Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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ゴシップ記事の効果にほくそえむプリンケプスには、さらなる「栄誉」が与えられそうな提案がなされた。


第62話 やだもーあいつが皇帝になっちゃったよ。みぽりん;;

ヤンとみほとフレデリカを標的にしたゴシップ報道にチームあんこうの面々は憤った。

「これ、なに?ひどいー!」

「西住殿、これはひどいであります。」

沙織と優花理は思わず叫ぶ。麻子や華も不愉快そうに顔をしかめる。

みほはだまっている。

「みぽりん?」

みほはかすかに頬を赤らめ、微笑んで答える。

「わたしは...ヤン提督とフレデリカさんに迷惑がかかってないか心配...。」

 

「閣下?」

「ん、なんだい?大尉。」

「こんな記事が...。」

「ああ、怒る気もしないな。心配いらないよ。ファンレターが減ってほっとするかもしれない。大尉にはファンレターの整理までさせてるから申し訳なく思っているから実はほっとしているんだ。」

ヤンは、ファンレターをすてるわけにもいかないので、全てとっておいているのである。しかし自分では整理しきれないので、いざというとき対応できるようフレデリカに検索しやすいよう整理させているのた。民主主義国家の軍人として納税者、国民の期待にどこまでも誠実でありたいというヤンの矜持を理解してフレデリカはファンレターの整理をバカにせず行っていた。

「ただ...ミス・ニシズミと大尉やみんなに迷惑がかかっているな...謝ってすむこととは思えないが申しわけない。」

「閣下...。閣下は、なにもそのようなことはなさっていません。」

「うん。ありがとう。気になるのは、これらの記事は一貫していやに大尉に同情的であることだ。本文には載せることはあっても見出しには出さない。記述の裏になにがあるのか興味があるな。」

「父が救国会議に属しているからでしょうか?」

「それはあるだろう。ただ奇妙なのはクーデター時に査閲部長の指示で訓練が行われたはずだし、グリーンヒル大将が放映時に映し出されてもいいはずなのに映しだされず、ライトバンク氏、すなわちフォークが代表として映し出された。大尉に対して同情的な割には、こちらを揺さぶるためにグリーンヒル大将を映してヤンのもとから戻ってこいという呼びかけのようなものがない。」

「というのは...。」

「大尉は、そういうことを想像もつかないだろうが、グリーンヒル大将を映し出して大尉に対してもどってこいと呼びかけることは、大尉の信頼性を失わせ、こちらの結束をゆさぶる効果があるんだ。有利な点しかないはずなのにそれをしない。だから何か隠しているんだろう...言いにくいことだが最悪な場合...。」

「父の身に何か...。」

「確証はない。そうだな。憶測はやめよう。ただ、事故で入院中とのことだが全く情報が流されない。なにかあると考えていい。あの連中は情報が流れることを最も恐れている。1600年以上前の地球上の社会主義国家で情報が閉ざされたと同じことをしているのは確かだろう。」

「それからこれがもっと重要だが、イゼルローンの兵士たちの士気に影響しかねないことだ。反論と正しい情報を提供してほしい。」

「はい。わかりました。」

さて、ヤンへ向かっていた義勇兵の申し込みがとまった。

またハイネセンでは「政治犯」が銃殺される様子が報道された。

フレデリカは、イゼルローン内に正しい情報を中継するとともに、三社に抗議の手紙を送ったが握りつぶされた。

仕方がないのでヤンは全同盟に向けて放映された写真についての説明と作戦会議での様子、プリンケプスを名乗る男がアムリッツアの敗戦の原因であることを伝えたが、ハイネセンに近い惑星では報道管制がひかれ、とくにアムリッツアの戦犯である部分については、割愛され、代わりに新たなヤンの淫行疑惑やわいろを取っているなどのゴシップ報道が繰り返しなされた。アッテンボローについての記事もあり、例の「ジャーナリスト」たちが仕返しのためにここぞとばかりに「報道」しているのだった。

