Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
栗色の髪の小柄な少女は、要塞副司令官兼駐留艦隊副司令官、西住みほ中将。
西住中将の副官秋山優花里中佐に同じくエリコ・ミズキ中佐。
中肉中背でやや細面で温和な会社員のように見えるのは要塞事務監アレックス・キャゼルヌ少将。
端正なダンディで中肉中背でありながら実は筋肉質で白兵戦の名手である要塞防御指揮官ワルター・フォン・シェーンコップ准将。
分艦隊司令官、フィッシャー少将。
参謀長ムライ少将。
参謀ブラッドショー大佐、ラオ中佐。
要塞司令官の副官フレデリカ・グリーンヒル大尉。
戦艦ユリシーズの艦長ニルソン中佐、副長エダ少佐。
「みんなも知っていると思うが、帝国軍の戦艦ブロッケンが軍使として面白い話をもってきた。帝国と同盟がかかえている200万人以上の捕虜を交換したいそうだ。」
「おたがい食わせるのがたいへんだからな。」
キャゼルヌが皮肉っぽくつぶやく。
「それなら、私にも責任があるな。」
黒髪の青年提督のつぶやきを聞いて要塞防御指揮官はにやりと笑みを浮かべる。
イゼルローンは中枢部を抑えたとはいえ、中にいた帝国軍の兵士、士官を放り出すわけにもいかず数十万人が捕虜となっている。それは、「とっても強いお兄さんたち」であるローゼンリッター連隊を率いて要塞を占拠した実質的な立役者は彼であったからだった。
「でも食わせるのが大変というのは、実際その通りだと思う。だからといって捕虜交換が急務ということは捕虜を食わせているどころではないという事態がまじかに想定されているということだ。」
「それは、どういうことですか?司令官。」
ムライが問いただす。
「つまり、ローエングラム侯ラインハルトは、門閥貴族連合と本気で武力抗争に乗り出す決意を固めた、ということだ。」
ヤンは捕虜交換の申し出があったことを同盟首都ハイネセンに伝えなければならないことになった。政府は喜んで応じるに違いない。
なにせ捕虜には選挙権がないが、帰還兵にはあるから。
二百万票とその家族の票である。単純計算で妻一人、子が成人しているか、祖父母片方一人でもいれば五百万票だ。あのどうしようもないおきまりの盛大な祝賀行事が行われるだろう。
「ユリアン、ひさしぶりにハイネセンにもどれそうだぞ。」
その声がいやに陽気だったので、ユリアンは不思議に思った。
(提督は、式典やらパーティーやら政治屋どもの美辞麗句で飾ったような空疎な演説がきらいなはずじゃ...)
しかし、ヤンはハイネセンに行きたかった。もちろん空疎な式典や演説の類は嫌いなのは変わらない。それは歴史の流れが同盟に不利な方向へ行かないよう少しでも布石が打てるよう主体的に動けるからだった。
政府からの回答があり、さっそく捕虜交換式をすすめるようにとの指示があった。場所はイゼルローン、日時は2月19日である。キャゼルヌはヤンより「捕虜交換式事務総長」に任じられた。
キャゼルヌの仕事は多忙を極めた。何しろ敵味方の臨時食のべ6000万食、のべ500隻もの輸送船の手配をしなければならない。
「政府のあほうどもは、なにか決定すればものごとが自動で進むと思っているらしい。困ったもんだ。」と亜麻色の少年に対しぼやいたという。
「ローエングラム侯が今回の捕虜交換式に先立ち演説をするそうです。つなぎます。」
「勇戦むなしく敵中に捕らわれた忠実なる将兵たちよ。帝国軍は名誉にかけて次のことを約束する。ひとつ、卿らを名誉ある英雄として迎える。捕虜となった罪を責めるがごとき愚劣な慣行は全面的に排除する。ふたつ、帰国した将兵には全員一時金と休暇を与える。帰省及び家族との再会を果たしたのち、希望者は自らの意思をもって軍へ復帰せよ。みっつ、軍への復帰を希望する者は全員一階級昇進させる。また復帰を希望しない者も一階級を昇進させ、新たな階級をもって恩給を与える。わが兵士、英雄諸君、恥じるべきものは何も卿らにはない。愧ずべきは卿らを前線に駆り立て降伏に追い込んだ無能で卑劣な旧軍指導者たちである。私、ローエングラム元帥も卿らに感謝しわびねばならない。最後に人道をもって彼らの帰国に協力してくれた「自由惑星同盟軍」の対応に対し、深い感謝の意を表するものである。銀河帝国宇宙艦隊司令長官ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥」
