Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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オレンジ色の髪の猛将を倒してなんとか自由惑星同盟艦隊は退却を成功させた。そして...


第32話 アムリッツア星域会戦(後編)

第13艦隊と第14艦隊の光点の群れが包囲網を突き破って離れていくのを、「白い艦」の司令官は、蒼氷色の瞳に怒りと失望をただよわせつつ、彼らしくもなく拳を握り、歯をかみしめ、身を小刻みに震わせていた。

「ビッテンフェルトが死んだか...。」

黒に近いブラウンの頭髪で「金銀妖瞳」を持つダンディな男がつぶやく。

「なかなかどうして大した奴がいるものだな。敵にも。」

「しかし、ローエングラム元帥府の前線指揮官の中ではじめての戦死者だ...。」

おさまりの悪いはちみつ色の髪の好青年がつぶやくと

「そうですね...。」と長身の赤毛の若者が同意の返事をする。その声色はどうしても沈んだものにならざるを得ない。

「全員無事なら、これだけ勝てば十分だ、次に会うのが楽しみ...ということになるが、ビッテンフェルトが死んだ。「徹底的にたたく」というあの方の目的自体は達したから、叛乱軍は当分再侵攻する気にはならないだろうが、これほどまでに犠牲がでるとはな。」

はちみつ色の髪の好青年が今回の会戦を振り返ってコメントした。

「そうだな。」

「金銀妖瞳」の男が同意する。

(ラインハルト様...。完勝の手をすんでのところで払いのけられただけでなく。大切な指揮官を喪った...どういう気持ちだろうか...)

赤毛の青年は、親友でもある金髪の上官の気持ちに想いをめぐらせていた。

「総司令部より入電!残敵を掃討しつつ帰投せよ、とのことです。」

通信士官の声が耳に入ってきた。

 

さて、ローエングラム元帥府の諸将は一堂に会した。赤毛の若き名将が現れ、ラインハルトは肩をたたいて、その労をねぎらうが、そのあとに現れるべきオレンジ色の髪をもつ「龍顔」で偉丈夫な猛将はついに姿を現さなかった。

「ご苦労だった。戦いには勝ったがビッテンフェルト提督を喪った。ビッテンフェルト提督は、早まって猪突し、このような結果を招いた。しかし、このような結果となったことは、わたしにも責任なしとはしない。従って彼にはこれまでの功績に報いるに通常通り二階級特進とする。しかし、これは、彼への罰でもある。先に述べたとおり、一つには私の指揮にしたがわず、独断で猪突し、陛下からあずかった艦隊を全滅させたこと、もう一つ、こちらのほうがより重要だが、生き残って叱責を糧とし、再戦して功をもたらし、将来元帥にもなりうるの道を自ら完全に絶ち、わたしを失望させたことだ。卿らは今後の戦いでは生き抜いてほしい。そしておのおのふさわしい方法で、戦功をたて、次の機会こそ叛乱軍を覆滅させるのだ。それこそ、ヴァルハラにいるビッテンフェルト上級大将が望むところであろう。」

諸将は無言だった。勝ったはずなのにまさしく葬式のようだった。

「解散!」

金髪の覇者は、白いマントをひるがえして去っていく。

銀河帝国ローエングラム元帥府の諸将は、敬礼しながら見送った。

 

さて、自由惑星同盟軍は、敗残の列をつくってイゼルローン回廊への撤退行を行っていた。

戦死者及び行方不明者数1900万という数字は、生存者の心を寒くした。

第13艦隊、第14艦隊が過半数以上の生存者を保っている。第10艦隊、第5艦隊、第12艦隊が一定数の艦艇を残し、第9艦隊はモートン少将の指揮のおかげでかろうじて崩壊を免れ、そのほかは指揮官を失い、ほぼ壊滅になった艦隊の残兵である。

第12艦隊のボロディン提督が生き残ったのは、みほとエリコが、ボルソルン星系に寄って、ボロディンに退却を説得し、それを受け入れて退却した結果だった。ただし、ルッツの攻撃も苛烈をきわめ、4割程度を維持して撤退するのがやっとだったことによる。

黒髪の若い提督と栗色の髪の「軍神アテナ」またはまだ見かけが10代の少女であることから-共和政体らしくなかったが-「プリンセス」が、またもや奇跡を起こした....

彼らの部下たちは、おのおのの上官に対して信仰に近い感情をいだくようになっていた。

そのうちの一人、栗色の髪の「プリンセス」は、浮かない顔であった。

「みぽりん?。」

「ん。沙織さん?」

「わたしたちは、負けた気はしないけど、ヤンさん以外の艦隊は...。」

「うん...。」

みほはフォークへの怒りが頭をよぎるものの、戦死者が多かったという悲しみもないまぜになる。しかし、それを抑えて表情に出さないようにしたが、なんとなく顔ににじみ出たようで、沙織に心配そうに

「どうしたの?」ときかれてしまう。

「ん、何でもない。」みほは笑顔をつくってみせる。

「わたし?あのフォークっていう人いや?」

「ありがとう。エリコさん。」

「そっか、ゆかりんから聞いたよ。会議でいやなことあったって...。」

「補給を考えない作戦なんて非常識です。」

優花里が怒りに口を振るわせる。

「うん...。でもいいこともあったから。」

「そっか。麻子もいっしょだもんね。」

「うん!」

みほの語調はうれしさで強くなる。それは喜びとして顔にもあらわれていた。

「みんなに会えたのはうれしいが、わたしは元の世界に帰りたい。」

麻子がつぶやくと第14艦隊旗艦ロフィフォルメの艦橋は久しぶりに明るい笑い声に包まれた。

もう一人、黒髪の青年提督は、旗艦ヒューベリオンの艦橋で、椅子の背もたれを倒し、両足を軽く組んで指揮卓の上に投げ出し、腹の上で両手の指を組んで、目を閉じている。皮膚の下に疲労の色がにじんでいる。

「閣下…?」

「?中尉か。」

目を開けるとヘイぜルの瞳にややとまどった色をうかべた副官の姿が目に入る。

「ああ、レディの前だけど失礼するよ。」

「いえ…何か飲み物…コーヒー…じゃなくて紅茶ですね、をお持ちしようと思ったのですが…。」

「いいね。紅茶を…お願いできるかな。」

「はい。」

「できればブランデーをたっぷり入れて…。」

「….はい…。」微妙に美しい副官の声に張りがなくなる。

「中尉…わたしは少し歴史を学んだ。それでわかってきたのだが、人類の歴史にはふたつの思想の潮流があるんだ。生命以上の価値が存在するという説と命よりも大事なものはないという説だ。人は戦争を始めるとき前者を口実にし、戦いをやめるとき後者を理由にする。それを何千年と繰り返してきた…。」

「….閣下?」

「いや、人類全体なんてどうでもいい。わたしは果たして流した血の量に値する何かができるんだろうか…。」

そうつぶやき、「黒髪の歴史学者」はふと我に返る。

「すまない。変なことを言ったな。わすれてくれ。」

「はい。紅茶を入れてきますね。ブランデーを少しでしたね。」

「たっぷり。」

「はい...たっぷり。」

学者風提督のヘイゼルの瞳をもつ副官は軽い苦笑を抑えて、注文通りの紅茶入りブランデーを持ってきたとき、「注文主」は、黒い軍用ベレーを顔に乗せて眠りに落ちていた。




かろうじてボロディンが生き残ったものの、この大敗北は同盟に暗い影を落とした...

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