Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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同盟軍第13艦隊はドウェルグ星域で、キルヒアイス艦隊の間断なく執拗な攻撃にのがれられずにいた。


第5話 バカな命令に従うのに疲れたから寝る。

「フィッシャー閣下がヤン司令官に呼ばれたそうだ。しばらくこの空域に待機だ。」

艦長がそういうと乗組員たちは

「了解」

と答えた。

ゼートフェルの艦長は麻子に向き直り、

「麻子、さっきはありがとう。君のために部屋を用意したからそこへ行って休んでいてくれ。」

「わかった。」

その戦艦の客室は、質素であったが、快適な空間だった。ビジネスホテルの一室のようだ。こういった部屋には、無難な静物画、花、風景画が飾られるものだが、壁にかかっているのは風景画で、コローの「ナルニの橋」の複製品と思われた。

 

【挿絵表示】

 

「お食事はどうしますか。」

しばらくして若い兵士が船室に来た。

「わかった。ありがとう。」

「食堂へご案内します。」

麻子は兵士に案内され、食堂へ行った。

食堂はバイキングでさまざまなものがえらべるようになっているが、補給が滞っているせいか、食材が少ない。

麻子は、小さいサバの塩焼き、きんぴら、ごはんにみそ汁をよそって食べはじめた。

 

さて、ドウェルグ星域で、同盟軍第13艦隊から数光秒はなれた地点では、帝国軍旗艦バルバロッサが、その司令官の赤い髪のように流線型で真紅の船体を宇宙空間にうかべている。その艦橋でくすんだ赤い髪の若い司令官は、部下たちに命じていた。

「敵はわたしたちより少数です。全滅させる必要はありません。艦隊を四つに分け、間断ない攻撃で疲弊させます。」

(敵は、あのヤン・ウェンリー提督ですか。すこしでも戦力を削いでおき、ラインハルト様の脅威にならないようにしなければ...しかし、巧みな艦隊運動ですね。被害が最低限になるように動いている。)

キルヒアイスは感心していたが、一方のヤンも

「ジークフリード・キルヒアイス中将か...ローエングラム伯の腹心と聞くがなかなかどうしてすぐれた用兵だ。つけ込む隙も逃げ出す隙もない。」

ため息をついてぼそりと独語する。

「感心ばかりもしてられませんぞ。数に劣るわが艦隊はこのままではいつか全滅します。」

参謀のムライが上官に進言する。

「そうだな、分艦隊のフィッシャー少将を呼んでくれ。」

フィッシャーが第13艦隊旗艦ヒュ-べリオンの艦橋に現れるとヤンは座席をすすめ、

「艦隊を相手に対してU字型に再編する。」

と自分よりも年上の白髪を七三にわけた部下に伝える。フィッシャーの黒髪の上官が指示するとスクリーンの艦列を表示した図形が変化する。

「相手を誘い込んで迎撃、反転、離脱を図る。それしかないがこれでいいか検討してくれ。」

黒髪の上官はこのすぐれた部下がさらに上手い艦隊運動をして艦隊を守ってくれることを期待して作戦の大筋のみを示した。

「はつ。」

フィッシャーは、心のなかでつぶやく。

(たしかに、この宙域から離脱するには、それしかない。しかし....かなりの損害が出るな...。)

フィッシャーは艦隊運用の名人であったが、その名人をしてキルヒアイスのオーソドックスであるがすきのない艦隊運動は、彼をして脅威に思われた。

(もうすこしうまく動ければ楽なのだが...)

フィッシャーはヤンから説明を受けたシュミレーションにいくらかの修正を加えた艦隊再編のプログラムを送るように命じ、スクリーンにて伝える。

「艦隊編成のプログラムは送った。その通りに動いてほしいが、損害がばかにならない。もっとよい方法があれば提案してほしい。」

「フィッシャー閣下、ゼートフェルから通信です。」

「つないでくれ。」

ゼートフェル艦長と麻子の姿が分艦隊旗艦アガートラムのスクリーンに映し出される。

「閣下、うちの船に不思議な少女があらわれまして敵からうちの艦を救ってくれたのです。」

麻子はスクリーンにうつったフィッシャーに対し、こくりと会釈をする。フィッシャーはヤン艦隊のスタッフらしく発想が柔軟であり、規制概念にとらわれない。

「そうか。じゃあ彼女に見てもらって改善できるようなら改善してもらいたい。」

麻子は、ゼートフェルのオペレーターから説明を受け、艦隊運動シュミレーターとプログラムをつきあわせて改善案をつくってフィッシャーの旗艦に送る。

「こんな方法があったのか。みごとだ。」

フィッシャーとアガートラムのSEは、麻子の意図を悟ってシュミレート画面のとおりに送られてきたプログラムがうまく作動するよう微妙な修正を加えて、第13艦隊全体に送った。

 

「仰角75度11時方向から敵襲!」

「おちついて対処してください。」

赤毛の若き司令官は部下を落ち着かせようと指示する。

帝国軍が主砲を打ち返すと宇宙空間が発火し、爆発煙に覆われる。

「シェーマンI撃沈、マースⅡ撃沈、トールⅡ通信途絶!」

「まきこまれるぞ!」

「退避!退避!」

(気体爆薬?まさか同盟が指向性ゼッフル粒子を?)