 

しかし、この状態を快く思わない者がいた。ヤンがハイネセンを陥落できなければ政権復帰がほぼ不可能になる細面で端正な顔の男だった。

「私はいつまでもこもっているつもりはない。そろそろフォーク君には隠退してもらわなければならんな。どうすればいい?」

「フェザーンとしてもブレーンとして送った者が救国会議の窮状を隠すために銃殺されています。だまっているつもりはありません。やつの性格は尊大です。後世に自分の名前を残したいという気持ちが強いでしょう。奥の手があります。」

「わかった。まかせる。」

 

「プリンケプス様。」

「なんだ?」

「この際正式に皇帝になったらいかがでしょうか。そして新たな中央銀行を作り、ご自身の横顔を刻んだ通貨を発行するのです。この通貨以外は使えないことにすれば、いくらヤンが補給のための資金を集めようと無価値になります。いまプリンケプス様の行った淫行疑惑や汚職報道のおかげでヤンは打つ手がなくなっています。とどめをさすことができるでしょう。またフェザーンの守銭奴どもの鼻を明かせますから政権内でも賛意が得られるでしょう。」

その提案は、自分が無視してきたアムリッツアの敗戦の補給無視のような作戦計画の失敗を考えなくてもいいし、敗戦が続いて、かげりが出始めていた権威を一発逆転で高める提案のように思われた。しかも、救国会議内でも、フェザーンの守銭奴どもの鼻を明かせるということで中央銀行の設置と新通貨発行は賛意を持って受け止められた。

 

「そうか、そうか。わかった。即位式の日取りは一週間後とする。」

一週間後、

「全同盟に告げる。わたしは、ここに本日をもって汚職にまみれた自由惑星同盟を廃止し、ライトバンク帝国の成立を宣言する。これは新たな時代の到来と全銀河が統一されるための第一歩である。銀河帝国を滅ぼし、われライトバンクこそ唯一の皇帝であることを示すのだ。」

ナポレオンのような皇帝服を着て、玉座の近くの第に帝冠が置かれている。

プリンケプス・プログレスリーは、帝冠を自ら被る。

サクラとして動員された群衆が、わあああと歓声を上げる。

「皇帝アウグスト・プログレスリー万歳!ライトバンク帝国万歳!」

この模様は一斉にマスコミによって報道され、ライトバンク賛美が新聞でもテレビでも流される。

この報道では、新帝国成立に伴なって新貨幣アサリオンが発行されることが伝えられた。この報道にあたって、旧同盟ディナールと新通貨アサリオンを交換すること、高額な謝礼が支払われることを条件にサクラが動員されたのだった。ライトバンク帝国初代皇帝尊厳者プログレスリー1世、すなわちフォークは、得意の絶頂だった。

(新通貨には、自分の横顔が刻まれただけでなく、同盟の財政再建を実施して、栄光の中で新皇帝として即位し、帝国と伍する新王朝を建てる。なんて偉大な自分にふさわしいのだろう。)

しかし、辺境星域では、新貨幣アサリオンと旧同盟ディナール交換の特典はなかった。なぜなら皇帝をかこんでサクラをすることは不可能だったから放置されたのだった。

 

さらには、あらたな中央銀行と新通貨の発行について激怒した者たちがいた。同盟に巨額の債権を持つフェザーン商人たちだった。

 




フォークが皇帝になったというニュースを聞いて
沙織は
「やだもーあいつが皇帝だって;;みぽりん。」
麻子は、軽く鼻を鳴らして
「帝国を倒すための一時の方便と言っていたのに、自分が皇帝になって負けたら恥ずかしいな。」
と聞こえよがしにつぶやく。
それが結構大きな声だったので
「麻子!」「冷泉殿!」
思わず沙織と優花里は、盗聴器から政府に状況が伝わらないか心配して麻子の口をふさごうとした。

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