ヤンは感嘆し、ベレーを投げ、拍手する。
「完璧だ。人道的に非の打ち所がないだけでなく、政治的効果も完全だ。帝国軍は二百万の精鋭を得たことになる。しかもローエングラム侯に忠誠を尽くす二百万だ。」
キャゼルヌはため息をついた。
「トリューニヒト政権は多くて五百万票を得るかもしれないが、敵に精兵二百万を補充することになるな。」
(政治屋どもが政治ショーで票を得る代わりに、軍や前線に負担がかかる。迷惑なことだ。)
みほは、スクリーンに映る金髪の美しい青年を見つめていた。
「西住殿?」
「秋山さん。この人は戦場だけじゃなくて政治でも、「戦術と腕」がすごいんだね。」
「そうですね。軍事的センスはすごいと思っていましたが政治的センスもすごい人ですね。」
オペレータ席から黄色い声が聞こえる。
「え~すごいイケメン~かっこいい。」
「沙織。」
麻子は幼馴染の反応に困ったもんだ、という表情をし、
「沙織さん。」
華は苦笑してつぶやく。
「え~だって事実じゃない。かっこいいだけじゃなくて、あの人ほんとにすごいよ。」
沙織の「すごい」には、ラインハルトの美貌だけでなく力量も見抜く、女性ならではの直観や嗅覚が含まれていた。
「そうだね。」
みほが苦笑し、つぶやきながら考える。
(あの人お姉ちゃんに似ている...お姉ちゃんがもつあの香り...というかお姉ちゃんやお母さんから感じる香りの塊をより純粋に強力にしてとりだしたような感じ...。)
みほが感じたのは王者の放つ独特な覇気やカリスマ性ともいうべきものだった。まほやしほのもつ、西住流の師範や後継者としての風格がはなつそれに近いものである。
一方、それはみほには決定的にかけているものだ。お母さんは黒森峰9連覇の前に、一年生で隊長になり3連覇をなしとげている。お姉ちゃんも一年で隊長になり9連覇目を達成した。それに引きかえ何をやってもだめなわたし。練習試合で戦車に乘れば必ず勝ったけど、戦車から降りたらびくびくおどおどしてエリカさんにしかられどおしだった。大洗に来てもアイス一つえらぶのも時間がかかって最後だし、演説をたのまれればつまるし、かばんから物がおちても気が付かなかったり、電柱や工事の看板にぶつかったり...そういえばあんこう踊り左右逆だって沙織さんにいわれたっけ...。
みほは、大洗では、全体の戦略を考えてそれを各チームに周知させ、指揮官の命令がないときは自主的に考え判断する、それが有機的にむすびついて全員が一体となる戦車道を大洗でつくりあげ、それが快進撃につながった。決勝戦でそれが完成するはずだった。だからこそそれぞれが個性を発揮する「ヤン艦隊」とヤン自身に親しみを感じるが、一方で姉のような独特な王者の香りを持つラインハルトに対して意識せざるを得ない何かを感じた。
(あの人はすごい...。それにあの補給艦隊を襲った人。あの人もすごかった。完璧な作戦と思ったのに7割沈められた...)
みほはのちに大学選抜と戦うことになるが、そのときに感じることになるのと同じような恐怖を感じた。「戦場」で姉と母を同時に敵に回すような感覚。しかし指揮官はいつも冷静でなければならない。自由惑星同盟、というかヤンの戦い方を支持することは、「みんなで戦って勝つ」という自分の戦車道を守ることにつながると強く感じていた。そのことがラインハルトに対し
「わたし、あなたに負けません。」
と心に誓うことになる。それは、だれにも聞こえない小さなものであったが、おもわずつぶやきになって口に出たみほだった。
みほは、ラインハルトとキルヒアイスの凄みを身に染みて感じていた。
今回は切れ目がうまくできなかったので少し長いです。