撃に対して被害を最小限にとどめつつ艦列を維持し、なおも輸送艦隊を攻撃し続ける。
指向性ゼッフル粒子工作艦を守りつつ、後背の14艦隊「分艦隊」に接近する。
「みやぶられた?」
分艦隊は指向性ゼッフル粒子に巻き込まれてはかなわないので、みほの本隊へ戻らざるを得ない。
みほとエリコは、本隊に含まれていた戦闘衛星と分艦隊に含まれた戦闘衛星を巧みな機動ですべてキルヒアイス艦隊へ向かわせる。
キルヒアイス艦隊が、指向性ゼッフル粒子工作艦を戦闘衛星にさかざるを得ないことを利用したのだった。
エリコはそれを行いながら補給艦隊のコンピューターをハッキングするという離れ業を行った。
「閣下、第14艦隊から、戦術及び航路コンピューターへの介入許可です。」
スコット提督はおどろいたが、二コルスキー中佐は
「ミズキ少佐のいうとおりにしてください。そうしないとわれわれはここで全滅です。」
と主張しエリコの介入を許す旨回答した。
輸送艦隊は、巧みな航路で脱出しようとした。キルヒアイスはそれを見逃さない。
輸送艦隊を守るように戦闘衛星の列がキルヒアイス艦隊に迫る。キルヒアイスは巧みな艦隊運動でそれを避ける。輸送艦隊と戦闘衛星の破壊が可能な座標に誘い込む計算しつくされた艦隊運動だった。
みほとエリコは舌を巻く。
(すごすぎる...。)
しかし、みほとエリコは指向性ゼッフル粒子を煙幕として一部でも輸送艦隊をワープさせようとしていた。
指向性ゼッフル粒子がばらまかれる。
「距離0.5光秒」
自分たちの艦隊が安全な距離にまで離れたことを確認したキルヒアイスはうなずき、
「主砲発射!」と命じる。
戦闘衛星と輸送艦隊の一部が指向性ゼッフル粒子の爆発に巻き込まれて爆発した。
爆発煙がうすれていく。レーダーにうつる艦艇数が突然消える。
一見全滅したように見えたが、キルヒアイスは、不審に感じた。
「空間歪曲場がないかスキャンしてください。」
「!!」技術士官は目をみはる。
彼の上官である赤毛の青年は返答をうながした。
「ワープトレースと思われる空間歪曲場を150確認。おそらく敵輸送艦のものと思われます。」
(さすが...ですね。あの艦隊は何者なのでしょうか?)
「7割は沈められてしまいました。でも…。」
華が一瞬残念そうな顔をするが成功した面を思い致して微笑む。
「150隻は逃がすことができたよ~。上出来だよわたしたち。あんなにすごい敵さんに会ったのに。」
敵の正体を知っていたら麻子がイケメンで優秀で紳士だぞと沙織を冷やかしたに違いなかった。
「我々のしたことは無駄じゃなかったってことです。」
さらに優花里の言葉に対して、みほとエリコはうなづく。
(でも、つけ込む隙も逃げ出す隙もなかった;;はらはらしどおしだった;;)
「みぽりん?」
何やら考えているように見えるみほに対し、沙織が次の指示をたずねた。
みほはわれに返り、答える。
「沙織さん。イゼルローンに戻ります。皆さんに伝えてください。」
沙織は通信機でその旨全艦隊に伝えた。
「敵艦隊、逃げていきます。」
「追う必要はありません。目的は達しました。しかし...。」
「しかし?」
「凄い敵が、ヤン提督以外にもいました。このことを報告します。」
「七千隻のうち、一千隻を失いました。」
「すごすぎる~;;エリちゃんがあれだけ計算したのに;麻子がいれば…。」
「うん…。」みほは力なくつぶやく。
「艦隊運動センスがいる?コンピューターの操作が得意なだけではだめ?」
エリコも悔しそうに自分には艦隊運動のセンスが充分でないことを認めた。
「??」
「エリちゃん?どうしたの?」
「なにか船体についてる?」
船外活動に優花里をはじめ工兵が出される。
「爆発物かもしれません。気をつけてください。」
ようやくとりはずしに成功する。爆発物はないようだった。
「!!」
「エリちゃん?」
エリコは、なにやらコンピューターのキーボードを忙しく動かし、ほっとしたように額をなでる。
キルヒアイス艦隊がしかけたバックドアの駆除をしたのだった。
偵察装置が外され、バックドアが駆除されたことがキルヒアイスの旗艦で判明する。
「閣下。やられましたね。」
「そうですね。仕方ありません。」
赤毛の若者は部下に微笑みを返す。
部下はふだん礼儀正しく、丁寧で、心やさしい上官の意外な面に驚きを隠せない。
(この方は、たいへんな人格者だが、こと戦術となるとやはりラインハルト閣下のように容赦がないな...。むしろ人格者だからこそ、戦死者がでないことについては容赦ないとみるべきか...)
キルヒアイスは部下を慰める。
「同盟の航路図が一部手に入りました。いまはそれでよしとしましょう。」
赤毛の若き名将は金髪の親友たる上司に事の次第を報告する。
「そんなことがあったのか?」
「はい。すみません。敵艦隊と輸送艦隊のうち150隻をのがしました。」
「いや、こちらのデータにない艦隊が突然現れた上にそれに対処したのだろう。」
「はい。」
「わたしがやってもお前以上の戦果があげられたか自信がない。」
「ラインハルト様?」
「それにしてもヤン・ウェンリー以外にお前が苦戦する敵か...みてみたいものだな。」
「そういえばラインハルト様、おみやげがあります。」
「ほう?これは?」
「例のへ―シュリッヒ・エンチェンの艦長でおられた時に得られた同盟領の航路図に今回得られた航路図をつなげたものです。」
「さすがお前は抜け目ないな。」
「ラインハルト様の友人や部下をやっていると能力にふさわしいことを常に要求されるので楽はできません。」
「言ったな。こいつ。」
ラインハルトは微笑みながらかるく親友の赤毛の頭をこつく。赤毛の若者もその拳を軽く受け止め、二人はからからと笑いあった。