「次は伏角70度2時方向から敵襲です!」

「ミサイルで反撃してください!」

同盟軍の高速戦艦部隊は主砲を斉射し、ゼッフル粒子を爆発させ、帝国軍のミサイルを爆発させる。

 

さすがのキルヒアイス艦隊もすくなからず動揺する。

 

ゼートフェルでは、麻子が乗組員たちに説明する。

「戦車道では、後退するときや自分たちの動きを知られたくないときは煙幕のようなものを使うんだ。それを今回応用したんだ。」

「なるほど...。」

 

第13艦隊の光点がどんどんはなれているのが、バルバロッサの艦橋からも見える。

キルヒアイスは艦橋に立って心の中でつぶやく。

(...みごとですね。ヤン・ウェンリー提督...それとも優れた未知の助言者がほかにいる?)

 

第13艦隊は、キルヒアイス艦隊と戦いつつも、巧みに後退して陣形をU字型に再編しつつあった。艦隊を突出させると逆撃を食らうのは明らかだった。むだな戦死者を増やすことになる。

 

「敵が退却していきます。」

「そうですか。」

「司令官?」

「撤退命令が出たのでしょう。敵の次の動きに大きな変化がみられたら報告してください。」

「はっ。」

 

キルヒアイスは心の中で独語する。

(それにしてもどうするつもりなのか...敵の総司令官がまともであれば全面的な撤退をするはずですが...)

 

そのときラザール・ロボス元帥から同盟軍全艦隊に命令が伝えられた。

「全軍、戦闘を中止し、アムリッツア星域へ集結せよ。艦隊の再編を行い攻勢に転ずる。全軍、アムリッツア星域に集結せよ。これは命令である。」

「簡単に言ってくれるものだな...。」

ヤンはぼやくしかない。

まもなくその命令がゼートフェルにも伝えられる。

「アムリッツア星域に集結だそうだ。」

「総司令部は何を考えているんだ。」

「さあてね。ガキのような作戦参謀がヒステリーで倒れて、すこしでもまともになるかとおもったら、過去の栄光だけで無能なブタ元帥殿の愚かな判断につき合わされてたまったもんじゃないな。」

「ヤン司令官はため息をつきながら『これは命令なんだ』と真顔でフィッシャー閣下に言ったそうだけどあまりにも「つくった真顔」に閣下が苦笑したら苦笑でかえしたそうだよ。」

「だんだんおかずが少なくなっている。補給が十分でないということだ。それなのにまだ戦うというのか。君たちの上官は何を考えているんだ。」

麻子が覇気と抑揚がないが怒りを含んだ口調でつぶやいてみせる。

「ああ、元凶はこいつだよ。」

ゼートフェルの乗組員たちは肥満体のロボスの肖像をスクリーンに映して麻子に見せる。

「さっき話していた「ヤン司令官」のさらに上の人か?」

「お嬢さん、察しがいいな。その通りだよ。」

「おじさん方の会話から「ヤン司令官」はバカなことはしないとわかったからその上がもしかしているのかなと思ったからな。」

「なるほどな。」

「ここから退却しなければいけないんだろ。」

「そうだ。」

麻子はコンソールを操作してプログラムした内容をシュミレーション画面上に投影する。

「お嬢さん、見よう見真似でよくそこまで...。」

「疲れたから寝る。」

オペレーターが麻子の打ち込んだプログラムに微修正を加えて、ヤン艦隊は整然と後退し、アムリッツア星域へ向かった。




麻子の操作によって同盟軍第13艦隊はドウェルグ星域から被害を最小限に抑えて撤退に成功したが果たして...


なにやら思い浮かんだので加筆修正(1/9,23:30)
本日三度目の劇場版鑑賞で、みほの年賀状ゲットしました。そういえば井口さんは、「魔弾(ry」でリムアリーシャというすぐれた指揮官を演じてるんですよね。
「魔弾(ry」視てない方は、麻子みたいなテンション低い話し方をするキャラなので親しみがわくとおもいます。

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