Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第9章 帝国軍の新たな作戦です。
第78話 老練の名将を迎えます。


さて、ユリアンがヤンに自伝の執筆をすすめるデレチャプリマの営業マンをおいだし、電話に出ている間、ヤンは紅茶を飲み干したカップにブランデーを注いでいた。瓶をおいたとき、電話に出ていたユリアンが部屋に駆け込んでくる。

「提督!大変です!統合作戦本部にいるムライ少将から連絡です。」

「なにをあわてているんだ?世の中には、あわてたり、叫んだりするようなことは何一つないぞ。」

「でも...メルカッツ提督をご存知でしょう。閣下。」

「ああ、帝国軍の名将だ。ローエングラム侯の様な壮大さや華麗さはないが、人望があり、老練で隙のない用兵をする。そのメルカッツ提督がどうしたというんだ??」

「その帝国軍の名将が...」

ユリアンの声が高くなる。

「亡命してきたんです。ヤン提督をたよって!いまイゼルローンに到着したとキャゼルヌ少将から連絡があったそうです。」

ヤンはあわてて立ち上がった。テーブルに自分のひざをしたたかにぶつけたのである。

「あ、いたたたた...。」

ひざをさするヤンだった。

ヤンは幕僚を集める。

「メルカッツ提督は家族を連れて見えられたのかな。」

「いえ...その点をキャゼルヌ少将に問い合わせたところ家族はまだ帝国に居ると。」

「そうか、それならいい。」

「よくはありません。家族が帝国に居るということは、いわば人質がいるのと同然です。メルカッツ提督が不穏な目的を抱いてきたとみなすのが自然かつ当然ではありませんか。」

「あの....。」

ヤンはうなづき、

「西住中将、説明してやってくれないか。」

「はい。メルカッツ提督は貴族連合軍の総司令官でした。フェザーンから公表されている戦績データから考えてあまり厚遇されていなかったみたいです。それならローエングラム侯へつく選択もできたはずです。実際に貴族連合の指揮官で最終的にローエングラム侯についた方もいたようですから。それから、偽の家族をつけたほうが、人質が帝国にいないとわたしたちを安心させられるし、監視や情報収集もできるはずですから。」

「そのように、はじめから我々をだますつもりなら、家族を帝国に残してきたとは言わないはずさ。情報部ならそう工作するだろう?バグダッシュ中佐?」

「まあ、そんなところでしょう。メルカッツ提督という人は生粋の武人で、諜報活動とか破壊工作とかという発想とは無縁でしょう。信用していいと思います。」

「おまえさんより、はるかにな。」

「きつい冗談ですな、シェーンコップ准将」

「冗談ではないさ。」

すました顔でシェーンコップが言った。バグダッシュは少々不快そうな表情をみせる。

「わたしはメルカッツ提督を信じることにする。そして私の力の及ぶ限り彼の権利を擁護する。帝国軍の宿将とも称される方が私をたよってくれるというのだから、それに報いなければなるまい。」

「どうしても、そうなさいますか?」

「わたしはおだてに弱いんでね。」

みほはそんなヤンをみてほほえむ。

「超光速通信の回路を開いてくれ。」

「ヤン大将、こちらがメルカッツ提督です。」

キャゼルヌが紹介して、初老の「いぶし銀」「老練」という文字がぴったりの落ち着いた男性が現れる。ヤンは立ち上がって丁寧に敬礼した。

みほは、ほほえみながらその様子をみている。

「西住殿?」

「優花里さんが戦車を動かしたとき、『ひゃっほう、最高だぜい』と言ったことあるよね。」

「はい。」

「ヤン提督は、おちついて敬礼しているけど、敬意と嬉しさがこもっているの。キルヒアイス提督に会った時もそうだった。」

「なぜ、西住殿にはわかるのでありますか?」

「えへへ...。」

みほはきょろきょろあたりをみまわしてしまう。なんとなくその視線はフレデリカをさがしている。

 

「メルカッツ提督でいらっしゃいますね。ヤン・ウェンリーと申します。お目にかかれて大変うれしく思います。」

軍人というより学者のように見える黒髪の青年をメルカッツは目を細めて見つめた。息子がいるとしたらこのくらいの年齢だろうか。

「敗残の身を閣下にお任せします。私自身に関してはすべてお任せしますが、ただ部下達には寛大な処置をお願いしたい。」

「よい部下をお持ちのようですね。」

ヤンの視線を受け、シュナイダーが背筋を伸ばし、胸を張る。

(うむ、部下も優秀そうな人物だ。)

「いぜれにせよ、ヤン・ウェンリーがお引き受けいたします。ご心配なさらずに。」

一介の亡命者となった、かっての帝国軍の名将は、副官の進言に誤りのないことを知った。

同盟では、クブルスリー大将の現役復帰に伴い、ドーソンが退任した。ドーソンの最後の仕事はシェーンコップを少将に昇進させたことだった。表向きはシャンプール解放による住民からの強い要望とのことだったが、ヤン艦隊の結束にひびを入れるためとかいやがらせとしかみなされなかった。

この内戦でヤンは様々な勲章をもらったが、ロッカーの隅にほうりこんだ。被保護者である少年は、保護者である学者風提督がなぜその種のものを捨てなかったかを考えて苦笑する。

(本を買うのはいいけど、酒量は控えてもらわないと...。)

今回の人事で一番ヤンが喜んだのは、メルカッツを中将待遇の客員提督という身分でイゼルローン要塞司令官顧問でに任命できたことだった。帝国の内情に通じていること、帝国の内戦で、敗北して亡命してきた事情から帝国のスパイとして寝返ることはほぼありえないことなど上申書が認められた格好である。またユリアンは軍属の兵長待遇から軍曹待遇となり、スパルタ二アンへの搭乗資格を得たのだった。


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