Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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ルグランジュ中将はあくまでも持論を曲げなかった。


第57話 ドーリア星域会戦(後編)

金髪をクルーカットにした精悍な指揮官は自信ありげにほくそえみながら反論する。

「迂遠なw。民衆は愚かだ。誤りを犯す。それを優れた者が指導してただすのだ。貴官は結局のところ帝国の専制に手を貸していることになるのだぞ。」

「優れた者か。ルグランジュ中将、あなたが指揮官として優れていたことは確かだが、同じように500年前のルドルフ・フォン・ゴールデンバウムも優れた指揮官である一方、自己の正義を疑わない男だった。そのルドルフが何をしたか歴史の教科書をひもとくまでもないことだとは思わないか。」

「民主主義体制の腐敗を糾し、そのルドルフの置き土産の銀河帝国を倒すためにわれわれは立ったのだ。誰にも文句を言わせん。ヤン提督、貴官にはわかっていただけなかったようで残念だ。小管の最後の戦いが、名だたるヤン提督相手のものであったことを誇りに思う。救国会議万歳!」

銃声が通信回線に響いた。

両艦隊の乗員は、粛然として軍用ベレーを外して、目を閉じ、頭を前に傾けて弔意を表した。

第11艦隊の本隊は半数が残った。残存艦では、艦長が自決する艦が続出した。そして停止して、白旗表示を掲げる。

残存艦は、エリコによって自動航法プログラムを操作され、ヤン艦隊に連行される形をとった。

 

副官のフレデリカが上官に告げる。

「ヤン司令官。まだ敵は半分残っています。ご指示願います。」

ヤンはうなずき、

「全艦隊隊列を再編し、反転して第七惑星軌道方面へ向かう。」

「「「「了解。」」」」

 

そのころ第11艦隊分艦隊では激論が交わされていた。

「イゼルローン軍、予想宙域で確認できません。」

「謀られたか...。」

「ヤン艦隊は、第2惑星によるドーリアの太陽の蝕に乗じる作戦を逆手にとって本隊を側面攻撃した模様。」

「反転してヤンを攻撃すべきだ。」

「いや、ここで急戦したところで、本隊は壊滅している可能性がある。それよりもいったんドーリア星系を離脱し、ヤンがハイネセンを包囲するのを待ってその後背を襲うべきだ。」

「首都星にはアルテミスの首飾りがある。あの防衛システムは半永久システムであるうえに死角がない。短期間に首都を攻略するのは困難だ。そこをつけば勝機があるだろう。」

幸か不幸かルグランジュ提督がなくなった場合の次席指揮官が定まっていなかった。

 

「フィッシャー提督。」

「何かね。」

「恒星ドーリア表面にフレア活動が発生。徐々に活発化しています。」

「太陽風発生!3時の方向、敵艦隊、隊列乱れます。」

「いまだ、全艦砲撃せよ。」

 

「敵艦隊、9時の方向から接近。砲撃きます。」

「敵は第2惑星付近ではなかったのか。」

「うわあああああ...。」

フィッシャー分艦隊の攻撃が第11艦隊分艦隊の艦艇を引き裂く。

しかし、第11艦隊分艦隊の指揮官たちは、なんとか隊列をととのえ、組織的な抵抗をこころみる。

 

「敵艦隊分艦隊12時の方向に発見。フィッシャー分艦隊と交戦中。」

「エリちゃん?」

「指揮系統が統一されていない?戦隊ごとに無力化するしかない?」

第11艦隊分艦隊は、いわゆる部隊、任務隊、戦隊、小艦隊と呼ばれる小集団ごとに戦っている。そのため電子戦では小集団ごとに制圧するしかなく、本隊のようにスムースにいかない。

 

「あの...エリコさん。」

「みほさん?」

「わたし...兵士さんたちを少しでも助けたい。第11艦隊の皆さんも同じ同盟軍です。

政治がまちがってるから立ち上がった仲間なんです。わたし...なんとかしてあげたい。」

「みぽりん...。」

「やはり、みほさんはみほさんですね。」

華がつぶやき、優花里が微笑んでうなづく。華はこの時点でそのセリフを再びつぶやくことになるとは思いもよらない。おもわず口を突いて出たのだった。

エリコはほほえむ。

「一戦隊を無力化するごとに、こちらがその戦隊に属する艦艇を攻撃しないようプログラムする?」

「ありがとう。」

ヒューベリオンのスクリーンにみほの顔が映しだされる。

「ヤン提督。」

「ミス・ニシズミ?」

「この艦隊は、指揮系統がバラバラなので、ルグランジュ提督の本隊のようにいっぺんに「制圧」できません。でもエリちゃんが戦隊ごとに無力化するので、制圧された艦艇には砲撃しないよう火器管制システムに侵入することをお許しください。」

「ミス・ニシズミ...。」

みほはほほえむ。

ヒューべリオンの艦橋にあたたかい空気が流れた。フレデリカは感動のあまり、目が潤んでいる。

「わかった。ミス・ミズキ、お願いする。こちらにも制圧用プログラムとマニュアルを送ってほしい。」

「了解?」

エリコはほほえんで応える。

「エリちゃん、マニュアルあればわたしもやるよ。」

「わたしもやるであります。」

「わたくしにもやらせてください。」

沙織、優花里、華がエリコに声をかけ、

「ではプログラム送る?」

エリコはプログラムを送り、それぞれがコンソールを忙しく叩きはじめた。

 

「艦長、砲撃が、砲撃ができません。」

スクリーンにみほとエリコの顔が映し出される。

「皆さん家族のもとへ帰りましょう。選挙は熟考してわたしたちの代表を選びましょう。皆さんはきっと政治を変えられます。」

のメッセージが制圧された艦ごとに映し出される。

フィッシャー分艦隊とヤンの本隊は、一定の距離を保って、エネルギー中和磁場で砲撃をかわしていく。第11艦隊は、最初は沈む艦が多かったものの、やがて制圧されていき、撃沈される艦も減っていった。士気も徐々に落ちていき、そして第11艦隊の残存艦は結果的に全て無力化され、本隊で降伏した数と合わせて全体で半数を残して全面降伏した。

 

「第11艦隊敗北す。ルグランジュ提督は自決の模様。」

「第11艦隊は、半数を残して全面降伏。」

「半数残っている?どういうことだ?」

「ハッキングを受けて無力化され、降伏とのことです。」

「なんだと??」

「イゼルローン軍は、補給と整備の後、ハイネセンへ進行する構え。」

「各惑星の警備隊、義勇兵はイゼルローン軍に合流しています。」

救国会議は、緊急事態令、外出禁止令で犯罪や事故が減少したものの。消費物資の不足から物価が上がっていった。

「どうして物価が高騰するんだ?だれか不正をしているはずだ。きびしく取り調べろ。」

その結果わかったことは、不正などはなく物資が減っているために物価が高騰しているらしいということだった。

「これは経済現象だから、専門家のフェザーン人を呼んだほうがいいのでは?」

という意見が閣議で提案され、フェザーン商人が呼ばれることになった。




第11艦隊は制圧された。経済的な混迷が増し、救国会議では、経済顧問としてフェザーン商人を呼ぶことにしたが...

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