Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
4月10日、惑星シャンプールで軍の一部が蜂起し、宇宙港、管制センター、自治政府庁舎を占領。
キャゼルヌ家の夕食後のラウンジである。そこにはアッテンボローとキャゼルヌ、ユリアンがいた。
「数日以内に、4か所バラバラの場所で叛乱がおこる。これをドーソンや無能な軍首脳部あたりは、偶然と考えるんだろうな。」
「ああ、建国後50年後とか安定した時期だったらつとまったんだろうが、この時期には最悪の人事だな。」
「ヤン提督なら勤まりますよね。」
ユリアンはキャゼルヌにたずねる。
「ああ、能力的には間題ないだろう。ただ本人の意思が問題だな。ことわるために二人分の年金よこせってごねるんじゃないかな。あと有能と言えばミス・ニシズミがいるからな。彼女を推薦して自分は昼寝をきめこもうとしているかもな。」
アッテンボローはにやにやし、ユリアンは返す言葉がなかった。
あんのじょう、ヤンがビュコック提督が本部長を兼務しなかったことが不満なのかユリアンに話しかける。
「ユリアン。」
「なんですか。」
「ミス・ニシズミを統合作戦本部長に推薦すればよかったなァ。」
「いいかげんにしてください。たしかにミス・ニシズミは優秀な方ですが、任じられるほうの立場を考えてください。」
「なぜだ?」
「あの...ヤン提督。ドーソン大将は40代、ヤン提督は30歳、西住中将にいたっては、20代
いってないかもしれないです。ヤン提督は単純に実力主義でものを考える傾向がありますが、20に満たない女の子に命令される方と本来内気で大人しい性格のミス・ニシズミが命令しなければならない立場になったらどうなるか...。」
ヤンの頭にようやく困惑して泣きそうになっているみほの姿がうかんだ。命令されるのは将官級のおっさんばかりである。この「小娘が」と思うだろう。
「そうか、そのとおりだ。よく、わかった。ミス・ニシズミにも申し訳ないな。」
4月13日、統合作戦本部から命令が下る。
「ヤン大将には、イゼルローン駐留艦隊を率いて、ネプティス、カッファー、パルメレンド、シャンプール4か所すべての反乱を可及的速やかに鎮圧せよ。」
「4か所すべてですか?帝国との国境であるイゼルローンが空になってしまいますが??」
「現在帝国は内戦中である。イゼルローンに侵攻してくる可能性は極めて少ない。ヤン大将には心置きなく軍人としての責務を全うされたい。」
はあ、とため息をついた。それは二重の意味があった。
ドーソンは用兵家としては凡庸だ、いや水準以下かも知れない。首都に大兵力が居座っていれば首都の反乱は不発になるかもしれない。ローエングラム侯のねらいが外れるかもしれない。それにしても4か所全てをか...さてこき使うつもりだな。しかしなんでそうなるんだ??
ヤンはユリアンに聞いてみた。
「えっと、こないだミス・ニシズミをなぜ本部長にしたらますいのか説明しましたよね。」
「わかった。そういうことか。」
ヤンは頭をかいた。
「しかし年齢順とか名誉とかなんでそんなことばかり考えるんだろうな。」
ユリアンは苦笑した。ヤン提督のような人ばかりなら良心的で実力のある人がそれなりの地位について活躍できるに違いない。他人の運や実力に嫉妬しないのだから。しかし、名誉欲や出世欲が仕事に精励するモチベーションにもなるわけだから一概にも言えないか...
「ところで、ヤン提督。」
「なんだい?」
「4か所いちいち攻撃するのは効率が悪いですね。」
「そう...だな。ユリアンはどう考える?」
「4か所の敵全てをいっぺんにあつめて叩くんです。」
「なるほど。」ヤンはにやりとほほえむ。
「じゃあミス・ニシズミを呼んでみるか?」
「はい。」
ユリアンは嬉しそうに答えた。
「あの...なんでしょうかヤン提督。」
「やあ、ミス・ニシズミ。」
「えつ?これは...。」
みほの瞳孔が大きく開かれた。
「そう。こないだほしいって言ってたレアボコだ。2月14日はありがとう。」
「ヤン提督、これはどこで?」
「いやイゼルローンにもどってきたらなぜか開店していたんだ。」
なぜこんなところにボコショップがあるのかみほは不思議に思ったが素直に喜んでプレゼントを受け取った。
「ありがとうございます。」
ユリアンは、こういうときのミス・ニシズミの笑顔はかわいらしいな、と感じた。ミス・グリーンヒルの年上ならではの知的な魅力もいいが、それとは異なった自分とほとんど歳の変わらない少女独特の魅力をもっている上に、彼女は充分知的な女性なのである。
「ミス・ニシズミ。」
「ユリアンさん?」
「シロン星産の紅茶です。ケーキは(えらぶのにまようだろうから)定番のいちごショートです。」
「ありがとうございます。でもなぜわたしを?」
「統合作戦本部から4か所いっぺんに反乱を鎮圧せよという命令が来たんだ。それで...。」
「僕は4か所の敵をいっぺんに集めて叩けばいいと思ったのですが...。」
「あの...4つの惑星にいる敵は、兵力を分散させる目的で反乱を起こしたはずです。だから4か所の敵を一ヶ所にどうあつめたらいいのか考える必要があります。それから、相手にはこちらの兵力よりも少ない状態のほうが有利です。各個撃破できますから。」
みほは、彼女らしく相手を傷つけないようにどのような用兵策がいいのかだけを述べた。
「ミス・ニシズミは一ヶ所に集めるのはどうなんですか?」
「あの...ユリアンさん、一ヶ所に集まるのをまつ必要はないと思います。敵をまずさそいだします。」
みほは星図を指でなぞって説明する。
「この場合、4か所の敵が2か所づつ集まるように仕向けます。敵、味方の兵力が同じなら、二つの集団にわけて、こちらの艦隊が、AとBを時間差をつけて叩きます。また、もう一方の艦隊で、CとDを時間差をつけて撃破します。この場合、二倍の兵力で相手をたたくことになるので勝てる可能性が高いです。ユリアンさんも知っているように秋山さんの好きなランチェスターの第二法則で実際の数の差よりも有利になります。」
「くしょん。」
「どうしたの?ゆかりん?」
「なんかうわさされたような...。」
「それから、もう一つの方法は、艦隊はまとまって行動します。最初に敵のA,Bをたたきます。敵が集まる場所を探っておいて、相手のCとDと戦います。このとき相手に敵と味方を勘違いさせるか、艦隊を二つに分けて挟み撃ちにできれば、最初にAとBに対して4倍の兵力で、C、Dに対しては2倍の兵力で戦うことになるので有利です。でも...」
みほはヤンの顔を見る。
「だけど、今回はどっちも使いたくないね。もともと同じ同盟軍だ。戦って勝ったところで傷が残るだけだからね。」
「ほんとうにそうですね。」ユリアンが返事をし、みほはかすかに微笑んでうなづく。
「だから戦わずに降伏させる方法を考えてみよう。そのほうが第一楽だ。」
「兵士は楽でしょうけど、司令官は苦労ですね。」
「お、わかってきたな。」
ヤンが笑い、みほが再び微笑む。
「ところが、世の中の半分以上は兵士を多く死なせる司令官ほど苦労していると考えるのさ。」
みほはそれにうなずいた。
ヤンは、ユリアンの提案を聞き、みほがこの状況をどう考えるかたずねてみたいと気持ちもあって、彼女を呼んだ。
タイトル変更及び多少の加筆(8/13,21:30)