Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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こういう事態にあってもヤンは冷静だった。


第7章 何やらうごめくハイネセンです。
第66話 陰謀の網がはりめぐらされています。


「閣下?」

「いや、フォークの悪あがきさ。彼は同盟に戻るところはない。作戦を続行する。」

怪訝そうな幕僚たちにヤンは説明する。

「フェザーンにしてみれば、帝国軍なりがかついで攻めてくるときのため保険の御輿として用意しておくといったところだろう。彼は、フェザーンの製薬会社や医療機器会社にぼろもうけさせて、復帰するつもりだろうが、実際に亡命者になっている彼の価値はそれしかない。いずれにしろ帝国は口実を作って攻めてくるつもりなのだから彼をつかうかつかわないかの違いさ。放っておいてかまわない。」

ヤンは向きなおり

「シェーンコップ准将、...。薔薇の騎士連隊(ローゼンリッター)はハイネセンに降下してくれ。」

「はっ。」

(そうか...同盟内部は大混乱だが、フェザーンはいつもどおりだからな...。)

ヤンが心でつぶやき予想した通り、同盟市民は、救国会議政権が事実上崩壊したことをネット上にあげられたこのニュース動画で知った。救国会議は、国内放送局のみならずネットも監視し統制していたが、皇帝プログレスリーもエベンス大佐もいないいまでは情報統制を指示する組織の中枢がないため、あっという間に拡散した。

ハイネセンの放送局が、救国会議の崩壊を放送したときは、エベンス大佐の自殺以外のことは同盟市民はすでにネットで知っていた状況になっていた。さて、シェーンコップらが降下して判明したことは、査閲部長グリーンヒル大将が行方不明であることだった。

「グリーンヒル大将はどこだ。」

「事故で入院中とのことですが...。」

その病院には、ドワイト・グリーンヒルなる患者は入院していないという。

監禁状態だった統合作戦本部長と宇宙艦隊司令長官を解放して、グリーンヒル大将の顔写真まで使って所在について各病院に照会文書が流されたが、どこの病院もいないとの回答であった。

数日後、救国会議の降伏者の一人の士官が、遺体が軍施設の冷凍室に投げ込まれたのではないかと証言した。シェーンコップが、件の冷凍室を探らせたところ、血まみれのつつみが発見され、中にグリーンヒル大将の遺体が入っていることが確認された。

 

「なんだ、君たちは...。」

「グリーンヒル大将、あなたは知ってしまいましたな。」

「わたしは、この国を立て直すために必要だと思ったからこのクーデター計画に賛成し、進めようと考えた。しかし、このクーデター計画は貴様たちフェザーン、地球教徒、帝国のローエングラム侯のさしがねだったとは...。うかつだった。」

「そのとおりですよ。知られてしまったなら仕方がない。ちょうどこの部屋は防音設備完備だからありがたい。」

グリーンヒルの額と身体をブラスターの十数条の光条が貫き、細面のダンディなイギリス紳士風査閲部長はその場に倒れた。

「かたづけろ。」

遺体は袋に詰められて、冷凍保存庫に投げ込まれた。ハイネセンのクーデターが起こった2日後のことだった。その翌日、事故に会って入院中という偽造された書類が救国会議の会議の席上に出されたのだった。

 

「総大司教猊下...。」

「このたびの同盟の内乱に対してルビンスキーの動きはにぶかったな。」

「いやそれだけではありませぬ。最近教団内部で過去へ行ける技術を開発した者がいるようで...。」

「なんだと、地球復活のためにわが教団がひそかに開発につとめてきたのが成功したのか。」

「そのようですが、その技術を開発した者たちが今回の内乱にからんでいるようなのでございます。」

 

「総大司教には気付かれたかもしれんな。」

「というのは...。」

「ルビンスキーも我々の動きに気づき始めて、情報を流し、自分を守ろうとしてるってことさ。それともルパートかな。」

 

ヤンとみほは、ハイネセンに降下すると宇宙艦隊司令部を訪ねて、投降した下士官からビュコックが監禁されている場所を聞き出すと、解放させて病院にはこばせた。

「面目ないことだ。わしは全く貴官たちの役に立てなかったな。事前に情報をもらっていたというのにな。」

「いえ...あの「ラブレター」がなければわたしたちは動けませんでした。」

「聡明をもってなる西住中将にそう言ってもらえるとうれしいな。」

みほはかすかに顔をあからめた。

「長官、遅くなってご迷惑をおかけました。なにか御入用のものはありますか。」

「そうさな、ウイスキーでも一杯もらおうか。」

「すぐ用意させましょう。」

「グリーンヒル大将はどうした?」

ヤンとみほは顔を見合せる。二人の顔が暗いのをみてビュコックは察した。

「まさかとは思うが...亡くなったのか?」

「はい。ご遺体が発見されました。」

「そうか....また老人が生き残ってしまったな。」

「長官。まだウランフ、ボロディンの両提督も健在です。クブルスリー大将も時間はかかりますが回復するでしょう。気を落とさないでください。」

ヤンとみほは、救国会議のクーデターの失敗、同盟憲章に基づく秩序の回復、被害状況調査、救国会議所属者の逮捕、死者の検死報告、やることはいっぱいあった。

父の死を知った時、ヤンの副官グリーンヒル大尉はヘイゼルの瞳に悲しみと苦悶を浮かべ、上官に告げた。

「しばらく時間を、そうです、二時間でいいので時間をください。わたしは自分が立ち直れることを知っていますが、今はすぐはダメです。ですから...。」

ヤンはつらそうにうなづいて

「ええと...大尉。なんというか...その...気を落とさないように。」

と声をかけるのがやっとだった。

見事な作戦案を示して、大艦隊を率いて、鮮やかに敵を撃ち破って見せる名将は、こういうときに気の利いた言葉一つも浮かんでこないのだった。

 

二時間後、フレデリカが自室から出てくると、てきぱきと事務処理を行いはじめた。処理済のサインのあるファイルがたちまちのうちに山積みになっていく。ヤンがファイルをめっているうちに戦勝パレードのコース選定やスケジュールまで決めてしまうくらいだった。激務が彼女の救いになっているんだろうな...とヤンはため息交じりに感慨にふける。彼にとっても理解ある上司を喪って悲しくないはずがない、どうせなら行方不明の「あいつ」も亡くなっていればいいのにと考えていた。しかし、その期待は見事に裏切られることになる。




地球教やフェザーンは手段をえらばず、マッチポンプすらやってみせるという描写にしています。昨日は同盟、今日は帝国ってやってたわけで「たくまずして一定していたのではないぞ。一定させていたのだ。」というルビンスキーの発言のとおりですね。

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