Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
「はい。ラインハルト様が直接行った場合の立場のバランス、危険性や影響を考えつつ、具体的には貴族連合の暴発に迅速に対処するためと、同盟に対し十分に尊重している態度をともに示すため、わたしも同じ立場だったら同じ人選をしたと思います。」
「それにわたしが行くならやつらの「国防委員長」やら「統合作戦本部長」やらが軍のトップなのだからそいつらが来るべきなのだ。同盟ではヤン・ウェンリーがそいつらに次ぐ地位なのだからな。」
「それにヤン・ウェンリー提督の人となりも知りたいということでしょう。」
「それにお前が補給艦隊を攻撃した時に150隻を逃がしたという恐るべき指揮官もいるのだからな。」
ラインハルトは笑みをうかべる。赤毛の青年はその笑みの奥にあるものを読み取る。
(なにやらわくわくしているようですね。自分の陣営に引き入れたいなぁという人材収集欲が顔に丸出しです。ラインハルト様。)
「承知しています。」
赤毛の青年は親友でもある金髪の上官に笑顔で答えた。
さて、そんなこんなで「この日」が来た。
宇宙暦797年2月14日。
「今日はバレンタインデーだよね。」
「あげる人いるんですか。」
「ぶぅ。華ってばどうしてそんなこと言うの?」
沙織はキャゼルヌとヤン、ポプラン、コーネフ、ユリアンにあげるつもりでチョコを用意していた。
キャゼルヌにはオルタンスがいることが分かっているから心をこめても義理チョコの範囲である。
ヤンにあげる理由は
「だって、独身で、すごい人なのに女の人に縁なさそうなんだもん。」
ということだった。じつはポプランにねだられて辟易していたので義理だと露骨にわかるものを用意し、コーネフやユリアンに対しても本気が少し入っている。
「ああ、ありがとう。」
「サオリ、なんかコーネフのと違くないか?」
「ポプランさんはもてるから一ぱいもらえるじゃん。コーネフさんはすてきなのにあんまりもらってないみたいだから。」
「ちぇ、差をつけるのかよ。」
「ポプランさん。」
沙織は、ほかの女性から直接もらっている写真やロッカーからのチョコのなだれの写真をみせる。
「はは、これはまいったな。」
ネット上で簡単にみつけられるもの-しかも彼自身がうpしたもの含まれる-を見せられては、ポプランも反論できない。
「沙織が反論につまったら俺が見せてやったところだったぞ。」
「なんだ、おまえもグルだったのか。」
「いつから、俺がおまえさんの味方じゃなきゃいけなかったんだ?」
コーネフとポプランが「漫才の掛け合い」をはじめたので、沙織はくすくす笑いながらその場を去っていった。
沙織が次に行ったのはヤンの執務室である。
「どうぞ。」
「ヤン提督、これ…。」
「やあ、ありがとう。ミス・タケベ。」
「いえ…。」
沙織はかすかに顔を赤らめる。
そこへ金褐色の髪とヘイぜルの瞳の美人が入ろうとして、ヤンを呼びかける。
「閣下…?」
「ああ。大尉。」
フレデリカは、沙織とデスクに置かれたチョコを見て
「ああ、そういえば今日はそういう日でしたわね。」
「どうやらそうらしい。」
そのとき沙織はもうひとつのチョコがデスクにあるのをみつけた。
(みぽりん!)
「女の勘」でそれが誰なのか即座にわかった。あんこうの優秀な車長、今は第14艦隊の司令官にして沙織自身の上官、一方で普段はやさしくてドジな親友である彼女の意外な一面をみて沙織はみほをどうからかおうか考え始めた。
「みぽり~ん。」
沙織がにやにやしてみほに声をかける。
「?どうしたの?沙織さん。」
「みぽりんって、意外に抜け目ないんだね。」
「え?なんのこと?」
みほには何のことか全く想像がつかない。
「これ!これ!^^」
沙織はヤンのデスクに置かれたみほのチョコ写真を携帯で見せる。
みほのほおが赤くなる。
「西住殿?」
みほはすごい動揺する。
「えーと、あの、それは…。」
「みほさんがそんなに積極的な方だとは…。」
華がほほえむ。
「隊長もそういうところがあるんだな。」
麻子が抑揚のない声だがどことなくうれしそうな口調になっている。
「みほさんは、指揮官?ヤンさんも指揮官?おたがいの気持ちがわかる?」
「なるほど。だから西住殿は同じ立場のヤン提督に惹かれたんですね。」
みほは顔を赤らめて、恥ずかしそうにうなづく。
「でも、ヤン提督ってひそかにもてるんだね。」
「まあ、エル・ファシルの民間人脱出行、アスターテ会戦やアムリッツアの会戦の退却でも同盟軍を全面崩壊から守ってて、英雄って呼ばれてるからな。ファンレターがどっさりくるようだし。」
一方フレデリカは、ヤンに業務の相談をして退出したが、なぜか積極的にみえる沙織に対してあまり「脅威」を感じなかった。
(あの、もうひとつのチョコはだれなのかしら…。)
そっちのほうが彼女の気にかかっていた。
フレデリカは負けていられない気がした。
ピポピポーン
「はーい。」
「え...。」
オルタンスは玄関口に金褐色の髪の毛とヘイゼルの瞳の若い女性が立っているのをみて驚いた。
「ミス・グリーンヒル...?」
「キャゼルヌ夫人...あの...。」
「しっかり者のあなたもそういう部分があるのね。で、これ?」
キャゼルヌ夫人は微笑んで、手作りチョコの材料を見せる。
「はい...。」
フレデリカは頬をあからめ、
「作り方を教えてください。」
と頭を下げた。
「わかったわ。」
「ただいま。あれ?おい?」
「あなた、お客さんが見えてるのよ。」
「??なんだってミス・グリーンヒルが?」
キャゼルヌ夫人はチョコレートの材料を見せる。
「そうか...なるほど...わかった。」
(相手はだれなのかな?もしかしてヤン?しかし、ところで本人気付いているのかな。)
「フレデリカお姉ちゃま~。」
「あら、シャルロット。アンリエッタ。」
「あそんで、あそんで~。」
「あのね。お姉ちゃまは忙しいのよ。パパに遊んでもらいなさい。」
「はあ~い。」
「お,おい。」
(何をすればいいんだ。)
「変なにおいがするな。」
「あらあら...。」
「ごめんなさい。キャゼルヌ夫人。」
「いえいえ。もういちど。そこは加熱しすぎないで...。」
「お姉ちゃま、また焦がしちゃったの?」
「シャルロット、アンリエッタ。こっちへ来ないの。」
「だって焦げたにおいがするんだもん。」
「ほらほらお前たちはこっちへこい。」
「はあーい。」
数時間後、どうにかこうにかフレデリカはチョコを完成する。
「一日遅れですけど、これで渡せます。キャゼルヌ夫人、どうもありがとうございました。」
「がんばってね。」
「はい。」
フレデリカは一礼して、玄関の扉が閉まる音がした。
「?しかし、1日おくれで誰に渡すんだ?」
「あなた。」
「なんだ?」
「仕事についてはお二人とも優秀だけど、恋愛については、子どものようなものよ。あの二人は。」
「あの二人ってだれだ?」
「士官学校卒業席次2位の才媛と歴史家志望の英雄さん。」
キャゼルヌは苦笑を返すしかなかった。
真夏なのにますます熱くなるバレンタイン噺でしたw