Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
「ではグリーンヒル大将。あなたは、フォークの悪行を知っておられたはずです。なぜ民主主義の本義にもとるこのような軍事革命に加担なされたのですか。」
「君は神聖不可侵な皇帝陛下を侮辱するのか。娘を手籠めにしても足りないのか。」
「わたしが娘さんを手籠めにしたとおっしゃいますが、この放送は反論しています。どうお考えですか。」
録画したものを見せる。
「答える必要を認めない、権威に従いたまえ。」
ヤンとフレデリカとみほたちは、グリーンヒルはこんな感情的なことを語る人物ではないことから疑いが深まった。
「グリーンヒル閣下、あなたは民主国家の軍人として尽くしてきました。そのあなたはどこにいらっしゃるのですか?」
「答える必要を認めない、権威に従いたまえ。」
この返事を聞いて、ヤンは、ははあ、と思った。ほぼ確信がかたまったのだ。おそらくAIかなにか使って答えさせているのだろう。一見質問に答えているように見えればいいのだ。三種類ほどつくっておけばたいていの質問に答えられる。もっとも相手の土俵に乗らないために質問に答えないで、言いたいことで返事をするという手もある。その場合は質問を予想する必要はないのだ。
ヤンはバグダッシュにグリーンヒルが語る言葉を音声録音させ、エリコにこれまでの会議ライブラリーに記録されたグリーンヒル大将の発言を拾い出す作業をさせていた。合成画像の可能性が高いと疑ったからである。
「どうだ、ヤン大将。反論できないだろう。私の勝ちだ。君は用兵巧者であるのは認めるが、討論ではかならずしもそうではなかったな。」
「発生源逆探知成功?」
エリコがほほえむ。
「わたしは、第14艦隊副官で情報士官エリコ・ミズキ大佐?同盟市民の皆さん、兵士のみなさん?これは僭称者プリンケプス、アンドリュー・フォークのウソでねつ造?。合成画像。これがグリーンヒル大将の声紋との比較?」
グリーンヒル大将の声紋グラフの比較画面が全同盟に流される。微妙な違いだが合成音声であることがはっきりする。
「なんだ、やめさせろ。」
「無理です。のっとられました。」
ライズリベルタとトドスヨウムにつづき、コンプラレールとリストレエコノスも最初は、新通貨が首都周辺しかできていないことを批判していたが、ヤンの淫行疑惑は全部作り話であることを系列週刊誌や保守系週刊誌リストレマレエ、タブロイド判で連日報道し始めた。
マスコミは、親ライトバンク派とフェザーン派にわかれて報道合戦をはじめたが、資金源で親ライトバンク派はじわじわと圧倒されていった。
スタジアム以後に目立たないところで暗殺された人が多くいることも報道される。
そのことはイゼルローン軍にも伝わってくる。
「ハイネセンの放送が変わったね、大尉。」
「そうですね。閣下。」
「たぶん中央銀行と新通貨が効いているんだと思う。軍事政権で経済が統制され、しかも中央銀行設立と新通貨の発行を行ったものだから債権を踏み倒されると考えてフェザーンが動いたのだろう。あまりこのましい状況ではないがこちらへ流れが傾いてきている。」
「閣下、今後どうなさるのですか。」
「大尉、作戦会議を招集してくれ。いっきにかたを付ける。」
会議室でヤンはおもむろに口を開く。
「作戦の説明をはじめる。この作戦は、かってアルタイル第7惑星から天然ドライアイスの塊の宇宙線で脱出し、自由惑星同盟を建国した始祖ハイネセンの故事にならった。」
「バーラト星系第6惑星シリユーナガルで氷塊の採掘を行う。ここで一立方キロメートル、10億トンの氷塊を12個切り出す。
これを円筒形に整形して、中心軸をレーザーで貫きバサード・ラム・ジェット・エンジンを取り付ける。前方に磁場を発生し、星間物質をからめとり、エンジン内で圧縮加熱され、核融合反応が起こり、すさまじいまでのエネルギーを後方に吐き出す。高速になればなるほど、星間物質の吸収効率があがり、幾何数的にスピードを増大させ、亜光速に達する。そうすると10億トンの質量が200倍を超える質量となる。ここで問題なのはハイネセンに落下させずにアルテミスの首飾りだけを破壊できるよう軌道計算を行う必要がある。何か質問は?」
「十二個すべてを破壊してかまわないのですか。」
「かまわない。全部壊してしまおう。敵に交戦の意思をくじけさせることと、一つでも残すと味方に被害がでるからだ。」
「皇帝陛下!」
「なんだ?」
「敵の攻撃がはじまりました。」
「なんだと。ヤン・ウェンリーめ。」
「きょ、巨大な氷塊が12個亜光速で接近してきます。」
「あ、アルテミスの首飾りが...。」
「どうした?」
「す、すべて同時に破壊されました。」
「一つ残らず...。」
アルテミスの首飾りが恐ろしいのは一つの衛星を攻撃しても他の衛星が支援するように作動するので結局同時に複数の衛星を相手にすることになり、その攻撃と防御には死角がないことであった。しかもビーム兵器はその鏡面装甲で反射されてしまうので、いかな大艦隊であってもこの衛星の攻撃を防ぐのは容易ではない。だからキルヒアイスはカルトロプ動乱鎮圧のため、遠距離からの指向性ゼッフル粒子の散布によって衛星を自爆させ、艦隊戦で、執拗にミサイル発射口を狙ったのだった。
救国会議の面々はうなだれた。
反救国会議のメディアはこの模様を放映した。
「アルテミスの首飾りが、イゼルローン艦隊によって破壊されました。」
「どのようにですか?」
「ひとつ残らずです。その模様です。」
氷塊が亜光速で次々に戦闘衛星を破壊する様子が映し出される。
「なるほど…ほんとに全部ですね。」
「今後様々な憶測を生むでしょうが、おそらくヤン提督は、早期終結を図ったのでしょう。」
「そうみるのが妥当かと考えます。中途半端に残しておくと、ハイネセンへの降下時に多大な犠牲が避けられませんからね。何しろ光学兵器は衛星表面で反射されてしまいますし、正攻法では少なくとも3万隻ほどは用意しないとほぼ不可能でしょう。」
「ぐぐぐ…消せ!消せ!」
エベンス、ブロンズは叫んだ。
この場面は銀英伝でも印象的な場面ですね。ヤンがこの作戦をとったこだわりが感じられるので、イゼルローンの無血開城以上の「奇跡」と言えるかもしれません。