Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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ルグランジュ中将が演説を始めて、ドーリア星域会戦の火ぶたが切って落とされた。


第56話 ドーリア星域会戦(中編)

そのころ、第11艦隊旗艦レオ二ダスの艦橋では、ルグランジュ提督が腕組みをしながら、苛立ちを押さえられない様子で、身体を小刻みに震わせたり、艦橋内をときおり、歩き回っていた。

「バグダッシュ中佐から連絡はないか。」

短い金髪をクルーカットにした精悍な提督が情報主任参謀をにらむようにして尋ねるが、

返ってきたのは「ありません。」との返答だった。

提督が眉をしかめたとき、

「全艦隊に放送回線がつながりました。どうぞお話し下さい。」

ルグランジュ中将は、バグダッシュのことを頭から追い払い、演説をはじめた。

 

「全将兵に次ぐ。救国会議の成否と祖国の荒廃はこの一戦にかかっている。各員全身全霊をもって自己の責務を全うし、祖国への献身を果たせ。この世で最も尊ぶべきは、献身と犠牲であり、忌むべきは臆病と利己心である。各員の祖国愛と勇気、奮励努力に期待する。」

 

軽いあくびとともにヤン・ウェンリーは目覚めると、シートの背を起こす。ユリアンが熱いタオルと冷水の入ったコップを差し出した。

「どのくらい眠ってた?」

「1時間半くらいです。」

「もう少し眠りたかったな。まあ、いい。ありがとう。うまかった。」

冷水の入ったコップを空けると、それを亜麻色の髪の少年に返し、黒髪の青年提督はスカーフを軽く直して、艦橋へ向かう。

艦橋の閣員は緊張した面持ちだった。ヤンはマイクを握る。

「これから戦いがはじまる。ろくでもない戦いだが、それだけに勝たなければ意味がない。勝つための算段はしてあるから、無理せず気楽にやってくれ。国家の存亡がかかっているという声があるが、だれにとっての「国家の存亡」なのか?民主国家と言いながら個人の自由と権利を守れない、そうであるなら大した価値のあるものじゃない。それでは、そろそろはじめるとするか。」

第11艦隊の艦列の側面映し出される。

「敵艦隊捕捉。全艦戦闘態勢をとれ!」

 

 

「敵艦隊との距離6.4光秒!」

 

「敵艦隊,わが軍の垂直方向、右から左へ移動しつつあり。秒速3600km。」

各艦の乗員は息をひそめ、わずかな呼吸音が聞こえる。

ヤンがスクリーンに視線を向け、右腕を肩の高さまで上げる。その腕が「撃て!」という号令とともに振り下ろされると数万本の光条が光の槍となって暗黒の宇宙空間を貫き、敵艦隊の一点へ向かって収斂していく。

「え、エネルギー波、急速接近!」

エネルギーの大波は第11艦隊におそいかかり、あっという間に数百隻が焼き払われ、引きちぎられた。熟練した歯科医が歯石をあっというまに削って吸い込ませるように、第11艦隊の艦列が突き崩されて、削られていく。

ヤンは指揮デスクの上に片膝を立てて座っている。

「グエン・バン・ヒューに連絡。全速前進!敵の側面を突け!」

「突撃だ!突撃~」

グエン・バン・ヒューは猛将タイプで、同盟にもしビッテンフェルトが生まれていたらこのようになるだろうと想起させるタイプの指揮官である。

 

「敵艦隊、殺到してきます。このままだと分断されます。」

「ちょうどいい。全方向から奴らを砲撃しろ。一兵一艦たりとも生かして還すな。」

おびただしい光条がグエンの分艦隊を襲い、スクリーンや艦窓には、まぶしいばかりに閃光が狂宴を繰り返し、網膜が焼かれるのではないかと危惧するほどの明るさだ。

旗艦マウリヤの艦橋で、グエンは両手をあげて、高笑いをする。

「ははははは...こいつはいい。どっちを向いても敵ばかりだ。狙いをつける必要がないぞ。撃って撃って撃ちまくれ~。」

 

乗組員たちは、心の中でつぶやく。(大胆不敵だな...。)と思う者、(いやこいつは頭のネジがどっかゆるんでんだよ。かなわねえや。)と思う者、さまざまだった。

ヤンの旗艦ヒューべリオンの周囲を虹色の霧がつつむ。射程が遠いために、エネルギー中和磁場が敵の砲撃を防いでいるのだった。

 

レオ二ダスの艦長ではルグランジュ中将が叫んでいた。

「バグダッシュから連絡はないのか。」

「ありません。」

「あの役立たずめ。なにをやってるんだ。」

偽情報でヤン艦隊を混乱させ、それが無理ならヤンを射殺する。そうすればしょせん敗残兵と新兵のよせあつめ、ものの数ではない。

 

開戦後、30分が経過した。

ヤン艦隊のオペレーターが叫ぶ。

「グエン提督、敵艦隊のを中央突破成功。各個撃破に移ります。」

「敵の砲撃、とまりました。」

 

「司令。ちゅ、中央突破されました...。」

「!!し、司令、砲撃が、砲撃ができません!」

「なんだと。チェックしてみろ。」

やがてスクリーンというスクリーンの画面は、みほの笑顔とエリコ(容姿は水谷絵理)が可愛らしくあかんべーをしている画面にうめつくされる。

「やられた...。」

最大のスクリーンにすまし顔のみほとエリコの顔が映し出される。

みほの口からは彼女らしく丁寧な口調で勧告がなされる。

「ルグランジュ中将、砲撃一発、ミサイル一発撃てないです。悔しいかもしれませんが降伏してください。」

「なんだと!われわれは正義のために立ったのだ。降伏などしない。」

ルグランジュ中将は、激しい口調で言い返す。

「解除コードかなにかあるはずだ。どうにか解除しろ。」

画面上のエリコが小首をかしげて、相手を少しあわれむような顔をする。

「いくらやってもむだ?いったん解除した場合、ワンタイムパスワードが自動的に再発行されて動かなくなる?。」

「うぬぬ。」

その間にグエンはやすやすと敵艦隊をしずめていく。

「無抵抗か。つまらんな。」

グエンがそうつぶやいたとき

「グエン提督、いったん砲撃中止してくれ。」

グエンは今度こそつまらなそうな表情をしたが

「砲撃中止。」

と部下に命じた。

 

レオ二ダスの艦橋メインスクリーンにこんどはヤンの顔が映し出される。

「聞いてのとおりだ。ルグランジュ提督。降伏してほしい。」

「ヤン提督。わたしは貴官の才幹と良心を高く評価しているつもりだ。しかし、同時にその貴官がなぜ腐敗した同盟の体制をまた復活させるような行為をするのだ。」

「市民から選ばれた為政者が統治を行うのが民主主義だ。その誤りを正すのは市民自身でなくてはならない。」

追いつめられているにもかかわらず精悍なクルーカットの指揮官はほくそえんでいた。




ルグランジュ中将は自論に自信ありげだった。

次話に繰り越すため、末尾の議論を一部削除(9/30,21:31)

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